国家魔術師をリストラされた俺。かわいい少女と共同生活をする事になった件。寝るとき、毎日抱きついてくるわけだが 

静内燕

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2章

第85話 雷

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 そして、一気に敵の元へと向かっていく。

 その瞬間、グラーキは大きく咆哮を唱える。

 耳が割れそうなくらいの轟音。そして、グラーキの周りに大きく風が吹く。
 まるで竜巻のような大きな風となり、周囲の物を地上から吹き上げグラーキの周囲を包んでいった。

 それでも、怯むことはない。

 大地を蹴り、上空へ。最短距離でグラーキへと突撃していく。
 そして、後数十メートルと迫ってきたその時。

 ドォォォン!!

 左から殴りつけられるような衝撃に、体が吹き飛ばされる。
 感覚がなくなるくらいの痛み。


 身体が地面に叩きつけられる。その後、数十メートル程転がり、すぐに立ち止まった。
 ウィンの加護が無ければ、体がバラバラになっていただろう。

「ガ、ガルド様──」
 ウィンの叫び声が、後方から聞こえる。

 あんなに派手に落ちたのだ。心配するのも無理はない。でも、これくらいの傷なら大丈夫。今まででもあったことだ。
 手を上げて親指を上げた。

「大丈夫。ウィン」

 そして、じっと正面を見て現状を確認。俺を殴り飛ばしたもの。
 それは、竜巻に巻き込まれたこの辺りの転がっている大きな岩だ。
 その他にも、人の体位ある大きな木にがれきなど無数の物が巻き込まれ、目に見えないような速さで巡回している。

 あれだけの数を交わしながら戦うのはさすがに厳しい。というか無理だ。
 下手に突っ込んだらすぐに致命傷を受ける。

 どうすれば──。
 必死に考えを張り巡らせていると、力を感じた。
 今までとは段違いの、天からこの場全体を押しつぶされそうな強い力。

 グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ──!!

 大きな叫び声をあげると、グラーキが右手を上げる。持っている大きな槍が黄色く光り出す。

 そこから出て来たものを、すぐに理解した。
 大きな雷だ。


 それも、人間の力ではありえないほどの魔力の塊を持っている。
 とても、防げるような代物ではない。もし直撃すれば、命は助からないだろう。

 本当はこんなことはしたくないが、仕方がない。

「ウィン、撤退する」

「そ、そんな──」

 後ろに向かって大きく叫ぶ。戸惑うウィン。逃げるということに対して抵抗があるのだろうか。
 俺だって本当は逃げたくない。後ろにいる国民のためにも、戦わなければいけないと思っている。

 しかし、この状況。一人ではどうにもならない。無理に戦っても無駄死にするだけなのが目に見えている。

 せめて援護してくれたり、囮になってくれるような人がいれば話は違うのだが、見ず知らずの土地で、そんなことをしてくれる人はいないだろう。

 人々を守るため、決死の戦いに挑むことと、勝ち目がないのに無謀に戦いに出て犬死することは違う。

 いよいよ街に攻めて来るとなったら行くしかないが、そうならずここにいる可能性だって十分ある。

 取りあえず、いったん街へ戻って冒険者達のことを知る。その上で戦力を生かして、うまく戦っていく。

 それ以外に方法なんてない。
 そして、俺が元いた場所に雷が直撃。豪快な爆発音を上げる。

 その場所には、大きなクレーターが出来ていた。くらっていたら、間違いなく死んでいただろう。

 離れた場所でもう一度グラーキと顔を合わせる。

 グォォォォォォォォォォォォ──。

 グラーキは俺をにらみつけると大きな咆哮を上げ、再び槍を天に向かって掲げた。
 やすやすと俺を逃してはくれないようだ。

 再び槍の切っ先から魔力を感じるようになる。


 今度は、さっきの雷と比べてタメが少ない。
 槍の先から発せられる力も、半分くらいなのがわかる。

 しかし、その分攻撃への展開が早く、魔力の回復が間に合わない。
 無論、グラーキはそんなことを考慮するはずもない。

 槍を振り下ろし、再び雷が俺を襲う。

「頼む。耐えてくれ!」

 残りの力を出し切って障壁を張って、何とか耐えようとする。

 何度も空から叩きつけてくる攻撃に押され、体が軋み、地面にめり込んでいく。

 しかも、これだけの魔力を使いながら、こいつに魔力切れの兆候が全く見えない。

 とても、1人で戦えるような代物ではない。
 仕方がない──。

「1人じゃ危ない。俺が護衛する」

 シャフィーがそばに寄ってきて、術式を展開。
 薄いクリーム色をした障壁が目の前に現れる。シャフィーの障壁は、普通の冒険者が出す障壁とは違う。
 多重障壁という特殊な障壁。

 魔力の壁が五重層となっていて、どこかにひびが入っても別の層がカバーできる、一般冒険者の障壁よりも強度が高い特徴がある。

 そして、その障壁にグラーキの攻撃が直撃。ミシミシと音を立てながら攻撃を受けていく。

 しかし、やはり完全に防ぐのは難しいようで、一枚──また一枚と障壁が壊れていく。

「仕方がない。その間にみんな逃げろ。退避だ!」

 シャフィーがそう叫ぶ。なるほど──。
 これは残っていたり、逃げ遅れたりしていた冒険者達を逃がすためのもの。

 恐怖に震えている人間は、もはや戦力として役に立たない。
 しかし、背中を向いて逃げるだけだと格好の追撃の餌食となる。それを防いだのだ。

 悪い状況でも、最小限の被害で食い止め、全滅という最悪の結果を防ぐ。

「流石は元Aランク」


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