国家魔術師をリストラされた俺。かわいい少女と共同生活をする事になった件。寝るとき、毎日抱きついてくるわけだが 

静内燕

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2章

第86話 無念の撤退

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 悪い状況でも、最小限の被害で食い止め、全滅という最悪の結果を防ぐ。

「さすがだな。流石は元Aランク」

「ありがとう」

 何とか、他の冒険者達は遠い場所に逃げて避難を終える。
 俺もいったん距離を取り、シャフィーも最後の障壁が決壊する直前にこの場から脱出。

 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 グラーキの大きな爆発を起こし、柱が天にまで登る。
 もし逃げ遅れていたら、確実に肉体が消滅していただろう。

 シャフィーのおかげで、何とか危機を脱出。助かった。

 あまり敵を目の前に逃げるのはいいものではないが、一端退却だ。
 また作戦や準備を整えて戦いなおそう。



 退却をしようとくるりと体を反転したその時──。

 サッ!

 誰かが、走ってきた。
 その気持ちは分かるが、心配だ。
 ここまでの強敵、最低でもCランクレベルはないと存在する価値が無いと言っても過言ではない。

 すぐに後方に視線を送り誰か確かめようとすると、その光景に衝撃が走った。

「ウィン。どうしてここに」

「私が、やります!」

 そう叫ぶウィン。慌てて止めようとする。ブランクがあるウィンには、いくら何でも無理だ。

「無茶だ。一人でどうにかなる相手じゃない。第一、戦えないんじゃ」

「やれます。戦います。私。戦わせてください」

 きっぱりとした表情でコクリと首を縦に振った。戦いたいという気持ちは、十分にあるのがわかる。
 でも同時に、強がりだというのがわかる。だって、つえを握っているその手が──。

 大きく、震えているのだから。

「ウィン。まだ早い、逃げて!」

「大丈夫です。ガルド様と一緒に、戦いますから──」

 精一杯叫んで、杖をグラーキに向けた。
 杖を精一杯伸ばして、攻撃を繰り出そうとする。

 しかし。



「え──」

 力は出なかった。体が震えている。体全体が、恐怖に支配されているのがわかる。

 とても戦える状態じゃない。やっぱりまだ、ウィンには早かったのだ。
 ウィンの肩を掴んで、話しかける。

「だめだウィン。いったん撤退しよう」

「ダメです、戦います」

 その気持ちは分かる。俺と一緒に、戦いのだろう。
 でも、もしものことを起こすわけにはいかない。一緒に戦うのは、今じゃ無くたっていい。

「そんな……、そんな……」

 ウィンの身体が恐怖で震えている。
 そんななかでもグラーキは、こっちをにらみつけ、殴り掛かってきた。

 幸い、力はあっても知恵を使って攻撃してくるわけではない。
 単純な、力任せに殴ってくるだけの攻撃。


 それでも、一人で対応することは到底不可能だった。大人と子供という表現が正しい。

 仕方がない。戦っても今のままではどうすることも出来ないので、一度撤退。

 シャフィーと一緒に応戦しながら、徐々にグラーキから離れていく。
 グラーキは、ある程度距離を保つとそれ以上追ってこない。幸いだ。

「仕方ねぇガルド、ここは逃げよう」

「そうだな」

 グラーキの姿が遠目になった瞬間、グラーキは拳を振り上げ始めた。
 そして振り上げたこぶしを地面に突き刺す。
 突き刺した場所から、大地の揺れがだんだん大きくなるのを感じる。



 周囲の山が大きな揺れによって崩壊していき、剣を突き立てた場所を中心に地面にひび割れが生じていく。

 そして、大きな爆発が起こり直後に衝撃波と轟音が
 やってきて体を吹き飛ばした。

 振り向くと、大きな爆発から黒煙が渦巻きながら立ち上がっている。
 もし直撃していたら、命はなかっただろう。

 冒険者達は、命からがら街へと逃げていった。
 地面はえぐれ、大きくこの場そのものが崩壊する。災害といっても過言ではない。

 後ろから来る攻撃に警戒しながら、ウィンを抱えて逃げる。
 必死に逃げる。

 攻撃を受け流し、かわし──。下手をすれば、命に係わる状況。

 そんな地獄のような絵面の中──何とか生き残った。


 幸い、グラーキはこっちに追ってこない。出現した場所にとどまったままだ。
 しかし、これでは南方面への道が遮断されている。それにいつまでとどまっているかわからない。

 急に街方面へ進行する場合だって十分にあり得る。
 何とかしないと──。
 何とか街へと戻る。

 ギルドに戻って、シャフィーと共に報告。
 ギルドで一番身分が高いであろう、おじさんはかなりうろたえていた。

「グラーキだと? そんな強い魔物が出現したのか──」

「ああ。とはいえ以前よりだいぶ弱体化しているがな」

 シャフィーがフォローするものの、おじさんはグラーキの名前に動揺を隠せないでいる。

「しかし、戦いは力任せ。搦め手を使ってくるわけでも、罠にはめようとしてくるわけでもありません。
 みんなで作戦を立てて、一丸となって戦えばきっと勝てます。」

「そうなのか。シャフィーがそう言うなら、信じるしかないが──。一応、他国から応援を要請するか」

「それは、ありがたいです」

 今は少しでも戦力が欲しい。その決断は支持したい。それでも、ここにいる人が街のために戦うという意思が一番必要なのには変わりはない。

 逢ったこともない人たち。彼らだって、明らかに経験不足そんな中で、どうやって連携をするのか、課題は山積み。

 それでも、街を守るためには他に方法はない。

「ガルド、ありがとな」
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