聖戦記

桂木 京

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第1章:イノチの意味は

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「それで?……ゼロは将来何になりたいの?」


酒場にて。


骨付き肉をガツガツと食べるゼロに、サラダをつつきながらアインが問う。

「あなたほどの実力があるなら、白騎士団でだってやっていけるわ。いつかは、私と一緒に……」

「ガラじゃねぇ。俺が騎士って質かよ。第一、俺は姉貴みたいに魔法が使えねぇ。」


肉を頬張りながら、ゼロは騎士団入りはない、とアインに断言する。

ゼロには、生まれつき魔力と言うものが備わっていなかった。
人間、誰しもわずかながら魔力を持ち、訓練することで『魔法』へと昇華させていくのだが、ゼロにはその基となる『魔力』自体が備わっていなかったのだ。

故に、ゼロは魔法が使えないと言うハンデを越えるため、剣技を必死に伸ばそうと鍛練してきた。

そこに立ちはだかったのが、姉であるアイン。
生まれながらにして魔導師並の高い魔力を持ち、剣技においても、鍛練を欠かさず、その素質の高さでゼロを凌いだ。

加えて内政・戦術の勉強も怠ることなく、アインは小国の軍師では、比較になら無いほどの戦術の才を持っていた。

完璧すぎる姉の日陰に育ち、ゼロは騎士団という輝かしい道を自ら閉ざしてきたのだ。

「白騎士団は……いや、この自治領は姉貴と領主がいれば大丈夫だろ。俺は、町人その1でいいさ。姉貴とこうやって飯食って、馬鹿話してるので満足。」

かといって、ゼロはアインに負い目を感じることもなく、また姉として慕っていた。完璧すぎる姉は、その力を鼻にかけることもなく、日々向上しようと鍛練や学習を怠らなかったからだ。

『姉には勝てない』

適当なところで限界という境界線を引いてきたゼロにとって、どこまでも努力し続ける姉は、存在だけで眩しく見えたのである。


「まぁ……あなたが悪い組織や団体に属さなければ、姉としては満足だけど……」

姉は姉で、ゼロの生き様を否定することはしなかった。
遊ぶこともなく、手を抜くこともなく日々生きて、気がついたら民の信頼を一身に受ける存在となった自分。

ゼロには、自分と同じ道を辿って欲しくなかった、と言うのが本音である。
もう少し、ゼロには自由に生きて欲しい。それが口に出さないアインの本音であった。

「ゼロ、どう生きてもいいわ。ただ、間違ったことだけは、しないでね。」

「なーに遺言みてーなこと言ってんだよ」

酒場の夜は、更けていった。


――――――



「ふーっ、食った飲んだ!」

腹をポンポンと叩きながら、満足げな表情のゼロと、

「あなた……食べ過ぎよ。太ったらせっかくの美男が台無しよ?」

呆れ顔のアイン。

酒場から家までの距離はそう遠くない。人通りの少ない道を、ふたり歩く。

「姉貴よぉ……」

ふと、ゼロがアインに声をかけた。

「なぁに?」

珍しいこともあるものだ、と興味深く耳を傾けるアインに、ゼロはそっぽを向いて言う。

「無理……すんなよな。別に姉貴が将軍じゃなくてもよ……無事に帰ってくれば、俺はそれでいい。」


日々の激務の事を思ってだろうか。ゼロが珍しく、アインを気遣った言葉を発した。

「……心配?」

胸がいっぱいになったアインは、わざといたずらっぽくゼロに問う。

「あ?……別に。このままだと華将軍が、嫁の貰い手のいないゴリラ将軍になりかねないからな!そっちのが心配だ!」

笑いながら先を走るゼロ。

「なんですって!?……まったくもう……。」

怒るふりをしながらも、最後には笑顔になるアイン。
冗談だとわかっていた。
昔から、思ってもいないことを言うゼロは、決して自分と目を合わせない。
だからこそ、ゼロの言葉の真意に気づくことがこれまで出来ていた。

どのくらい本気なのか、冗談なのか……
それは、ゼロの性格のような正直な視線が、しっかりと語ってくれていたから。


ふと、先を走っていたゼロが足を止めた。

「……どうしたの?」

アインはゼロに追い付き、問う。

「あっち……なんかおかしくねぇか?」

ゼロの視線はアインに向くことなく、真っ直ぐ北の方角を見据えている。

「……おかしい?」

 アインにはまだ、状況は読み込めていない。

「あの影……動いてるぞ。……軍隊じゃねぇか?」

遠くに見える影。アインはそれを林の影だと思っていた。それをゼロは、軍隊だと言う。


「姉貴!宮殿に戻れ!オスカー様に知らせてこい!俺は、もう少し近くで見る!」

そう言って、突如走り出すゼロ。

「ゼロ!!待って……!」

引き留めた頃には、ゼロの影は遠くなっていた。
ゼロの勘は、アインが驚くほど鋭い。そんな彼があれほど取り乱しているのだから……

アインは踵を返す。
そして全速力で、宮殿へ走った。


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