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第1章:イノチの意味は
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「他愛もない……」
その強さは、圧倒的だった。
大陸北部最強の白騎士団。
それを、たったひとりの黒騎士が蹂躙していく。
漆黒の鎧は、魔導師の魔法すら弾き、弓兵の矢は、人間業とは思えない反応で、叩き落とされていった。
近接戦闘に臨むも、何人がかりで挑もうとも、黒騎士は怯むことなく受けて立ち……
ひとり、またひとりと白騎士団の亡骸を積んでいった。
「これで北部最強の白騎士団……北部の制圧は容易そうだな。」
鮮血にまみれた槍をヒュンッと振る。
漆黒の槍はまるで生きているように、鮮血を啜っているようにも見えた。
「さぁ、次はお前だ、華将軍。」
槍を、アインに向ける黒騎士。
「……これ以上、エリシャを蹂躙することは許しません!」
白銀の剣を抜き、アインが構える。
刹那。
黒い弾丸が、弾けるようにアインに跳んだ。
受けていては間に合わない、咄嗟に横へ飛び退く。しかし黒騎士も、着地と同時に上体を捻り、アインの胴を凪ぎに来る。
白銀の剣でそれを受け流すと、
《聖なる炎よ!》
黒騎士の顔面に、炎の魔法を撃ち、肩を蹴って距離をとる。
「魔法は目眩ましか。……なかなか判断が早い。」
黒騎士は、白煙をあげながら、ゆっくりとアインに向かい歩を進める。
「はじめから、初級魔法なんて効くとは思っていないわ。」
アインも、迎え撃つように剣を構える。
「惜しい……有能なだけに、惜しいぞ。その命を奪ってしまうことが!」
高速で突きを繰り出してくる黒騎士。
アインは魔法の盾でそれを弾くと、一瞬で懐に潜り込み、渾身の剣撃を見舞う。
━━ギィン!!!━━
鈍い金属音。その音を聞いた瞬間、またもアインは飛び退き、距離をとる。
「ほう……」
その慎重な運びに、黒騎士が感嘆の声をあげる。
「殺す前に聞いておこう。……我が軍に来ないか?これから大陸を制圧する、至高の軍だ。お前はその軍の将に相応しい。」
手を広げ、軍門に下れと促す黒騎士。
「お断りします。侵略の先にある世界など、平和ではないのだから!」
凛とした表情で答えると、白銀の剣を投げ捨てるアイン。
「……なんのつもりだ?」
そう黒騎士が問うた瞬間、アインの手には、新たな剣が握られていた。
魔力を帯びた、漆黒の剣。
それは純白の鎧とは対照的で、アインのイメージとは異なる物であった。
アインの手に握られた、漆黒の剣。
美しい刀身。その漆黒に禍々しさはなく、凛とした表情すら窺わせるその剣は、アインの魔力と同調するように淡く輝く。
「……覚悟!」
一瞬で黒騎士との間合いを詰めるアイン。
「!!」
槍を構えようとする黒騎士。しかし一瞬遅い。
━━シュパッ!━━
白銀の剣を通さなかった漆黒の鎧は、まるでスポンジのように切れ、弾けた。
「……なん、だと……?」
動揺する黒騎士。しかし考えている暇はない。アインは横凪ぎ、その勢いで回転し、黒騎士の兜を狙う。
間一髪、致命傷を避けた黒騎士。しかしその兜は、まるで紙の面を斬るかの様に2つに斬れ、そして落ちた。
「…………皇帝より手応えがありそうだな。」
白銀の髪に端正な顔立ち。
黒騎士は愚かな、と溜め息を吐く。
「……なんですって?では、皇帝陛下を襲ったのは、貴方……?」
「あぁ。手応えののなさは老いたせいだと割り切ったのだが。……どうやら久しぶりに、本気のやり取りができそうだ。」
口許に笑みを浮かべた黒騎士は、槍をまっすぐに構えると、
「我が名は黒騎士リヒト。冥土の土産に我が名を持って行け……」
一直線にアインへと向かう。
次々と、放たれる神速の突きを、人間離れした速度で捌いていくアイン。
「……くっ」
しかしその突きの速さに、アインの顔が緊張に歪む。
突きはどれも確実に急所を正確に狙ってきている。もし一度でも油断をしようものなら、そこがアインの人生の終着点となろう。
一瞬たりとも気を抜けない、張り詰めた防御。
漆黒の槍と死神の鎌。アインはその2つと戦っていた。
「……ふっ!」
突きを剣で受け流し、左手には魔力を込める。
《地神の衝撃!》
リヒトが剣を捌ききれず、槍で受け止めたその瞬間、アインはがら空きになった胴に、衝撃の魔法を叩き込んだ。
スピードが速い相手は、衝撃波で内部から動きを止める。
それが、父であり師であった男の教えだった。
「ぐっ……!!」
かなり強い衝撃であったのだろう。城壁まで飛ばされるリヒト。
ゆらり、と立ち上がると、口許の血を拭い、三度槍を構える。
「そろそろ終わりにしよう。……起きろ、ネクロス」
リヒトがそう呟くと、漆黒の槍は、まるでリヒトとひとつになるかのように、その手を浸食していった。
そして……
その強さは、圧倒的だった。
大陸北部最強の白騎士団。
それを、たったひとりの黒騎士が蹂躙していく。
漆黒の鎧は、魔導師の魔法すら弾き、弓兵の矢は、人間業とは思えない反応で、叩き落とされていった。
近接戦闘に臨むも、何人がかりで挑もうとも、黒騎士は怯むことなく受けて立ち……
ひとり、またひとりと白騎士団の亡骸を積んでいった。
「これで北部最強の白騎士団……北部の制圧は容易そうだな。」
鮮血にまみれた槍をヒュンッと振る。
漆黒の槍はまるで生きているように、鮮血を啜っているようにも見えた。
「さぁ、次はお前だ、華将軍。」
槍を、アインに向ける黒騎士。
「……これ以上、エリシャを蹂躙することは許しません!」
白銀の剣を抜き、アインが構える。
刹那。
黒い弾丸が、弾けるようにアインに跳んだ。
受けていては間に合わない、咄嗟に横へ飛び退く。しかし黒騎士も、着地と同時に上体を捻り、アインの胴を凪ぎに来る。
白銀の剣でそれを受け流すと、
《聖なる炎よ!》
黒騎士の顔面に、炎の魔法を撃ち、肩を蹴って距離をとる。
「魔法は目眩ましか。……なかなか判断が早い。」
黒騎士は、白煙をあげながら、ゆっくりとアインに向かい歩を進める。
「はじめから、初級魔法なんて効くとは思っていないわ。」
アインも、迎え撃つように剣を構える。
「惜しい……有能なだけに、惜しいぞ。その命を奪ってしまうことが!」
高速で突きを繰り出してくる黒騎士。
アインは魔法の盾でそれを弾くと、一瞬で懐に潜り込み、渾身の剣撃を見舞う。
━━ギィン!!!━━
鈍い金属音。その音を聞いた瞬間、またもアインは飛び退き、距離をとる。
「ほう……」
その慎重な運びに、黒騎士が感嘆の声をあげる。
「殺す前に聞いておこう。……我が軍に来ないか?これから大陸を制圧する、至高の軍だ。お前はその軍の将に相応しい。」
手を広げ、軍門に下れと促す黒騎士。
「お断りします。侵略の先にある世界など、平和ではないのだから!」
凛とした表情で答えると、白銀の剣を投げ捨てるアイン。
「……なんのつもりだ?」
そう黒騎士が問うた瞬間、アインの手には、新たな剣が握られていた。
魔力を帯びた、漆黒の剣。
それは純白の鎧とは対照的で、アインのイメージとは異なる物であった。
アインの手に握られた、漆黒の剣。
美しい刀身。その漆黒に禍々しさはなく、凛とした表情すら窺わせるその剣は、アインの魔力と同調するように淡く輝く。
「……覚悟!」
一瞬で黒騎士との間合いを詰めるアイン。
「!!」
槍を構えようとする黒騎士。しかし一瞬遅い。
━━シュパッ!━━
白銀の剣を通さなかった漆黒の鎧は、まるでスポンジのように切れ、弾けた。
「……なん、だと……?」
動揺する黒騎士。しかし考えている暇はない。アインは横凪ぎ、その勢いで回転し、黒騎士の兜を狙う。
間一髪、致命傷を避けた黒騎士。しかしその兜は、まるで紙の面を斬るかの様に2つに斬れ、そして落ちた。
「…………皇帝より手応えがありそうだな。」
白銀の髪に端正な顔立ち。
黒騎士は愚かな、と溜め息を吐く。
「……なんですって?では、皇帝陛下を襲ったのは、貴方……?」
「あぁ。手応えののなさは老いたせいだと割り切ったのだが。……どうやら久しぶりに、本気のやり取りができそうだ。」
口許に笑みを浮かべた黒騎士は、槍をまっすぐに構えると、
「我が名は黒騎士リヒト。冥土の土産に我が名を持って行け……」
一直線にアインへと向かう。
次々と、放たれる神速の突きを、人間離れした速度で捌いていくアイン。
「……くっ」
しかしその突きの速さに、アインの顔が緊張に歪む。
突きはどれも確実に急所を正確に狙ってきている。もし一度でも油断をしようものなら、そこがアインの人生の終着点となろう。
一瞬たりとも気を抜けない、張り詰めた防御。
漆黒の槍と死神の鎌。アインはその2つと戦っていた。
「……ふっ!」
突きを剣で受け流し、左手には魔力を込める。
《地神の衝撃!》
リヒトが剣を捌ききれず、槍で受け止めたその瞬間、アインはがら空きになった胴に、衝撃の魔法を叩き込んだ。
スピードが速い相手は、衝撃波で内部から動きを止める。
それが、父であり師であった男の教えだった。
「ぐっ……!!」
かなり強い衝撃であったのだろう。城壁まで飛ばされるリヒト。
ゆらり、と立ち上がると、口許の血を拭い、三度槍を構える。
「そろそろ終わりにしよう。……起きろ、ネクロス」
リヒトがそう呟くと、漆黒の槍は、まるでリヒトとひとつになるかのように、その手を浸食していった。
そして……
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