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第6章:戦火・再び。
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「まったく……こんな夜更けに、何をやっているのやら……。」
訓練場の中央で、笑い合うゼロとシエラ。
そんなふたりを遠巻きに見ながら、ヨハネは大きなため息を吐く。
「青春……じゃのう。」
そして、その横で笑う、ローランド国王。
「のおローランド、そなた達も、こんな事があったのぉ……。」
昔のことを思い出し、遠い目をするヨハネ。
「そなたとツヴァイクは何かというと口喧嘩を始め、それでも決着がつかないとああやって組手して……結局、それでも勝負がつかないまま、最後は笑って終わる……。」
「……そうだったな。それで良く、ジークやアイラを困らせていた。」
「今度は、そんなツヴァイクの息子と、ジークハルトの娘がの……。時が経ったとはい言え、感慨深いものを感じるのぅ……。」
夜風にヨハネのマントが靡く。
「……辛い選択をさせてしまったものじゃ。これは我々親の代で完全に終わらせておくべきじゃった。」
「……うむ。だからこそ、我々も身体を張り、命を懸けてあやつらを守り、導いていかないとな。大切な、未来への希望なのだから。」
ふたり並び、優し気な視線をゼロとシエラに向ける。
「……時にローランド、そなたには息子がいたであろう?内戦の時にも姿が無かったそうじゃの?……何があったのじゃ?」
ふと、ヨハネが思い出し、不安そうな表情をローランドに向ける。
しかし、当のローランドはにやり、と不敵な笑みをヨハネに返す。
「いや、内戦時に呼ばなかったのは、それどころじゃなかったからな。宰相が全ての伝令を監視していて、うかつに伝令を飛ばせなかったのだ。」
「まぁ……お陰で、息子も無事だったのじゃ。結果良ければ何とやら、じゃろう?」
ヨハネが、まぁ良かったと、ローランドの肩を叩く。が……。
「違うのだ、そうではない……。」
ローランドは笑みを浮かべたまま、言う。
「……む?」
「息子がいれば……内戦などゼロとシエラの力を借りずとも収束できた。いや……おそらく宰相も、息子が留守の時を狙って情報操作をし、内戦を起こしたのであろう。……喜ばしい誤算、という事だ。」
ローランドの、自信たっぷりの笑み。
ヨハネは、いつものローランドの冗談だと思い、
「……親ばかにも、程があるの。」
とローランドをからかった。しかし……、
「ゼロとシエラがどう成長するかは分からないが……おそらく現時点では、息子の方が戦闘能力は格段に上じゃ。その力は、既に私に達しているのだから……。」
その、自信に満ちた表情から、ヨハネはそれが虚言ではなく、また古代表現でもないことを悟る。
「……間に合うのか?」
「……あぁ。幸い、修業を終えたと5日前に報せがあった。明日、明後日にはここに到着するだろう。」
アガレス軍との激戦に、新たな戦力が加わる。
それは、ローランド国王にとって朗報であり、その戦力が自分の息子ともなると、その喜びもひとしおであった。
「……何しに来たんだろうな、みんな。」
「さぁ……きっと、野次馬ではありませんか?」
ヨハネやローランド達が遠めから自分たちを見ていることを、ゼロもシエラも知っていた。
『索敵』
そのスキルは、剣士にとってなくてはならないもの。
遠くの、しかも気配を消していない人間の気配など、直ぐに察知できるのが熟練剣士なのだ。
「……で、去っていくのも早かったな。」
「私たちの訓練も、なかなかスピーディーでしたしね……。」
訓練場を囲うように築かれた外壁に、ふたり並んで座る。
「しかし……魔法と剣技の繋がりがとんでもなく自然だったな。さすがは『剣聖』だぜ。」
「でも、本気を出したゼロの前に、ほとんど何もできませんでした。本当は、私がゼロに馬乗りになった状態で、「参った」と言って欲しかったんですけどね……。」
ふたりが、先の訓練を振り返る。
「う、馬乗り……。お前さ、もう少し慎重に話さないと、誤解を生むぜ?」
訓練直後で、充分身体の温まったふたり。
上気しているシエラの頬と首筋。
普段は透き通るほど白い肌が、この時ばかりはほのかに赤みがかってきた、その様子を見ると、どうしても恥ずかしさが先行してしまうゼロ。
「誤解……?」
「……ウルセェもう何も言うな。」
「何ですの?教えてください!!」
ゼロの言葉の真意を知ろうと、顔を覗き込むシエラ。
その整った顔立ちに、
(こいつ……絶対に確信犯だな)
ゼロは慌てて顔を背けるのだった。
「さて、そろそろ寝るか。」
ゼロが、立ち上がり、シエラに向かって手を差し出す。
「そうですね。明日はきっと……厳しい一日になるでしょう。」
差し出された手を握り、シエラも立つ。
「ねぇ、ゼロ……。」
不意に、シエラはゼロを呼ぶ。
その手は、握ったままで。
「どんなに厳しい戦いでも……必ず生きて、生きて帰ることを約束してください。」
真剣な眼差し。
その青い瞳が、ゼロの視線を捉えて離さない。
「……当たり前だ。誰が戦地に死にに行くかってんだ。」
今夜のシエラは、いつもと雰囲気が違う。
そう思いながらも、ゼロは『いつも通り』答えた。
「絶対、ですよ?……いざという時でも、自分の身を投げうつようなことだけは、しないで。またこうして……秘密の訓練、しましょう?」
いつになく心配性なシエラ。
ゼロはそんなシエラを軽く小突くと、
「……俺は、殺しても死なねぇ。心配すんな。次は俺の圧勝、間違いなしだからよ。」
……と、笑顔を浮かべて言うのであった。
「……戻りましょうか。」
「……あぁ、そうだな。」
ゼロとシエラが立ち上がり、城へ戻ろうと歩き出す。
「そういえば、さ。」
その途中、ゼロはふと何かを思い出したようにシエラに問う。
「姉貴が、この剣を使っているところを見たこと……あるか?」
そう言って、ゼロは自身の持つ魔剣をシエラに見せる。
シエラは、その魔剣をじっ……と見つめ、静かに首を振る。
「……いいえ。アイン様が使っていた剣はその鎧と同じ、美しい白銀の剣でした。何かの紋様が刻まれていたので、由緒正しい剣なのだろう、とは思っていましたが……貴方の持つ、漆黒のものではありませんでしたわ。」
そのシエラの言葉に、ゼロはある疑問を持った。
(俺の魔剣は……本当に姉貴から継承されたものなんだろうか……?俺自身、姉貴がこの剣を使っているのを見た事が無い……)
ゼロが手にする、漆黒の魔剣の正体。
アインが騎士になってから、父ツヴァイクに与えられた剣は、シエラが言っていた白銀の剣であることは間違いない。
少年期に、ゼロはその瞬間を傍らで見ていたし、そんな姿に憧れすら抱いていたのを覚えている。
しかし、アインの最期を看取った『あの日』。
彼女の手に握られていたのは、この漆黒の魔剣だった。
彼女は、死に瀕する直前まで、この剣を振るっていたことになる。
(なんで……使い慣れた剣じゃなくて、この魔剣を使ったんだ……?)
今ではすっかりゼロの手に馴染み、身体の一部のようになった魔剣。
しかし、その出どころ、受け継がれた経緯のことを考えると、どうしても謎が残る。
(……あとで、その時が来たらヨハネに訊いてみるかな。)
あまり考えすぎても仕方がない、そう思いゼロはヨハネに剣について訊ねることに決めた。
「ところでさ、俺達の親父の代って『英雄』って呼ばれてるだろ?7英雄、だっけ?」
「……えぇ。7人の英雄が、世界を救い、荒れた大陸に国を興した、と……。」
ゼロのもう一つの疑問。それは、『7英雄』について。
「シエラの親父、俺の親父……アズマの王様、ローランド国王、ヨハネ、エルザの母親?……あと一人だろ?」
「あと一人は、『弓聖』と呼ばれ、弓の達人だったと聞いています。」
「弓?……じゃぁ、ガーネットの血筋?」
弓使いと言えば、ガーネットしか頭に浮かばないゼロ。
彼の頭の中では、彼女に勝る弓使いは、この先現れないだろう、そうとまで思っていた。
「いえ……。弓聖は、独り身を貫いていらっしゃると風の噂で聞いたことがあります。なんでも、先の大戦で将来を誓った人と死別したとか……。」
「そっか……。あとさ、それぞれ英雄の武器って……子供たちにちゃんと受け継がれてるのかな……?」
これまで、あまり真剣に考えてこなかった『英雄の子供たちと武具の継承』。
もし、アガレス軍が邪悪な何かを持ち大きくなっていくのであれば、その英雄に関する者もしっかり調べ、力にするべきではないか。
そう、ゼロは考えていた。
「英雄の武器の継承……それについては全く考えたこともありませんでした。ローランドのおじさまの武器もまだしっかりと見せていただいてませんし、何より……ご存命の方も多いので、継承されずにまだ使っているのかもしれませんし……。」
ゼロと並んで歩くシエラ。
ゼロの素朴な疑問に、頭を捻るような仕草を見せる。
「……あ。」
そして、シエラは何かに気づいたかのように立ち止まった。
「……どうした?」
「そもそもなのですが……どうして帝国に聖剣シンクレアが保管されていたのでしょう?」
「……?剣聖の血筋だからじゃないのか?」
シエラの疑問の意味がよくわからないゼロ。
「確かに、私は剣聖の称号を冠しましたが……お父様、聖王ジークハルトは、槍聖アイラと並び称される、槍の使い手だったんです。父が聖王たる所以は、回復・攻撃どちらの魔法も使いこなし、槍も剣も、斧さえも自在に扱う、その多才さなのです。なのに、聖剣……。」
シエラは真剣な表情で悩む。
帝国が落ちた『あの日』も、ジークハルトはその槍を持って敵と戦った。
しかし、城に隠されていたシンクレアを見たシエラ。
その姿は、剣そのものであったのだ。
「もしかして、成長して槍になる剣、とか……?」
「ま、まさか……もしそうなったら、私成長したシンクレアを使いこなす自信はありませんわ。だって……剣士ですもの……。」
なんとなく発したゼロの冗談を真に受け、再び深刻な表情を見せるシエラ。
「どのみち……武具については謎が多いな。そのうち、何か分かればいいんだけどな。」
いつまでも悩んでいても仕方がない。
ゼロはあまり深く思い悩むことをやめた。
「さて、着いたぜ。」
そうこうしているうちに、王城の裏門にたどり着く。
「じゃ……また、明日な。」
「……えぇ。」
ゼロがシエラに挨拶すれば、シエラもしぶしぶ返す。
そして、ゼロが踵を返して歩き出した、その時……。
「ゼロ。」
シエラが、ゼロの背中に声をかけた。
「……ん?」
「今回の戦いが終わったら……、また、訓練に付き合ってください。」
「……あぁ。いいぜ。」
少しだけ、ゼロのことを引き留めておきたかった。
もし、この後の戦いで、離れ離れになったら……と思うと、名残惜しかったのだ。
「でもな。」
「……はい?」
「次は、俺……もっともっと強くなってるはずだからよ、お前も最初から本気で来ないと、すぐに負けるぜ?」
その、不敵な笑みに。
シエラの不安が、少しだ和らいだ。
「おやすみなさい。」
「あぁ……おやすみ。」
シエラに背を向けたまま、ひらひらと手を振るゼロ。
そんなゼロの後姿を、シエラは見えなくなるまで見送った。
訓練場の中央で、笑い合うゼロとシエラ。
そんなふたりを遠巻きに見ながら、ヨハネは大きなため息を吐く。
「青春……じゃのう。」
そして、その横で笑う、ローランド国王。
「のおローランド、そなた達も、こんな事があったのぉ……。」
昔のことを思い出し、遠い目をするヨハネ。
「そなたとツヴァイクは何かというと口喧嘩を始め、それでも決着がつかないとああやって組手して……結局、それでも勝負がつかないまま、最後は笑って終わる……。」
「……そうだったな。それで良く、ジークやアイラを困らせていた。」
「今度は、そんなツヴァイクの息子と、ジークハルトの娘がの……。時が経ったとはい言え、感慨深いものを感じるのぅ……。」
夜風にヨハネのマントが靡く。
「……辛い選択をさせてしまったものじゃ。これは我々親の代で完全に終わらせておくべきじゃった。」
「……うむ。だからこそ、我々も身体を張り、命を懸けてあやつらを守り、導いていかないとな。大切な、未来への希望なのだから。」
ふたり並び、優し気な視線をゼロとシエラに向ける。
「……時にローランド、そなたには息子がいたであろう?内戦の時にも姿が無かったそうじゃの?……何があったのじゃ?」
ふと、ヨハネが思い出し、不安そうな表情をローランドに向ける。
しかし、当のローランドはにやり、と不敵な笑みをヨハネに返す。
「いや、内戦時に呼ばなかったのは、それどころじゃなかったからな。宰相が全ての伝令を監視していて、うかつに伝令を飛ばせなかったのだ。」
「まぁ……お陰で、息子も無事だったのじゃ。結果良ければ何とやら、じゃろう?」
ヨハネが、まぁ良かったと、ローランドの肩を叩く。が……。
「違うのだ、そうではない……。」
ローランドは笑みを浮かべたまま、言う。
「……む?」
「息子がいれば……内戦などゼロとシエラの力を借りずとも収束できた。いや……おそらく宰相も、息子が留守の時を狙って情報操作をし、内戦を起こしたのであろう。……喜ばしい誤算、という事だ。」
ローランドの、自信たっぷりの笑み。
ヨハネは、いつものローランドの冗談だと思い、
「……親ばかにも、程があるの。」
とローランドをからかった。しかし……、
「ゼロとシエラがどう成長するかは分からないが……おそらく現時点では、息子の方が戦闘能力は格段に上じゃ。その力は、既に私に達しているのだから……。」
その、自信に満ちた表情から、ヨハネはそれが虚言ではなく、また古代表現でもないことを悟る。
「……間に合うのか?」
「……あぁ。幸い、修業を終えたと5日前に報せがあった。明日、明後日にはここに到着するだろう。」
アガレス軍との激戦に、新たな戦力が加わる。
それは、ローランド国王にとって朗報であり、その戦力が自分の息子ともなると、その喜びもひとしおであった。
「……何しに来たんだろうな、みんな。」
「さぁ……きっと、野次馬ではありませんか?」
ヨハネやローランド達が遠めから自分たちを見ていることを、ゼロもシエラも知っていた。
『索敵』
そのスキルは、剣士にとってなくてはならないもの。
遠くの、しかも気配を消していない人間の気配など、直ぐに察知できるのが熟練剣士なのだ。
「……で、去っていくのも早かったな。」
「私たちの訓練も、なかなかスピーディーでしたしね……。」
訓練場を囲うように築かれた外壁に、ふたり並んで座る。
「しかし……魔法と剣技の繋がりがとんでもなく自然だったな。さすがは『剣聖』だぜ。」
「でも、本気を出したゼロの前に、ほとんど何もできませんでした。本当は、私がゼロに馬乗りになった状態で、「参った」と言って欲しかったんですけどね……。」
ふたりが、先の訓練を振り返る。
「う、馬乗り……。お前さ、もう少し慎重に話さないと、誤解を生むぜ?」
訓練直後で、充分身体の温まったふたり。
上気しているシエラの頬と首筋。
普段は透き通るほど白い肌が、この時ばかりはほのかに赤みがかってきた、その様子を見ると、どうしても恥ずかしさが先行してしまうゼロ。
「誤解……?」
「……ウルセェもう何も言うな。」
「何ですの?教えてください!!」
ゼロの言葉の真意を知ろうと、顔を覗き込むシエラ。
その整った顔立ちに、
(こいつ……絶対に確信犯だな)
ゼロは慌てて顔を背けるのだった。
「さて、そろそろ寝るか。」
ゼロが、立ち上がり、シエラに向かって手を差し出す。
「そうですね。明日はきっと……厳しい一日になるでしょう。」
差し出された手を握り、シエラも立つ。
「ねぇ、ゼロ……。」
不意に、シエラはゼロを呼ぶ。
その手は、握ったままで。
「どんなに厳しい戦いでも……必ず生きて、生きて帰ることを約束してください。」
真剣な眼差し。
その青い瞳が、ゼロの視線を捉えて離さない。
「……当たり前だ。誰が戦地に死にに行くかってんだ。」
今夜のシエラは、いつもと雰囲気が違う。
そう思いながらも、ゼロは『いつも通り』答えた。
「絶対、ですよ?……いざという時でも、自分の身を投げうつようなことだけは、しないで。またこうして……秘密の訓練、しましょう?」
いつになく心配性なシエラ。
ゼロはそんなシエラを軽く小突くと、
「……俺は、殺しても死なねぇ。心配すんな。次は俺の圧勝、間違いなしだからよ。」
……と、笑顔を浮かべて言うのであった。
「……戻りましょうか。」
「……あぁ、そうだな。」
ゼロとシエラが立ち上がり、城へ戻ろうと歩き出す。
「そういえば、さ。」
その途中、ゼロはふと何かを思い出したようにシエラに問う。
「姉貴が、この剣を使っているところを見たこと……あるか?」
そう言って、ゼロは自身の持つ魔剣をシエラに見せる。
シエラは、その魔剣をじっ……と見つめ、静かに首を振る。
「……いいえ。アイン様が使っていた剣はその鎧と同じ、美しい白銀の剣でした。何かの紋様が刻まれていたので、由緒正しい剣なのだろう、とは思っていましたが……貴方の持つ、漆黒のものではありませんでしたわ。」
そのシエラの言葉に、ゼロはある疑問を持った。
(俺の魔剣は……本当に姉貴から継承されたものなんだろうか……?俺自身、姉貴がこの剣を使っているのを見た事が無い……)
ゼロが手にする、漆黒の魔剣の正体。
アインが騎士になってから、父ツヴァイクに与えられた剣は、シエラが言っていた白銀の剣であることは間違いない。
少年期に、ゼロはその瞬間を傍らで見ていたし、そんな姿に憧れすら抱いていたのを覚えている。
しかし、アインの最期を看取った『あの日』。
彼女の手に握られていたのは、この漆黒の魔剣だった。
彼女は、死に瀕する直前まで、この剣を振るっていたことになる。
(なんで……使い慣れた剣じゃなくて、この魔剣を使ったんだ……?)
今ではすっかりゼロの手に馴染み、身体の一部のようになった魔剣。
しかし、その出どころ、受け継がれた経緯のことを考えると、どうしても謎が残る。
(……あとで、その時が来たらヨハネに訊いてみるかな。)
あまり考えすぎても仕方がない、そう思いゼロはヨハネに剣について訊ねることに決めた。
「ところでさ、俺達の親父の代って『英雄』って呼ばれてるだろ?7英雄、だっけ?」
「……えぇ。7人の英雄が、世界を救い、荒れた大陸に国を興した、と……。」
ゼロのもう一つの疑問。それは、『7英雄』について。
「シエラの親父、俺の親父……アズマの王様、ローランド国王、ヨハネ、エルザの母親?……あと一人だろ?」
「あと一人は、『弓聖』と呼ばれ、弓の達人だったと聞いています。」
「弓?……じゃぁ、ガーネットの血筋?」
弓使いと言えば、ガーネットしか頭に浮かばないゼロ。
彼の頭の中では、彼女に勝る弓使いは、この先現れないだろう、そうとまで思っていた。
「いえ……。弓聖は、独り身を貫いていらっしゃると風の噂で聞いたことがあります。なんでも、先の大戦で将来を誓った人と死別したとか……。」
「そっか……。あとさ、それぞれ英雄の武器って……子供たちにちゃんと受け継がれてるのかな……?」
これまで、あまり真剣に考えてこなかった『英雄の子供たちと武具の継承』。
もし、アガレス軍が邪悪な何かを持ち大きくなっていくのであれば、その英雄に関する者もしっかり調べ、力にするべきではないか。
そう、ゼロは考えていた。
「英雄の武器の継承……それについては全く考えたこともありませんでした。ローランドのおじさまの武器もまだしっかりと見せていただいてませんし、何より……ご存命の方も多いので、継承されずにまだ使っているのかもしれませんし……。」
ゼロと並んで歩くシエラ。
ゼロの素朴な疑問に、頭を捻るような仕草を見せる。
「……あ。」
そして、シエラは何かに気づいたかのように立ち止まった。
「……どうした?」
「そもそもなのですが……どうして帝国に聖剣シンクレアが保管されていたのでしょう?」
「……?剣聖の血筋だからじゃないのか?」
シエラの疑問の意味がよくわからないゼロ。
「確かに、私は剣聖の称号を冠しましたが……お父様、聖王ジークハルトは、槍聖アイラと並び称される、槍の使い手だったんです。父が聖王たる所以は、回復・攻撃どちらの魔法も使いこなし、槍も剣も、斧さえも自在に扱う、その多才さなのです。なのに、聖剣……。」
シエラは真剣な表情で悩む。
帝国が落ちた『あの日』も、ジークハルトはその槍を持って敵と戦った。
しかし、城に隠されていたシンクレアを見たシエラ。
その姿は、剣そのものであったのだ。
「もしかして、成長して槍になる剣、とか……?」
「ま、まさか……もしそうなったら、私成長したシンクレアを使いこなす自信はありませんわ。だって……剣士ですもの……。」
なんとなく発したゼロの冗談を真に受け、再び深刻な表情を見せるシエラ。
「どのみち……武具については謎が多いな。そのうち、何か分かればいいんだけどな。」
いつまでも悩んでいても仕方がない。
ゼロはあまり深く思い悩むことをやめた。
「さて、着いたぜ。」
そうこうしているうちに、王城の裏門にたどり着く。
「じゃ……また、明日な。」
「……えぇ。」
ゼロがシエラに挨拶すれば、シエラもしぶしぶ返す。
そして、ゼロが踵を返して歩き出した、その時……。
「ゼロ。」
シエラが、ゼロの背中に声をかけた。
「……ん?」
「今回の戦いが終わったら……、また、訓練に付き合ってください。」
「……あぁ。いいぜ。」
少しだけ、ゼロのことを引き留めておきたかった。
もし、この後の戦いで、離れ離れになったら……と思うと、名残惜しかったのだ。
「でもな。」
「……はい?」
「次は、俺……もっともっと強くなってるはずだからよ、お前も最初から本気で来ないと、すぐに負けるぜ?」
その、不敵な笑みに。
シエラの不安が、少しだ和らいだ。
「おやすみなさい。」
「あぁ……おやすみ。」
シエラに背を向けたまま、ひらひらと手を振るゼロ。
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