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第7章:ローランド王国の最も長い一日
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そして……
「まぁまぁ上達した様じゃの。じゃが、その程度の魔力で妾に抗おうなど、幼い。幼いのぅ……。」
ヨハネとセラの戦いは、高位の魔法の応酬となっていたのだが、次第に力の差が見え始めてきたところだった。
「はぁ、はぁっ……!死ぬほど苦しい修行をしたのに……涙など枯れるくらい自分のことを殺し続けてきたのに!!どうして……どうして届かないの!?」
肩で大きく息をするセラ。
ゼルドとグスタフの戦いよりも、ヨハネとセラの戦いの方が決着が早くついてしまいそうな、そんな戦況。
「どれだけ苦しい修行を積んできたとしても、それは人生24年余りのことであろう?……それでは妾には勝てぬよ。」
セラが勢いのまま高位魔法をヨハネに向かい放っていく。
しかし、ヨハネはそれをいとも容易く同等の魔法で相殺していく。
「そうやって……まるで遊んでいるみたいにあしらって……。貴女は一体、どれほどの修業を積んできたというのですか!?」
セラの悲痛な叫び。
そんなセラの問いに、ヨハネは微かに笑みを浮かべながら、答える。
「……500年じゃよ。」
「……え?」
「妾が先代の英雄たちの戦友だから、同世代とでも思ったか?否、妾は里の始祖ぞ。我が魔道の里が僅か100年ほどで幻だの伝説だの言われるわけが無かろう。妾は500年もの間、我が魔力を磨き続け、修行をし続け、新たな魔道を生み出し、弟子を鍛え……そうして里を守り、見守ってきたのじゃ。」
その言葉に、ずっと気を張り続けてきたセラがようやく膝をつく。
「勝てるわけ……ない。」
自身の人生よりも膨大な時間を修行と後世のために費やしてきたヨハネ。
その魔力に抗おうとしていた自分が、セラはちっぽけに感じてしまっていたのだ。
「もう……好きにしてください。戦争の首謀者としてこの首をローランド城壁に掲げても良い。貴女の気が済まなかったら、いっそ貴女の手で私を消してほしい。私は……ヨハネ様、貴女に消されるのなら本望です。」
有能な将は、自身の力をしっかりと把握し、相手との戦力差を計る。
アガレス四将であるセラは、自分の力を計った上で、こう結論を出したのだ。
『どんな奇跡が起こったとしても、魔法の力ではアガレス軍の誰一人としてヨハネに勝てる者はいない』
セラは、自分の愚かさを悔いた。
そもそも、『転生の秘術』が使える時点で、セラより別次元を歩いていたのだ。
「ほう……軍の総司令官が、こうも容易く敗北を認めるのか。」
ヨハネは、険しい表情でセラを見据えた。
ヨハネは、懐から小さな小瓶を出すと、中の液体をセラに振りかける。
「……!?」
毒かと思い、身をすくめたセラであったが、その後の身体の異変に驚きヨハネを見る。
「魔力が……回復している……!」
ヨハネがセラに施したのは、魔力回復の秘薬。
敵に塩を送った形となったことに、セラの疑問は膨れ上がる。
「ヨハネ様、どうして……あとは私を殺せばこの戦いは終わるはずでしょう!?」
セラの悲痛な叫び。
しかし、ヨハネはそんなセラの叫びには耳を貸そうとしなかった。
「さぁ……立たぬか。妾が直々に稽古をつけてやろう。その程度の魔力で将軍とは、聞いて呆れるわい。将軍に相応しい魔法の使い方を教えてやろう。」
「な……何を言っているのですか!?私は、敵です!!」
「敵……確かにそうじゃろうの。じゃが……妾にとっては『里の子』なのじゃ。将軍になったのは、そのあとであろ?」
不敵な笑みを浮かべるヨハネ。
「そして、妾は別に敵に塩を送ったとは思うておらぬ。」
「……え?」
ヨハネは、不敵に笑い、セラに人差し指を突き付ける。
「『敵』とは、ある程度実力の近い相手同士が認めるものじゃ。セラ……そなたはまだ、妾の敵に相応しくはない。なんせ……『ヒヨッコ』じゃからの。」
セラは、アガレス軍の中では魔族も含めいちばんの魔力の持ち主。
そのセラを『ヒヨッコ』と呼ぶヨハネに、セラは正直底知れぬ恐怖を感じた。
「殺す前に、恥を晒せと言うのですか……?」
セラの表情に、にわかに怒りの色が混じる。
「いいや。セラ、そなたは今、『生きたまま恥を晒す』のじゃ。将軍としてのそなたは今、1度死んだ。こんな平原に醜い死体を晒すことを考えれば、まだ妾に愚弄された方がマシじゃろ?」
ほれ、立たぬか、とヨハネはひらひらと手を振り促す。
「……私だって」
セラは、ゆっくりと立ち上がり、ヨハネに向き合う。
「私だって……貴女に一矢報いる事は出来る!!私を子ども扱いした事……後悔させて見せましょう!!夜明けまでもう時間がありません。最初から全力で挑ませていただきます!!」
『天才』と言われ里で育った少女期。
誰一人として、セラを止める者はいなかったし、止められる者もいなかった。
その魔力が、強大すぎて。
そう、セラの魔力は、既に他の魔導士たちの追随を許さないほど、強大で完成されているのだ。
ヨハネは、こと魔道に関しては、里の民たちからも『神格化』さえされていた。
魔道の始祖。
そんなヨハネにとっては、セラはどれほど魔力が強大であろうとも『ヒヨッコ』なのである。
「よーし、妾が教えてやろう。魔力とは才能だけではないという事を。」
「まぁまぁ上達した様じゃの。じゃが、その程度の魔力で妾に抗おうなど、幼い。幼いのぅ……。」
ヨハネとセラの戦いは、高位の魔法の応酬となっていたのだが、次第に力の差が見え始めてきたところだった。
「はぁ、はぁっ……!死ぬほど苦しい修行をしたのに……涙など枯れるくらい自分のことを殺し続けてきたのに!!どうして……どうして届かないの!?」
肩で大きく息をするセラ。
ゼルドとグスタフの戦いよりも、ヨハネとセラの戦いの方が決着が早くついてしまいそうな、そんな戦況。
「どれだけ苦しい修行を積んできたとしても、それは人生24年余りのことであろう?……それでは妾には勝てぬよ。」
セラが勢いのまま高位魔法をヨハネに向かい放っていく。
しかし、ヨハネはそれをいとも容易く同等の魔法で相殺していく。
「そうやって……まるで遊んでいるみたいにあしらって……。貴女は一体、どれほどの修業を積んできたというのですか!?」
セラの悲痛な叫び。
そんなセラの問いに、ヨハネは微かに笑みを浮かべながら、答える。
「……500年じゃよ。」
「……え?」
「妾が先代の英雄たちの戦友だから、同世代とでも思ったか?否、妾は里の始祖ぞ。我が魔道の里が僅か100年ほどで幻だの伝説だの言われるわけが無かろう。妾は500年もの間、我が魔力を磨き続け、修行をし続け、新たな魔道を生み出し、弟子を鍛え……そうして里を守り、見守ってきたのじゃ。」
その言葉に、ずっと気を張り続けてきたセラがようやく膝をつく。
「勝てるわけ……ない。」
自身の人生よりも膨大な時間を修行と後世のために費やしてきたヨハネ。
その魔力に抗おうとしていた自分が、セラはちっぽけに感じてしまっていたのだ。
「もう……好きにしてください。戦争の首謀者としてこの首をローランド城壁に掲げても良い。貴女の気が済まなかったら、いっそ貴女の手で私を消してほしい。私は……ヨハネ様、貴女に消されるのなら本望です。」
有能な将は、自身の力をしっかりと把握し、相手との戦力差を計る。
アガレス四将であるセラは、自分の力を計った上で、こう結論を出したのだ。
『どんな奇跡が起こったとしても、魔法の力ではアガレス軍の誰一人としてヨハネに勝てる者はいない』
セラは、自分の愚かさを悔いた。
そもそも、『転生の秘術』が使える時点で、セラより別次元を歩いていたのだ。
「ほう……軍の総司令官が、こうも容易く敗北を認めるのか。」
ヨハネは、険しい表情でセラを見据えた。
ヨハネは、懐から小さな小瓶を出すと、中の液体をセラに振りかける。
「……!?」
毒かと思い、身をすくめたセラであったが、その後の身体の異変に驚きヨハネを見る。
「魔力が……回復している……!」
ヨハネがセラに施したのは、魔力回復の秘薬。
敵に塩を送った形となったことに、セラの疑問は膨れ上がる。
「ヨハネ様、どうして……あとは私を殺せばこの戦いは終わるはずでしょう!?」
セラの悲痛な叫び。
しかし、ヨハネはそんなセラの叫びには耳を貸そうとしなかった。
「さぁ……立たぬか。妾が直々に稽古をつけてやろう。その程度の魔力で将軍とは、聞いて呆れるわい。将軍に相応しい魔法の使い方を教えてやろう。」
「な……何を言っているのですか!?私は、敵です!!」
「敵……確かにそうじゃろうの。じゃが……妾にとっては『里の子』なのじゃ。将軍になったのは、そのあとであろ?」
不敵な笑みを浮かべるヨハネ。
「そして、妾は別に敵に塩を送ったとは思うておらぬ。」
「……え?」
ヨハネは、不敵に笑い、セラに人差し指を突き付ける。
「『敵』とは、ある程度実力の近い相手同士が認めるものじゃ。セラ……そなたはまだ、妾の敵に相応しくはない。なんせ……『ヒヨッコ』じゃからの。」
セラは、アガレス軍の中では魔族も含めいちばんの魔力の持ち主。
そのセラを『ヒヨッコ』と呼ぶヨハネに、セラは正直底知れぬ恐怖を感じた。
「殺す前に、恥を晒せと言うのですか……?」
セラの表情に、にわかに怒りの色が混じる。
「いいや。セラ、そなたは今、『生きたまま恥を晒す』のじゃ。将軍としてのそなたは今、1度死んだ。こんな平原に醜い死体を晒すことを考えれば、まだ妾に愚弄された方がマシじゃろ?」
ほれ、立たぬか、とヨハネはひらひらと手を振り促す。
「……私だって」
セラは、ゆっくりと立ち上がり、ヨハネに向き合う。
「私だって……貴女に一矢報いる事は出来る!!私を子ども扱いした事……後悔させて見せましょう!!夜明けまでもう時間がありません。最初から全力で挑ませていただきます!!」
『天才』と言われ里で育った少女期。
誰一人として、セラを止める者はいなかったし、止められる者もいなかった。
その魔力が、強大すぎて。
そう、セラの魔力は、既に他の魔導士たちの追随を許さないほど、強大で完成されているのだ。
ヨハネは、こと魔道に関しては、里の民たちからも『神格化』さえされていた。
魔道の始祖。
そんなヨハネにとっては、セラはどれほど魔力が強大であろうとも『ヒヨッコ』なのである。
「よーし、妾が教えてやろう。魔力とは才能だけではないという事を。」
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