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第9章:祈り
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ヨハネの方針が決まってからの行動は、実に早かった。
まずは一瞬でローランド城へと転移。
城門や、謁見の間など本来踏むべき手順をすべて省略し、ヨハネは玉座の間へ一気に転移した。
これは、ローランド国王がヨハネと同じ英雄であり戦友であったからに他ならない。
そして、
「王よ、ガーネットとグスタフをここに呼んでくれ。頼みがある。」
ヨハネは真剣な表情でローランド国王に頼む。
王も、ヨハネが真剣な表情で何かを言うときは、本当に切迫した状況だということを知っていたので、すぐさま2人を呼ぶように近衛兵に命じた。
ほどなくして……。
「ガーネット、入ります。」
「何の用だ?親父……。」
ガーネット、次いでグスタフと玉座の間に入ってきた。
そして、2人とも横たわるゼロの姿を見て驚く。
「ゼロ!!」
「これは……どうしたというのだ?彼は一介の兵士では無かろう?」
ガーネットが真っ先にゼロに駆け寄る。
「シエラ様!これは……どういうことですか?」
そして、シエラに問う。
シエラは曇った表情を見せ、言いよどんだが、2人の間にヨハネが割って入る。
「ガーネット、落ち着け。妾たちが着いた時には、ゼロはもう虫の息じゃった。ここまで容体が安定したのはこのシエラの回復魔法のおかげじゃ。シエラがいなかったら……ゼロは死んでいた。」
「そう……でしたか。シエラ様、無礼をお許しください……。」
「いえ、いいのです。私がもう少し早くエリシャに向かっていれば……。」
シエラは、ガーネットのゼロに対する気持ちに気付いていた。
気付いていたからこそ、ゼロをこんな状態で城に帰還させたことに責任を感じていた。
「よし、お前たち……悲しむだけ悲しんだか?」
そんな暗い雰囲気を変えたのは、他でもないヨハネだった。
「……ヨハネ様?」
「いつまでもウジウジとしているわけにはいかぬのじゃ。こうしている間にも、アガレス軍はどんどん戦力を増やすだろう。そして、ゼロが『戻ってくる』確率も少しずつ減っていく。行動を止めているほど、妾たちは悠長に構えてられぬのだ。」
普段の飄々とした性格とはうって変わり、経験の豊富な英雄としての言葉。
「……そうですわね。」
「はっ!申し訳ありません!!」
そんなヨハネの様子に、再び気を引き締めるシエラとガーネット。
ヨハネは2人が気持ちを持ち直したことを確認すると、小さく頷く。
「……よろしい。では手順を説明するぞ。」
ヨハネは腕を組み、説明を始めた。
「まず、妾とゼロ、シエラ、そしてガーネットの3人で、魔導士の里へ行く。」
ヨハネは、ゼロを救出する作戦を説明しだした。
「魔導士の里?あの、敵将の方も暮らしていた……。」
「うむ。魔導の聖域。魔導士たちだけが生きることを許され、里に生まれた者は、生まれつき強大な魔力を持っている。異界との門を守り、開くことのできる、唯一の種族じゃ。」
「そこに我々が行って……無事でいられるのですか?」
ヨハネの興した、ヨハネの故郷。
そんな『聖域』に行くことを迷わず言ったヨハネに、ガーネットは不安の色を隠せない。
「里に行く分には問題ない。長期間滞在すると、里を渦巻く魔力に当てられてしまうかもしれぬが、数日なら問題なかろう。」
「そして……里で何を?」
今度は、シエラが問う。
医療技術であれば、現在地であるローランドも発展している。
「魔導士たちの魔力を借り、ゼロの深層心理に潜り、ゼロの心をサルベージするのじゃ。」
「……え?」
問いはしてみたものの、シエラの問いに対するヨハネの回答は、理解しがたいものだった。
「ゼロは身体的には健康に戻りつつある。じゃが目を覚まさぬのは、心が生の世界に戻ることを拒絶しているからじゃ。このまま目覚めを拒絶し続けていれば、身体は目覚めることどころか、生きることさえ拒絶し始めるじゃろう。……そうなる前に、ゼロの心をこちら側に連れ戻す。」
それは、まるでおとぎ話のような話だった。
精神世界に潜り込み、人を連れ戻すなど、現実では考え難いことであった。
「里では、ガーネットに妾の護衛を頼みたい。護衛、というよりは、私の集中力が切れぬよう、妾の周囲を見守っていて欲しいのじゃ。」
ガーネットは黙って頷く。
「妾が中心となり、ゼロの深層心理に糸を垂らす。集中力が切れると、その時点で糸が切れてしまう可能性がある。そうすると……潜り込んだ人間も戻ってこれなくなる可能性が高い。」
シエラとガーネットは、ヨハネの言葉に息をのむ。
戻ってこれなくなる、それはすなわち『死』を意味するのだ。
「……魔導士殿、私はどうするのだ?」
なかなか自分の出番が来ないので、グスタフは堪り兼ねてヨハネに訊く。
「グスタフ、そなたは留守番じゃ。」
「留守番……だと?」
明らかに不満の色を見せるグスタフに、ヨハネはやはりか、と小さな溜息を吐いて言葉を続ける。
「今回、この『留守番』には大きな意味がある。アガレス軍がいつどう動くか分からない。そのうえ、こちらはローランドの有能な将軍をひとり連れて行くのじゃ。これを機にこちらに軍が攻めてくるかもしれぬ。だからこそのそなたじゃ。」
「俺が……敵軍を牽制し、有事の際は動け、ということだな?」
思ったよりも冷静なグスタフの分析に、ヨハネは安どの表情を見せた。
「そうじゃ。この仕事は王子であり、敵将と互角以上に戦えるグスタフ、そなたしか適任はいない。」
真剣な表情でヨハネはグスタフを見据える。
「うむ……それなら仕方ないな。安心されよ魔導士殿。俺が最高の『留守番』をして見せよう!!」
グスタフは力強く、自分の胸を叩いた。
「では……行くぞ!」
ヨハネは全員の行動を指示し終わったところで、すぐに行動を始める。
一瞬で床に描かれた魔法陣。
今回の転移魔法では、なかなか遠いところに飛ぶようで、ヨハネも詠唱を始める。
「普段は無詠唱のヨハネ様が……。私たち、どこまで飛ぶつもりなの?」
大魔導士と称されるヨハネが本気で魔法を詠唱していることより、シエラはその魔力の強大さと、これから起こる出来事の重大さを痛感せずにはいられない。
「よし、妾の身体に触れよ!!ゼロのてをしっかりと握っての!!」
そして、ヨハネの合図が出る。
大型転送魔法は発動間近。
シエラとガーネットは、それぞれゼロの手を力いっぱい握りしめ、ヨハネの肩に手をかけた。
「……こちらのことは心配するな!!帰る場所はこの俺がしっかりと確保しておく!!……戻るまでに、アガレス軍を倒していたら、すまん!!」
グスタフが、冗談を交えながら4人を見送る。
「頼もしい、ですわね。」
「ええ。王子は私たち騎士でも敵わない、絶対的な武力とカリスマ性を持っています。彼が残ることで、ローランド軍の士気は下がることはないでしょう。」
「ただ……前線に出たがり、何ですよね……。」
「えぇ……。本当に。玉座でどっしり戦況を見守って欲しいのですが。」
魔法の発動音が大きすぎて、グスタフにはふたりの声が聞こえない。
それでもグスタフは、笑顔で手を振っていた。
「よし、行くぞ!!」
ヨハネが右手を振り上げると、4人は一瞬でローランドから消えた。
「……ふぅ。久しぶりの故郷じゃの。」
それは一瞬の出来事。
ヨハネたちは、里の中央部の巨大魔法陣に降り立った。
「ここが……」
「魔導士の、里……。」
都市や城下町のような、広場のような場所は見当たらない。
しかし、この魔導士の里には、まるでおとぎ話に出てくるような、幻想的な雰囲気を感じた。
「何の……光ですか?」
里を漂う、七色の無数の光。
手で触ると弾けるその光の粒を見ながら、シエラが言う。
「魔力じゃよ。ここは魔力の影響を最も受けやすい『霊脈の中心』じゃ。あらゆる生命に宿る生命が、光となって可視化するのじゃ。……ほれ、そなたらからも出ていよう?」
シエラの問いにヨハネは答えると、シエラとガーネットの身体を指さす。
「あ……」
「本当、だ……。」
シエラの身体からは白い光が、ガーネットの身体からは薄緑色の光がそれぞれの身体を包んでいた。
「私とシエラ様の魔力の色が違うのは……?」
「それは『属性』じゃな。シエラは光の属性、ガーネットは風の属性を持っているようじゃの。この里において魔法で戦うというのはかなり難易度が高い。このように魔力が見えてしまうでな。それぞれ魔力には相性がある。その相性の良しあしまでわかってしまう。じゃから、よほどの実力差がない限り、この里では魔法を使った戦いなど起こらぬ。」
あちこちを漂うカラフルな光の粒を指さしながら、ヨハネは魔力についての説明をする。
「戦いが起こったことは……?」
「あるにはある。魔導士同士がこの里の中で争いを起こした場合、どちらに非があろうと、戦った者は全員追放じゃ。それが、この里のやり方。」
「悪くないほうも、ですか?」
「うむ。『里では魔法で争わぬ』というのがこの里の掟じゃ。自分に非がなくとも、魔法で争うという禁忌に触れた者は、即追放。そうでもせねば、この里は守れぬ。……古い考え方だと思われるかもしれんがの。」
説明を続けながら、ヨハネは迷うことなく歩みを進めていく。
「……始祖様!!」
「お帰りになられたのですね!!」
やがて、人の多いところに行き着くと、里の住民たちがヨハネのところに集まる。
「うむ。変わりないな?」
「えぇ……。何事もなく、平穏な毎日です。」
「それは何よりじゃ。屋敷は?」
「はい。変わらず整えてあります。」
「……すまぬの。」
ヨハネは挨拶を交わしながら、さらに奥へと進む。
道行く人は一様に、ヨハネに頭を下げる。
「ヨハネ様……ここではかなりの権力を?」
ガーネットが思わずヨハネに問う。
「まぁの。この里は、妾が興したからの。じゃから民も言っていたであろう?妾のことを『始祖』と。……まぁよい。とりあえず行くぞ。長老の屋敷に。」
まずは一瞬でローランド城へと転移。
城門や、謁見の間など本来踏むべき手順をすべて省略し、ヨハネは玉座の間へ一気に転移した。
これは、ローランド国王がヨハネと同じ英雄であり戦友であったからに他ならない。
そして、
「王よ、ガーネットとグスタフをここに呼んでくれ。頼みがある。」
ヨハネは真剣な表情でローランド国王に頼む。
王も、ヨハネが真剣な表情で何かを言うときは、本当に切迫した状況だということを知っていたので、すぐさま2人を呼ぶように近衛兵に命じた。
ほどなくして……。
「ガーネット、入ります。」
「何の用だ?親父……。」
ガーネット、次いでグスタフと玉座の間に入ってきた。
そして、2人とも横たわるゼロの姿を見て驚く。
「ゼロ!!」
「これは……どうしたというのだ?彼は一介の兵士では無かろう?」
ガーネットが真っ先にゼロに駆け寄る。
「シエラ様!これは……どういうことですか?」
そして、シエラに問う。
シエラは曇った表情を見せ、言いよどんだが、2人の間にヨハネが割って入る。
「ガーネット、落ち着け。妾たちが着いた時には、ゼロはもう虫の息じゃった。ここまで容体が安定したのはこのシエラの回復魔法のおかげじゃ。シエラがいなかったら……ゼロは死んでいた。」
「そう……でしたか。シエラ様、無礼をお許しください……。」
「いえ、いいのです。私がもう少し早くエリシャに向かっていれば……。」
シエラは、ガーネットのゼロに対する気持ちに気付いていた。
気付いていたからこそ、ゼロをこんな状態で城に帰還させたことに責任を感じていた。
「よし、お前たち……悲しむだけ悲しんだか?」
そんな暗い雰囲気を変えたのは、他でもないヨハネだった。
「……ヨハネ様?」
「いつまでもウジウジとしているわけにはいかぬのじゃ。こうしている間にも、アガレス軍はどんどん戦力を増やすだろう。そして、ゼロが『戻ってくる』確率も少しずつ減っていく。行動を止めているほど、妾たちは悠長に構えてられぬのだ。」
普段の飄々とした性格とはうって変わり、経験の豊富な英雄としての言葉。
「……そうですわね。」
「はっ!申し訳ありません!!」
そんなヨハネの様子に、再び気を引き締めるシエラとガーネット。
ヨハネは2人が気持ちを持ち直したことを確認すると、小さく頷く。
「……よろしい。では手順を説明するぞ。」
ヨハネは腕を組み、説明を始めた。
「まず、妾とゼロ、シエラ、そしてガーネットの3人で、魔導士の里へ行く。」
ヨハネは、ゼロを救出する作戦を説明しだした。
「魔導士の里?あの、敵将の方も暮らしていた……。」
「うむ。魔導の聖域。魔導士たちだけが生きることを許され、里に生まれた者は、生まれつき強大な魔力を持っている。異界との門を守り、開くことのできる、唯一の種族じゃ。」
「そこに我々が行って……無事でいられるのですか?」
ヨハネの興した、ヨハネの故郷。
そんな『聖域』に行くことを迷わず言ったヨハネに、ガーネットは不安の色を隠せない。
「里に行く分には問題ない。長期間滞在すると、里を渦巻く魔力に当てられてしまうかもしれぬが、数日なら問題なかろう。」
「そして……里で何を?」
今度は、シエラが問う。
医療技術であれば、現在地であるローランドも発展している。
「魔導士たちの魔力を借り、ゼロの深層心理に潜り、ゼロの心をサルベージするのじゃ。」
「……え?」
問いはしてみたものの、シエラの問いに対するヨハネの回答は、理解しがたいものだった。
「ゼロは身体的には健康に戻りつつある。じゃが目を覚まさぬのは、心が生の世界に戻ることを拒絶しているからじゃ。このまま目覚めを拒絶し続けていれば、身体は目覚めることどころか、生きることさえ拒絶し始めるじゃろう。……そうなる前に、ゼロの心をこちら側に連れ戻す。」
それは、まるでおとぎ話のような話だった。
精神世界に潜り込み、人を連れ戻すなど、現実では考え難いことであった。
「里では、ガーネットに妾の護衛を頼みたい。護衛、というよりは、私の集中力が切れぬよう、妾の周囲を見守っていて欲しいのじゃ。」
ガーネットは黙って頷く。
「妾が中心となり、ゼロの深層心理に糸を垂らす。集中力が切れると、その時点で糸が切れてしまう可能性がある。そうすると……潜り込んだ人間も戻ってこれなくなる可能性が高い。」
シエラとガーネットは、ヨハネの言葉に息をのむ。
戻ってこれなくなる、それはすなわち『死』を意味するのだ。
「……魔導士殿、私はどうするのだ?」
なかなか自分の出番が来ないので、グスタフは堪り兼ねてヨハネに訊く。
「グスタフ、そなたは留守番じゃ。」
「留守番……だと?」
明らかに不満の色を見せるグスタフに、ヨハネはやはりか、と小さな溜息を吐いて言葉を続ける。
「今回、この『留守番』には大きな意味がある。アガレス軍がいつどう動くか分からない。そのうえ、こちらはローランドの有能な将軍をひとり連れて行くのじゃ。これを機にこちらに軍が攻めてくるかもしれぬ。だからこそのそなたじゃ。」
「俺が……敵軍を牽制し、有事の際は動け、ということだな?」
思ったよりも冷静なグスタフの分析に、ヨハネは安どの表情を見せた。
「そうじゃ。この仕事は王子であり、敵将と互角以上に戦えるグスタフ、そなたしか適任はいない。」
真剣な表情でヨハネはグスタフを見据える。
「うむ……それなら仕方ないな。安心されよ魔導士殿。俺が最高の『留守番』をして見せよう!!」
グスタフは力強く、自分の胸を叩いた。
「では……行くぞ!」
ヨハネは全員の行動を指示し終わったところで、すぐに行動を始める。
一瞬で床に描かれた魔法陣。
今回の転移魔法では、なかなか遠いところに飛ぶようで、ヨハネも詠唱を始める。
「普段は無詠唱のヨハネ様が……。私たち、どこまで飛ぶつもりなの?」
大魔導士と称されるヨハネが本気で魔法を詠唱していることより、シエラはその魔力の強大さと、これから起こる出来事の重大さを痛感せずにはいられない。
「よし、妾の身体に触れよ!!ゼロのてをしっかりと握っての!!」
そして、ヨハネの合図が出る。
大型転送魔法は発動間近。
シエラとガーネットは、それぞれゼロの手を力いっぱい握りしめ、ヨハネの肩に手をかけた。
「……こちらのことは心配するな!!帰る場所はこの俺がしっかりと確保しておく!!……戻るまでに、アガレス軍を倒していたら、すまん!!」
グスタフが、冗談を交えながら4人を見送る。
「頼もしい、ですわね。」
「ええ。王子は私たち騎士でも敵わない、絶対的な武力とカリスマ性を持っています。彼が残ることで、ローランド軍の士気は下がることはないでしょう。」
「ただ……前線に出たがり、何ですよね……。」
「えぇ……。本当に。玉座でどっしり戦況を見守って欲しいのですが。」
魔法の発動音が大きすぎて、グスタフにはふたりの声が聞こえない。
それでもグスタフは、笑顔で手を振っていた。
「よし、行くぞ!!」
ヨハネが右手を振り上げると、4人は一瞬でローランドから消えた。
「……ふぅ。久しぶりの故郷じゃの。」
それは一瞬の出来事。
ヨハネたちは、里の中央部の巨大魔法陣に降り立った。
「ここが……」
「魔導士の、里……。」
都市や城下町のような、広場のような場所は見当たらない。
しかし、この魔導士の里には、まるでおとぎ話に出てくるような、幻想的な雰囲気を感じた。
「何の……光ですか?」
里を漂う、七色の無数の光。
手で触ると弾けるその光の粒を見ながら、シエラが言う。
「魔力じゃよ。ここは魔力の影響を最も受けやすい『霊脈の中心』じゃ。あらゆる生命に宿る生命が、光となって可視化するのじゃ。……ほれ、そなたらからも出ていよう?」
シエラの問いにヨハネは答えると、シエラとガーネットの身体を指さす。
「あ……」
「本当、だ……。」
シエラの身体からは白い光が、ガーネットの身体からは薄緑色の光がそれぞれの身体を包んでいた。
「私とシエラ様の魔力の色が違うのは……?」
「それは『属性』じゃな。シエラは光の属性、ガーネットは風の属性を持っているようじゃの。この里において魔法で戦うというのはかなり難易度が高い。このように魔力が見えてしまうでな。それぞれ魔力には相性がある。その相性の良しあしまでわかってしまう。じゃから、よほどの実力差がない限り、この里では魔法を使った戦いなど起こらぬ。」
あちこちを漂うカラフルな光の粒を指さしながら、ヨハネは魔力についての説明をする。
「戦いが起こったことは……?」
「あるにはある。魔導士同士がこの里の中で争いを起こした場合、どちらに非があろうと、戦った者は全員追放じゃ。それが、この里のやり方。」
「悪くないほうも、ですか?」
「うむ。『里では魔法で争わぬ』というのがこの里の掟じゃ。自分に非がなくとも、魔法で争うという禁忌に触れた者は、即追放。そうでもせねば、この里は守れぬ。……古い考え方だと思われるかもしれんがの。」
説明を続けながら、ヨハネは迷うことなく歩みを進めていく。
「……始祖様!!」
「お帰りになられたのですね!!」
やがて、人の多いところに行き着くと、里の住民たちがヨハネのところに集まる。
「うむ。変わりないな?」
「えぇ……。何事もなく、平穏な毎日です。」
「それは何よりじゃ。屋敷は?」
「はい。変わらず整えてあります。」
「……すまぬの。」
ヨハネは挨拶を交わしながら、さらに奥へと進む。
道行く人は一様に、ヨハネに頭を下げる。
「ヨハネ様……ここではかなりの権力を?」
ガーネットが思わずヨハネに問う。
「まぁの。この里は、妾が興したからの。じゃから民も言っていたであろう?妾のことを『始祖』と。……まぁよい。とりあえず行くぞ。長老の屋敷に。」
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