聖戦記

桂木 京

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第10章:禁断の地

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そこからさらに歩くこと20分ほど。

「なぁ……見渡す限りの荒野で、何かあるとか言う雰囲気じゃないぞ?」

「確かに……でも、ヨハネ様が転移できたのだから、きっと何か……。」


変わらない景色に、いよいよ不安の色をにじませるゼロとシエラ。
ヨハネは、そんなふたりを尻目に迷わず歩いていく。


「なぁ、本当にこの先も転移魔法使えないのか?結構歩いてるじゃねぇか……。」


ゼロはそんなヨハネの背中に問う。


「これしきの距離も歩けぬのか、貧弱者め……。もうとっくに禁断の地の領域に入っておるわ。村もそろそろ入口じゃろうて。」


ヨハネが溜息混じりにそう答えるが、ふたりの視界にはそれらしい村や建造物の姿はない。

「何もねーじゃねぇか!!」


痺れを切らしたゼロが、少しだけ大きな声を出し、

「ま、まぁまぁ……。」

シエラが苦笑いでゼロの肩に手を置く。
そんなふたりの様子を見て、ヨハネはようやく向き直る。


「良いか、此処は禁断の地。魔獣も強いし、何より魔の魔力の強い場所じゃ。そんな地に住む人間たちが、狙われやすい場所に居を構えるわけがなかろう。」

ヨハネはそう言うと、何もない空間をじっと見つめた。


「人間とは時に無力。しかし時に賢者たる知恵を持つものよ。」

そして、ゆっくりと一方へ向かい歩き出す。すると……。


……ヨハネの身体が、まるで溶けるように消えた。


「……え?」

「……ヨハネ様!?」

その光景に驚きを隠せないゼロとシエラ。


「妾に続き、まっすぐ進め。」

ヨハネの身体が消えた先から、確かにヨハネの声がする。


「生きてる……よな?」

「当たり前じゃ。さっさと来ぬか!」


ゼロはヨハネの声が間違いではないことを確認すると、その姿が消えた先に1歩、踏み出す。


「……行くのですか?」

そんなゼロを、心配そうに見つめるシエラ。

「おぅ。もう、やぶれかぶれだ。」

「で、でも……。」


今回は珍しくシエラが怖がっている。
ゼロは、シエラに向かって手を伸ばす。


「行くぞ。大丈夫だ、ヨハネが言ってるんだし。」

「は、はい……。」


シエラはおずおずと、ゼロの伸ばした手を取り、ふたりは一緒に先に進んだ。

「おぉ……。」

ヨハネの背に続き、踏み出したゼロとシエラ。
その眼前に広がった風景に、思わずゼロは声を上げた。


「村……だ。」

「……本当に……?」


その様子に、ふたりとも信じられないと言った表情。
ヨハネは、この反応を予想していたらしく、笑いながらふたりに近づく。


「なかなか面白い反応をしたの、お前たち……。ここは、長老の魔力により姿も気配も外界から消し去って生きる民の村。言うなれば『蜃気楼の村』じゃ。」


中に入ってしまえば、普通の村と何ら変わらない様子。
民たちが畑を耕し、子供たちは村を駆け回る。
平凡な風景がそこにあった。


「此処なら……安全なのか?」

「うむ。妾の里と同じ原理じゃ。この村は規模が小さいゆえ、妾よりも魔力の劣っていようとも、人並み以上の魔力があれば外界から隔離することは可能じゃ。もっとも、世に言う『賢者』以上の魔力じゃがの。」


ヨハネが、この村の風景を当たり前のように説明する。

「賢者の魔力って……。」

その淡々とした口調のため、聞き流してしまいそうな言葉を、シエラは聞き逃さなかった。


「そんなに凄いのか?賢者って……。」

「えぇ。大陸でも3人いるかどうかの魔法の使い手です。1人はヨハネ様と言われていますが……。」

「げ……ヨハネと同レベルってことか……?」


魔法についての知識のないゼロも、シエラの説明にはさすがに驚く。

「ほれ、立ち止まるな、歩け!」

ヨハネに叱られ、いそいそと後をついていくふたりに、


「世界の3賢者……。今はこの里の長老・世界の中心の神殿の巫女・そして……セラじゃ。」

ヨハネは言う。
『セラ』の部分だけ言葉が曇ったのは、セラがアガレス軍に降ったことに対する悔しさからだろうか。


「ん……ヨハネは?」

「3賢者のひとりではなかったのですか?」

ヨハネの言った賢者の名に、ヨハネがいないことを不思議に思ったゼロとシエラが問う。


「3人とも。妾の弟子じゃ。」


その一言で、ヨハネの魔力の底知れ無さを改めて実感するふたり。


「俺たち……とんでもねぇ奴と一緒に行動してるんじゃねぇのか……?」

「しっ!『奴』だなんて失礼ですわ!!それだけ偉大なお方なのですから!!」


ふたりが肩を寄せて内緒話を始める。


「ほれほれ歩け!!長老の家はすぐそこじゃぞ!!」


そして再び、ヨハネに叱られる。


「とりあえず……ここではしっかりヨハネ様の言うことに従うとしましょう。」

「……そうだな。こんな辺境の地に放り出されたら、俺たちもう終わりだ……。」


ふたりは顔を見合わせて頷くと、ヨハネの後ろについて歩いた。


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