ランブルビースト ~獣が強くて人類滅亡の危機なのでビッチがセックスで戦います~【東京編】

扶桑のイーグル

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ワイバーン

21体目 ワイバーン5

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 全面白で覆われた清潔感極まりない病室という名の檻。その中で、ベッドに横たわる赤いツインテールが疲れたように言った。

「……あんたも来たの」

 ドアも叩かず、そこには菜々一人しかいない事をまるで知っていたかのように入ってきた緑に対し、まるで厄介な奴が入ってきたと言わんばかりに。

「も?」

「……分かってるでしょ」

「……無様だな」

「うっさい」

 腰を痛めた菜々の元には、既に楽や奈津美が来ていたらしい。とっくの昔にいなくなっていたようだが、二人のことだ。散々なじって帰ったのだろう。
 緑が隣の椅子に腰掛けてからも、暫く唇を尖らせたままだった。

 数分、静かにしていただろうか。菜々が先に切り出した。

「ちょっと、いつまで黙ってる気? 気持ち悪いんだけど」

 そう言われて何かに気づいたように、緑が息を吐き出す。

「そう……だな。なんと言えばいいのかな……」

 しょげた様子の緑に驚く菜々。

「は? なに、私をからかいに来たんじゃないわけ?」

「最初はそのつもりだったが……そんな気分じゃ無くなった」

「……どうしたのよ」

 珍しくうな垂れる緑を心配したのか、それともただの好奇心なのか。腰の痛みも気にせず上半身を起こす。

「その、だな。さっきここに来る途中、死体を見た。……ハーピーに食われて、小さくなった人間の……」

「……」

「今まで死体なんて見た事無かったからな。恥ずかしい事に、トイレで吐いた」

 緑は簡潔に、ポツポツと今あったことを話した。

「それで元気ないのね」

 菜々は納得したような、それでいて何かを探るように平坦なイントネーションのまま口を閉じる。
 すると、案の定別の言葉が出てきた。

「ああ……いや、それだけならいいんだ。私が誰かに話すような事ではない」

「じゃあ何よ」

「無力なんだ」

「は?」

 一体何を……と菜々は続けそうになるが、ふと思いとどまる。
 感じていた違和感はこれか、ははあこいつ実は自分を責めているな……。

「無力……一人じゃ何も出来ない。自分の身さえ守ることも怪しい。だから他人が死んでしまう。もっと強ければあるいは……こんな事無いのかもしれない」

「……」

 一寸、菜々は考えてしまう。緑の言う事は確かだ。自分達が荒獣の大軍をも相手取れるほど強ければ、これほどまでに悲しむ人は多くなくても良いのではないか。

 だが、あまりにも現実的ではない。そんな事を今考えても、何一つ意味ある策も案も出てこないだろう。

 だから菜々は怒った。なぜ出来もしない事で自分を責めるのか分からないからだ。なぜ自分で自分を追い詰めるような真似をするのか理解できなかったからだ。

「一瞬でコアを放出させられるほど強ければ、一人でなんとかできる。でも現実そこまで甘くない。下位の荒獣相手でも複数にかかってこられると手こずる。だからこそ、もっと強くならなければ……人がこれ以上死なないためにも……」

「あのさあ」

 うだうだと考えても仕方ないような話をする緑に、呆れたように菜々が口を挟んだ。

「アンタ、一人も犠牲者出さずに戦争終わらせようとか、そういうお花畑な妄想でもしてるわけ?」

「そ、そんな事は……」

「でもそう言ってるじゃない。強ければ一人で何とかできる? ちゃんちゃらおかしいのよ!」

「……」

 今度は緑が黙る番だった。

「大体ね、そういう事はもっと強くなってから言いなさいよ。夢物語を聞かせられる身にもなりなさいな。全く……」

「す、すまない……」

「もう少し自信を持ちなさい」

 別に怒っているわけではない。少なくとも、直接怒っているようには聞こえないよう務めたはずだ。だから謝らないで欲しい。謝罪なんか望んでない。

 でも少し言い方が悪かったかもしれないと思い直し、菜々はそれまでより一回り優しい声で緑を励ますことにした。

「は……?」

「じーしーん。私達ハンターがいなかったら、今頃人類全滅してるわよ。人類守ってるって考えたら、凄い事なのよ?」

「人類を……守って……」

「そうよ。誰かがやらなきゃいけない事、立派にやり遂げてる。それだけで十分でしょうよ」

「……」

 ショックを受け、何も考えられなくなっていた緑としては目から鱗が落ちるような言葉だった。きっとライバルの菜々が、ハンターとして常日頃感じている誇り。

 語気は強いが優しい言葉に嬉しさがこみ上げてくる。

「全くいつもは図々しいのにこんな時ばっかり。ほんとに……」

「ふふっ、ありがとう」

 気がつけば、自然と笑顔になっていた。

 これまで見てきたような、妖美な笑いや挑発するような笑いではなく、年頃の女の子として見せる笑顔にもう一度驚く菜々。

 同時に、ライバルが初めて見せる朗らかな笑顔にどこか安心もした。

「……アンタ、そんな顔もできるんじゃない」

「ん? ……あ! あああいやそのこれはだな……」

 自分が普通に笑っていることに気づくと、何故か恥ずかしそうに顔を隠そうとする緑。そんな慌てた様子を見て、今度は菜々がクスクスと笑う。

「うふふっ!」

「な、なんだよ……」

「だって、アンタが笑ったり恥ずかしがったりコロコロ表情変えるの面白いじゃないの! あはははは……イタタタタ……」

「お、お前だってベッドに寝ながら腰痛めて……くふふ……」

「「あははははっ!」」

 お互い笑い合っている内になんだかおかしくなってきて、揃って笑い出してしまう。涙を目尻に浮かべながらひとしきり笑うと、緑が病室に入ってきた時と同じように静寂が訪れた。

 ただ、二人共笑っているのが違う。

 暫くして菜々と目が合った緑が、すぐに目を逸らした後その目を泳がせ、気恥しそうに顔を赤らめ「お願い」する。

「菜々……ええと、だな……」

「……な、何よ」

 菜々は菜々で、何を言われるのかされるのかまさかキスでもされるのかと、滑稽な妄想を張り巡らせてドキドキする。

「お前の……アドバイスというか……言葉で元気が出た。まずは礼を言おう……ありがとう」

「なな、なんだそんな事? 良いってことよ」

 一瞬安心したのも束の間、緑の挙動不審な様子が全く変わらない事に気づいてしまう。

「し、しかしだな……やはりまだ、その、少し怖い……」

「あ、ああうんまあ仕方ないわよね。ふふふ、普段見慣れないもの見ちゃったわけだし……」

「そ、そこでだ……いっ、いっ……一緒に、寝ていいか……?」

 色々と想像を巡らせていたにも関わらず、いざ言われるとその程度の事でも驚き、大変気恥ずかしくなる。
 だがここで虚勢を張るのが、菜々という人間なのだ。

「ぶっ! ……べっ、別に良いわよ? いいいい、いっつもああ荒獣相手にはもっとす凄い事してるわけだし……」

「そ、そうか……じゃあ……その……」

 緑は虚勢に気づいているのかいないのか、本当に奈々が寝ているベッドに潜り込んでくる。

(うひやあああああぁぁぁぁぁ……! 何ホントに入ってきてんのよコイツううううう! めちゃくちゃ恥ずかしいわよ! 良いわけ無いでしょ! 少し考えなさいよ! ていうかいい匂いするし! 石けん? 石けんの香りする! ふわぁああああああ! 髪の毛柔らかいいいいい! 肌白いいいいい! 顔近いいいいいいいいいい! そんな困ったような表情しちゃダメええええええっ!)

 キスしそうになるほど顔が近づき、混乱する菜々。だがその期待を裏切り、緑は胸元に顔を埋めた。

「……え?」

「怖い」とでも言うかのように緑は腰に手を回し、抱きしめる力を強める。

(そ、そっか。何かしようっていうんじゃなくて、怖いから甘えたかっただけなのね……ていうか最初からそう言ってたし。どうしちゃったのよ私)

 何とか落ち着きを取り戻した菜々は、今度は母性本能をくすぐられ、右手で頭を撫でながら空いている左手で緑を抱き寄せる。
 疲れていた少女達は、そのまま眠りについた。
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