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ふたなりへの道
33体目 楽の嘆願
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「ですからっ! 人と荒獣を繋ぐ架け橋としての可能性を持ち! 我々に協力的なレモンが! 自ら戦場に出たいと言っているんです!」
緑と菜津美の壮絶な順位争いが終わってから四日(ふたなり化計画が始まってから一週間)が経とうとしていた頃。
コンサートホールのような広い空間に一人の少女がポツンと立っていた。周りはいくつかのスーツと、モニターで埋められている。
少女は後ろで腕を組み少し脚を開いて、ただ一人でいるにも関わらずその固い意思を表すように堂々と立っていた。
少女は言葉を選びながら続けて発言する。
「不安要素が多いのは、分かります。国民感情の半数が、レモンの存在を許さないことも。しかし、共に戦う荒獣を探し出し、協力するという大きな目標を達成する事ができるんです! わざわざチャンスを逃す必要は無いはずです! 我が国が、先んじて実例を作り、モデルとなるべきです!」
「……実利はあるな」
「とは言え、まだまだ分からないことばかりだ」
『分からないから進まない、では何も起こせんぞ』
「だがなあ……下手すると内閣総辞職だぞ」
『リスクが大きすぎる』
『外交カードとしても微妙だしな』
「割に合わない話だ」
熱のこもった発言は幾人かの心に響き、しかし全体の返事は芳しいものでは無かった。
『楽さん、貴女の話は分かりました。ですが、この話は熟考の必要があると、我々は考えています。今後議論の時間を設けますので、少々待っていてもらいたいのです』
モニター越しのまとめ役が意見具申の終わりを告げる。退出を促された楽は何かを言いたそうに口を開いたが、そこから出てきた言葉は唯唯諾諾(いいだくだく)としたものだった。
「分かりました。では、失礼します」
楽は静かに扉を閉め部屋から出ていく。なにも思っていないかのように。だが、自室に戻るまで怒りを抑えておくのは到底無理な話だった。
いきなり廊下に拳と壁がぶつかり合う鈍い金属音が鳴り響き、周りにいた何人かのハンターは皆驚いたように彼女を直視する。しかし彼女は気にすることなく、呟くように毒づいた。
「……くそッ! どいつもこいつも既得権益ばかり考えてるっ! ふざけるなよ!」
柄にもなく乱れた少女は足早にその場を過ぎ去る。何かを急ぐように、何も急げない悔しさを自分にぶつけるように。
寮へと繋がるドアを乱暴に開け、閉めもせず放置する。自室のドアも同じように開け放ち、閉まるのは反動に任せた。
「……」
「お、お帰りなさい……どうかなされました?」
この瞬間ばかりは何も知らないレモンが妬ましく思えてしまう。無垢な瞳で心配そうに見つめる彼女に怒りさえ覚えてしまう。労いや慰めは無いのか。だが安直な言葉など、かえって怒りを増幅させてしまいそうで……。
「楽様? すごく怖い顔をなされてます。言えることなら、このレモンに言ってください」
彼女はいつの間にか近くにいた。額同士を優しく合わせ、ただひたすらに心配だと伝えてくる。それで眉間のシワが取れることは無かったが、怒りは薄れた。
「……さっき、レモンの意思を伝えてきた」
「……! では私も共に戦える……わけじゃ無さそうですね」
レモンは仕方なさそうに苦笑いする。
日々ネットで人間の情報を集める彼女は荒獣に対する怨嗟の声を、毎日毎時毎分毎秒、何度も何十回も何百回も何千回も、悩み呆れ怒り悲しみ、そして終いには受け入れてしまうほど見た。見てしまった。
だから彼女は、実情を知っているハンターや軍人はともかく、大多数の一般的国民に自分が一ミリたりとも受け入れられるはずが無いことを知っているのだ。
だから、いつまでも続く要監視状態にも苦笑いするだけで耐えられる。
だけどそんなの……。
「間違ってる」
「……え?」
「だけど、そんなの間違ってる」
少女は困惑するレモンを思わず押し倒した。
「楽様?」
「だれも損しない。誰もが分かってる。なのに、なんで誰も受け入れようとしないんだ……!」
「……」
「レモン、君はここに来て一度も外に出ていない。ただ悶々としてこの狭い部屋の中にいる。これじゃ僕の部屋はまるで……君を閉じ込める牢獄だ」
「私は構いませんよ、それでも」
「そんなの……」
「楽様」
レモンは楽の頬に手を伸ばす。
「私がお供で付いて行ったとして、凱旋の暁には石を投げられるんです。私を連れて行ったせいで楽様がどう思われるか、それを思ったら私は死にたくなってしまいます。それに私、心が折れてしまうかも知れません。今こうして生きようとしていられるのは、私に好意を寄せてくださっている方のおかげです」
「でも……」
「そう悲観しないでください。どちらにせよ、良しも悪しもあるのですから」
「レモン……ごめんね……」
「良いんですよ、大丈夫です」
人と荒獣。禁断の恋に酔う二人は、慰め合うようにキスを交わす。
裏で最悪の決断がなされようとしている事にも気づかずに……。
緑と菜津美の壮絶な順位争いが終わってから四日(ふたなり化計画が始まってから一週間)が経とうとしていた頃。
コンサートホールのような広い空間に一人の少女がポツンと立っていた。周りはいくつかのスーツと、モニターで埋められている。
少女は後ろで腕を組み少し脚を開いて、ただ一人でいるにも関わらずその固い意思を表すように堂々と立っていた。
少女は言葉を選びながら続けて発言する。
「不安要素が多いのは、分かります。国民感情の半数が、レモンの存在を許さないことも。しかし、共に戦う荒獣を探し出し、協力するという大きな目標を達成する事ができるんです! わざわざチャンスを逃す必要は無いはずです! 我が国が、先んじて実例を作り、モデルとなるべきです!」
「……実利はあるな」
「とは言え、まだまだ分からないことばかりだ」
『分からないから進まない、では何も起こせんぞ』
「だがなあ……下手すると内閣総辞職だぞ」
『リスクが大きすぎる』
『外交カードとしても微妙だしな』
「割に合わない話だ」
熱のこもった発言は幾人かの心に響き、しかし全体の返事は芳しいものでは無かった。
『楽さん、貴女の話は分かりました。ですが、この話は熟考の必要があると、我々は考えています。今後議論の時間を設けますので、少々待っていてもらいたいのです』
モニター越しのまとめ役が意見具申の終わりを告げる。退出を促された楽は何かを言いたそうに口を開いたが、そこから出てきた言葉は唯唯諾諾(いいだくだく)としたものだった。
「分かりました。では、失礼します」
楽は静かに扉を閉め部屋から出ていく。なにも思っていないかのように。だが、自室に戻るまで怒りを抑えておくのは到底無理な話だった。
いきなり廊下に拳と壁がぶつかり合う鈍い金属音が鳴り響き、周りにいた何人かのハンターは皆驚いたように彼女を直視する。しかし彼女は気にすることなく、呟くように毒づいた。
「……くそッ! どいつもこいつも既得権益ばかり考えてるっ! ふざけるなよ!」
柄にもなく乱れた少女は足早にその場を過ぎ去る。何かを急ぐように、何も急げない悔しさを自分にぶつけるように。
寮へと繋がるドアを乱暴に開け、閉めもせず放置する。自室のドアも同じように開け放ち、閉まるのは反動に任せた。
「……」
「お、お帰りなさい……どうかなされました?」
この瞬間ばかりは何も知らないレモンが妬ましく思えてしまう。無垢な瞳で心配そうに見つめる彼女に怒りさえ覚えてしまう。労いや慰めは無いのか。だが安直な言葉など、かえって怒りを増幅させてしまいそうで……。
「楽様? すごく怖い顔をなされてます。言えることなら、このレモンに言ってください」
彼女はいつの間にか近くにいた。額同士を優しく合わせ、ただひたすらに心配だと伝えてくる。それで眉間のシワが取れることは無かったが、怒りは薄れた。
「……さっき、レモンの意思を伝えてきた」
「……! では私も共に戦える……わけじゃ無さそうですね」
レモンは仕方なさそうに苦笑いする。
日々ネットで人間の情報を集める彼女は荒獣に対する怨嗟の声を、毎日毎時毎分毎秒、何度も何十回も何百回も何千回も、悩み呆れ怒り悲しみ、そして終いには受け入れてしまうほど見た。見てしまった。
だから彼女は、実情を知っているハンターや軍人はともかく、大多数の一般的国民に自分が一ミリたりとも受け入れられるはずが無いことを知っているのだ。
だから、いつまでも続く要監視状態にも苦笑いするだけで耐えられる。
だけどそんなの……。
「間違ってる」
「……え?」
「だけど、そんなの間違ってる」
少女は困惑するレモンを思わず押し倒した。
「楽様?」
「だれも損しない。誰もが分かってる。なのに、なんで誰も受け入れようとしないんだ……!」
「……」
「レモン、君はここに来て一度も外に出ていない。ただ悶々としてこの狭い部屋の中にいる。これじゃ僕の部屋はまるで……君を閉じ込める牢獄だ」
「私は構いませんよ、それでも」
「そんなの……」
「楽様」
レモンは楽の頬に手を伸ばす。
「私がお供で付いて行ったとして、凱旋の暁には石を投げられるんです。私を連れて行ったせいで楽様がどう思われるか、それを思ったら私は死にたくなってしまいます。それに私、心が折れてしまうかも知れません。今こうして生きようとしていられるのは、私に好意を寄せてくださっている方のおかげです」
「でも……」
「そう悲観しないでください。どちらにせよ、良しも悪しもあるのですから」
「レモン……ごめんね……」
「良いんですよ、大丈夫です」
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