ランブルビースト ~獣が強くて人類滅亡の危機なのでビッチがセックスで戦います~【東京編】

扶桑のイーグル

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冷たくてねばねばするもの

65体目 会敵したらスライムだった件

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 旧東京の上空をUH-60ブラックホークがフライパスしていく。曇り空に突風が吹き、機体が僅かに揺れた。

 そんな拍子にハラリと落ちた白い綿毛に気づく者などいるはずもない。
 綿毛は不安定な風に煽られ落ちて行く。ヘリの吹き降ろす風に揉みくちゃにされ、山風に吹かれ、ビル風に運ばれ、最後はビルの隙間に出来た水たまりのような池の水面へ波紋も立てないほど柔らかに着水した。
 暫く漂うに任せていた綿毛だが、吸水するにつれ一本、二本と毛を伸ばす。池の底へ向けて、池の淵へ向けて、徐々に徐々にゆっくりと。

 植物の成長をハイスピードカメラで見ているかのような速度で急成長していく。
「根」を下と横にしっかり張り終えると、次に木質化を始めた。白くて柔らかかった綿毛が茶色く硬く変化していく。

 池の水を全て吸い、切り株のような形へ変貌した木の中心には、綿毛の上半分だけが姿を変えずそよ風に揺られていた。



 埃を掻き分けるような歩みで建物の中を進む三つの影。アサルトライフルを構え素早く捜索を進めていく。時折、割れた床材を蹴ってカラカラと音が鳴る以外は静かなものだ。
 建物の中は陽の光が差し込み、灯りが無くとも十分な光度が確保されている。

 不意に先頭の兵士が手を上げ、動きを止めた。

「……水だ」

 どこから漏れてきたのだろうか、廊下に水たまりができている。踏んだところから波紋がどこまでも広がっていき、見えなくなった。

 水たまり程度でビクビクしていても仕方がないので、歩みを再開する。
 ピチャリ、ピチャリと音が立ち、長い間音を失っていた廊下に木霊する。

「……」

 進むほどに水漏れは酷くなっていく。まるで浸水したかのような有様だ。

「こっちだ」

 横道に逸れる。どうやらこの先で水が漏れているようだ。先は暗く、兵士は手持ちのライトを点灯させた。

「……?」

 壁がテカテカと光っている。天井も、扉も全体が満遍なく濡れていた。
 コケだろうか。

「粘り気があるな」

「水に何かが溶けだしているのでしょうか……」

「だとしても……」

 不可解な水に歩みを止めたその時、廊下が僅かに暗くなる。

「ん?」

「暗くなった……」

「太陽の角度が変わったのか? まあいい、奥へ行こう」

 兵士達は行進を再開する。
 次第に水位は増し、粘り気がある事も歩き辛くなる要因になった。

 また、光が遮られる。

「暗いな」

「変な音がしませんでした?」

「やめろよ……」

「待て」

 隊長と見られる男が手を上げて静寂を保つようアイコンタクトを取る。
 ピチョン、ピチョンと水の滴る音が奥から聞こえる以外は何も聞こえない。

「大丈夫みたいだ……」

 隊長が他の二人を見ようと後ろを振り返った瞬間だった。

 今さっき通ってきた廊下の天井から水が流れ落ちる。僅かに「グジュ……」という粘った音を立てて下へ落ち、だが落ち切ることはなく透明な膜を形成した。同時に一段と暗さが増す。
「水」は、見られたことに気づき、四枚目五枚目六枚目七枚目……粘膜の壁を次々と作り始めた。

「に、逃げろおぉぉぉ!」

 兵士たちは全力で走り出す。出口へと疾走するが、壁はその数と厚みを増していた。
 最後の壁は分厚く、常人では破る事叶わないだろう。

 彼らは「水」に閉じ込められ、消化される運命にあった……。

「僧帽殴れ!」

「ガッテン承知ぃ! 筋肉は全てのアンサーとなる……騎士のゴットフリード鉄腕アストロ!」

 しかし彼らは空挺団であった。

 コンクリートを殴り割ったような音を立てて粘性液体の壁をぶち破り、楽々と撤退路を確保する。

「いいぞ僧帽! カッコよかったぞ!」

「これむっちゃ恥ずいんすけど! 一々技名つける必要あります!?」

「……良いんじゃないか?」

「やれって言い出したの隊長ですからね!? お前らやれよ! お前らやれよ!? みーんなーでやーればこーわくなーい!」

「騒いでる暇はねえらしいぞ!」

 廊下を爆走しているにも関わらず「水」に先回りされてしまう。前も後ろも意識を持った「水」で封じられてしまった。

 今度こそ万事休すか。いや、まだ道はある。凡人には許されぬ一つの道が。

「飛べ。……自由落下フリーフォール

「了解!」

「了解」

 進行方向を変え硬い硝子に飛び込んでいく。劣化していたそれは派手な音を立てて飛び散り、三人の身体は空中に放り出された。
 地上五階。死を免れぬ高さから重力に任せ落ちて行く。

 だと言うのに、彼らの表情は、姿勢は、無邪気に遊ぶ少年と同じだった。

 鈍く大きな音を立てて三つの身体が黒い地面に叩きつけられる。
 数秒間彼らは死んだように動かなかったが、タイミングを合わせて飛び起きた。

軽装甲機動車ラヴに乗れ! あのスライムから逃げるぞ!」

 背の高いジープのような装甲車に乗り込み、急発進をかます。一瞬遅れて彼らのいた場所にスライムが滝の如く降り注いだ。
 スライムは何をどう感知しているのか、大慌てで逃げる彼らを追いかけ始めた。

「こちら空挺。目標のビルで荒獣……スライムを発見、襲われている」

『了解。こちらでも確認した。攻撃し、撃退してくれ』

 刀也が運転しながら無線機を手に取りHQに報告する。上空の無人機が彼らと追いかけるスライムにカメラを合わせた。

「了解……隼、5.56mm機関銃ミニミを撃て」

「了解、撃ちます」

 隼が天井のターレットに備え付けられたミニミ軽機関銃を、吹き付ける風の中正確に、スライムに向けて乱射する。箱のような見た目とは裏腹にトトトトッ……と存外軽い音だが、5.56mm弾の破壊力は確かであった。
 スライムの先端へと向かって放たれる銃弾はアスファルトを割り、スライムの体をちぎる。

 だが。

「効いてない!」

 隼が叫ぶ。スライムは自身の体を少し引きちぎられた程度では怯みもしなかった。

84mm無反動砲ハチヨンを使え! 僧帽、牽制しながら渡してやれ」

 スライムはどういう原理か恐ろしい速度で迫ってくる。刀也が操る軽装甲機動車は街角の交差点を高速で曲がったのにも関わらず、差を詰めてきた。

「AST、遅発」

「了解」

 市街地戦向けの弾が入ったものを選び、信管を設定してから隼に渡す。隼は、一見ただの太い筒に見える武器を構え、若干上に照準を定め、撃った。
 鈍い破裂音が、コンクリートバンカーすらも撃ち砕くという大口径砲弾を送り出す。
 砲弾はスライムの中、奥深くまで突き刺さってから爆発力を開放した。

 粘性体に囲まれていた事によって何重にも増幅された破壊がスライムの大部分を吹き飛ばす。爆轟により全身が泡で白く染まった後、巨大な間欠泉のように上空まで飛び散る。
 動きを止めたスライムの周りに、雨のように破片が降り注いだ。

「ハチヨンを撃ち込みスライムの足止めに成功。中位種と判断、ハンターの支援を請う」

『HQ了解、確認。ハンターは準備中』

 見事荒獣の足止めに成功した彼らは時速100kmで逃げおおせた。
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