ランブルビースト ~獣が強くて人類滅亡の危機なのでビッチがセックスで戦います~【東京編】

扶桑のイーグル

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冷たくてねばねばするもの

74体目 暴走5

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 机の上に乗った物が大きな音を立てて跳ねる。
 激怒した士官が拳で机を叩いたのだ。

「くそがっ!」

 レモンを排除する事ができず、従って楽しみも失われた。士官は走り去る軽装甲機動車を映す画面を睨みつける。

「なぜだっ! なぜ死なない!」

 スライムの後に投入した荒獣の大軍は、防衛部隊と榴弾砲の攻撃で壊滅、辿り着いた三体も結果的には返り討ち。奇跡的に襲ってきたアラクネは切られ、その再生中に逃げられた。

 おかしい。何かがおかしい。

「……期待外れか」

「あーあ残念……これじゃあ楽しめないね、大・尉・さ・ん」

 呆れたような声が後ろから刺してくる。

「ま、待った! まだ手はある! そ、そうだ……いくらでも貶める事はできるのだ……!」

 太った士官は次の一手を打ち出すため、固定電話のキーを押し出した。




 二台の車が門を潜って皇都に入ってくる。凱旋だ。後は普段通りに基地へと帰ればいいだけ。そう思っていた。
 しかし、いつもと雰囲気が違う。門の周りを半円を描くような形で観衆が取り囲んでいた。

「お? 何なに?」

 菜々が外をよく見ようと身体を起こす。祭り……では無さそうだ。

「人がこんなに……なんでしょう」

 レモンも不思議そうに辺りを見渡す。

 そのうち、兵士が横から歩いてきて全ての観衆から見える位置に置かれた壇の近くへと車を誘導され、降りるよう指示を受ける。

 鈴谷と楽の二人は基地へ運ばれたが、菜々とレモン、八雲と空挺三人衆はその場で待機するように言われた。
 用意が終わると壇上に太った男が上がり、マイクを手にする。

「今日は皆様お集まりいただき、ありがとうございます。今回、我々はスライム型の荒獣と接触し、見事これを撃退することに成功しました! まずは勇気ある兵士と少女に拍手を!」

 群衆が一斉に拍手し、鼓膜が破れそうなほどの歓声に包まれる。荒獣を倒したという話は、荒獣に怨みを持つ国民にとってこれ以上なく美味い話なのである。
 普段は何も言わずに戻るため、このように歓迎されることは無いのだが……。

 男は下位荒獣の大群が押し寄せた話や、アラクネの足止めなどを感嘆を含んだ物言いで感情的に語ってゆく。

 だが一通り話し終えると、今度は一転悲しそうな口調でレモンを非難し始めた。最初は不慮の事故のように……。

「しかし、この戦いで一つ残念な事が……レモン、と言ったかね」

「!?」

 男の声が冷たく豹変した事と、兵士の一人に背中を強引に押され、壇上へと押しやられた事にレモンは動揺を隠しきれない。

「この荒獣は、自らが倒れたあと医療的措置を受けて立ち上がった。しかし、その後あろう事か皇都で四本の指に入るハンター、佐伯楽を襲ったのだ! これまで我々はこのカムカムを仲間として信じようと努力してきたが、その全てが無駄となった! ……事故の側面はあるでしょう。精神が不安定だったのかもしれない。しかし! 精神が安定していないからといって人間を、しかも自分の主人となる人間を襲うような生き物を我々の元に置いておけるでしょうか!」

「ちょっと!? 貴方、今すぐその言葉を取り消しなさい! ふざけてると……」

 菜々が酷い物言いに抗議しようとすると、側の兵士が銃を突きつけて行動を止めた。

「なっ……嵌めたわね……」

 気づいた時にはもう遅い。

 本来いるはずのない観衆、ご丁寧に用意された壇上、取り仕切る兵士。全て疑うべきだったのだ。

 太った大尉は一瞬だけニヤリと笑うと、言葉を続ける。

「こんな野蛮な生き物を、まだ仲間だと言い続けられるのか!? 私はそう思いません! しかし情が移ったのか彼女達はこの荒獣を匿おうとしているのです! 残念だ、私とて、強引に引き離す事はできない。……ですから、皆さんにこの荒獣を追い出していただこうと思っています。さあ、今配られているものを……手に持った石を、皆さんの意志として、ぶつけていただきたい。これが今すぐ我々の元から出ていきたくなるように」

 演説を終えた大尉はマイクを持っていそいそと壇上から降り、菜々達も壇から離された。

 鈍色の処刑台の上に残ったのはレモンと二人の兵士のみ。兵士達は青い顔をして小刻みに震えるレモンの脚に一発ずつ拳銃弾を撃ち込んだ。

「ぃっ……あああああああ゛あ゛あ゛ーーーーー!」

 激痛が波動のように全身を駆け巡り、脚から力が消える。レモンは鉄板に顔を打ち付け、脂汗をかいて痛みに震える。

 そうして動けなくしてから、兵士も壇上を離れた。

「あいつらっ……! くそっ! 離しなさいよ! あんたら全員許さない!」

 菜々の金切り声をマイクで増幅された声が完全に遮る。

「さあ、早く! 荒獣は傷など再生して直してしまいます! 石を投げ、痛みを与え、動きを止めるのです!」

 群衆は強引な誘導に戸惑う。そこまでする必要があるのか、こんなことしていいのか、よく分からない。
 だが、急かされているし怨みもある。更に……数人が躊躇無く投げ始めた。皆投げている。ああ、投げていいんだ。

 サクラが石を投げると、集団心理で投げる人数が急速に増えていく。
 四方八方から弱ったレモンに向かって様々な大きさの小石が降ってくるという状況になるまで、そう時間はかからなかった。

「ふ、ふざけんなー!」

「このクソ!」

「死んじまえ!」

「荒獣はんたーい!」

 最早サクラがいなくても、群衆は各々に攻撃を始める。石に罵倒が加わり、大尉の音頭が無くても菜々の声は掻き消された。

 最初はどこか怖々と投げられていた石も、今や力の限り投げられレモンの身体をアザだらけにしていく。

 群衆は、一瞬で騙されてしまった。まずありえない話を、鵜呑みにした。
 客観的に見ていて、おかしいと言える人が少しでもいたら、結果は違っていたかもしれない。

 群衆は石だけでは飽き足らず、直接レモンに手をかけようと壇上に殺到した。簡素な金属台が深紅に染まろうとしている。

 大尉の顔が愉悦に歪んだ。

 バンッ! 

 群衆がレモンに到達する直前、大きな音がその場の人間全員の気を引いた。

 ビルの上に取り付けられた巨大な広告用の液晶モニターに映像が流れる。内容に規則性は無く、本当に広告が流れているようだ。
 合わせて、静まり返った群衆の中をコツコツと靴音をたなびかせ、その男は登場した。

「あ、あいついつの間にあんな所に……」

「……あ、八雲さん?」

「なっ……馬鹿な! 俺は今ここでやつを監視していて……!?」

 全員の目がレモンにいった隙をついて拘束を難なく抜け出したようだ。液晶モニターをジャックした八雲はどこからともなくマイクを取り出し、壇上へと立った。

「非常に……不愉快だ。レモンくんが暴走したのは、僕の人工コアのせいだが……それで精神が不安定になったという説明は大きな誤謬だ! 正確には自我の一時的な停止によりエスと超自我が表出し、競合の結果エスが行動を司ったというだけで、精神が不安定になったのは一瞬、それ以外は一貫して安定している! 軽々しく精神が不安定、などという言葉を使わないでほしいものだね!」

「………………」

 八雲は、レモンを擁護するでもなければいかに活躍したかを語るわけでもなく、単に自分の研究結果に対する間違った評価を正しただけだった。

 専門用語付きの反論に誰も、何も言えない。というか
 何を言っているのかよく分からないのだろう。怪訝な顔をして、八雲を凝視している。

 反論が無いことに満足した八雲は、自慢げに鼻を鳴らすと再生を始めたレモンを起き上がらせた。

「後、レモンくんには僕が作った人工コアが埋め込まれている。これの持続的観察と研究にレモンくんは必要だ。乱暴に扱わないでくれるかな。特に、暴行を加えるのは今すぐやめてほしい」

 八雲は意味のわからない言葉と独特の雰囲気と、奇抜な演出で群衆を一瞬にして冷ましてしまった。レモンに殺到していた群衆は戸惑うように引き下がる。

「み、皆さん! 何をしているのですか! その男は意味の分からない事を言って騙そうとしているだけ……」

「意味が分からないだと!? 一から説明しないと! キミは! 単語の意味すら理解できないのか!? 常識が欠けている!」

 士官がもう一度群衆を焚きつけようとするが、これまた八雲の地雷を踏んだようで大声で散々に言われ、その剣幕に押される。
 その爆音に紛れて、常識が欠けてるのはおめーだよ、と菜々がボソッと聴こえないように呟いた。

 ただその顔は薄く笑っている。八雲が、偶然か故意かは分からないが上手く立ち回ってくれたおかげでレモンの対抗勢力を邪魔できている。
 してやったりだ。

「ふぅー……まあいい。この程度も分からない低脳に教室を開いている余裕は無いんだ。最後に僕が見せたいのはこれだけ。僕の人工コアが見事レモンくんの精神状態を、自我を保たせた上でコントロールできているところだ」

 八雲はスマートフォンを液晶モニターに向け、再生ボタンを押した。

『あ、アラクネ……』

『ぅ……れ、レモン……』

 アラクネが現れた辺りから映像が始まる。いつの間に撮っていたのか。

『菜々さん!? 意識が戻ったんですか!?』

『……あんたは……逃げなさい……楽を連れて……』

『逃げたら菜々さん達が……!』

『私達は……放っておいても……大丈夫よ……』

『っ! い、嫌です!』

『駄目……逃げて……』

『嫌だ! 私は……誰も失いたくない!』

『だめ……レモン!』

『菜々さん、回復したら逃げてください』

『……なんの冗談』

『逃げて、ください』

『……英雄気取りは……やめなさいよ』

『でも……誰かが犠牲にならなきゃ無理ですよね』

『……わたしはっ! ねえっ! 自己犠牲って言うのが! いっっっちばん嫌いなのよっ! …………英雄は私一人で十分よ』

『ん……ぶふっ!』

『何笑ってんのよ』

『いや……随分ボロボロの英雄だなあって』

『はー? 喧嘩売ってる? 私はピンピンしてるわよ。帰ったらお仕置きね』

『帰ったら、ですか……』

『そういう顔しない』

『こういう時こそ笑顔よ笑顔』

 映像は、わざと笑顔を作ってみせる菜々と、仕方なさそうに苦笑するレモンの横顔で終わった。

 その瞬間、甲高いエンジン音とタイヤの奏でるスキール音が鳴り響く。
 八雲がレモンを車に乗せて猛加速で離脱するところだった。S660は群衆の薄い箇所を通り抜け、どこかに去っていく。

 後には唖然と口を開ける大尉に、真っ赤になって顔を両手で隠し「ぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺す……」と何度も唱える菜々、それらを見て笑いを必死に堪える三人衆、呆然とするか冷静に帰り支度を始める群衆が残された。
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