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第3章 蜜月
33 閨事
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浅葉の手は魔法そのものだった。胸の間を這い、斜面をそっと滑ると、千尋がその膨らみの先端への刺激を好まないことを早くも悟ったかのように、色の境目を優しく絞った。
その掌は千尋の体をくまなく愛でる。千尋は今まで、これほど丹念にその身に触れられたこともなければ、まさか自分がこれほどの快楽を見出すなどと想像したこともない。浅葉に未知の領域を次々と開拓されてゆくことが、己の生の目的であるかのように感じられた。千尋はいつの間にか全てを忘れ、文字通り身を任せていた。
浅葉がふと上体を起こし、布団の下に素早く手を入れたかと思うと、間もなくピリッというプラスチック音が耳に入る。いつの間にそんなところへ忍ばせていたのだろう。浅葉は布団に手をついたまま、残った片手と歯で難なくそれを開封していた。
そんな大事なことすら忘れていた自分に、千尋は驚愕した。
(飲み過ぎた……?)
いや、そんなはずはない。両親揃って酒豪の家系だ。この程度で酔っ払う千尋ではなかった。何か他のものに激しく揺さぶられ、我を忘れていたとしか思えない。
今や二ヶ月近く前、あの部屋で拳銃をホルスターに収めていた浅葉の長い指。それが今、千尋の下腹を伝ってなだらかな丘を温め、その先の闇へと慎重に分け入ってこようとしている。信じ難いその事実を認めるだけで、千尋は達してしまいそうだった。
浅葉の手が千尋の両膝を立てた。雄々しい肩がそれを割り、太腿の内側を滑り下りた左手が辿り着いたビロードの扇をそっと覆う。谷の縁に細やかな指が触れると、ほとばしるような愛情がそれを伝って届き、千尋はふっと目を閉じた。
こんなに愛されたことがかつてあっただろうか。湧き上がる悦びにただ酔いしれた。中央に触れられることを初めて待ち焦がれた。それがついに叶うと、叫びたいような衝動に駆られて身をよじった。宙を漂うような感覚が心もとなく思われ、シーツを握り締める。
もう堪えられないと思ったその時、体の内側に浅葉の手を感じた。あっと声を漏らしたその口が再び手厚く愛される。自分の喉と腹筋が悶えるのに、ただ耳を澄ました。荒くなった息が解放されると、そこに小さな音色が混じった。忘我のうちに漏れ聞こえる自分の声が、ごく自然なもののように感じられた。これこそが私の本当の呼吸なのではないか……。
中央に雄の先端を感じた時、二人の目が合った。互いの速度を追うようにゆっくりと瞼を狭める。
新たな侵入者を感じてはっと目を見開くと、浅葉が首を垂れていた。その喉が微かに鳴り、あばらが大きく一度膨らむと、それが狭まるにつれ、揺れる息が一つこぼれた。きつく縮んだ胸が千尋のものと重なり、その上でじわりと融けた。何者かによって隔てられ、互いに恋い焦がれて叫び続けていたものが、長い時を経て再び一つになったかのように。
浅葉は千尋の顎を噛んだ。その隙間から歯痒そうな息が漏れる。そっと小さく一つ腰を煽ると、眠りから覚めたように闇の中を探り始めた。好奇心旺盛な生き物が千尋の奥深くを熱心に漁っては、息を継ぐように表へ出て甘えた。
時折思い出したように突き上げながら、こんなにこちらの反応を窺っている男を千尋は初めて見る。そもそも決して豊富とは言えない恋愛経験の中にあまりいい思い出はなく、これまで男というものには失望するばかりだった。ただ、もしまたそんな扱いを受けることになったとしても、浅葉となら一緒にいたいと思えたのだ。こんなに大事にされることなど思いもよらなかった。
浅葉はまるで千尋の奥底を知り尽くしているようだった。一度外に出て千尋の右奥を手で確かめると、再び入り直して小刻みに突く。全身を麻痺させるかのような快感のツボだった。自分の体にそんな場所があったことも千尋自身知らなかった。
こらえ切れずとうとう高らかに喘ぐ。さすがに隣室を気にしたのか、その咆哮を浅葉は自分の口で塞ぎながら、その実満更でもない様子。そんないつもの理性の傍らに、隠しようのない野生が漲っていた。どこまでも冷静な浅葉が我を失うことなく、だが遠慮なくまっすぐに向かってくる。究極の男の色気に千尋は圧倒された。
長いこと、すれすれのところを彷徨った。このままいつまでも愛されていたいという欲求と、もう許してという思い、そして今登りかけている山の向こう側を見てみたい気持ちとが入り混じった。浅葉は根気も体力も失う気配がなく、まずじっくりと千尋を仕上げると心に決めているらしい。
千尋のもどかしさが声になってうねるのを聞くと、浅葉は外側から加勢した。その手が粘り強く探り続けるうちに、外からの刺激と、芯を突く躍動との波長が重なった。千尋が体の奥深くの激しい収縮を感じたその時、浅葉が歯を食いしばり、その間から鋭い摩擦音が漏れた。
千尋はそのまま押し流されそうになり、反射的に浅葉の肩にしがみ付いて前兆に逆らった。その瞬間を誰かに目撃されたことなど未だかつてなく、この期に及んで若干の躊躇が湧く。しかし二度目に訪れた波には抵抗しきれず、全てを委ねてその時を待った。
やがて、味わったことのない極みの感覚が全身を駆け抜けた。自己の抑制の及ばぬところで上体が弓なりに引きつる。荒い痙攣が襲い、その余波に何度も煽られた。
もう死んでもいい。一瞬、そんな非現実的な発想が千尋の脳裏をよぎる。
再び地に足が付いた時、乾いた唇をようやく舐めることができた。感情のない動物的な涙が目尻に溜まっていた。
千尋が頂に届くのを見守りながら、浅葉も密かに果てていたらしい。折り重なったまま、汗が引くのを二人でただ静かに待った。
千尋の意識がようやく現実に戻ってきた頃、浅葉が自分の体の下から千尋を解放しながら、しみじみと言う。
「最っ高」
(え……?)
これほど面と向かって褒められるとあまりに照れ臭く、何と返事してよいのかわからなかった。浅葉は片腕を伸ばして千尋の腹を抱き、
「もっとしたくなっちゃうな」
と囁く。生まれて初めてそんなことを言われて、千尋は内心くすぐったいような気分だったが、今「もっと」はどう考えても無理だった。
「ちょっと体力が、ね」
と首の汗を拭い、はにかんだ笑みを手で隠した。自分の方こそ「感想」を伝えた方がいいかしら、と思いつつも、そんなことを話題にする勇気が出ない。
その掌は千尋の体をくまなく愛でる。千尋は今まで、これほど丹念にその身に触れられたこともなければ、まさか自分がこれほどの快楽を見出すなどと想像したこともない。浅葉に未知の領域を次々と開拓されてゆくことが、己の生の目的であるかのように感じられた。千尋はいつの間にか全てを忘れ、文字通り身を任せていた。
浅葉がふと上体を起こし、布団の下に素早く手を入れたかと思うと、間もなくピリッというプラスチック音が耳に入る。いつの間にそんなところへ忍ばせていたのだろう。浅葉は布団に手をついたまま、残った片手と歯で難なくそれを開封していた。
そんな大事なことすら忘れていた自分に、千尋は驚愕した。
(飲み過ぎた……?)
いや、そんなはずはない。両親揃って酒豪の家系だ。この程度で酔っ払う千尋ではなかった。何か他のものに激しく揺さぶられ、我を忘れていたとしか思えない。
今や二ヶ月近く前、あの部屋で拳銃をホルスターに収めていた浅葉の長い指。それが今、千尋の下腹を伝ってなだらかな丘を温め、その先の闇へと慎重に分け入ってこようとしている。信じ難いその事実を認めるだけで、千尋は達してしまいそうだった。
浅葉の手が千尋の両膝を立てた。雄々しい肩がそれを割り、太腿の内側を滑り下りた左手が辿り着いたビロードの扇をそっと覆う。谷の縁に細やかな指が触れると、ほとばしるような愛情がそれを伝って届き、千尋はふっと目を閉じた。
こんなに愛されたことがかつてあっただろうか。湧き上がる悦びにただ酔いしれた。中央に触れられることを初めて待ち焦がれた。それがついに叶うと、叫びたいような衝動に駆られて身をよじった。宙を漂うような感覚が心もとなく思われ、シーツを握り締める。
もう堪えられないと思ったその時、体の内側に浅葉の手を感じた。あっと声を漏らしたその口が再び手厚く愛される。自分の喉と腹筋が悶えるのに、ただ耳を澄ました。荒くなった息が解放されると、そこに小さな音色が混じった。忘我のうちに漏れ聞こえる自分の声が、ごく自然なもののように感じられた。これこそが私の本当の呼吸なのではないか……。
中央に雄の先端を感じた時、二人の目が合った。互いの速度を追うようにゆっくりと瞼を狭める。
新たな侵入者を感じてはっと目を見開くと、浅葉が首を垂れていた。その喉が微かに鳴り、あばらが大きく一度膨らむと、それが狭まるにつれ、揺れる息が一つこぼれた。きつく縮んだ胸が千尋のものと重なり、その上でじわりと融けた。何者かによって隔てられ、互いに恋い焦がれて叫び続けていたものが、長い時を経て再び一つになったかのように。
浅葉は千尋の顎を噛んだ。その隙間から歯痒そうな息が漏れる。そっと小さく一つ腰を煽ると、眠りから覚めたように闇の中を探り始めた。好奇心旺盛な生き物が千尋の奥深くを熱心に漁っては、息を継ぐように表へ出て甘えた。
時折思い出したように突き上げながら、こんなにこちらの反応を窺っている男を千尋は初めて見る。そもそも決して豊富とは言えない恋愛経験の中にあまりいい思い出はなく、これまで男というものには失望するばかりだった。ただ、もしまたそんな扱いを受けることになったとしても、浅葉となら一緒にいたいと思えたのだ。こんなに大事にされることなど思いもよらなかった。
浅葉はまるで千尋の奥底を知り尽くしているようだった。一度外に出て千尋の右奥を手で確かめると、再び入り直して小刻みに突く。全身を麻痺させるかのような快感のツボだった。自分の体にそんな場所があったことも千尋自身知らなかった。
こらえ切れずとうとう高らかに喘ぐ。さすがに隣室を気にしたのか、その咆哮を浅葉は自分の口で塞ぎながら、その実満更でもない様子。そんないつもの理性の傍らに、隠しようのない野生が漲っていた。どこまでも冷静な浅葉が我を失うことなく、だが遠慮なくまっすぐに向かってくる。究極の男の色気に千尋は圧倒された。
長いこと、すれすれのところを彷徨った。このままいつまでも愛されていたいという欲求と、もう許してという思い、そして今登りかけている山の向こう側を見てみたい気持ちとが入り混じった。浅葉は根気も体力も失う気配がなく、まずじっくりと千尋を仕上げると心に決めているらしい。
千尋のもどかしさが声になってうねるのを聞くと、浅葉は外側から加勢した。その手が粘り強く探り続けるうちに、外からの刺激と、芯を突く躍動との波長が重なった。千尋が体の奥深くの激しい収縮を感じたその時、浅葉が歯を食いしばり、その間から鋭い摩擦音が漏れた。
千尋はそのまま押し流されそうになり、反射的に浅葉の肩にしがみ付いて前兆に逆らった。その瞬間を誰かに目撃されたことなど未だかつてなく、この期に及んで若干の躊躇が湧く。しかし二度目に訪れた波には抵抗しきれず、全てを委ねてその時を待った。
やがて、味わったことのない極みの感覚が全身を駆け抜けた。自己の抑制の及ばぬところで上体が弓なりに引きつる。荒い痙攣が襲い、その余波に何度も煽られた。
もう死んでもいい。一瞬、そんな非現実的な発想が千尋の脳裏をよぎる。
再び地に足が付いた時、乾いた唇をようやく舐めることができた。感情のない動物的な涙が目尻に溜まっていた。
千尋が頂に届くのを見守りながら、浅葉も密かに果てていたらしい。折り重なったまま、汗が引くのを二人でただ静かに待った。
千尋の意識がようやく現実に戻ってきた頃、浅葉が自分の体の下から千尋を解放しながら、しみじみと言う。
「最っ高」
(え……?)
これほど面と向かって褒められるとあまりに照れ臭く、何と返事してよいのかわからなかった。浅葉は片腕を伸ばして千尋の腹を抱き、
「もっとしたくなっちゃうな」
と囁く。生まれて初めてそんなことを言われて、千尋は内心くすぐったいような気分だったが、今「もっと」はどう考えても無理だった。
「ちょっと体力が、ね」
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