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第1章 弟子入り
11.1 どこまで
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「ところでお前、他もあたってんのか?」
「あ、はい、他の処理士の方も訪ねてはいるんですけど、なかなか取り合ってもらえなくて」
「そりゃそうだろう。無資格で助手にしろってのは相当図々しい話だからな」
いや、むしろそんな議論にすら至っていない。「女が進むべき道じゃない」、「どうせ続きやしない」、「まさか本気じゃないだろう」……。彼らは一希が資格を取って出直しても同じ反応を返すに違いない。
そういえば、新藤からも最初は門前払いに等しい扱いを受けたが、それは一希の性別が理由ではなかった。一希が女であることを問題にしなかったのは新藤と、そしてもう一人。
「実は、もう一人だけ好感触というか、まともに相手してくださった奇特な方がいて……今は役に立てないけど、実習の段階になったらまたおいでって」
「ほう」
「それと、試験に受かったら、現場を見学したり補助の仕事が取れるように軍の方にもかけ合ってくださるって」
「そんなに喜ぶことか? 補助士になった後の見学なら、よっぽど素行が悪くなきゃ断られる方が珍しいぞ。ま、俺は少しでも気に入らん奴は資格が何であれいくらでも断るがな」
少なくとも新藤さんタイプの人ではなかったです、終始にこやかで……と付け加えようかと思ったが、機嫌を損ねてはまずいと踏みとどまった。
「質問とかよもやま話でいいならいつでも電話くれって。しかも奥さんがまたいい人で、お夕飯までご馳走になっちゃって。それがまたどれもこれも珍しいやらおいしいやらで」
「腹ボテの奥さんか?」
新藤の眉が上がる。しまった。名指しするつもりではなかったのに、しゃべりすぎた。新藤がいかにも納得といった顔になる。
「檜垣稔か。そりゃこの上ない好感触だったろう。あいつの紳士っぷりは有名だからな」
「バレちゃいましたね、すみません。檜垣さんの紳士ぶりをお伝えしたかったわけじゃないんですけど、話を聞いてくださる方自体が本当に貴重なので、つい嬉しくて……」
「奥さん元気そうか? そういやしばらく会ってないな。そろそろ予定日近いんじゃないか?」
「早ければ来週中には生まれるそうですよ。そっかあ、奥様とも交流あるんですね、やっぱり。檜垣さんといったら、新藤さんと一二を争う超一流処理士ですもんね」
「お前も一応、この世界の勢力図ぐらいはわかってるみたいだな。しかし、そんな好感触の檜垣様でも、無資格でうろちょろされたところで何も与えてやれないってことだ」
「わかってはいるんですけど、授業を受けてても、ああ私はこれを一体どこでどんな風にやるんだろうって、そればかり考えてしまうんです。でも、今一つイメージが湧かなくて」
新藤は、腕を組んでしばし宙を見つめた末に言った。
「どこまで行くつもりなんだ?」
「えっ?」
「資格は取るんだろ? どこまでだ?」
「あ、はい。あの、やるからには上級を目指そうと思ってはいます」
しかし、女である自分がそのレベルに辿り着けるという自信はない。
「その後は? 処理士になるのか?」
「まだ、そこまでは考えてないんですが……」
なれたらいいなという気持ちはあるが、女性の前例がない世界で、まずは補助士としてどこまで行けるのかすら見えていないのが現状だった。
「木曜の夕方は暇か?」
「あ、はい!」
新藤建一郎が構ってくれるなら、いつだって暇だ。
「素人にできる手伝いがある。ただでいいならやりに来い」
「本当ですか? ありがとうございます!」
一希が深々と頭を下げている間に、新藤はさっさと車に乗り込んで遠ざかっていた。
* * * * * *
「あ、はい、他の処理士の方も訪ねてはいるんですけど、なかなか取り合ってもらえなくて」
「そりゃそうだろう。無資格で助手にしろってのは相当図々しい話だからな」
いや、むしろそんな議論にすら至っていない。「女が進むべき道じゃない」、「どうせ続きやしない」、「まさか本気じゃないだろう」……。彼らは一希が資格を取って出直しても同じ反応を返すに違いない。
そういえば、新藤からも最初は門前払いに等しい扱いを受けたが、それは一希の性別が理由ではなかった。一希が女であることを問題にしなかったのは新藤と、そしてもう一人。
「実は、もう一人だけ好感触というか、まともに相手してくださった奇特な方がいて……今は役に立てないけど、実習の段階になったらまたおいでって」
「ほう」
「それと、試験に受かったら、現場を見学したり補助の仕事が取れるように軍の方にもかけ合ってくださるって」
「そんなに喜ぶことか? 補助士になった後の見学なら、よっぽど素行が悪くなきゃ断られる方が珍しいぞ。ま、俺は少しでも気に入らん奴は資格が何であれいくらでも断るがな」
少なくとも新藤さんタイプの人ではなかったです、終始にこやかで……と付け加えようかと思ったが、機嫌を損ねてはまずいと踏みとどまった。
「質問とかよもやま話でいいならいつでも電話くれって。しかも奥さんがまたいい人で、お夕飯までご馳走になっちゃって。それがまたどれもこれも珍しいやらおいしいやらで」
「腹ボテの奥さんか?」
新藤の眉が上がる。しまった。名指しするつもりではなかったのに、しゃべりすぎた。新藤がいかにも納得といった顔になる。
「檜垣稔か。そりゃこの上ない好感触だったろう。あいつの紳士っぷりは有名だからな」
「バレちゃいましたね、すみません。檜垣さんの紳士ぶりをお伝えしたかったわけじゃないんですけど、話を聞いてくださる方自体が本当に貴重なので、つい嬉しくて……」
「奥さん元気そうか? そういやしばらく会ってないな。そろそろ予定日近いんじゃないか?」
「早ければ来週中には生まれるそうですよ。そっかあ、奥様とも交流あるんですね、やっぱり。檜垣さんといったら、新藤さんと一二を争う超一流処理士ですもんね」
「お前も一応、この世界の勢力図ぐらいはわかってるみたいだな。しかし、そんな好感触の檜垣様でも、無資格でうろちょろされたところで何も与えてやれないってことだ」
「わかってはいるんですけど、授業を受けてても、ああ私はこれを一体どこでどんな風にやるんだろうって、そればかり考えてしまうんです。でも、今一つイメージが湧かなくて」
新藤は、腕を組んでしばし宙を見つめた末に言った。
「どこまで行くつもりなんだ?」
「えっ?」
「資格は取るんだろ? どこまでだ?」
「あ、はい。あの、やるからには上級を目指そうと思ってはいます」
しかし、女である自分がそのレベルに辿り着けるという自信はない。
「その後は? 処理士になるのか?」
「まだ、そこまでは考えてないんですが……」
なれたらいいなという気持ちはあるが、女性の前例がない世界で、まずは補助士としてどこまで行けるのかすら見えていないのが現状だった。
「木曜の夕方は暇か?」
「あ、はい!」
新藤建一郎が構ってくれるなら、いつだって暇だ。
「素人にできる手伝いがある。ただでいいならやりに来い」
「本当ですか? ありがとうございます!」
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