爆弾拾いがついた嘘

生津直

文字の大きさ
11 / 118
第1章 弟子入り

10 処理士の日常

しおりを挟む
(よし、いよいよ点火)

 距離はあるが、一希にも緊張感が伝わってくる。

 間もなく、先ほど旗が立っていた位置で小さな炎と白煙が上がり、一足遅れてパン、と爆発音。たったそれだけのことだが、映像でしか見たことがなかった爆破処理が、今自分が吸っている空気の中で行われていると思うと、興奮せずにはいられない。

 村越は後処理を済ませ、無事に爆弾の残骸を回収した。新藤と二言三言交わすと、村越は立ち入り禁止テープの撤去に取りかかる。

 よし、とばかりに一希は橋を渡り、二人の元へと走った。一希がいた側のテープ回収に向かおうとする村越に挨拶を済ませ、探査機を片付けている新藤に声をかける。

「新藤さん、今日はどうもありがとうございました。あ、これ……双眼鏡、ありがとうございました、わざわざ」

「ああ。それにしてもただの探査を、参加もできないのに見たいと言ってきたのはお前が初めてだ。何か役に立ったか?」

「もちろんです。あの、見学ついでにちょっとお聞きしてもいいですか?」

「何だ?」

「今日の探査は、軍からの要請じゃなく、新藤さんがご自分でなさってる分ですよね?」

 ただの丸は俺が勝手にやってる分、という新藤の言葉を忘れる一希ではない。

「ああ」

「この川原は、軍の分類でいうとどれなんですか?」

「何も出なくても報酬対象になるエリアだ」

「ってことは、これから宅地開発の予定か何かあるんでしょうか?」

「いや、そういう話は聞いてないが、川下の方に新しく団地ができたからな。子供の遊び場になることを想定してるんじゃないか?」

「なるほど……じゃあ、あの林の中もいずれなさるんですか?」

「いや、あっちは他の処理士がこないだ済ませたところだ。別の補助士付きでな。新人にはなかなか実践の機会がないから、こうやって可能な限り分けていこうってことになってる」

「へえ! そうなんですね」

 教本には載っていない貴重な現場事情に、一希は思わず目を輝かせる。

「あと、探査のやりがいって何ですか?」

 新藤は首をかしげる。

「やりがい? ……考えたことないな。基準は常に安全と報酬ぐらいなもんだ」

「先ほどの村越さんはちなみに、どの級の方ですか?」

「初級だ。中級の受験を三月に控えてるから、今のうちに実務経験を稼いでおけば、いざ受かってからの仕事も入りやすくなるだろう」

 不発弾処理補助士の資格試験には初級、中級、上級の三段階がある。三者に共通するのが運動能力試験と健康診断。それ以外に、初級では書類審査と筆記試験。養成学校を卒業して試験を受け、学校が斡旋あっせんする実習の証明書を出せば大抵は合格だ。中級ではさらに実技試験と面接が加わる。

「村越さんから最後に何か質問をされてませんでしたか?」

「ん? ああ、確かに質問には違いない。対岸の女は一体何者だ、と」

「あ……すみません、きちんと自己紹介すればよかったですね」

 わざわざ橋を渡り、双眼鏡まで届けさせられたのだ。新藤の指示とはいえ、得体の知れない若い女のためになぜ自分が、と多少なりとも不服だったに違いない。

「うちに通い詰めた挙句、探査を見せろと迫ってきた物好きだと紹介しておいたぞ」

 恐縮してうつむいた拍子にふと、新藤がぶら下げた工具箱に目が行く。

「鹿、追い払ってましたね」

 一希が思い出しながら思わずくすくす笑い出すと、新藤もわずかに口角を緩めた。

「立ち入り禁止が通用しない相手もいるってことだ。山奥の奴らはまだものわかりがいいが、この辺の林から出てくるようなのは中途半端に人間に慣れてるからタチが悪くてな」

 荷物を車に載せ終えた新藤に、一希は改めて丁重に礼を述べた。

「処理士の日常、か。確かにはたから見りゃ、意外に面白いもんかもしれんな」

 腕利うでききの処理士はそんなことを呟き、しばし川面かわもを見つめた。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

処理中です...