爆弾拾いがついた嘘

生津直

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第1章 弟子入り

22 子爆弾

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 そうと決まれば、かち合わないうちにさっさとお風呂に入ってしまおう。一希は着替えを用意し、脱衣所には一応鍵をかけた。

 学校の寮とは違い、この家のお風呂は湯船にお湯を張って沸かさなくてもシャワーからお湯が出るタイプだ。温度調節にしばし苦戦したが、行水も慣れてしまえば快適に違いない。

 師匠にいきなり寝間着姿をさらすのはどうかと思い、臙脂えんじ色の高校ジャージの上下を身に着けた。

 大机に戻り、今のうちに書類を少しでも見慣れておこうと、端から目を通す。そうしているうちに、新藤が大きなプラスチックの箱を抱えて出てきた。一希がお手伝いしましょうかと声をかける間もなく、新藤は大机の端に箱を下ろす。

「あ、すみません、今ここ空けま……」

「空けろと言ったか?」

(あ、そっか……)

 空けろと言ったら空けろ。何も言われなければ、反対側は使っていてよいということらしい。

「あ、そうだ、先ほどお風呂お借りしました。ありがとうございました」

「共有財産だとさっき言ったよな」

 もはやため息すらつかれなくなっていた。

「あ、そうでしたね。すみません」

 新藤は、玄関横の棚から仕切りの付いたからのケースを持ってくると、大机にそれを置いた。先ほどの箱から取り出したのはもちろん、解体済みの爆弾の部品。それを種類ごとに仕分けているらしい。

「サラナですか?」

「ああ」

 オルダの子爆弾には、ボール型から、ヘアスプレーの缶程度の大きさの円筒型まであらゆる形状があり、内部構造もさまざま。サラナは蝶番ちょうつがいで開くずんぐりした円柱型の一種だ。

 子爆弾の中には外見がおもちゃやお菓子のパッケージに似ているものもあるため、子供たちがうっかり不発弾に触れて大怪我をした、あるいは亡くなったというニュースを一希も何度か聞いたことがある。陸軍や処理士たちが懸命に周知を図った甲斐もあってか、最近ではそのような事故は減ってきているようだが。

「探査でこんなに出ることもあるんですね」

「さすがに一回分じゃないぞ。しかも、今回のはどれも俺が見付けたもんじゃない」

「あ、そうなんですか?」

「爆破か安全化かは基本的に見付けた処理士の判断次第だが、暗黙の了解ってやつがあってな。まとまった量が出た時は、自分が解体できる状況になくてもとりあえず軍に報告を入れるもんなんだ。処理士にしてみれば電話一本で爆破と後始末の手間が省けるし、国は少しでも多く再利用に回して金にしたいわけだろ?」

「なるほど、利害が一致するわけですね」

 爆破の場合は部品も全て粉々になるが、新藤の父隆之介が解体を可能にしたことで、再利用への道が開かれたのだ。大型のオルダなら子爆弾は数百を数え、仮にそのうち一割が不発弾として見つかった場合、有用な部品の数は数百に上る。しかも、特殊な金属加工が施された貴重なものばかり。

 そして極めつけは、スム族が開発した質の高い爆薬だ。少量で大規模な爆発を起こせる上、有害物質を放出せずいずれ土にかえるため環境にも優しい。これらを爆破せずに取り出せれば輸出への道も開け、戦後復興に一役買うという隆之介の見通しは見事に的中した。

「いざ解体が決まったら、軍員が出向いて鎮静化して、その大半が俺んとこに運ばれてくる」

「全国から……」

「まあ、近場でやりたい奴が見付かることは少ないだろうからな」

 誰もが手際よくこなせる作業ではないから、手間と危険性を考えれば割に合わないと考える方が普通かもしれない。

「子爆弾の解体って、できる人どれぐらいいるんですか?」

「できるできないでいえば、みんなできてくれなきゃ困るな。鎮静化しちまえば、後は他の安全化作業と大差ないわけだから。まあ、ちっこいからそれなりに気はつかうが」

 不発弾の中でもひときわ繊細なオルダ。隆之介が開発したのは、子爆弾の内部構造の特性を生かし、現場で特殊な電磁波を照射して鎮静化するという方法だ。これで少なくとも振動と静電気には耐えられるようになり、持ち運びが可能となった。あとは衝撃や極度の高温を避けながら特定の部品同士の接触にさえ注意すれば、人の手で分解できるというわけだ。
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