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第4章 命賭す者
112 相談
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新藤は、本当はもっと早く一希に打ち明けるつもりだったのではないか。自分が養子だったことも、秘密の足のことも。おそらくは、あの見晴らしの良い月明かりの山腹で。
しかし、その日を前にして状況が変わってしまった。一希が会ったことのない兄の存在を告白したばかりに……。
結局、新藤は答えを翻し、偽の理由を演じることを選んだ。一希は、それを全く疑いもせずに受け入れてしまった自分が心底憎かった。
手がかりはそこかしこにあったのに。さりげなく寄せられる温かさを、あんなにすぐそばに感じていたのに。信じ切れていなかった。愛しい人の、本心に寄り添うことができなかった。
長いこと沈黙が続いた。二人ともがきっと同じことを考えていた。それを口に出したのは新藤だった。
「どれぐらいの確率なんだろうな」
「……どうなんでしょうね」
生後間もなく里子に出された片足のない不発弾処理士と、そこに弟子入りさせろと押しかけた混血の補助士志望学生とが、異母兄妹である確率。いくら何でもできすぎだという気もするが、否定し切れるだけの証拠もない。
「縁戚戸録の転出と転入ってのは、ルール上は一応セットで管理されてるんだが、いわゆる捨て子に関しては例外があるそうでな。身元がわからん場合は、原記録不明の転入って扱いになるそうだ。俺がそれに該当するってとこまでは、戸録を手に入れた当時、すぐに調べがついた」
「生みのご両親が出生通知を出してたかどうかは、わからないってことですね」
「ああ。出した上で子供だけこっそり捨てた場合は、就学年齢に達してるのにどこの学校にも入った形跡がないとか、そういうことから大抵は足が付くらしい。実際、それで身元が発覚するケースもあるそうだ」
「出生を通知した上で、正式に転出手続きまでしてる場合は……」
一希の父の戸録にあった男子がそれにあたる。
「本来なら転出手続きには転入先の情報が必須なんだが、養育施設の入所証明なんてのはいくらでも偽造できる時代だったらしい」
つまり、一希の父と新藤、二つの戸録が結び付く可能性は排除できないということだ。
新藤が不意に声を落とす。
「冴島」
「はい」
「俺と一緒に法に背いてみる気はあるか?」
「……時と場合によります」
「なるほど、利口な答えだ」
新藤の頬が再びくぼむ。
「実はな、遺伝子検査ってのがあって」
「遺伝子検査……」
「聞いたことあるか?」
「何かのドラマに出てきたような……」
「ああ。現実でもちゃんと真面目に研究してる人たちがいて、結構いいとこまで行っててな。双方の細胞のサンプルがあれば、血縁関係があるかどうかを調べられるんだと」
(血縁関係……先生と私の……)
「細胞、ですか?」
「そう。血液検査かと思ったら、口の中の粘膜をこすり取るだけでいいらしい。実は先日知り合いのつてで、実験ついでにその検査を頼めそうな研究室が見付かったんだ。ただし、当然ながら公式にはまだ違法だ。俺の足と同じ、スムの隠し財産的な技術だからな」
(だから今になって……)
一希に足を見せ、全てを打ち明ける気になったということか。
果たして自分は真実を知りたいのだろうかと、自問するには及ばなかった。
新藤の覚悟は固まっている。そればかりか、あの美夜月の日に一希に背負わせてくれなかった重荷を、今ようやく半分預けようとしてくれている。
検査をすれば、良くも悪くも結果が出る。この先、待ち構えているのは地獄かもしれない。だが、どんな結果にしろ、味わうのは今度こそ二人だ。
しかし、その日を前にして状況が変わってしまった。一希が会ったことのない兄の存在を告白したばかりに……。
結局、新藤は答えを翻し、偽の理由を演じることを選んだ。一希は、それを全く疑いもせずに受け入れてしまった自分が心底憎かった。
手がかりはそこかしこにあったのに。さりげなく寄せられる温かさを、あんなにすぐそばに感じていたのに。信じ切れていなかった。愛しい人の、本心に寄り添うことができなかった。
長いこと沈黙が続いた。二人ともがきっと同じことを考えていた。それを口に出したのは新藤だった。
「どれぐらいの確率なんだろうな」
「……どうなんでしょうね」
生後間もなく里子に出された片足のない不発弾処理士と、そこに弟子入りさせろと押しかけた混血の補助士志望学生とが、異母兄妹である確率。いくら何でもできすぎだという気もするが、否定し切れるだけの証拠もない。
「縁戚戸録の転出と転入ってのは、ルール上は一応セットで管理されてるんだが、いわゆる捨て子に関しては例外があるそうでな。身元がわからん場合は、原記録不明の転入って扱いになるそうだ。俺がそれに該当するってとこまでは、戸録を手に入れた当時、すぐに調べがついた」
「生みのご両親が出生通知を出してたかどうかは、わからないってことですね」
「ああ。出した上で子供だけこっそり捨てた場合は、就学年齢に達してるのにどこの学校にも入った形跡がないとか、そういうことから大抵は足が付くらしい。実際、それで身元が発覚するケースもあるそうだ」
「出生を通知した上で、正式に転出手続きまでしてる場合は……」
一希の父の戸録にあった男子がそれにあたる。
「本来なら転出手続きには転入先の情報が必須なんだが、養育施設の入所証明なんてのはいくらでも偽造できる時代だったらしい」
つまり、一希の父と新藤、二つの戸録が結び付く可能性は排除できないということだ。
新藤が不意に声を落とす。
「冴島」
「はい」
「俺と一緒に法に背いてみる気はあるか?」
「……時と場合によります」
「なるほど、利口な答えだ」
新藤の頬が再びくぼむ。
「実はな、遺伝子検査ってのがあって」
「遺伝子検査……」
「聞いたことあるか?」
「何かのドラマに出てきたような……」
「ああ。現実でもちゃんと真面目に研究してる人たちがいて、結構いいとこまで行っててな。双方の細胞のサンプルがあれば、血縁関係があるかどうかを調べられるんだと」
(血縁関係……先生と私の……)
「細胞、ですか?」
「そう。血液検査かと思ったら、口の中の粘膜をこすり取るだけでいいらしい。実は先日知り合いのつてで、実験ついでにその検査を頼めそうな研究室が見付かったんだ。ただし、当然ながら公式にはまだ違法だ。俺の足と同じ、スムの隠し財産的な技術だからな」
(だから今になって……)
一希に足を見せ、全てを打ち明ける気になったということか。
果たして自分は真実を知りたいのだろうかと、自問するには及ばなかった。
新藤の覚悟は固まっている。そればかりか、あの美夜月の日に一希に背負わせてくれなかった重荷を、今ようやく半分預けようとしてくれている。
検査をすれば、良くも悪くも結果が出る。この先、待ち構えているのは地獄かもしれない。だが、どんな結果にしろ、味わうのは今度こそ二人だ。
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