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第1章 弟子入り
4.1 クラスメイト
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早川技術訓練校には、一希が卒業した工業高校からも同級生が多数入学してきている。しかし、学校全体でも女子は毎年数えるほど。中でも不発弾処理補助士養成科では、一希が開校以来初の女子生徒だった。
他の科には一クラスに数人ずつぐらいは女子がいるらしいが、中には最初から腰掛けのつもりで入学し、男だらけの環境を婿探しに利用する娘もいると聞く。そういうのは大抵、働く必要などない裕福な家庭の子だ。
その割合が実際どの程度なのかはわからないが、女子生徒に対する教官の目が男子に対するものとはどこか違うのを、一希は日々ひしひしと感じている。
学食でも女子は目立ち、女子同士自然と声をかけ合う中、所属科の枠を越えたつながりも生まれていた。今日の昼食時には、電気技師養成科と産業機械整備科の女子グループと、ちょうど入れ違いになった。
代わりに同じクラスの男子たちを見付け、一希はそのテーブルへと歩み寄る。
「ねえ、ここいい?」
一瞬、戸惑うような沈黙が流れたが、高校で同級だった三上が、隣の空いた椅子を引いてくれた。
「ありがと」
席に着いて「いただきます」と言うなり、とんかつ定食をモリモリと頬張る。そんな一希を横目に眺め、一人が呟いた。
「まあ、授業中あんだけ食いついてきゃ、腹も減るよな」
「ん? ああ、質問のこと?」
「教官だって、そんなに現場経験豊富なわけじゃないんだろうからさ。おとなしく教材に沿ってやらせてあげた方がいいんじゃないの?」
「うーん、でも、みんなわかるわけ? あれで」
「わかったふりしときゃいいんだよ、あんなもん」
「ほら、こないだ出てきた模型だってさ、持ってきただけって感じで、大して使ってなかったじゃない?」
「まあ、申し訳程度って感じではあったな」
「でも、学校じゃこれが限界なんじゃねえの?」
他の皆も頷く。
「そうそう。現場出たらどうせ処理士に怒られるとこから始まるんだからさ。嫌でも覚えるって」
一希たちが目指している補助士というのは、不発弾処理士を文字通り補助する作業員。処理士を目指す者はまず補助士の資格を取り、補助の実務経験を積む必要がある。
こうして話してみれば、クラスメイトたちも日々の学習に不足を感じていないわけではないらしい。現実的に見て他に選択肢がないから割り切っているだけなのだろう。
一希の出身校は工業高校の中でも特に実習に力を入れていたから、それを三年間経験した身からすると、はっきり言ってもの足りない。しかも対象が不発弾となれば、小学生の頃から関連書籍に触れてきた一希が現場に対して抱く好奇心は、もはや破裂せんばかりに膨れ上がっている。
学校が現役処理士の下での実習を世話してくれるのは、まだ数ヶ月先のことだ。それまでに、理屈や一般論ばかりの教本を眺める以外にできることは本当にないのだろうか。
「それよりさ、そのジャージ、やめない?」
と、三上がこちらを指さす。
「えっ?」
一希が日々愛用している通学着上下。高校の指定ジャージだったもので、胸に校章が入っている。持っている二色のうち、今日は紺色。
「とっくに卒業したんだし、もうちょい何か……色気とまでは言わないけどさ」
「ああ、朝、学校来る前にね、アルバイトでお掃除してるから。動きやすくて汚れてもいいとなると、ちょうどいいんだよね。ほら、三年しか着てないから大して傷んでないし」
「三年しかって」
皆は笑うけれど、一希は親なしの寮暮らし。貧乏性が染み付くのも仕方がない。
他の科には一クラスに数人ずつぐらいは女子がいるらしいが、中には最初から腰掛けのつもりで入学し、男だらけの環境を婿探しに利用する娘もいると聞く。そういうのは大抵、働く必要などない裕福な家庭の子だ。
その割合が実際どの程度なのかはわからないが、女子生徒に対する教官の目が男子に対するものとはどこか違うのを、一希は日々ひしひしと感じている。
学食でも女子は目立ち、女子同士自然と声をかけ合う中、所属科の枠を越えたつながりも生まれていた。今日の昼食時には、電気技師養成科と産業機械整備科の女子グループと、ちょうど入れ違いになった。
代わりに同じクラスの男子たちを見付け、一希はそのテーブルへと歩み寄る。
「ねえ、ここいい?」
一瞬、戸惑うような沈黙が流れたが、高校で同級だった三上が、隣の空いた椅子を引いてくれた。
「ありがと」
席に着いて「いただきます」と言うなり、とんかつ定食をモリモリと頬張る。そんな一希を横目に眺め、一人が呟いた。
「まあ、授業中あんだけ食いついてきゃ、腹も減るよな」
「ん? ああ、質問のこと?」
「教官だって、そんなに現場経験豊富なわけじゃないんだろうからさ。おとなしく教材に沿ってやらせてあげた方がいいんじゃないの?」
「うーん、でも、みんなわかるわけ? あれで」
「わかったふりしときゃいいんだよ、あんなもん」
「ほら、こないだ出てきた模型だってさ、持ってきただけって感じで、大して使ってなかったじゃない?」
「まあ、申し訳程度って感じではあったな」
「でも、学校じゃこれが限界なんじゃねえの?」
他の皆も頷く。
「そうそう。現場出たらどうせ処理士に怒られるとこから始まるんだからさ。嫌でも覚えるって」
一希たちが目指している補助士というのは、不発弾処理士を文字通り補助する作業員。処理士を目指す者はまず補助士の資格を取り、補助の実務経験を積む必要がある。
こうして話してみれば、クラスメイトたちも日々の学習に不足を感じていないわけではないらしい。現実的に見て他に選択肢がないから割り切っているだけなのだろう。
一希の出身校は工業高校の中でも特に実習に力を入れていたから、それを三年間経験した身からすると、はっきり言ってもの足りない。しかも対象が不発弾となれば、小学生の頃から関連書籍に触れてきた一希が現場に対して抱く好奇心は、もはや破裂せんばかりに膨れ上がっている。
学校が現役処理士の下での実習を世話してくれるのは、まだ数ヶ月先のことだ。それまでに、理屈や一般論ばかりの教本を眺める以外にできることは本当にないのだろうか。
「それよりさ、そのジャージ、やめない?」
と、三上がこちらを指さす。
「えっ?」
一希が日々愛用している通学着上下。高校の指定ジャージだったもので、胸に校章が入っている。持っている二色のうち、今日は紺色。
「とっくに卒業したんだし、もうちょい何か……色気とまでは言わないけどさ」
「ああ、朝、学校来る前にね、アルバイトでお掃除してるから。動きやすくて汚れてもいいとなると、ちょうどいいんだよね。ほら、三年しか着てないから大して傷んでないし」
「三年しかって」
皆は笑うけれど、一希は親なしの寮暮らし。貧乏性が染み付くのも仕方がない。
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