爆弾拾いがついた嘘

生津直

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第3章 血の叫び

60.3 括り

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 自分の半分はスム。それを一希は、どう受け止めればよいのか未だによくわかっていなかった。三日月が刻まれていないというだけで、スムとは違う気になっている。が、ワカでもない。どちらでもなく、どちらでもある。

「どっちかだったらまた違ったのかもしれませんけど、時々どっちの目線に立てばいいのかわからなくなるというか……とても頼りない気持ちになることがあるんです。こんなことならいっそ、三日月があった方がよかったんですかね?」

「簡単に言うな。父親の苦労を見てきただろ」

 一希は口をつぐんだ。体にこの印があるというだけで入浴を禁じられる。入店を断られる。雇ってもらえない。そんな時代がようやく今変わりつつある段階だ。この国では、スムに人権があるという発想自体がまだ新しい。

 外で憤懣ふんまんをため込んだ父は、家の中ではいつも。しかし実際は、世帯の一切をになう母に頭が上がるはずもない。

 そんな父を、一希は心から愛し尊敬していたとはとても言えない。心のどこかでいつもあわれんでいた。それでいて、誰も助けてはあげられない。父を救ってやれないことが、一希に罪悪感を抱かせてもいた。

「人類の壮大な罪を償おうって人間が、自分から同じ罪におちいってどうする?」

(同じ罪……)

くくりを忘れろ、ですね」

 牛骨に歯を立てていた新藤の頬がひゅっとへこむ。

「そうだ。よくおぼえてたな」

「でも……難しいです」

「まあな」

 人間一人という単位以外の括りにとらわれ、それゆえに平等でない感情を持つという罪。スム族も括りなら、ワカ族もまた括りであり、混血だって一つの括りだ。

「どうすればいいんでしょうか? 括りに囚われないようにするには……」

「さあな。俺だって別に自分にできることばかりを説いてるわけじゃない」

(え……?)

 一希が考え込んでいる間に、新藤は見事に全ての皿を空にした。骨の一番硬いところがわずかに筋状に残ってはいたが、この程度ならスムの集落で育った純血のスムだって残す。

「あの、まだありますけど、お代わりされます?」

 意地悪で言ったわけではない。「嫌いじゃない」程度ではとてもこんな食べ方はできないという確信があった。

「いや、残りはお前の分だ。その代わり、そのうちまた作ってくれないか?」

「本当ですか!?」

「外じゃなかなか本格的なのは食えんからな」

 新藤はいつどこでスムの味を覚えたのだろう。一希は自分の中に芽生めばえた疑念を、瞬時に否定した。

(まさか、ね……)

 新藤の父親は火葬されたと報道されていたし、もともとワカの軍隊に所属していた人なのだから、ワカであるはず。しかし、新藤の生みの母親の情報はない。

「お前の飯は何でもうまい」

「え? あ、ありがとうございます」

 珍しく新藤に褒められた照れ臭さは、ほんの数分前の屈辱感を打ち消すのに十分だった。
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