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第2章 大輝にようこそ
27 実家
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翌朝、早めの目覚ましで起床した悦子がトイレから戻ってくると、大輝が書斎から顔を出したところだった。
「あ、おはよ」
「おはよ。もう出んの? 随分早くない?」
「うん……ちょっと家に寄ってから会社行きたくて」
「あ、もしかして……実家行く準備?」
「そう。よくわかったね」
「うん、そういや今日金曜だなと思って。朝はじゃあ何、食べないの?」
「そう……ね、ちょっと時間が」
「シリアルとかは?」
「あ、うん。ちょこっといただこうかな。ありがと」
洗面所で着替えを済ませ、ソファに並んでシリアルを食べる。
「毎週実家って、すごいな」
ぽつりとまるで独り言のようにそう呟いた大輝の横顔が、妙に真面目くさっていた。
「うん……まあ、近いから」
それをネタにまたあれこれ掘り下げてくれるのかと思いきや、大輝は黙ってシリアルを口へ運び続けた。これまでの大輝は、悦子がどんな発言をしようと朗らかに応じ、軽いノリで笑い飛ばしてくれたのに。
確かに自分でも、周りの同世代と比べれば実家に入り浸りすぎだとは思う。しかし悦子自身はむしろ、一人暮らしを始める必要自体がないと思っていたぐらいだ。今の職場だって、実家から通えないわけではない。ただ、いつまでも実家にいては嫁に行けなくなる、という母の強い主張に押される形で出されてしまっただけなのだ。
「親離れできてないだけかも」
悦子が自嘲気味にそう言ってみると、大輝はようやく気付いたようにこちらを向いた。
「あ、いや、そういう意味じゃなくて。いいじゃん、近くて」
(なんか……大輝にしては投げやりじゃない?)
悦子のことを変じゃないと明言し、ことごとく肯定してくれた希少な相手に、ついに異端認定されてしまったような気がした。自分の家族構成を明かせばいくらか理解してもらえるだろうかとも考えたが、如何せん今日は時間がなかった。
~~~
その日の仕事を終え、実家に着いてからも、今朝の大輝は本当は何が言いたかったんだろう、というモヤモヤが残った。
兄とテレビを見ながら、そう言えば、と気付く。大輝には実家がない。それがいつからなのか、どういう事情によるのかは知らないが……。親が早く亡くなったにせよ、仲が悪いだけにせよ、そんな境遇から見れば、毎週実家に帰るという感覚は確かにイメージしづらいのかもしれない。
大輝の表情を思い浮かべていると、昨夜のベッドの上での熱い時間が思い出された。慎重ながらも隈なく掻き回された名残が、今日一日中、下半身一帯に鈍く漂っていた。意識をそこへ向けてしまうと、中の方がきゅっきゅっと縮み、「対応」を求めた。
見ていた番組が終わったところで、
「お風呂入ってくるね」
と兄に声をかけ、着替えを用意するという名目で二階の自室に向かう。背後でドアを閉めると、すぐに手を触れずにはいられなかった。母は一階の和室でもう寝ているはずだし、兄は……階段を上がってくることはあり得ない。悦子はベッドの上で迷わず下着を下ろし、両手で外と中を刺激した。
急いでいたから、五分とかからなかった。ため息とともに天井を見上げる。一人で達することは簡単だ。しかし、ここには大輝がいなかった。あの肌の温度が、吐息が、体の重みが、恋しかった。
(抱かれたい、って、こういう気持ちなんだ……)
たった今絶頂を迎えたにもかかわらず、一人では満たせない欲が荒々しく渦巻いていた。これは大輝欲しさなのだろうか、それとも男がいればそれでいいのか。他の男を知らない悦子には知る由もない。
取り急ぎ満たし終えた体にシャワーを浴びていると、自分の胸に対する大輝の形容を思い出した。
「すごく自然でかわいいのに。……なんかさ、こういう耳したウサギいるじゃん」
悦子も写真で見たことがある、垂れ耳のウサギ。癒やされる画像として紹介されていた。
「そりゃ、ウサギはかわいいけど……」
「君の方がずーっとかわいい」
大輝はその「耳」を無理に寄せて上げたりはせず、自然に流れたがる方向に撫で付けた。
「君に嫌われちゃったら終わりじゃん、この子。毎日一緒なのに、ねえ。寂しいねえ」
おっぱいに話しかける大輝が何だかおかしくて、悦子はようやく笑みをこぼしたのだった。今改めて風呂場の鏡に映した己の肉体は、かつてよりも幾分愛しく感じられた。
~~~
「あ、おはよ」
「おはよ。もう出んの? 随分早くない?」
「うん……ちょっと家に寄ってから会社行きたくて」
「あ、もしかして……実家行く準備?」
「そう。よくわかったね」
「うん、そういや今日金曜だなと思って。朝はじゃあ何、食べないの?」
「そう……ね、ちょっと時間が」
「シリアルとかは?」
「あ、うん。ちょこっといただこうかな。ありがと」
洗面所で着替えを済ませ、ソファに並んでシリアルを食べる。
「毎週実家って、すごいな」
ぽつりとまるで独り言のようにそう呟いた大輝の横顔が、妙に真面目くさっていた。
「うん……まあ、近いから」
それをネタにまたあれこれ掘り下げてくれるのかと思いきや、大輝は黙ってシリアルを口へ運び続けた。これまでの大輝は、悦子がどんな発言をしようと朗らかに応じ、軽いノリで笑い飛ばしてくれたのに。
確かに自分でも、周りの同世代と比べれば実家に入り浸りすぎだとは思う。しかし悦子自身はむしろ、一人暮らしを始める必要自体がないと思っていたぐらいだ。今の職場だって、実家から通えないわけではない。ただ、いつまでも実家にいては嫁に行けなくなる、という母の強い主張に押される形で出されてしまっただけなのだ。
「親離れできてないだけかも」
悦子が自嘲気味にそう言ってみると、大輝はようやく気付いたようにこちらを向いた。
「あ、いや、そういう意味じゃなくて。いいじゃん、近くて」
(なんか……大輝にしては投げやりじゃない?)
悦子のことを変じゃないと明言し、ことごとく肯定してくれた希少な相手に、ついに異端認定されてしまったような気がした。自分の家族構成を明かせばいくらか理解してもらえるだろうかとも考えたが、如何せん今日は時間がなかった。
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その日の仕事を終え、実家に着いてからも、今朝の大輝は本当は何が言いたかったんだろう、というモヤモヤが残った。
兄とテレビを見ながら、そう言えば、と気付く。大輝には実家がない。それがいつからなのか、どういう事情によるのかは知らないが……。親が早く亡くなったにせよ、仲が悪いだけにせよ、そんな境遇から見れば、毎週実家に帰るという感覚は確かにイメージしづらいのかもしれない。
大輝の表情を思い浮かべていると、昨夜のベッドの上での熱い時間が思い出された。慎重ながらも隈なく掻き回された名残が、今日一日中、下半身一帯に鈍く漂っていた。意識をそこへ向けてしまうと、中の方がきゅっきゅっと縮み、「対応」を求めた。
見ていた番組が終わったところで、
「お風呂入ってくるね」
と兄に声をかけ、着替えを用意するという名目で二階の自室に向かう。背後でドアを閉めると、すぐに手を触れずにはいられなかった。母は一階の和室でもう寝ているはずだし、兄は……階段を上がってくることはあり得ない。悦子はベッドの上で迷わず下着を下ろし、両手で外と中を刺激した。
急いでいたから、五分とかからなかった。ため息とともに天井を見上げる。一人で達することは簡単だ。しかし、ここには大輝がいなかった。あの肌の温度が、吐息が、体の重みが、恋しかった。
(抱かれたい、って、こういう気持ちなんだ……)
たった今絶頂を迎えたにもかかわらず、一人では満たせない欲が荒々しく渦巻いていた。これは大輝欲しさなのだろうか、それとも男がいればそれでいいのか。他の男を知らない悦子には知る由もない。
取り急ぎ満たし終えた体にシャワーを浴びていると、自分の胸に対する大輝の形容を思い出した。
「すごく自然でかわいいのに。……なんかさ、こういう耳したウサギいるじゃん」
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「そりゃ、ウサギはかわいいけど……」
「君の方がずーっとかわいい」
大輝はその「耳」を無理に寄せて上げたりはせず、自然に流れたがる方向に撫で付けた。
「君に嫌われちゃったら終わりじゃん、この子。毎日一緒なのに、ねえ。寂しいねえ」
おっぱいに話しかける大輝が何だかおかしくて、悦子はようやく笑みをこぼしたのだった。今改めて風呂場の鏡に映した己の肉体は、かつてよりも幾分愛しく感じられた。
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