41 / 80
第3章 女たちの恋模様
41 アケミ
しおりを挟む
再び巡ってきた第一火曜日。悦子はセイジと会うのが気まずいと思っていたが、今日は来ていない。大輝もいなかった。目が合ったシンゴにそっと手を振ると、煙を吐き出しながら向かいのソファーの端を指差す。悦子が遠慮がちに腰を下ろすと、皆が「よう」「おす」などと挨拶を発し、このテーブルの中心人物と化していた見知らぬ女性が声をかけてきた。
「あ、どうも、お邪魔してまーす。アケミです」
「あ、はじめまして、悦子と申します」
いわゆる目立つタイプで、なかなかの美人だ。茶色のロングヘアを垂らし、耳には大きな金色のリング。皆で乾杯すると、アケミと灰皿を共有しているシンゴが言った。
「で? 何、お前またあちこちでチヤホヤされちゃってんの?」
「はっきり言いなよ。遊んでんのかってことでしょ?」
とアケミが口を尖らせる。
「遊んでるよ。でも別にヤケとかじゃないし。私の場合もう主義みたいなもんだからさ」
「結局、何、飽きるわけ? 一人だと」
「それもあるけど、純粋に一緒にいて楽しい人を求めると、たまたま結果的に相手が股かけっていうパターンが多いんだよね」
「言ってくれるねえ。一途な男は楽しくないってか?」
「そうとは限らないけど、私の経験上でいうと、一途な男はまず寄ってこない」
「なるほどな」
とシンゴが呟き、場に笑いが起きる。
「それに、ぶっちゃけ、欲しいのは愛よりも技なんだよね」
「それ、ぶっちゃけすぎ」
「お前今、すっげー株下げたぞ」
男たちは非難轟々といったムードになる。
「いや、セックスの話じゃないよ。何ていうの、女の扱い全般っていうか。いくら好きでいてくれても、その辺ダメだと正直冷めちゃうんだよね。あとは自信とか余裕みたいな部分かな。遊び慣れた人って基本的におどおどしてないし」
何様だ、と咎められそうなセリフだが、悦子は彼女の言い分に密かに頷き、わかるわかる、とつい身を乗り出しそうになった。
悦子の場合は比較対象がないが、それでも女の扱いのうまさや満ち溢れる自信は侮れないというのは知る人ぞ知る真理だと思った。例えば悦子がセイジになぜかときめかないのと同じ原理かもしれない。
「あと、股かけ同士だとさ、基本的にお互い機嫌いい時しか会わないからまず喧嘩にならないっていう良さもあるし、その日の気分に合うキャラの人選んだりとかできて、何かと楽なんだよね」
「そういや大輝とは? どうなってんの?」
と誰かから質問が飛ぶ。悦子は手元のグラスを危うく取り落とすところだった。
「そういや、あいつ今日どうした?」
「今ハワイ」
と、アケミが灰を落としながら言う。へえ、と悦子は心の中で呟いた。九月の頭だから、夏休みということか。
「ハワイ? それって女と?」
「まあ、あの人のことだから、一人ってことはないんじゃないの?」
「あるいは現地調達」
「あ、そっちだな、多分」
「奴のお戯れは、軽く国境越えるからな」
「ま、何にせよ、今日はいないってわかってたから来たの」
「やっぱ、鉢合わせはまずいわけ?」
「んー、うちらは別にいいんだけどさ。二人揃っちゃったらほら、なんか場がざわざわしちゃうかなと思って、だから私が一応遠慮してたって感じ」
「……で、何? 今はもう切れてんの?」
「まあ切れるんじゃないかな。向こうも忙しいみたいだし、私もそろそろ気分変えたいし」
シンゴがアケミのシャンパンのお代わりを注ぎながら聞く。
「ちなみに大輝はさ、どこらへんがモテ要因なの?」
「うーん、悔しいけどさ、やっぱかっこいいとは思うし、優しいし、一緒にいて楽しいし」
「で? やっぱ、いいわけ? あっちの方も」
「うーん、まあ悪くないんじゃないの? 遊んでる割に本人はオーソドックスが好みだから、目新しさみたいなのはさほどでも……って感じだけどね。まあナンパ師が必ずしも床上手とは限んないから、それ考えたら、かなりいい線いってはいるんじゃない?」
あの大輝を捕まえて絶賛するほどでもないと言いたげなその態度に悦子はカチンときた。
「変化球系もろもろに関しては要望ベースで対応してるみたいだけど、結構NG多くてつまんないって言ってる子もいたよね」
「そりゃまあ要望の変態度にもよるわな」
悦子は聞いていて恥ずかしくなってきた。大輝の「NG」に関して悦子が知っているのはせいぜい、男とはベッドを共にしないという件ぐらいだ。
「あ、どうも、お邪魔してまーす。アケミです」
「あ、はじめまして、悦子と申します」
いわゆる目立つタイプで、なかなかの美人だ。茶色のロングヘアを垂らし、耳には大きな金色のリング。皆で乾杯すると、アケミと灰皿を共有しているシンゴが言った。
「で? 何、お前またあちこちでチヤホヤされちゃってんの?」
「はっきり言いなよ。遊んでんのかってことでしょ?」
とアケミが口を尖らせる。
「遊んでるよ。でも別にヤケとかじゃないし。私の場合もう主義みたいなもんだからさ」
「結局、何、飽きるわけ? 一人だと」
「それもあるけど、純粋に一緒にいて楽しい人を求めると、たまたま結果的に相手が股かけっていうパターンが多いんだよね」
「言ってくれるねえ。一途な男は楽しくないってか?」
「そうとは限らないけど、私の経験上でいうと、一途な男はまず寄ってこない」
「なるほどな」
とシンゴが呟き、場に笑いが起きる。
「それに、ぶっちゃけ、欲しいのは愛よりも技なんだよね」
「それ、ぶっちゃけすぎ」
「お前今、すっげー株下げたぞ」
男たちは非難轟々といったムードになる。
「いや、セックスの話じゃないよ。何ていうの、女の扱い全般っていうか。いくら好きでいてくれても、その辺ダメだと正直冷めちゃうんだよね。あとは自信とか余裕みたいな部分かな。遊び慣れた人って基本的におどおどしてないし」
何様だ、と咎められそうなセリフだが、悦子は彼女の言い分に密かに頷き、わかるわかる、とつい身を乗り出しそうになった。
悦子の場合は比較対象がないが、それでも女の扱いのうまさや満ち溢れる自信は侮れないというのは知る人ぞ知る真理だと思った。例えば悦子がセイジになぜかときめかないのと同じ原理かもしれない。
「あと、股かけ同士だとさ、基本的にお互い機嫌いい時しか会わないからまず喧嘩にならないっていう良さもあるし、その日の気分に合うキャラの人選んだりとかできて、何かと楽なんだよね」
「そういや大輝とは? どうなってんの?」
と誰かから質問が飛ぶ。悦子は手元のグラスを危うく取り落とすところだった。
「そういや、あいつ今日どうした?」
「今ハワイ」
と、アケミが灰を落としながら言う。へえ、と悦子は心の中で呟いた。九月の頭だから、夏休みということか。
「ハワイ? それって女と?」
「まあ、あの人のことだから、一人ってことはないんじゃないの?」
「あるいは現地調達」
「あ、そっちだな、多分」
「奴のお戯れは、軽く国境越えるからな」
「ま、何にせよ、今日はいないってわかってたから来たの」
「やっぱ、鉢合わせはまずいわけ?」
「んー、うちらは別にいいんだけどさ。二人揃っちゃったらほら、なんか場がざわざわしちゃうかなと思って、だから私が一応遠慮してたって感じ」
「……で、何? 今はもう切れてんの?」
「まあ切れるんじゃないかな。向こうも忙しいみたいだし、私もそろそろ気分変えたいし」
シンゴがアケミのシャンパンのお代わりを注ぎながら聞く。
「ちなみに大輝はさ、どこらへんがモテ要因なの?」
「うーん、悔しいけどさ、やっぱかっこいいとは思うし、優しいし、一緒にいて楽しいし」
「で? やっぱ、いいわけ? あっちの方も」
「うーん、まあ悪くないんじゃないの? 遊んでる割に本人はオーソドックスが好みだから、目新しさみたいなのはさほどでも……って感じだけどね。まあナンパ師が必ずしも床上手とは限んないから、それ考えたら、かなりいい線いってはいるんじゃない?」
あの大輝を捕まえて絶賛するほどでもないと言いたげなその態度に悦子はカチンときた。
「変化球系もろもろに関しては要望ベースで対応してるみたいだけど、結構NG多くてつまんないって言ってる子もいたよね」
「そりゃまあ要望の変態度にもよるわな」
悦子は聞いていて恥ずかしくなってきた。大輝の「NG」に関して悦子が知っているのはせいぜい、男とはベッドを共にしないという件ぐらいだ。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる