恋の駆け出し記念日 ~23歳の地味処女にやたら優しいイケメンは、誰よりも真面目なワケありプレイボーイでした~

生津直

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第3章 女たちの恋模様

41 アケミ

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 再び巡ってきた第一火曜日。悦子はセイジと会うのが気まずいと思っていたが、今日は来ていない。大輝もいなかった。目が合ったシンゴにそっと手を振ると、煙を吐き出しながら向かいのソファーの端を指差す。悦子が遠慮がちに腰を下ろすと、皆が「よう」「おす」などと挨拶を発し、このテーブルの中心人物と化していた見知らぬ女性が声をかけてきた。

「あ、どうも、お邪魔してまーす。アケミです」

「あ、はじめまして、悦子と申します」

 いわゆる目立つタイプで、なかなかの美人だ。茶色のロングヘアを垂らし、耳には大きな金色のリング。皆で乾杯すると、アケミと灰皿を共有しているシンゴが言った。

「で? 何、お前またあちこちでチヤホヤされちゃってんの?」

「はっきり言いなよ。遊んでんのかってことでしょ?」

とアケミが口をとがらせる。

「遊んでるよ。でも別にヤケとかじゃないし。私の場合もう主義みたいなもんだからさ」

「結局、何、飽きるわけ? 一人だと」

「それもあるけど、純粋に一緒にいて楽しい人を求めると、たまたま結果的に相手が股かけっていうパターンが多いんだよね」

「言ってくれるねえ。一途いちずな男は楽しくないってか?」

「そうとは限らないけど、私の経験上でいうと、一途な男はまず寄ってこない」

「なるほどな」

とシンゴが呟き、場に笑いが起きる。

「それに、ぶっちゃけ、欲しいのは愛よりも技なんだよね」

「それ、ぶっちゃけすぎ」

「お前今、すっげー株下げたぞ」

 男たちは非難轟々ごうごうといったムードになる。

「いや、セックスの話じゃないよ。何ていうの、女の扱い全般っていうか。いくら好きでいてくれても、その辺ダメだと正直冷めちゃうんだよね。あとは自信とか余裕みたいな部分かな。遊び慣れた人って基本的におどおどしてないし」

 何様だ、ととがめられそうなセリフだが、悦子は彼女の言い分に密かにうなずき、わかるわかる、とつい身を乗り出しそうになった。

 悦子の場合は比較対象がないが、それでも女の扱いのうまさや満ち溢れる自信はあなどれないというのは知る人ぞ知る真理だと思った。例えば悦子がセイジになぜかときめかないのと同じ原理かもしれない。

「あと、股かけ同士だとさ、基本的にお互い機嫌いい時しか会わないからまず喧嘩にならないっていう良さもあるし、その日の気分に合うキャラの人選んだりとかできて、何かと楽なんだよね」

「そういや大輝とは? どうなってんの?」

と誰かから質問が飛ぶ。悦子は手元のグラスを危うく取り落とすところだった。

「そういや、あいつ今日どうした?」

「今ハワイ」

と、アケミが灰を落としながら言う。へえ、と悦子は心の中で呟いた。九月の頭だから、夏休みということか。

「ハワイ? それって女と?」

「まあ、あの人のことだから、一人ってことはないんじゃないの?」

「あるいは現地調達」

「あ、そっちだな、多分」

「奴のおたわむれは、軽く国境越えるからな」

「ま、何にせよ、今日はいないってわかってたから来たの」

「やっぱ、鉢合わせはまずいわけ?」

「んー、うちらは別にいいんだけどさ。二人揃っちゃったらほら、なんか場がざわざわしちゃうかなと思って、だから私が一応遠慮してたって感じ」

「……で、何? 今はもう切れてんの?」

「まあ切れるんじゃないかな。向こうも忙しいみたいだし、私もそろそろ気分変えたいし」

 シンゴがアケミのシャンパンのお代わりを注ぎながら聞く。

「ちなみに大輝はさ、どこらへんがモテ要因なの?」

「うーん、悔しいけどさ、やっぱかっこいいとは思うし、優しいし、一緒にいて楽しいし」

「で? やっぱ、いいわけ? あっちの方も」

「うーん、まあ悪くないんじゃないの? 遊んでる割に本人はオーソドックスが好みだから、目新しさみたいなのはさほどでも……って感じだけどね。まあナンパ師が必ずしもとこ上手とは限んないから、それ考えたら、かなりいい線いってはいるんじゃない?」

 あの大輝を捕まえて絶賛するほどでもないと言いたげなその態度に悦子はカチンときた。

「変化球系もろもろに関しては要望ベースで対応してるみたいだけど、結構NG多くてつまんないって言ってる子もいたよね」

「そりゃまあ要望の変態度にもよるわな」

 悦子は聞いていて恥ずかしくなってきた。大輝の「NG」に関して悦子が知っているのはせいぜい、男とはベッドを共にしないという件ぐらいだ。
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