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第3章 女たちの恋模様
43 帰国
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大輝との情事には二週間以上のブランクが空いていた。悦子は、大輝以前の体にはもはや戻れず、一人での満足度は大幅に低下していたが、せずに済むというものでもない。
ある日、勤務時間中に思春期の男子のごとくムラムラしてしまい、悦子はついに会社のトイレで自分を慰めた。しかし、こんな時に限って手短に終えられず、具合でも悪いのかと高杉に余計な心配をかけてしまった。
翌日、再びムラムラは訪れたが、さすがに職場のトイレでの自慰を習慣にするわけにもいかず、何とか我慢した。帰宅したらすぐにでも、と早る気持ちを抑えながら家路に就こうとした時、電話が鳴った。相手の名を目にした瞬間、子宮がきゅんと縮んだ。
「もしもし」
「大輝……今どこ?」
「今……は、会社だけど?」
「そう……」
ハワイからはいつ帰ってきたのだろう。
「今日会える?」
悦子の喉まで出かかっていた言葉を、大輝が先に言ってくれた。悦子は、卑しい印象を与えぬようにと落ち着きを装ってOKする。
「まだ会社出てないの? そしたらさ、岳原の駅にしない?」
大輝の自宅最寄り駅だ。駅名を聞いただけで、悦子の下腹全域がしくしくと疼く。待ち合わせは八時に改札で、と決まり、夕食は近辺で一緒に、ということになった。
胸を高鳴らせて待っていると、見事に小麦色の肌をした大輝がやってきた。開口一番、
「ね、牛丼食べない? ここんとこ無性に食べたくて」
牛丼ならさっさと食べ終わって家に乗り込めるだろう、という下心のもと、悦子は快く了承した。駅前の牛丼屋でタイミングよく空いた席に座り、店員に食券を渡す。
「どうでした? ハワイ」
「あれ? バレてた? 楽しかったよ。もう誰だかわかんないっしょ」
と、こんがり焼けた頬を手の甲で擦ってみせる。
「ご同行の方も、堪能されました?」
「ご同行? してないよ、誰も。ワイハーは誰も連れてったことない」
と目をパチクリさせた無邪気な表情は、どうやら嘘ではなさそうだ。一見安堵すべき返答だが、では一体どのように過ごしたのかという新たな疑問が湧く。
「お仕事……じゃない、よね?」
「ううん、休み休み。完全プライベート」
(ってことは……やっぱ現地調達?)
「ご収穫は……ありました?」
悦子の挑戦を、大輝は不敵な笑みで受けた。
「何、どしたの? もしかして、ヤキモチ?」
「まあ、素朴な興味っていうか」
大輝は気分を害した様子もなく、悦子の疑問に答えた。
「今回は新規はゼロ」
「つまり……」
「向こうに何人かいるんだよね。住んでんのが」
悦子は生まれて初めてギャフンと呟いた。皆の予想は全てハズレだったわけだ。現地調達どころか、現地で大輝を待つ女たちがいたとは。大輝はつくづく次元の異なる男だった。
「あっちで一年ぐらい、ダイビング教えてたことがあってね」
ハワイで、ダイビングを、習うのではなく教える男。それが峰岸大輝。
「だからまあ、その名残っていうか、副産物がちらほら」
プレイボーイもここまでいくと腹も立たないというか、むしろ清々しい。
(そりゃ、この人がハワイでダイビング教えてて、女の子と何もないわけないもんね……)
しかし、その副産物が今日にまで存続しているところが、大輝ならではの温かさだという気がした。それは、相手といつ再会しても恥ずかしくないどころか再び体を交えられるほどの好意を互いに保てる、ある意味誠実な遊び方をしていることの証だろう。
「で、今日は? どうしよっか」
悪びれもせず、というのは、今この瞬間の大輝のためにある言葉だと悦子は思った。しかし、そんな究極の女たらしに果たして抱かれたいかと、自問するまでもない。
「お宅に……お招きいただけるのかしら?」
いやらしくならぬようにと気を遣いつつ、悦子は極力さりげなく髪を掻き上げ、精一杯の誘惑を試みた。すると大輝は二秒ほど静止し、さっと立ち上がった。
(えっ? ちょっと……)
呆れさせてしまったかと悦子が青くなりかけたその時、大輝は厨房に声をかけた。
「すいません、さっきの牛丼大盛と特盛、持ち帰りにしてもらえます?」
そして通りに出ると、歩道から身を乗り出してタクシーを停める。
「すいません、近くて申し訳ないんですけど、岳原二丁目まで、いいですか?」
運転手の了承を得て大輝が戻ってくると、テイクアウトの包みがちょうどでき上がったところだった。大輝はにこやかに袋を受け取り、悦子の手を引いてタクシーに乗り込む。
車が走り出した途端、大輝は悦子の首筋に顔を寄せ、低く、熱く囁いた。
「あれ? お招きする前に着いちゃうかも」
膝の後ろに滑り込んだ手がふくらはぎの内側をなぞるのを、悦子の全身が羨んでいた。
ある日、勤務時間中に思春期の男子のごとくムラムラしてしまい、悦子はついに会社のトイレで自分を慰めた。しかし、こんな時に限って手短に終えられず、具合でも悪いのかと高杉に余計な心配をかけてしまった。
翌日、再びムラムラは訪れたが、さすがに職場のトイレでの自慰を習慣にするわけにもいかず、何とか我慢した。帰宅したらすぐにでも、と早る気持ちを抑えながら家路に就こうとした時、電話が鳴った。相手の名を目にした瞬間、子宮がきゅんと縮んだ。
「もしもし」
「大輝……今どこ?」
「今……は、会社だけど?」
「そう……」
ハワイからはいつ帰ってきたのだろう。
「今日会える?」
悦子の喉まで出かかっていた言葉を、大輝が先に言ってくれた。悦子は、卑しい印象を与えぬようにと落ち着きを装ってOKする。
「まだ会社出てないの? そしたらさ、岳原の駅にしない?」
大輝の自宅最寄り駅だ。駅名を聞いただけで、悦子の下腹全域がしくしくと疼く。待ち合わせは八時に改札で、と決まり、夕食は近辺で一緒に、ということになった。
胸を高鳴らせて待っていると、見事に小麦色の肌をした大輝がやってきた。開口一番、
「ね、牛丼食べない? ここんとこ無性に食べたくて」
牛丼ならさっさと食べ終わって家に乗り込めるだろう、という下心のもと、悦子は快く了承した。駅前の牛丼屋でタイミングよく空いた席に座り、店員に食券を渡す。
「どうでした? ハワイ」
「あれ? バレてた? 楽しかったよ。もう誰だかわかんないっしょ」
と、こんがり焼けた頬を手の甲で擦ってみせる。
「ご同行の方も、堪能されました?」
「ご同行? してないよ、誰も。ワイハーは誰も連れてったことない」
と目をパチクリさせた無邪気な表情は、どうやら嘘ではなさそうだ。一見安堵すべき返答だが、では一体どのように過ごしたのかという新たな疑問が湧く。
「お仕事……じゃない、よね?」
「ううん、休み休み。完全プライベート」
(ってことは……やっぱ現地調達?)
「ご収穫は……ありました?」
悦子の挑戦を、大輝は不敵な笑みで受けた。
「何、どしたの? もしかして、ヤキモチ?」
「まあ、素朴な興味っていうか」
大輝は気分を害した様子もなく、悦子の疑問に答えた。
「今回は新規はゼロ」
「つまり……」
「向こうに何人かいるんだよね。住んでんのが」
悦子は生まれて初めてギャフンと呟いた。皆の予想は全てハズレだったわけだ。現地調達どころか、現地で大輝を待つ女たちがいたとは。大輝はつくづく次元の異なる男だった。
「あっちで一年ぐらい、ダイビング教えてたことがあってね」
ハワイで、ダイビングを、習うのではなく教える男。それが峰岸大輝。
「だからまあ、その名残っていうか、副産物がちらほら」
プレイボーイもここまでいくと腹も立たないというか、むしろ清々しい。
(そりゃ、この人がハワイでダイビング教えてて、女の子と何もないわけないもんね……)
しかし、その副産物が今日にまで存続しているところが、大輝ならではの温かさだという気がした。それは、相手といつ再会しても恥ずかしくないどころか再び体を交えられるほどの好意を互いに保てる、ある意味誠実な遊び方をしていることの証だろう。
「で、今日は? どうしよっか」
悪びれもせず、というのは、今この瞬間の大輝のためにある言葉だと悦子は思った。しかし、そんな究極の女たらしに果たして抱かれたいかと、自問するまでもない。
「お宅に……お招きいただけるのかしら?」
いやらしくならぬようにと気を遣いつつ、悦子は極力さりげなく髪を掻き上げ、精一杯の誘惑を試みた。すると大輝は二秒ほど静止し、さっと立ち上がった。
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「すいません、さっきの牛丼大盛と特盛、持ち帰りにしてもらえます?」
そして通りに出ると、歩道から身を乗り出してタクシーを停める。
「すいません、近くて申し訳ないんですけど、岳原二丁目まで、いいですか?」
運転手の了承を得て大輝が戻ってくると、テイクアウトの包みがちょうどでき上がったところだった。大輝はにこやかに袋を受け取り、悦子の手を引いてタクシーに乗り込む。
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