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第3章 女たちの恋模様
44 守秘義務
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家に着くなり、大輝は物も言わずに悦子をベッドに押し倒した。
「ちょっ、シャワーがまだ……」
と抗議してはみるものの、
「今日ぐらい我慢してよ」
と甘えた声を出されると、悦子の全身がキュンとし、多少の汗ぐらいはどうでもよくなってしまう。
裸になってみると、大輝の小麦色はどうやら、Tシャツと短パンのラインが境界になっているようだ。
「へえー、意外。水着の痕ってわけじゃないんだ」
「今回ちょっと忙しくてね。あんまり海に出れてなくって、かろうじてウェットスーツ二回かな。海パンは出番なし」
なるほど、よく見ると顔と手足だけ特に色が濃いのはそういうわけか。
「せっかくハワイまで行ってんのに、もったいなーい」
「まあね。またそのうち」
忙しいというのはどうせ女遊びなのだろうが、わざわざ自慢させるのも癪だから、そこにはこれ以上触れずにおくことにした。
ベッドの上で体を絡め合っていると、不意に、どこかしらの茂みの奥から雄の匂いが立った。悦子はそれを不快に感じるどころか、むしろ独特な興奮を覚えた。早くも恥じらうことを忘れ、目の前の男の体を貪ることに徹した。
大輝はろくに間を置かずに二度達し、その度に悦子にも至福の時を与えた。
ようやく満たされてシャワーを浴びた後、牛丼を温め直しながら大輝が聞く。
「今日は一日中エッチな気分だったの?」
「やめてよ……もしかして若干引いてる?」
「まさか。性欲で俺に勝てるとか思ってないっしょ? 俺もすんごいエッチだった、今日」
悦子の脳裏に、あの電話のマリちゃんの想像図がちらつく。
「ま、さすがにお客さんには手出さないけどさ」
じゃあ、社内では手出すの、と悦子は聞けずにいた。
お揃いのバスローブを着て並んでソファーに座り、どんぶりを前にして箸を割る。先に一口食べた大輝が満足げに唸った。
「いいねえ、この味。ハワイにも牛丼屋ないことはないんだけどさ、あっちのって、似せてんのはわかるけど、味はもうフェイクすぎて食う気になんないの。その割に高いしさ。でも匂いだけはいっちょ前で、店の前通るたんびに超よだれ」
「牛丼も幸せだねえ、そんなに愛されて。……あ、そうだ、アケミさんって人が定例会に来てね」
「へえ」
大輝はわずかに口角を上げただけで、引き続き牛丼に夢中だった。
「なんか……いろいろ言ってたよ。得意げに」
「別にいいよ。辛口のレビューには慣れてるから」
アケミが言いそうなことは大輝にもある程度予想がつくのだろう。
「なんかさ、大きさの話とかまで……」
それを聞くと、牛丼を頬張った横顔が笑いに崩れた。
「控え目、とか言ってんでしょ、どうせ」
「普通、だって」
「ま、普通って言われて喜んでいいのかわかんないけど。前にさ、他の子に中の下とか言われた時は二週間ぐらい凹んだよね。まあその子は後で聞いたら基準が米軍だったけど」
と、さして気に病む風でもなく、悠々と牛丼を味わっている。
「ねえ、アケミさんって……ここに来たことある?」
「それ、何か君に関係ある?」
そう問われて初めて、第三者を持ち出さないというルールが思い出された。
「ううん、別に、だからどうってわけじゃないんだけど。なんか、みんなにいろいろしゃべってたから、あの人。もしかしたら、全部事実ってわけじゃないのかもと思って……」
「事実じゃないことが混ざっててもさ、俺の方は一応守秘義務があるつもりなんで。例えばね、誰々はどんな下着着けてんだとか、誰々は飲んでくれたかとか、いろいろ聞かれたからってぺらぺらしゃべってたら商売になんないわけ。だからよっぽどの名誉棄損でなければいちいち否定しないし、うちに来たかどうかなんて好きなように言わせとけばいい」
なるほど。大輝のそのポリシーはありがたかった。悦子だって、自分との事の次第やら何やらをよそで話されたらたまったものではない。
「だったら……それもお互いのルールにすればいいのに。フェアじゃないと思わない?」
「俺は別にイメージアップキャンペーン中じゃないからね。今さらがっかりする人もいないし、別に営業妨害になったこともないし。しゃべりたきゃ好きにすりゃいいじゃん」
芸能人みたいなものか。週刊誌に嘘を書かれ、面白おかしく騒ぎ立てられたぐらいでいちいち訂正していたらきりがないのだろう。
「ちょっ、シャワーがまだ……」
と抗議してはみるものの、
「今日ぐらい我慢してよ」
と甘えた声を出されると、悦子の全身がキュンとし、多少の汗ぐらいはどうでもよくなってしまう。
裸になってみると、大輝の小麦色はどうやら、Tシャツと短パンのラインが境界になっているようだ。
「へえー、意外。水着の痕ってわけじゃないんだ」
「今回ちょっと忙しくてね。あんまり海に出れてなくって、かろうじてウェットスーツ二回かな。海パンは出番なし」
なるほど、よく見ると顔と手足だけ特に色が濃いのはそういうわけか。
「せっかくハワイまで行ってんのに、もったいなーい」
「まあね。またそのうち」
忙しいというのはどうせ女遊びなのだろうが、わざわざ自慢させるのも癪だから、そこにはこれ以上触れずにおくことにした。
ベッドの上で体を絡め合っていると、不意に、どこかしらの茂みの奥から雄の匂いが立った。悦子はそれを不快に感じるどころか、むしろ独特な興奮を覚えた。早くも恥じらうことを忘れ、目の前の男の体を貪ることに徹した。
大輝はろくに間を置かずに二度達し、その度に悦子にも至福の時を与えた。
ようやく満たされてシャワーを浴びた後、牛丼を温め直しながら大輝が聞く。
「今日は一日中エッチな気分だったの?」
「やめてよ……もしかして若干引いてる?」
「まさか。性欲で俺に勝てるとか思ってないっしょ? 俺もすんごいエッチだった、今日」
悦子の脳裏に、あの電話のマリちゃんの想像図がちらつく。
「ま、さすがにお客さんには手出さないけどさ」
じゃあ、社内では手出すの、と悦子は聞けずにいた。
お揃いのバスローブを着て並んでソファーに座り、どんぶりを前にして箸を割る。先に一口食べた大輝が満足げに唸った。
「いいねえ、この味。ハワイにも牛丼屋ないことはないんだけどさ、あっちのって、似せてんのはわかるけど、味はもうフェイクすぎて食う気になんないの。その割に高いしさ。でも匂いだけはいっちょ前で、店の前通るたんびに超よだれ」
「牛丼も幸せだねえ、そんなに愛されて。……あ、そうだ、アケミさんって人が定例会に来てね」
「へえ」
大輝はわずかに口角を上げただけで、引き続き牛丼に夢中だった。
「なんか……いろいろ言ってたよ。得意げに」
「別にいいよ。辛口のレビューには慣れてるから」
アケミが言いそうなことは大輝にもある程度予想がつくのだろう。
「なんかさ、大きさの話とかまで……」
それを聞くと、牛丼を頬張った横顔が笑いに崩れた。
「控え目、とか言ってんでしょ、どうせ」
「普通、だって」
「ま、普通って言われて喜んでいいのかわかんないけど。前にさ、他の子に中の下とか言われた時は二週間ぐらい凹んだよね。まあその子は後で聞いたら基準が米軍だったけど」
と、さして気に病む風でもなく、悠々と牛丼を味わっている。
「ねえ、アケミさんって……ここに来たことある?」
「それ、何か君に関係ある?」
そう問われて初めて、第三者を持ち出さないというルールが思い出された。
「ううん、別に、だからどうってわけじゃないんだけど。なんか、みんなにいろいろしゃべってたから、あの人。もしかしたら、全部事実ってわけじゃないのかもと思って……」
「事実じゃないことが混ざっててもさ、俺の方は一応守秘義務があるつもりなんで。例えばね、誰々はどんな下着着けてんだとか、誰々は飲んでくれたかとか、いろいろ聞かれたからってぺらぺらしゃべってたら商売になんないわけ。だからよっぽどの名誉棄損でなければいちいち否定しないし、うちに来たかどうかなんて好きなように言わせとけばいい」
なるほど。大輝のそのポリシーはありがたかった。悦子だって、自分との事の次第やら何やらをよそで話されたらたまったものではない。
「だったら……それもお互いのルールにすればいいのに。フェアじゃないと思わない?」
「俺は別にイメージアップキャンペーン中じゃないからね。今さらがっかりする人もいないし、別に営業妨害になったこともないし。しゃべりたきゃ好きにすりゃいいじゃん」
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