恋の駆け出し記念日 ~23歳の地味処女にやたら優しいイケメンは、誰よりも真面目なワケありプレイボーイでした~

生津直

文字の大きさ
61 / 80
第4章 俺のライバル

61 手遅れ

しおりを挟む
「敵は蹴落とす。俺、男には手加減しないからね。それも、かつてないほどの超強力なライバル。手段を選んでる場合じゃない」

 咄嗟とっさに理解できなかった。それがヒロ君のことだと。悦子はもう茶化すしかなかった。

「ねえ、自分で何言ってるかわかってる? あなたほどの女ったらしが障害者相手にライバル?」

「障害はこの際関係ない。君はあいつと仲が良すぎる」

「あいつって……兄貴なんですけど」

「あいつと一緒にいる時とか、電話してる時の君は……特別だ」

「特別?」

「ヒロ君のそばにはいつも……俺が見たことのない君がいるんだろうな」

 なるほど。本人が認めている通り、これはどうやら実にヤキモチらしい。

「大体、別に好きでもないくせに、私のことなんか……」

 重いため息だけが返され、しばしの沈黙が訪れた。

「君は……幸せそうだ。彼と一緒にいる時」

「そりゃそうよ、家族なんだから」

 ニヒルな笑いが電波に乗って伝わってくる。

「……彼の方はどうだろな」

「どう、って?」

「わかってんの? 君が妹だって」

 悦子は唖然とした。一体どこからそんな発想が湧いてくるのか。

「当ったり前でしょ。こないだからそんなことばっかり。いい加減にしてよ、気持ち悪い」

 大輝が息を呑む気配があった。しかし、何を言いすぎたとも思えない。そのまま黙ってしまった大輝に、この週末は予定通り実家で過ごすことを告げ、早々に電話を切った。

 後には何ともいえない虚無感が残った。あんなに自信たっぷりで優しかった大輝が、このところ一体どうしたというのだろう。互いの体をで合ったあの濃密な時間は、二人で交わした甘い囁きは、どこへ行ってしまったのだろう。元通りに戻る日が来るのが先か、それとも、優先してくれないならもういいと捨てられるのが先だろうか。



 その週末、兄は一緒にテレビを見たりご飯を食べたりしながら、

「えーちゃん、どしたのー」

を連発した。何をしていても上の空であることは悦子も自覚していた。大輝のことが気になって仕方ない。でも、今は会いたくない。何となく、兄は知っているような気がした。先週の土曜日、悦子がここから出かけて午後を共に過ごした相手が大輝であることを。

 夕食後、母が和室に引っ込むと、悦子はソファーに寝そべり、ヒロ君のお気に入りのドラマ鑑賞に付き合った。その間もため息をつき続けた悦子に、ドラマを見終わった兄が言う。

「えーちゃん、どしたのー」

「友達がね、困った人なの」

「困ーた時は、お互いさま」

「今それ関係ないでしょ」

「えーちゃんの、好きな人?」

 鋭い質問に悦子は背を向け、ソファーの背もたれと向き合って言い返す。

「好きになっちゃったら、辛いだけなの。だから、好きになっちゃいけないの。わかる?」

 兄は半分以上けたアイスをぴちゃぴちゃとやりながら、淡々と言った。

「もう遅いね」

 悦子は返事に詰まった。兄は要所要所でこういう身も蓋もないことを言う。しかし、それはいつだってまぎれもない真実を鋭く突いていた。

(そうだよね。わかってるよ……。とっくにわかってたよ)

 そうなのだ。もう遅い。悦子はソファーカバーのチェック柄をジグザグと指でなぞった。ヒロ君が車椅子を細かく切り返す音がする。ふと何かが頭に触れたのを感じて振り返ると、兄がつんのめるようにして完全には伸びない手を伸ばし、二十代も半ばになろうかという妹の頭をわさわさと撫でていた。髪を乱された悦子が、

「もうー、やめてよ!」

と怒ると、兄は車椅子を操作し、そそくさとアイスのお代わりを取りに行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

恋は、やさしく

美凪ましろ
恋愛
失恋したばかりの彼女はひょんなことから新橋の街中で上司にお姫様抱っこされ……!? ――俺様な美形上司と彼女とのじんわりとした恋物語。 性描写の入る章には*マークをつけています。

処理中です...