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デートの話
しおりを挟む予想通りというか、
やっぱりというか、
俺と深見はヨリを戻した事になっていた。
もちろん噂の話だ。
実際の俺たちは固く友情を確認しあった仲だ。
納得いかないのは俺が泣いて縋って復縁を迫り、深見が広い心でそれを受け入れた──という事になっていることだ。
何か恣意的なものを感じる。それとも、ただ顔面偏差値の違いによるものか。どちらにしても──
「納得いかない」
「さっきからそればっかりだな」
「なんでお前の株が上がるんだ。誰が俺が泣いてるところを見たんだ。むしろ縋ったのは深見じゃないか」
「……その話はやめて」
深見がヘコんだので俺の機嫌は急浮上した。
俺たちは相変わらず一緒に昼ごはんを食べて、一緒に帰っている。
深見に例の仲間たちはもういいのかと聞くと「俺もなんであいつらと一緒にいたのかもうよくわからないんだよね。塔野といて何が楽しいってわけでもないけど、あいつらといてもなんかムカムカするだけだし、だったら塔野のがまだマシかな」というなんとも形容し難い返答を得た。
まぁ、ボッチは寂しいから俺と一緒にいたいということだろう。
「その嬉しそうに笑いこらえるのやめなよ。それがいろんな誤解の元なんだよ──ってか今絶対へんなこと考えてるよね」
深見が言うことを俺は笑いながら否定した。
やっぱり楽しい。
こんな時間が続けばいい、そう思えるほど深見といる時間は俺にとって楽しい時間になっている。
「こんどの土曜日? 暇だけど」
「よし、じゃあ買い物に行こう」
深見から初めて一緒に出かけるお誘いを受けた。
「俺、深見の買い物にアドバイスできる自信ないけど」
「そんなものは全然期待してないから大丈夫」
「でも、せめて雑誌とか見といたほうがいいかな」
「……いや、全然気にしなくていいから」
「だけど、流行りとかあるんだろ?」
「……何? 服とか買いに行ったことないの?」
服って、親が勝手に買ってくるものじゃないんですか──その言葉を……俺は胸の奥深くで呟いた。
わかっている。
高校生にもなって服を親に買ってもらうのがおかしいことぐらい。だけど服って高いじゃん、買いに行くの面倒じゃん、親が喜んで買ってくるのならそれを黙って着るのも親孝行だろう。そんな思いを俺がぐっと噛み締めていると。
「親か」と深見が半目で俺を見ながら言った。
「まぁ、意外ではないな、むしろ納得だ。すげー納得した。お前そんな感じだわ」
そう、深見は淡々と言った。
深見の攻撃がきつい、さっきヘコました事の仕返しか。しかし何も反論できない、俺は目をそらし耐え忍んだ。
「じゃあ10時に駅前で、あんまり……………チェック柄禁止で」
いま変な格好してくるなと言おうとしただろう。
だが具体的に言ってくれてありがとう、チェック柄ダメなのか。帰ったらさっそく服を選ばなくてはなるまい。チェック柄じゃないのがあっただろうか。
教室に戻ると平野が「塔野、土曜日一緒にカラオケ行かない? この前行こうとして行けなかったからなんか無性に行きたくなってさ」と言ってきた。
なんだ、あれ結局ただお前がカラオケ行きたかっただけなのか。
「わるい、土曜日は深見と予定があるんだ」
「あぁデートか、じゃあしょうがないな。相変わらずラブラブだな」
そう言って平野は去っていった。
平野が去っていった方向を見ながら俺は固まった。
いま気になる単語が聞こえた。
ラブラブはどうでもいいが…………デート。
デートなのか?
いやいや友達でデートはないだろう、もう付き合ってるわけじゃないし。
……いやいやいや、そもそも付き合ってないし、フリだったから、フリ。危うく自分の立ち位置を見失いそうになってしまった。
「なんか変なもの食べた? 塔野が黙ってるのすごく気持ち悪いんだけど」
帰り道、深見が俺を見てそう言った。
「何でもないよ」
ただデートという言葉のむず痒さに全身襲われているだけだ。今まで全然気にした事なかったけどなんて破壊力のある言葉なんだ。
…………デート
「ふぉぅぁああ」しまった、変な声が出た。
深見が世にも奇妙な物を見るような目で俺を見ている。
忘れなければ、そんな言葉は俺の辞書に存在しない。お買い物、お買い物、お買い物、そうだお買い物だ。
………まだ、土曜日まで3日もあるのか。服も決めなくてはいけないし、俺は無事に土曜を迎えられるのだろうか。
「なぁ、深見とのデートってどんなとこ行くんだ?」
翌日、平野が唐突に聞いてきた。
「デートじゃないし、ただ服とか買いに行くだけだし」
「それをデートっていうんだろ」
なんだよこいつ、無邪気な顔して的確に急所を突いてきやがる。
「何度も言うけど俺と深見はただの友達で付き合ってないからな」
「あぁ、その設定の話はもういいよ。もう今更そんなに恥ずかしがらなくてもいいだろ」
…………ダメだこいつ話通じない。
俺は面倒くさくなって「一緒に出掛けるの初めてだからどこ行くか知らねーよ」そう投げやりに言った。
すると平野が「マジか、初デートかよ」と興奮しだした。
しまった、言うんじゃなかった。平野の声が大きい。
クラスメイトがチラチラ俺を見ている。
──なんだこれ、すごく……恥ずかしいんだけど。
自分の顔が赤くなっているのが分かる。
結局俺は小さな声で「デートじゃないから」と言うことしかできなかった。
平野にはきっと届いてない。
クラスメイトにも届かない。
ただ俺が顔を赤くして机に突っ伏しただけだ。
──これはヤバイ。
──非常にヤバイ。
こんなのが噂になったら……俺は耐えられる気がしない。
俺は深見に今日の昼と帰りは一緒にできないと連絡した。深見は特に理由を聞くことなく「了解」とだけ返信してきた。
久しぶりに教室で弁当を食べる。
平野は「どうしたんだよ」と言ったが珍しくそれ以上突っ込んでくる事はなかった。
放課後になっても中々椅子から立ち上がることができずにボーッと窓の外を見ていた。
何だか今日はおかしい、正確には昨日からか。自分の事がよくわからない、考えたくもない。
これはきっと考えたらダメなやつだ。
聞き慣れた「塔野」という声が聞こえる。わかっているけど反応が出来ない。そのままでいると深見が教室の俺の机の前までやって来た。
そういえば深見が俺の教室に入って来るのは初めてかもしれない。クラスメイトは気を使ったのか、いつの間にか俺と深見の二人きりになっていた。
「帰りは別でいいって連絡した」
「知ってる。ちゃんと了解って返事しただろ」
それなら何でいるんだ。
顔を合わせ辛いから断ったのに。
「………なんか、聞いた?……噂」
「噂?………噂は別に。でもお前のクラスのヤツから塔野は初デートに行く話をしてから様子がおかしいとは聞いた」
確かにそれは噂じゃない。客観的事実だ。
しかもこの上なく恥ずかしいやつだ。
「初デートってなに?」
「お、俺はデートじゃないって言ったんだ。でもクラスのヤツが…………デートだって」
「ふーん、それで昨日から意識してたんだ」
「ち、違う。俺は友達とただ買い物行くだけだって分かってる」
「付き合ってるわけじゃないからね」
「そうだよ。だからそれは分かってるんだよ」
「友達だからね」
「…………そうだよ」
「ちょっと顔が赤いけど」
「……気のせいじゃない?」
「こっち全然見ないし」
「………」
「じゃあ、何を意識してるの?」
「…………そ、それがわかったら……苦労しない」
俺の返答を聞いて深見は笑いだした。何だかすごく機嫌がよさそうだ。
俺はというと、顔と頭に熱が集まってグルグルしている感じがする。手に汗をかいていたのでズボンで拭った。
「ごめん、ごめん。ちょっといじめすぎた。お詫びに何か奢るよ。何がいい、マック? ラーメン?」
「……マック」
「じゃあ初デートはマックだ」
「はぁ? 何の事だよ」
「塔野免疫なさ過ぎなんだよ。だから変な事意識しすぎるんだよ。デートでも買い物でも食事でもどれでもいいだろ。目的が一緒なら名前なんてどうでもいいよ」
なるほど、確かにそれは一理あるかもしれない。
それならば目的は一緒に出掛けるって事か、それは今までの延長線上にある気がする。
「深見なかなか鋭いな」
「塔野よりは免疫も経験もあるからね」
さらっと自慢が入ったところは気になるが、そうか、確かにそうかもしれない。危ないところだった、何に対して危ないかは分からないけど。
とりあえず、ホッとしたらお腹が空いてきた。
「なんか昼あんまり食べた気がしなかったから腹減って来た。早く行こう」
「はいはい」
何食べようかとメニューに思いを馳せていると後ろを歩いていた深見が「塔野」と俺を呼んだ。
振り返ると深見は俺の方にゆっくり歩きながら「俺、お前の言ってたことなんとなくわかったかも」と言った。
──俺の言ってたこと?
「楽しくて……面白い」
深見は俺の目を見て楽しそうに「聞きたい?」と聞いてきた
「…………いらない」
それはきっと、ろくな噂じゃない。
「そうか、残念。俺も腹減ってきたな、早く行こう」
そう言うと深見は俺を追い越して靴箱に向かって行った。
深見の後ろを歩きながら考える。
俺の楽しみ方と深見の楽しみ方は少し違うような気がした。
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