人の噂は蜜の味

たかさき

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デートに行く話

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「思っていたより普通」
「え、ホント?」
「コメントし辛いくらい普通。もっとどっちかに振り切ってくれれば笑ったり貶したりできるのに」

 深見は俺の姿を見て残念そうにそう言った。

 それは悪い方しか想定されてないよね。
 でも笑われたり貶されたりされなくて良かった。
 昨日散々悩んで悩んで悩み抜いた俺が報われた瞬間だ。

 今日は土曜日。
 深見とお買物の日だ。なんならデートと言ってもいいだろう、そう言えるくらい俺のメンタルは強くなった。

「普通って言われた割には嬉しそうだよね」
 俺の隣にいるおしゃれ番長が言う。

 深見の格好は、形容し難いが……俺には似合わないであろうという事は分かる。
 素材の持ち味を活かした飾り付けがされている。わかりやすく言えばよく似合っている、格好いい、イケメンだ、以上。

 制服の時はあまり気にならないが、俺とは何かが違うんだなというのがよくわかる。俺が私服の深見の隣にいることに多少引け目を感じるのもしょうがないだろう。
 でもそれを気にせず隣にいたいのだから普通というのはある意味最高の評価かもしれない。おそらく深見は全く気にしていないと思うがいつも通りでいいんじゃないと言われた気分なのだ。


「今日はどこ行くんだ?」
「よく行く店があるんだけどそこで服をみて、あと靴と帽子もみたい」
「俺は何をしてればいいんだ」
「服みればいいんじゃない? 服屋に行くんだから」
「…………俺が? どうやって?」
「……どうやって? ちょっと質問の意図が分からない」

 深見が首を傾げる、実は俺もよくわかっていない。俺は無意識に怪しげな踊りを踊るようなジェスチャーをしていたようだ。
 ──なぜ俺がそんな事を知っているのか。
 それは後から深見にさんざん馬鹿にされたからである。

「……それなら俺の荷物でも持ってれば」
「えっマジで、そうならそうと最初っから言ってくれたらいいのに」
「何? なんで急に元気になった?」
「荷物持ちって役割があれば平気だろ。店員さんが寄って来ても俺荷物持ちなんでーって言えるじゃん」
「あぁ、そういう事」
「なんだったら一時間後にここでもう一回集合でもいいんだけどな」
「……何、それ?」
「だから、それぞれ見たいの見てもう一回ここに集まるの」
「……なに、それ?」
「…………」
「……な、に、そ、れ?」
「えーと、行きましょうか服屋さんへ」

 深見怖い、今すごく怖い目だった。俺は逆らうのをやめておこうと心に決めた……いい案だと思ったのにな。


 少し歩くと深見の行きつけだという小洒落たお店が見えてきた。

 俺があそこに入るには確実にまだ経験値が足りない。
 せめて何か装備を、守備力を上げるための装備が必要だ。

「深見君、お荷物お持ちしましょうか」
「まだ何も買ってないから持つものなんてないよ」
「はぁ? それじゃあ荷物持ちできないじゃん。丸腰でラスダンなんて死にに行くようなものじゃん」
「……お前は何処に行こうとしてるの」
「えっ、戦場かな」

 深見が呆れた顔で俺を見た後、俺を置いてさっさと店内に入ろうとする。俺ひとりでは絶対入れないので慌てて追いかけて同時に入店した。


 お店は小洒落てはいるがちょっと雑多な感じで、ワイルドで気さくそうな店員さんが「深見君いらしゃい」と出迎えてくれた。店員さんが俺を見てニッコリと微笑むので俺も愛想笑いを返していると深見が「そいつは空気なんで気にしないでください」と言う。店員さんが俺をもう一度見るので俺は何回も頷いた。

 それからの数十分、俺は本当に空気だった。

 最初は服を適当にとって自分に合わせてみたり、その似合わなさに愕然としたり、値札を見てこれゲーム買えるじゃんと驚いてみたりしていたのだが、だんだんと何故俺はここにいるのか、人の存在意義とはなにか、宇宙の始まりから果ては今日の夕食にまで思いを馳せることとなった。

 ふと気づくと深見の姿はなく俺の横には例の店員さんが立っていた。

「あれ? 深見は?」
「試着中だよ。君はなんか違う世界に行ってたよね」
 そう言って店員さんは俺の方を見た。

「君は何くん?」
「あ、塔野です」
「塔野君は深見君の…………」
「友達です」
「……だよねぇ」
 そう言うと店員さんはハッハッハッと笑うので俺も愛想笑いをしてみた。

 すると店員さんは俺に顔を近づけ声を潜めて「ちょっとだけ二人は付き合ってるのかなぁと思ったんだよね」と言った。

「付き合ってません。友達です」
「あぁうん、さっきも聞いた。即答だね」

 俺は、即答しつつ内心動揺していた。学校のやつならともかく、なぜ初対面の人にそんな事を言われるんだろう。
 俺は確実に空気になっていたはずだ。
 深見に話しかけるどころか目すら合わせてない。いつの間にか俺達が怪しく見えてしまう呪いでもかかっているのだろうか。

 そんな事を考えていると「君けっこう考えてる事顔に出やすいって言われない?」と言われた。

「何故かっていうと、まぁ単純に深見君がいつもひとりで来てたってのもあるんだけど、今日は選ぶ服がさぁ、いつもとちょっと感じが違うんだよね」
「感じが違う」
「そう、でもよく似合うと思うよ」
「まぁ、深見は何着ても似合いそうですよね」
「いやいや、君に」
「俺に?」

「そう、君の隣にいるのにお似合いの服だよ」

 そう言うと店員さんは俺にウインクをしてきた。
 深見が試着室から出て来たので店員さんはそちらに行き二言三言話をしたあとレジに向かっていった。

「なんで顔赤いの」
「なんかウインクされた」
「は?」

 深見が怪訝そうな顔をしている。
 まぁそうだろう。でも、そういう事にしておこう。

 店員さんがレジから「深見君、どうする? 着ていく?」と声をかけた。
「え? 持って帰りますけど」と深見は不思議そうに答えている。

 店員さんは服の入った袋を深見に渡しながら「無自覚なんだね」と言い、俺を見て「大変だね」と言った。
 二人で首をかしげると一通り大笑いをしてから「また一緒においで」と言って俺達に手を振っていた。



「なんか話したの?」
「いや別に、違う世界行ってたねとかそんなくらい」
「あぁ、なんか馬鹿みたいに呆けてたね」
「え、俺そんな顔してた?」
「うん、ある意味いつも通りだけど」
「いつも馬鹿みたいに言うなよ」
「そう言ってるんだけどね」
「ん?」
「ん?」

 深見を見ると、深見も俺を見たので目があった。

「…………なんか腹減らね」
「昼何食べる?」
「俺、深見の為につけ麺の美味しい店を調べたんだよ」
「……つけ麺食べたいなんて一度も言ったことないけど」
「ちょっと並ばないといけないから早く行こう」
「塔野が食べたいだけだよね、おい聞けよ」

 深見が熱望していたつけ麺は一時間並んだだけあってとても美味しかった。


 月曜日、朝から平野が「デートどうだった?」と聞いてきた。

「デートではないけど楽しかったよ。デートではないけどな」
「そうか、手……とか繋いだのか?」
「友達と買い物行ってなんで手を繋ぐ必要があるんだよ」
「お前ら結構プラトニックなんだな」
「だから付き合ってないんだよ。友達だって何回言わせんだよ」
「なるほど。深見が我慢強いんだな」
「なるほどじゃねーよ。お前人の話ちゃんと聞けよ」

 最近こういった噛み合わない会話をするのが常態化している気がする。いい加減噂話の情報を修正する必要があると思い細々と活動しているが一向に修正される気配は見えない。
 平野に至ってはもう不可能ではないかと思っている。
 自業自得なのはわかっているのだがあまりにも興味津々に聞いてくるのでちょっとウザい。こいつは俺の話から何か得るものがあるのだろうか?

「ペアルックとか……買ったりしないのか?」

 そんなもの買うわけないと言おうとして、ふと店員さんの言葉を思い出した。

 結局「買うわけないだろ」という言葉はなんとか言ったものの文字通り伝わったかは不明だ。

 俺も買ってないし、深見も買った覚えのない存在しないペアルックの噂が聞こえたのは帰る頃で、俺はみんな暇だなとため息をつきつつ頭を抱えた。
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