4 / 29
喧嘩の話
しおりを挟む「喧嘩?」
「そう、喧嘩。したことないと思って」
「したいの?」
「別にしたくない」
「だよね、俺もしたくない。くだらない、めんどくさい。でもなんでそんな話になったの?」
「聞かれたんだよ、喧嘩するのかって。それでよく考えたら喧嘩したことないなと思って、でもバカにされてることが多いなとも思ってムカついた」
「あー、それはしょうがないね」
「なんだよ、しょうがないって」
「塔野がバカだって常に思ってるわけではないけど、しみじみとバカだなぁと思うことも多いからどうしても態度にでるよね」
「出すなよ、隠せよ」
「お前がバカを出すなよ、隠せよ」
「出してねーよ。お前こそもっとバカを出してこいよ」
「えぇ、絶対やだ」
だいたいこんな感じの会話をして昼休みが終わる。
どう聞いてもよくある男子高校生の友達同士の会話だと思う。場所はだいたい中庭で俺たち以外にも人がいる。しかし会話が聞こえる範囲には人はいないはずだし、盗聴なんて大掛かりなことがされているわけでもない。
それなのになぜ、こんな質問をうけるのか?
「けんかしないコツ?」
「そう、二人って喧嘩したことないんでしょ。私のところ喧嘩ばかりでもう嫌になる。どうしたらいいかと思って」
最近こんな感じの質問? を受けることがたまにある。
──意味不明である。
そんなこと俺に聞いてどうする。恋愛に関しては初心者どころの話ではなくスタート位置にすら立てていないというのに。
しかし無碍にもできないお人好しな俺がいる。
恋愛相談だと思うから無理だとなるわけで、人間関係の相談だと思えば俺だって人間なのだから全く未知の領域というわけではないだろう。
そんな訳で真摯に答えたりする。
「深見が相手だと喧嘩にならない気がする」
だがたいていお望みの答えは出せていないようで
「ごめん、ラブラブな二人に聞いたのが間違いだった」
などと言って、使えねーみたいな空気をわずかに醸し出し去っていく。当て逃げにでもあった気分だ。
「深見にはそういう質問ないのか?」
「ないよ。あっても答えないし」
「え、そうなの?」
「律義に答えてる方が驚きだし、噂が増えていくわけがわかった気がする」
そう言ってため息をつかれた。
「答えないほうがいいのかな」
「……お好きにどうぞ」
「なんだそれ」
「好きにしろってこと、どちらでもいいよ。たぶんどっちでも同じだから」
「なんで?」
「なんでだろうね」
はぐらかされた気がする。
だが噂の発信源が自分であることは気付いているのでどうにかしたいとも思う。
深見は基本的にどんな噂が立っても何も言わない。特に否定もしていないらしい。
「楽しみたいんだろ」と言われた。たしかに俺は楽しみたいと言った。それならば噂一つに右往左往するのもおかしな話だ。
でも俺には確実に許容できる噂とできない噂がある。
特に最近後者のも物が増えた気がする。そしてそれは俺が発生源である自覚がある。
俺たちが付き合ってるという噂は依然としてあるが正直もうどうでもいい。いちいち否定するのも面倒くさくなってきたしそれで現状が変わるわけではない。
許容できない噂もただ俺が許容できないだけで噂の大筋に変化があるわけではない。俺の意識の問題だ。
果たして答えないという選択が俺に可能なのだろうか。
口で答えなくても表情に出ていたら一緒だし言葉で言っていない分誤解される可能性が高い。むしろ今まではそれで失敗している。
俺は嘘がつけない人間であるとよく言われる。ただ嘘をつく必要がないのでつかないだけなのだが……。
いっそ嘘をついてみればいいのかもしれない。
しかしその方向性が見えない。
付き合ってるという嘘は現状に一致してしまっていて意味がない。
別れたも嘘じゃないし、深見が嫌いとかいう嘘は深見と別行動の必要性が出てきて大ごとになりそうだ。ちょうど良い嘘というのは難しい。
教室に戻ると平野が「うかない顔してどうした? 深見と喧嘩でもしたか?」と聞いてきたので軽い気持ちで頷いた。
「えっマジで?」
自分で言ってきたくせに予想外の驚きを見せる平野を無視して自分の席に戻った。こういう時はあまり何も言うべきではないだろう。
放課後になり帰ろうとすると深見からメッセージが届いた。
『喧嘩してたっけ』というもので『してないと思う』と返信したがそれ以上連絡は来なかった。待ってても深見が来なかったので深見の教室に行くともう帰ったと言われる。
仕方ないので一人で帰る。
翌日、教室に行き、いつも通り授業を受けて、いつも通り昼になり、いつも通り中庭に行くがいつも通りに深見は来なかった。
連絡をすればいいことはわかっている。
──喧嘩したって嘘ついた。
──なんで先に帰った。
──どうして昼来なかった。
言えばいいし聞けばいいのにできない。
怒ったのだろうか。
俺はただ頷いただけだ。たったあれだけでという思いもあるが嘘は嘘だ。
嘘をついた自覚がある。
謝るべきなのだろうというのはわかる。謝るなら早くしたほうがいいというのもわかっている。わかっているが机に突っ伏してぼーっとしている自分がいる。
──何やってるんだろうな。喧嘩なんてしてないのに。
そもそもなんで嘘なんてつこうと思ったのだろう。答えても答えなくても一緒と言われたからだろうか。
それで結局またバカにされるのだから本当に救いようのないバカだ。
でもバカにされるだけならば別にいい。
どうしよう。
愛想をつかされたら。
あまり考えたくないが、これで終わりなんてことになったら。怖くて連絡すらできないとか笑えない。
「塔野、大丈夫か?……大丈夫じゃなさそうだな」
平野が聞いてきた。大丈夫じゃなさそうなのか、いま俺。
「喧嘩の理由なんなんだ?」
そう言われたが実際には喧嘩してないので理由なんかない。
「言いたくないなら言わなくてもいいけど、ちょっと見ていられない」
そんなにか、見ていられないほどの状態ってどんなのだろう。
他人ごとのように考えるが動く気力がないので返事すらできない。たしかに重症だろうな、とまた他人ごとのように考える。
「だから余計なお世話だと思ったけど深見呼びに行ったから」
──は? 誰が?
あわてて起き上がると女子に連れられて深見が教室に入ってきた。
──どうしよう大ごとになってしまった。
不機嫌そうな深見が俺の机のそばまで来る。深見は半目で俺に「懲りた?」と聞いてきた。俺は机に頭をついた状態で「ごめんなさい、もうしません」と謝った。
平野が「よくわからないけど仲直りできたのか?」と聞いてくる。
俺は深見を見つめる。
深見はため息をついて「今日はもう一緒に帰るから大丈夫」と言った。
「本当に勘弁してほしい、なんなのあの羞恥プレイ。嫌がらせ?」
帰りの深見君は激おこだった。
「バカなのは知ってるけどもう少し自分のバカっぷりをわきまえて欲しいし、お前のクラスお前に過保護過ぎない?」
俺は、すいません、そうですねといった相槌を繰り返した。
だがあまりの言われようにだんだんと反論したくなってきた。
「でも、ちょっと喧嘩したって嘘ついただけで急に連絡なしに先に帰るとか酷いだろ」
「ちょっとね、ちょっとか、反省してないね。でもいいやおもしろかったし」
「おもしろい?」
「ものすごい落ち込みっぷりで可哀想だって何人かに言われた、喧嘩なんてしてないのにね。さすがに呼び出し受けるのは想定外だったけど」
「おもしろいか?」
「…………まぁ、これからは余計なことは考えないほうがいいよ。ろくなことにならないから」
「おもしろかったのか?」
「……すごくおもしろかった」
「どこが?」
「塔野が落ち込んでるのが」
「それで昼もこなかったの?」
「そうだけど」
「……深見の馬鹿」
「は?」
そして俺たちは本当に喧嘩した。
正確には俺が一方的に。
しかし俺が怒っても深見の機嫌は良くなるばかりで、結局、深見相手に喧嘩は成立しないということを俺は身をもって知った。
22
あなたにおすすめの小説
30歳まで独身だったので男と結婚することになった
あかべこ
BL
※未完
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。
キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者
初恋は十三年経っても
高木凛
BL
獣医師・中津健人は家族の事情で故郷に戻ってきた。新生活の準備を終え、街を散策していた時、偶然入ったカフェで高校時代の同級生・西園裕也と13年ぶりに再会する。
カフェのオーナーとなった裕也は変わらぬ笑顔で健人を迎えるが、健人の心は複雑だった。裕也は健人にとって、高校時代に抱いた初恋の相手だったのだ。
【お知らせ】2026.03.07
新作(完全別作品)投稿開始しました!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/980607074/342037383
【お知らせ】2026.03.04
本作を「カクヨム」にも投稿開始いたしました。
https://kakuyomu.jp/works/822139846400772948
消えることのない残像
万里
BL
最愛の兄・大貴の結婚式。高校生の志貴は、兄への想いが「家族愛」ではなく「恋」であったと、失恋と同時に自覚する。血の繋がりという境界線、そして「弟」という役割に縛られ、志貴は想いを封印して祝福の仮面を被る。
しかし数年後、大貴の息子が成長し、かつての兄と瓜二つの姿となったとき、止まっていた志貴の時間は歪な形で動き出す。
志貴(しき):兄・大貴に長年片思いしているが、告げることなく距離を置いていた。
大貴(だいき):志貴の兄。10歳年上。既婚者で律樹の父。無自覚に人を惹きつける性格。志貴の想いには気づいていない。
律樹(りつき):大貴の息子。明るく素直だが、志貴に対して複雑な感情を抱く。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
【完結】番になれなくても
加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。
新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。
和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。
和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた──
新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年
天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年
・オメガバースの独自設定があります
・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません
・最終話まで執筆済みです(全12話)
・19時更新
※なろう、カクヨムにも掲載しています。
人並みに嫉妬くらいします
米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け
高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる