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名前を呼んでみる話
しおりを挟むごみ捨てという重大任務をおびてごみ捨て場に行く途中で深見を見かけた。
女子数人から「ユウくーん」と呼ばれている深見を見て何だか色々複雑な感情がよぎったが、そういえば深見ってチャラかったなという感想が最終的に残った。
深見の今の格好が以前とそれほど変わったわけではない。そもそも制服なのでチャラくするにしても限界がある。
周りがチャラかったのでチャラく見えたが今は隣にいるのが地味なのでチャラさが薄れているのかもしれない。そんな錯視があったような気がする。
それならば俺がチャラくなれば深見はまたチャラくなるのだろうか。
「イメチェンしてみようかな」
「塔野が?…………コンタクトぐらいならしてもいいかもしれないけど」
「髪型とかもさ、ちょっと変えてみようかなって」
「なんの影響?……じゃあ、ちょっと眼鏡とってみてよ」
眼鏡をとって深見の方を向くと前髪を軽く触られた。
それから深見はしばらくの間俺の髪をいじったあと「どんだけ悪いの?」と聞いてきた。
「あ゛?」
「あぁ、目。視力」
「あー視力ね。またなにかすごくバカにされたのかと思った。確か0.1はないな」
「ふーん、未知の世界だ。まぁそのままでいいんじゃない」
そう言うと深見の手は離れていった。
「なんか投げやりだな」
「あまり変えようがないよね。コンタクトにするくらい?」
「コンタクトってなんか怖いし面倒くさそうなんだよな」
「……なんで急にイメチェン?」
「いや、深見ってチャラかったよなと思って」
「塔野もチャラくなってみたいの?」
「そういうわけではないけど……」
どういうわけだろう。
自分でもよくわからない……変わってみたらどうなるのかと思ったのだが……でも、それも少し違うかもしれない。
「そのままでいいんじゃない」
深見がもう一度同じことを言った。
でも今度は投げやりな言い方ではなかったのでストンと胸に落ちた。おしゃれ番長がそう言うのならそれを信じよう。
そう思っていたらおまけで「普通なのはどうしようもないんだから」と言われた。
──こいつは余計な一言を付け加えないと気が済まないのかな。まぁチャラいのはキャラじゃないから無理だしやめておこう。
それでも、まだモヤモヤした感情は残る。
校内で深見を見かけることはたまにある。
でも見かけるからってわざわざ声をかけにいったりはしない。「あ、深見だ」と思うだけだ。ただ、目立つやつだとは思う。だから俺も名前は正確に覚えていなくても顔くらいは知っていたのだ。
チャラいグループから距離を置いた深見はボッチかと思ったがそうでもないようだ。昼と放課後は俺といることが多いがそれ以外の深見の生態は謎に包まれている。ただ今までその謎を知りたいとも思わなかったので謎は謎のままである。
「深見ってさぁ……モテるの?」
「なに、突然……塔野よりはモテるんじゃないの」
「そういうのはいいからさ、モテるの?」
「……まぁどちらかと言えばモテるとは思うけど、正確にはモテていた、になるかな」
「それって俺のせい?」
「……なに? さっきから、別に気にしてないけど」
モテなくなっても気にしないのか、さすが余裕のあるやつは違うな。
「この前から何? もしかしてモテたいの?」
深見が訝しげに聞いてくる。俺はモテたいのだろうか。
でも男子高校生たるもの、一度くらいモテてみたいと思うのは当然だろう。
「今の状態で誰からモテるつもりなの」
痛いところを付かれた。
たしかに深見と付き合ってるという噂がある限り俺がモテるということはありえないだろう。噂がなくてもモテるなんてことがあったかどうかわからないのに。
「俺、高校生になったら彼女つくって甘酸っぱい青春を送るって夢みてたのに……」
現状、女子との接点といえば深見とはどうなのといった興味本位な会話くらいだ。モテるモテないのステージはいつの間にか過ぎ去ってしまったらしい。
「人生ってままならないな……」
──自業自得だけど。
隣を見ると深見が声を出さず涙を流して笑っていた。震える肩を見て一瞬殺意が芽生えたのはしょうがないと思う。
教室に戻ると平野が仲良さそうに女子に小突かれている場面を見てしまい軽くショックを受けた。
──平野はこちら側の人間だと思っていたのに。
俺が席に着くと平野がやって来たので「何?」と聞くと「……何でもない」と言って女子の方に戻っていきまた小突かれていた。
よくわからないが……本当によくわかんねーな。
今日もごみ捨て係を拝命してごみ捨て場に向かう。
この前深見を見かけた場所をなんとなく見てみたが当然深見はいない。
──レアキャラ
まぁ後で会うのだが。
そういえばこの前深見はここでどんな顔で返事をしていたのだろう。
深見の反応を見ていなかった。
いや、見ていたかもしれないけど覚えていない。
そんな事を考えながら教室に戻ろうとしていたら、ごみを捨て忘れている事に気づき慌ててごみ捨て場に戻ることになった。
「もうボケたの?」
帰りに深見が失礼な事を聞いてきた。
「何で?」
「ごみ捨てに行って捨てずに戻って来たって」
「…………何で俺の行動は筒抜けなの?」
「面白いからじゃない?」
──不公平だ。
学校の深見はレアキャラなのに俺の行動は筒抜けなのか。
「深見も面白い事をすればいいのに」
でもその情報は俺に届くのだろうか。
届かないのに面白い事をされてもそれはそれで嫌だ。
「この前からおかしいよね。何かあったの?」
「別に何もないよ」
本当に何もない。
「ふーん」と深見が言って会話は終わった。
しばらく無言で歩いていると突然深見が「あ、そうだ」と言って鞄をあさりだした。
取り出したのは丸い小さな入れ物だ。
「ワックス?」と聞くと、深見は「そう」と軽く頷き手につけて「はい、こっち向いて」と言った。
おとなしくそちらを向くと真剣な顔が間近にあった。
「はい、終わり」と言ってすぐに深見は離れていく。
「見えないけど」と言うと「家帰ってから見たら?」と言って歩き出す。
すごく……楽しそうなのがムカつく。
俺の事が筒抜けなのも、レアキャラなのも、謎なのも、女子から名前で呼ばれてるのもムカつく。
いつも深見だけ余裕そうなのが、すごくムカつく。
なんでいつも俺だけこうなるのか。
なんとか深見を見返したいと沸いた頭で考える。
そして俺は、深見がものすごく嫌そうな顔をしていた瞬間を思い出した。
「ユウ!」
深見はとても驚いた顔をしたあと、俺の予想とは違う顔をした。
でもそれは、俺のモヤモヤを吹き飛ばすには十分すぎるくらいに楽しくて、とても面白いものだった。
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