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深見激甘期間の話
しおりを挟む「何その雑誌」
「ん~平野がさ、自分には無縁の物だったからって渡してきたんだけど、何処を突っ込めばいいのかわからなくてつい受け取ってしまった」
「乙女のキュンとする仕草ベストテン、壁ドン、顎クイ、袖クル……なにこれ、女子が読むやつだよね。しかも古くない?」
「……ほんとだ、古本屋で買ったのかな」
「平野くん何がしたいんだろう」
「そりゃあモテたいんだろう」
「モテるためにそんなことしてたら痛いやつだよね」
「……だから無縁だったんだろ」
深見とマックに来ている。
月見は絶対食べなくてはいけないものと俺の中で決まっているからだ。しかし深見は「ハンバーガーテイクアウトして目玉焼き作って乗っけたらいつでも食べられるんじゃないの」と夢も希望も何もないことを平気で言ってのける。
違う、そうじゃないんだと熱く語っていたら「ハイ、ハイ、しょうがないなぁ」と乙女胸キュン必至の蕩けるような笑顔で言われた。
深見の激甘期間継続中である。
心臓に悪いのでせめてちょい甘くらいにならないだろうか。そう願っているし言っているのだがなかなか聞いてはもらえない。
「やってあげようか?」
「ん? 何を?」
「それ、そこに書いてあるやつ」
「……あー、俺乙女じゃないからねー」
深見がまた妙なことを言い出した。この子こんな子だったかしらん。最近ハッチャケ過ぎだと思う、そんなに抑圧されていたのだろうか。開き直ったと言う方が正しいかもしれない。
いずれにしても反応に困るので迷惑な話である。
しかもサラッと変な事をいうので困る。
「塔野がウブなのはいいんだけどね。それはそれですごくからかい甲斐があるし反応が可愛いから。でもそれだと手を繋ぐ以上のことになかなか発展できないんだよね」
またサラッと妙な事をいくつか言ったような気がする。
もうどれを突っ込めばいいのかわからない。
「いつも手繋いでいるみたいに言うなよ繋いでないよっていうかそれ以上って何だよ。とりあえず友達でいいって話じゃなかったっけ?」
「それは肩書きの話だよね。スキンシップはまた別だよ。友達でもセックスする人だっているでしょ」
「それはセフレっていうまた別のジャンルの人だよね」
「その名称だとなんだか愛が足りないよね」
なんだろう、早く終わってくれないかな激甘期間。
「塔野」
「何だよ」
「これは塔野の言うところの激甘期間云々の話じゃないから」
「えっ、そうなの」
「そうだよ。好きだったら触りたいって思うだろ?」
「……俺はあんまり」
「……まぁそこに個人差がある事は認めよう」
そう言いながらも手が伸びてくるので避ける。最近妙に触ろうとしてくるのはそういうことか。
深見は空振りに終わった手をプラプラさせつつ「まぁいいけどね」と呟いた。
諦めてもらえたようなので安心してポテトの残りを食べるが深見は何かを考えているようでポテトが丸々残っている。どうせまたろくな事を考えてないのだろう。
ドリンクを飲みながらジッと深見を観察していると「あ、いる?」と言ってポテトをよこして来た。ありがたく食べるが別にポテトをよこせと言う意味で見ていたわけではない。
「深見、さっきから何考えてるんだよ」
「ここらへんに手頃な壁があったかなって」
「手頃な壁って何、そんな言葉初めて聞いた。本気であれやる気なの? バカじゃないの」
「……されたくないの?」
「されたいなんて言ってないし、だいたいなんで俺がされる側って決まってるんだよ」
「それはほら、身長差が」
「変わんねーだろ。差ってほどないよ、たった3センチだろ」
「……それが違うんだな」
「は?」
「5ミリ伸びてた」
「……バッカじゃねーの、そんなの誤差の範囲だろ。何だったら3センチも誤差の範囲だろ」
「3.5センチね」
「…………知るかよっっ!」
なんか…………疲れる。
あんなやつだったかなぁ……あんなやつだったような気もするなぁ。ちょっかいのかけ方が変わったから疲れるのかなぁ。嫌がらせだとしたら完璧だよなぁ。
「どーした? なんか疲れてない?」といつものように平野が聞いてきた。
「よくお分かりで」
「なに、なに、ちょっと平野君に言ってみろよ。でものろけなら聞かないぞ」
「のろけではないんだけど……。実は深見がさ、なんかバカっぽいんだよね」
「……それはある意味病気みたいなやつだろ」
「病気か……治るかな」
「つける薬はないって言うし無理じゃないかな」
「そうか無理か」
「…………これ、のろけだよね」
「切実な悩みなんだけどな」
「でも元々深見ってさ、愛想もいいしノリもいいんだけど一定距離以上は人を寄せ付けないっていうか、ミステリアスなところがあったから、なんか意外だよな」
「俺あんまり一緒にいる前の深見知らないんだよな」
「そうなの? だいたい深見ってさ………………いいヤツだよな」
「どうした?」
「俺用事あるの忘れてた、もう帰るよ、またな」
「おい平野」
なんなんだろう、平野がダッシュで帰っていった。あいつもけっこう変なやつだよな。
「なんの話」
「うわっ、……音もなく背後に立つなよ」
深見がいつのまにか俺の背後に立っていた。また溢れんばかりの笑顔である。なるほど、これを見て平野は逃げていったんだな、変なやつだと思ってごめん。
「なんの話ししてたの」
「深見の話だよ」
「なんて言ってた」
「深見が…………腹黒いって」
「そうだった? いいヤツって言ってなかった?」
「たぶんそれは幻聴だよ」
「……罰ゲームの事だったら本当に俺は仕組んでないよ。塔野のこと知らなかったのも本当だし」
「そういえばなんで俺だったんだろう?」
「適当に人探してたらたまたま文句言わなさそうなのがそこにいたからって言ってたね」
「俺文句は言う方だけど」
「実際は文句言わずにホイホイ呼び出し受けてたくせにね」
まぁ、それについては反論のしようがない。
「でもよかったよね塔野で、平野くんだったら俺帰ってたかも」
「どういうこと?」
「一目惚れって事かな」
深見はそう言うととても綺麗に微笑んだ。
一瞬胸の辺りがザワついた……が騙されるわけにはいかない。
「…………それ嘘だろ、お前今サラッと過去を捏造しただろ。俺に興味なんかなかったくせに。だから腹黒いって言ってるんだよ」
「塔野はこういうのに素直にときめかないからなぁ」
「なんで事実じゃないのにときめかなくちゃいけないんだよ」
「事実だったらいいの?」
「そういう事じゃないだろ」
「うーん、やっぱりこういうやつの方が反応がいいよね」
そう言うと深見が俺の腕を掴んで壁に押し付けた。
これは…………顔が近すぎるだろう直視できない。どこを見たらいいかわからず目をつぶってから、これはこれで間違いじゃないかと焦る。
でも今更開けられない……というか…………いつまで……。
「期待しているところに悪いけど、さすがに学校でキスするつもりはないよ」
恐る恐る目を開けると深見が微笑んでいる。
…………今なんて言った?
「はっ…………おまっ………」
「はいはい、帰ろうか」
そう言って俺の手を繋いで歩き出した。
今何が起きた、何をされた、なんて言った?
っていうか「手っ!」
「とりあえずツッコむのそこなんだ」
「え、なんで、あれ?」
「気持ちいいくらいの混乱っぷりだね」
「あれ? バカにされてる?」
「バカにはしてないよ」
「…………あぁ、深見がバカなんだな」
「まぁ否定はしないよ」
「……はっ? 期待してねーし!」
「やっと追いついたか」
こいつ……なんて、恐ろしいことを……。
リミットブレイクした深見は恐ろしいな。ちょっとこれはこちらも対抗策を打ち出さないと身が持ちそうにない。俺に対抗策があるのだろうか、圧倒的な経験値の差がそこにはないだろうか。
もう逃げるしか道は残されていない気がする。
あれ?俺何か間違えたかな?
でもいきなり一緒に帰るのをやめるのも大人げないというか、まぁまだ子供だけれども。
「塔野」
「あ゛、今度は何?」
「靴履きたいからさ」
「……履いたら?」
「手……離してもいいかな」
俺は当分の間、深見と一緒に帰るのをやめようと決意した。
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