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つらみざわぴえみ

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序章

理想と現実のあいだ

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 必要とされなかったら、存在しないのと同じ。


 はじめまして。僕は空閑くがなお。楓華ふうか学園に通う高校二年生。桜が咲く季節。春休み最後の日を噛み締めながら、明日からの学校に備えて準備をしている。とは言っても、始業式だから荷物は少ない。春休みの宿題も済ませたし、制服や体操服のアイロン掛けもした。上履きも洗ったし成績表も入れて…っと。僕は真面目な性格だ。いや、真面目でなくちゃいけないんだ。


 機械科と音楽科を学びたい僕は、総合学科( 選択授業 )を採用している楓華学園に入るため、親元を離れて県外から越してきた。坂道に建つ一軒家に一人で暮らす婆ちゃんの家に世話になっている。この地に来て二年。まだ慣れないことも多いけれど、面倒を見てくれる婆ちゃんや、遠くから支えてくれる父ちゃんを心配させないためにも真面目でなくちゃいけない。そして、いつか立派な大人になって恩返しをするんだ。それから、天国にいる母さんにだって、立派な姿を見せたいんだ。そのためにも今は頑張らないと。そう強く思っている。



だけど…



だけど、本当は学校に行きたくない。



何故なら、僕は虐められているから。



 原因は僕の苗字、空閑にある。空閑くが空閑くうかんとも読み、暇と同じ意を成す言葉。そのため一部の生徒からは暇人やくうと呼ばれ、掃除当番やゴミ出し、日直やプリント回収などの面倒事は僕に押し付ける。購買へのパシリや金銭の請求も日常的だったけど、誰もが見て見ぬふりをするだけの残酷な世界。押し潰されそうなほど苦しいけど、婆ちゃんや父ちゃんを悲しませるかもしれないと思うと言えなかった。先生やいじめ相談窓口を頼れば、大ごとになりそうで怖い。どんな形であれ、必要とされるだけマシなのかな?隠れて涙する日もあるけれど、一度も学校は休まなかった。


……どこで間違えちゃったんだろう…………


 中学生の頃に思い描いていた学園生活との違いに胸を痛めながらも、僕はいつも”笑顔”で家を出る。玄関で笑う母さんの写真に向かって。それはとても辛かったけど、明日からはきっと大丈夫。だって、新しいクラスが始まるんだ。僕を虐めてくる奴等とは離れられて、初めての友達もできて、一緒に弁当を食べて、帰り道も一緒に歩いて、それから……きっと恋愛だって……!


 そんな期待を抱きながら、部屋の灯りを消した。
 目を瞑ると、そこには理想の学園生活が広がった。








 だけど……だけどやっぱり不安だ……怖い…………。
















「 学校……行きたくないな。」

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