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約束
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「ごめんなさい、しばらく一人にしてくれるかな?」
側にいてくれたカインとニーアに鳥籠から出ていくようにお願いすると、何も言わず引いてくれた。
部屋に一人取り残され、先程のセプトの言葉の意味を考える。
そのままの意味なら、私のことを好きなのだろうか?
自身で『好き』の言葉を浮かべて、逆に恥ずかしくなる。
セプトが、私を好き?ありえない!だって、だって……そんな要素、どこにあったの?
この鳥籠から出られない私のために、道の悪い中、毎日会いに来てくれていた。
それすら、義務か何かで来ていたのだと、今さっきまで、思っていたのだから……
『好き』の二文字が、混乱を招く。
セプトの気持ちもわからずに、ベッドへと転がった。誰もいない部屋だ。少々だらしなくしていても、叱るものは誰もいない。
ゴロゴロとベッドの上でしていて、自分の頭の中にある呪文が思い浮かんだ。
『俺をビアンカが縛ってくれればいい。国民のこと以外は、ビアンカのために生きる。それくらいの覚悟は、出来ているから』
このセプトの言葉どおり、縛ることができる魔法が1つだけあった。私だけが使える魔法。行使すれば、セプトが私だけをずっと見続けてくれるものだ。
「私は、この魔法が怖くて使えなかったな……アリーシャに向かう殿下の熱いまなざしが苦しくて、何度も使おうとしたけど……どうしても、使えなかった」
『エイス、トゥ、バラァ』
「偽物の愛情を向けられても、虚しいだけ……それは、わかっていたの。だから……」
当時の感情が蘇る。目元を抑え、溢れそうになるものをなかったことにする。
頭の中に思い起こすのは、もう、顔も思い出せない王子であった。
もし、その王子と同じことが、セプトにも起こったら……私は、どうするのだろう?帰る場所もない私は、一生この鳥籠からでることは出来ない。
セプトの言う通り、魔法で縛ってしまえば……いいのだろうか?
グルグルと考えていた。
いつの間にか、夜になっていたらしい。
鳥籠の外が少々騒がしくなっていたので、ベッドからむくりと起きた。
明日は、儀式なので、体を清めたりと忙しいのだか、ニーアは、私を慮ってくれていたらしい。
ただ、夕飯の時間が近づき、セプトが来たのではないだろうか?
会いたいような、会いたくないようなモヤモヤした感情を抱いたまま、ドアを見つめる。
遠慮がちに開いたドアから顔を出したのは、ニーアだった。
「ビアンカ様、あの、お食事の時間ですけど……」
「セプトもいる?」
「……はい。あの、もし……」
言いにくそうにしているニーアに微笑みかけ、セプトに入ってもらうよう指示をすると、ドアを開きセプトが無遠慮に入ってくる。
「あれから、考えてたってところか?」
「考えても、セプトの気持ちなんて、セプトじゃなかいから、わからないのにね?」
ふふっと笑うと、確かにと返ってきた。
私は意を決して、魔法のことを伝えることにする。
「食事が終わったら、二人だけで話をする時間はあるかしら?」
「あぁ、もちろん。実のところ、明日の儀式で柄にもなく、緊張してるんだ」
「本当ね?」
「まぁな。それだけ、特別なことなんだろう……ふぅ……」
珍しくセプトもため息をついていた。私が嫌だと騒いでいるせいで、きっとセプトも調整に苦労しているのだろう。
「今日は、静かなんだな?」
「そうかな?考え事してたから、ちょっと疲れちゃって……」
手の届くところにいたセプトは私の頬を撫でた。
どうしたの?と小首をかしげると、触れたくなったという。
「ビアンカの肌はつるつるなんだな?」
「もちろん!あの薬草たちのおかげよ!自分で調合しているから」
「魔法入りの保湿剤か。羨ましい」
「セプトも使う?また作れば、いいから……」
意外と乾燥肌らしいセプトに私が使っているものを渡すと、早速手に取っていた。
ご飯を食べてからでもいいのにと笑うと、試してみたい性分なだそうで、肌に馴染んでいいなと呟く。
食事が終わった頃、お茶の用意だけしてもらい、ニーアは下がってくれる。
「ニーア、今日はもう帰っても大丈夫よ!ありがとう。明日の朝、早く来てくれるかしら?」
「わかりました。では、先に休ませていただきます」
部屋から出ていくニーアを見送り、セプトと二人になった。
シンと静まり返った鳥籠の中、カップを置く音だけが響く。
「それで、話したいことって言うのは?」
「うん、今日のお昼に言っていた……」
「魔法で縛るってやつか?」
「そう。一つだけ、そういう魔法があるの」
「なるほど。それで、どうしたい?俺は、かけてもらっても一向に構わない」
「わかったわ。セプトが肌身離さず身につけられるものってあるかしら?」
うーんと考えている。指輪、ネックレス、剣、ブレスレット……イロイロあるだろうが、セプトは、何一つ身に着けていない。
王族なら、それらしく飾りたい人も多いのだが、興味がないらしい。
「明日、商人を呼び寄せてある。そのときに買わないといけないものもあるから、ビアンカが好きなものを選んだらいい。それで、魔法は、どうするんだ?」
「魔法は、かけないわ!私だけ使えるのなら、余計に……対等であった方がいいでしょ?」
「わかった。なら、約束をしよう」
「約束?」
「あぁ、まだ、ビアンカに何も言ってなかったなと思って」
ますます、セプトが何を言いたいのかわからず、じっと見つめる。
机の上にあったカップを脇によけ、私の手を取った。
「ビアンカ」
真剣な眼差しに私の心臓が跳ねる。
それと同時に、握られていたセプトの手に少しだけ力がこもった。
何か、大事なことを伝えるんだ……緊張のようなものを手から感じ取る。
「……はい」
「俺との婚約は、嫌かもしれないが……受けて欲しい。俺と結婚して、ビアンカが望む幸せには程遠くなってしまうかもしれないけど、これから先、どんなことがあっても必ず守るから……」
「……」
「戸惑う気持ちも、わかる。信じてくれとは、胸を張って言えないからな。第三王子だから、権力もない。ただ、ビアンカを想う気持ちだけは、出来た。この先、隣にいてくれないか?」
「私、セプトに守ってもらわないといけない程、弱くはないわ!それに、信じているか、いないかなら、セプトのことは信用しているわよ!この鳥籠に入れるってだけで、信用に値するもの。何より、カインやミントの剣やナイフからセプトの気持ちを感じたとき、相手を思いやれることも知った。
人間だもの!欠点は誰にでもあるものなのだから、これから、補いあっていけばいいわ!」
「なら……」
「騒ぎ立てて、ごめんなさい。婚約の件、もちろん、受けるつもりよ!」
「……よかった」
ホッとした顔をしているセプト。振られるとでも思っていたのだろうか?そんなこと、無いのに。
出会いは最悪、今日までお互いに歩み寄るためにいろいろと試行錯誤してきた。
その努力は、今日のためにあるのだ。
守ってくれるというのも、物理的な話ではなく、きっと、貴族間の面倒な話からってことなのだろうことはわかっていた。
私に後ろ盾はいないのだ。いつ、消えてもおかしくない存在ではある。
「セプト」
「ん?」
「縛る魔法は、使うつもりないの。ただ、」
「ただ?」
「加護の魔法だけは、使わせてくれるかしら?私、あなたがいなくなってしまったら、文字通り生きていけないのよ……」
「わかった、そんなことならいくらでも。今、かけられるものなのか?」
「いいえ何か触媒が必要なの。あなたへ贈る魔法だもの。明日見るものの中で、選ばせて。あなたに似合うものがあるはずだから……」
ありがとうというと、席を立つセプト。
私の元へ来て、おでこにキスをする。
「明日は、儀式だ。ゆっくり休んでくれ!」
一人、鳥籠に残される。
私は、お気に入りの窓際へ移動して壁に体を預けた。見上げると星が瞬いていた。
その星を見上げながら、セプトのことを考えた。まさか、自身の意思を持っていたなんて、思わなかった。
小さくため息をひとつつき、セプトの気持ちに応えられるよう、これから先、ぽぅっと灯った蝋燭のような穏やかな気持ちを育てていこう……私もセプトの隣に立つ決意をした。
側にいてくれたカインとニーアに鳥籠から出ていくようにお願いすると、何も言わず引いてくれた。
部屋に一人取り残され、先程のセプトの言葉の意味を考える。
そのままの意味なら、私のことを好きなのだろうか?
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この鳥籠から出られない私のために、道の悪い中、毎日会いに来てくれていた。
それすら、義務か何かで来ていたのだと、今さっきまで、思っていたのだから……
『好き』の二文字が、混乱を招く。
セプトの気持ちもわからずに、ベッドへと転がった。誰もいない部屋だ。少々だらしなくしていても、叱るものは誰もいない。
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『俺をビアンカが縛ってくれればいい。国民のこと以外は、ビアンカのために生きる。それくらいの覚悟は、出来ているから』
このセプトの言葉どおり、縛ることができる魔法が1つだけあった。私だけが使える魔法。行使すれば、セプトが私だけをずっと見続けてくれるものだ。
「私は、この魔法が怖くて使えなかったな……アリーシャに向かう殿下の熱いまなざしが苦しくて、何度も使おうとしたけど……どうしても、使えなかった」
『エイス、トゥ、バラァ』
「偽物の愛情を向けられても、虚しいだけ……それは、わかっていたの。だから……」
当時の感情が蘇る。目元を抑え、溢れそうになるものをなかったことにする。
頭の中に思い起こすのは、もう、顔も思い出せない王子であった。
もし、その王子と同じことが、セプトにも起こったら……私は、どうするのだろう?帰る場所もない私は、一生この鳥籠からでることは出来ない。
セプトの言う通り、魔法で縛ってしまえば……いいのだろうか?
グルグルと考えていた。
いつの間にか、夜になっていたらしい。
鳥籠の外が少々騒がしくなっていたので、ベッドからむくりと起きた。
明日は、儀式なので、体を清めたりと忙しいのだか、ニーアは、私を慮ってくれていたらしい。
ただ、夕飯の時間が近づき、セプトが来たのではないだろうか?
会いたいような、会いたくないようなモヤモヤした感情を抱いたまま、ドアを見つめる。
遠慮がちに開いたドアから顔を出したのは、ニーアだった。
「ビアンカ様、あの、お食事の時間ですけど……」
「セプトもいる?」
「……はい。あの、もし……」
言いにくそうにしているニーアに微笑みかけ、セプトに入ってもらうよう指示をすると、ドアを開きセプトが無遠慮に入ってくる。
「あれから、考えてたってところか?」
「考えても、セプトの気持ちなんて、セプトじゃなかいから、わからないのにね?」
ふふっと笑うと、確かにと返ってきた。
私は意を決して、魔法のことを伝えることにする。
「食事が終わったら、二人だけで話をする時間はあるかしら?」
「あぁ、もちろん。実のところ、明日の儀式で柄にもなく、緊張してるんだ」
「本当ね?」
「まぁな。それだけ、特別なことなんだろう……ふぅ……」
珍しくセプトもため息をついていた。私が嫌だと騒いでいるせいで、きっとセプトも調整に苦労しているのだろう。
「今日は、静かなんだな?」
「そうかな?考え事してたから、ちょっと疲れちゃって……」
手の届くところにいたセプトは私の頬を撫でた。
どうしたの?と小首をかしげると、触れたくなったという。
「ビアンカの肌はつるつるなんだな?」
「もちろん!あの薬草たちのおかげよ!自分で調合しているから」
「魔法入りの保湿剤か。羨ましい」
「セプトも使う?また作れば、いいから……」
意外と乾燥肌らしいセプトに私が使っているものを渡すと、早速手に取っていた。
ご飯を食べてからでもいいのにと笑うと、試してみたい性分なだそうで、肌に馴染んでいいなと呟く。
食事が終わった頃、お茶の用意だけしてもらい、ニーアは下がってくれる。
「ニーア、今日はもう帰っても大丈夫よ!ありがとう。明日の朝、早く来てくれるかしら?」
「わかりました。では、先に休ませていただきます」
部屋から出ていくニーアを見送り、セプトと二人になった。
シンと静まり返った鳥籠の中、カップを置く音だけが響く。
「それで、話したいことって言うのは?」
「うん、今日のお昼に言っていた……」
「魔法で縛るってやつか?」
「そう。一つだけ、そういう魔法があるの」
「なるほど。それで、どうしたい?俺は、かけてもらっても一向に構わない」
「わかったわ。セプトが肌身離さず身につけられるものってあるかしら?」
うーんと考えている。指輪、ネックレス、剣、ブレスレット……イロイロあるだろうが、セプトは、何一つ身に着けていない。
王族なら、それらしく飾りたい人も多いのだが、興味がないらしい。
「明日、商人を呼び寄せてある。そのときに買わないといけないものもあるから、ビアンカが好きなものを選んだらいい。それで、魔法は、どうするんだ?」
「魔法は、かけないわ!私だけ使えるのなら、余計に……対等であった方がいいでしょ?」
「わかった。なら、約束をしよう」
「約束?」
「あぁ、まだ、ビアンカに何も言ってなかったなと思って」
ますます、セプトが何を言いたいのかわからず、じっと見つめる。
机の上にあったカップを脇によけ、私の手を取った。
「ビアンカ」
真剣な眼差しに私の心臓が跳ねる。
それと同時に、握られていたセプトの手に少しだけ力がこもった。
何か、大事なことを伝えるんだ……緊張のようなものを手から感じ取る。
「……はい」
「俺との婚約は、嫌かもしれないが……受けて欲しい。俺と結婚して、ビアンカが望む幸せには程遠くなってしまうかもしれないけど、これから先、どんなことがあっても必ず守るから……」
「……」
「戸惑う気持ちも、わかる。信じてくれとは、胸を張って言えないからな。第三王子だから、権力もない。ただ、ビアンカを想う気持ちだけは、出来た。この先、隣にいてくれないか?」
「私、セプトに守ってもらわないといけない程、弱くはないわ!それに、信じているか、いないかなら、セプトのことは信用しているわよ!この鳥籠に入れるってだけで、信用に値するもの。何より、カインやミントの剣やナイフからセプトの気持ちを感じたとき、相手を思いやれることも知った。
人間だもの!欠点は誰にでもあるものなのだから、これから、補いあっていけばいいわ!」
「なら……」
「騒ぎ立てて、ごめんなさい。婚約の件、もちろん、受けるつもりよ!」
「……よかった」
ホッとした顔をしているセプト。振られるとでも思っていたのだろうか?そんなこと、無いのに。
出会いは最悪、今日までお互いに歩み寄るためにいろいろと試行錯誤してきた。
その努力は、今日のためにあるのだ。
守ってくれるというのも、物理的な話ではなく、きっと、貴族間の面倒な話からってことなのだろうことはわかっていた。
私に後ろ盾はいないのだ。いつ、消えてもおかしくない存在ではある。
「セプト」
「ん?」
「縛る魔法は、使うつもりないの。ただ、」
「ただ?」
「加護の魔法だけは、使わせてくれるかしら?私、あなたがいなくなってしまったら、文字通り生きていけないのよ……」
「わかった、そんなことならいくらでも。今、かけられるものなのか?」
「いいえ何か触媒が必要なの。あなたへ贈る魔法だもの。明日見るものの中で、選ばせて。あなたに似合うものがあるはずだから……」
ありがとうというと、席を立つセプト。
私の元へ来て、おでこにキスをする。
「明日は、儀式だ。ゆっくり休んでくれ!」
一人、鳥籠に残される。
私は、お気に入りの窓際へ移動して壁に体を預けた。見上げると星が瞬いていた。
その星を見上げながら、セプトのことを考えた。まさか、自身の意思を持っていたなんて、思わなかった。
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