乙女ゲームに転生したモブの僕は最悪ルート(ハピエン)に爆進した悪役令嬢の義理の兄になったので、可愛い義妹を溺愛したい!

悠月 星花

文字の大きさ
19 / 31

第19話 なんのために命をかけるのかを

しおりを挟む
 ダグラスからの招待で王宮に通う日々。養父が、王族として僕が王宮へ戻ることがあるかもしれないと見越して、教育をしてくれていたおかげで、ダグラスからの要求は難なくこなすことができた。
 ただ、ひとつだけを除いて。ジャスティスがというより、現代の僕が、誰よりも上位のものとして、人を使うことに慣れていないことが、原因でうまくいかないことが多くある。

「ティーリング公爵は、想定した以上の教育をしていたようだが、ジャスの優しさか……何故か、グレン以外を使うことに抵抗があるのか?」
「まぁ、ここは、屋敷ではないですからね。気の知れない他人に命令するのは、なかなか……」
「他ができるからこそ、もったいない。いずれ、王太子となるにも関わらず、それができないと、タヌキな臣下どもになめられるぞ?」
「そうなったら、そうなったですよ。僕の代わりができる人材を冷たい椅子に置けばいいだけです」
「その人材も、グレン以外いないではないか?」

「まったく……」と、ダグラスに大きなため息をつかれ、苦笑いを返しておく。

「それはおいおい見つけます」
「そんなに悠長にはしていられないと思うがなぁ? 早々に決めないと」

 今日は、僕の近侍となるもののお見合い姿絵を見ていた。最低限、文官と武官は揃えるようにと言われ、このありさまだ。お見合い写真……、それも男ばかりのプロフィールをペラペラとめくっていく。

「ここで、こうしているより、実際、見たほうがいいな。見に行ってもいいですか?」
「そう、だな。何枚見ても、ため息をついて、いつまでも選べそうにないしな」

 ダグラスは、重い腰をあげ、近衛たちがいる訓練所まで、連れて行ってくれた。

「明日からは、一人で来れると思います」
「明日も来るのか?」
「ダメですか? 一度見て決められるほど、僕の信頼は安くないですよ! 文官もほしいので、訓練所を見た後、ふらふらと城の中を歩き回ります。気になるものがいれば、後で質問をいいですか?」
「あぁ、構わないが……時間は本当にないのだぞ?」
「……だからって、ここで手を抜いてしまっては、結局、遠回りになりますよね?」

「ありがとうございます」とぺこっと頭を下げ、訓練所の見やすい場所へ移動する。グレンが後ろに立ち、僕は訓練場を眺める。正直な話、どの人物も同じように見えてしまう。この際、誰でもいいのでは? とさえ思えてくる。

「さっきも思ったけど、剣術とかよくわからないんだよな。嗜み程度には、使えるけど……」
「目を引くものは、いないのですか?」
「……あぁ、そうだな。なんか、みんな同じに見える」

 誰が見ているかわからないので、姿勢を正してはいるが、わからない程度には力を抜いていた。
 そこに一人の近衛がやってくる。明らかに、こちらは訓練をサボりましたというふうで、僕たちを見て気まずそうにしている。
 一瞬、そっちを見たが、すぐに視線を訓練場へと向けた。視線を感じながらも、そちらを見ないでおくと、向こうがしびれを切らしたようで話しかけてきた。

「あのさ?」
「なんだ?」
「近衛の訓練なんて見て、おもしろいのか?」
「……おもしろいかおもしろくないかと単純な質問なら、正直言って、おもしろくない。そっちこそ、そんなに僕へ熱のこもった視線向けられても、婚約者はいるから、応えられない。悪いね?」
「何を勘違いしているのか知らないが、男とかありえないから」
「それは、奇遇だな」

 ふっと笑う気配がしたので、僕はそちらを向く。アイスブルーの瞳と視線があったと思ったら、とても驚いた表情を向けられた。

「どうかしたか?」
「……あぁ、えっと……失礼な言葉遣い、申し訳ありません」
「どうした? いきなり。さっきまでと同じで……」
「……王族だろ? いや、ですよね? その金の瞳」

「あぁ、これな」と、目を隠すようになぞる。僕だって最近、王族だということを知ったばかりなので慣れないし、未だ、秘匿となっている僕の存在は、その青年からしたら怪しいヤツだろう。

「一応な。最近まで王族として生活していないから」
「……同じ年くらいなのに、学園には行っていなかったのですか? 学園にいたなら気付いて」
「……学園か。卒業はしている」
「では……」
「行っていないんだ。学園には。2つ年下の義妹の考える事業を次々と運営していかないといけなかったし、それしか生き甲斐がなかったから」
「学園に行っていない? ……もしかして、幽霊答案のヤツか? ……ですか?」
「幽霊答案?」
「ジャスティス・ティーリング。試験という試験は、全てに満点を取っている。それなのに、いつも授業中の席は空。みんなで、ジャスティスという人物は架空で、いないんじゃないかっていつも言ってた。……のです」

 最初に笑ったのは、グレンだった。いつも僕についてくれていたが、その一部始終を知っている。と、言うより、僕に勉強や礼儀作法を教えたその人が、嬉しそうにしていた。
 試験の結果なんて、気にしたことがなかったから、何点だったかなんて知らなかったし、グレンも知らなかったらしい。

「いいですね! ジャスティス殿下。幽霊答案。実におもしろい逸話になっているじゃないですか? あれほど、授業には出て友人を作るようにと何度も窘めたのに」
「いいじゃないか! 僕は可愛いアリアのお願いをきくこと以外、何の興味もなかったのだから」
「くふっくふふふ……。今は、そうは言ってられませんけどね? アルメリアお嬢様の心は、ジャスティス様に向いているでしょうが、花には水も肥料もあげ、愛情をもって接しなければ、枯れてしまいますよ?」
「うるさいな、グレンは。僕だって、今すぐにでも、アリアの元に飛んでいきたいくらいなんだ。養父上の許しが出ない限り、屋敷に近づけない。あぁ、出来の悪いクソ弟のせいで、アリアがどんな想いをして過ごさなければならないのか、気が気でないんだからな!」

 グレンを睨んで、アルメリアのことを想った。もう、会えなくなって2週間。部屋を出ていくアルメリアの表情を思い出すとグッと胸が詰まるようだ。

「……王子様?」
「王子と呼ぶな。まだ、王子ではない」
「何を言ってらっしゃいます。ジャスティス殿下は、第一王子ですよ? ティーリング公爵家に名を連ねてはいません。便宜上、ティーリングと名乗らせてはいましたけどね?」
「「えっ?」」

 グレンの言葉に、僕が驚くのはわかる。が、この青年がとても驚いていたことの方が、不思議で仕方がなかった。
 アイスブルーの瞳が、僕をジッと見つめてくる。

「第一王子って……魔王って噂があったけど、本当に魔王なのですか?」
「魔王かどうかは知らない。魔法が使えるわけでもないし」

 少し考える様子の青年が、急に跪き頭を垂れた。僕は何をしようとしているのかわからず、グレンを見上げる。呆れたようにして、首を横に振った。

「魔王様」
「魔王ではない。ただの人間だ」
「でも、王族は末裔なんでしょ?」
「……一応な。それも、だいぶ、血が薄まっているから、それが本当かどうかもわからぬ」
「聖女が現れたとき、対となる魔王が現れると……」
「それは、御伽噺の話ではないか?」

 ため息をついて一蹴する。それでも、何か必死なのか、食い下がるように、さらに頭を下げた。

「お願いします! 魔王の……殿下の近衛に、親衛隊にしてください!」
「はっ? なんでいきなり?」
「俺は、いや、私は……魔王に仕えていた親衛隊の一族の末裔。ここしばらく、王族に魔王が生まれないことで、すっかり名は廃れてしまっていましたが、復活しているのなら、どうか!」

 懇願する青年をジッと見た。今日初めてあった青年。まだ、名すら聞いていないし、ここにいるということは、訓練をサボっていたということだ。そんな人物を親衛隊として側に置いていいのか……と、考えた。

「……答えは、しないだ」
「……そうですかって、食い下がれるほど、俺の……私の決意は、軽くない。必ず、殿下の親衛隊になってみせます」

 真剣そのものの声に、顔をあげるように言えば、視線がぶつかった。目を見ればわかる。どう思っているのか心を読めはしなくとも、目を見れば、わかることもあった。

「グレン」
「はい、何でしょうか?」
「今日はもう帰る。ここにいても仕方がないからな」

 グレンを引き連れ、訓練場から出ようとしてもその青年は追いすがるようだった。

「みじめだと思わないのか?」
「……思うさ。思っても……」
「今日のところは帰れ。訓練を真面目にするんだな」
「それじゃあ、悲願は達成できない!」
「悲願ってなんだ? 僕に仕えることが悲願なのか?」
「そうだ。それこそが……」
「……、僕は、そうは思わない。そんなのあのアホと同じじゃないか? 過去の栄光に縋って何になる? 誰も、自分自身を見てくれなくて、結局苦しくなるのは、お前の方だ。そんなことのために、僕を利用するな! よく考えろ。自身がどうなりたいのか。近衛にいる理由を。これから、なんのために命をかけるのかを」

 二回りほど大きなその体を力なくだらんとしている。目は、先程のように真っすぐこちらを見てはいなかったが、奥に宿る青い炎がキラリと光ったようだった。

「自身の足で立つための選択をしろ。それでもと、僕の親衛隊を望むのであれば、それに似合う功績を積むことだな」
「……わかった。やってやる、やってやるよ!」

 俯いていた青年は顔をあげる。もう一度合った視線は、はっきりと僕を見ていた。

 ……良い表情だ。

 頷くと、二ッと笑うので、呆れたと表情を作る。僕の言葉が、青年の心に何か届いたのだろう。それだけで、今は十分だ。

「名はなんという?」
「えっ?」
「名前だ」
「……ジークハルト・ランス」
「いい名だ。覚えておこう」

「行くぞ」とグレンに声をかけ叔父の待つ図書館へと向かう。思わぬ宝石を拾い、良い気分であった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。 しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。 破滅を回避するために決めたことはただ一つ―― 嫌われないように生きること。 原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、 なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、 気づけば全員から溺愛される状況に……? 世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、 無自覚のまま運命と恋を変えていく、 溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

処理中です...