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最終話 大丈夫。僕がついてるから!
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さすが、乙女ゲームのヒロイン。メアリーの魔力量、半端ないね? 僕、モブだから、アリアが守ってくれてないと、確実に死んでたわ。あっぶねぇ……アリア様、どうもありがとう!
心の中で拝み倒し、優しく微笑むアルメリアに「ありがとう」とお礼を言う。現状、会場にいる貴族たちはメアリーの黒い霧のような魔法にあてられ、みな、その場に倒れていた。
僕の眼前には、薄い水色のカーテンのようなものが広がっている。アルメリアが僕を守るために、咄嗟に出した防衛盾のようなものだそうで、その向こう側は、半透明で見えた。メアリーの魔力にあてられ倒れた親衛隊の剣で僕の心臓の当たりを一突き、狙っているメアリーがいた。
……これってさ? ヒロインが悪者になってるんですけど、運営さんはちゃんと仕事してるのか? まぁ、僕みたいなイレギュラーが混ざっている時点で、運営がいるとも、きっちりメンテされているとも思えないし、ここが現実世界なのだろうこともわかってはいるけどさ?
刺されたら確実に死ぬね。うん。死ぬ。
「ジャス?」
「どうしたんだい?」
「笑っているわ?」
アルメリアに指摘され、笑っているらしい自分に気が付いた。何かが振りきれたのか、死というものがあまりにも突然降って湧いてきたからか、実感がなさすぎて笑っているのだろう。
……どう考えてもピンチなんだけど? アリアがいなければ、完全に死んでたしね。でも、まだ、現実を受け止めきれていない自分がいるってことか。冗談じゃないとか、魔法を見て思ったもんな。
周りをチラリと見れば、どういうわけか、僕があげた花を持つものたちは、メアリーの魔法に対抗しているようで平然と立っている。号令をかければ、ジークハルトは動くと視線を送ってきているし、アーロンも少しかぶさるように、僕の前にでてくれていた。
「アリア、メアリーとの魔法の根比べ、勝てるかい?」
「……ジャスが、私にキスをしてくれたら、勝てる気がするわ!」
悪い顔をしながら、おねだりをするので、アルメリアの細い腰を引き寄せキスをする。それを間近で見ていたメアリーは、声に奇声をあげた。ただ、こちらには何も聞こえず、瞼をあけたとき、ほんのり上気した頬と『悪役令嬢よろしく!』の表情をしたアルメリアが、暴走するメアリーに向き直る。
「ジークは、アリアの補佐を。アーロンは、いつでもメアリーを取り押さえられるように。マリアンヌとグレンは、陛下に危害が及ばないように魔法防壁を。サティアは……僕の後ろに隠れていて!」
それぞれに指示を出すと、動き出す。圧倒的な魔力量の前にアルメリアが辛そうにしていたが、「僕が支えるよ」と囁けば、メアリーの魔力量を上回ったようだ。暴走した魔力が球体の中におさまり、ぎゅうぎゅうと押さえつけられていく。それでも、抵抗はあるようで、一定以上は進まなかった。
「もう少しだ、頑張ってくれ。アリア」
「もちろんです!」
手を前に出し、難しい魔力コントロールをしていくアルメリア。額には汗がにじみ始めた。
無力な僕は、この戦いにおいて、アルメリアを応援する以外、何もできない。アルメリアの左側にいて、手を握りしめることしかできないのだ。ポケットから、先日贈った指環を取り出す。握っていた手を開き、アルメリアの左薬指に嵌める。どうやら、扱いづらそうにしていた魔力が安定したようで、一気にメアリーの魔力を霧散させる。
「……すごいな」
「はぁ、はぁ……、これで、だいじょう……ぶです、か?」
息切れしているアルメリアをみれば、大変だったことだろう。メアリーは、暴走した魔法を失い、その場に崩れ落ちる。アーロンが取り押さえ、大広間に充満していた黒い霧のような濁った魔力が光の粒になって消えた。
「ふぅ……これで、大丈夫」
あまりにも大きな力を急激に使うことになったアルメリアは、倒れていくので支れば、はにかむように笑う。後ろで見ていた王やダグラスは言葉を失い、功労者であるアルメリアを褒めたたえた。
「大丈夫か? アリア」
肩で息をしていたアルメリアも少し経てば整ってきたのか、一つ大きく息を吐けば、いつも通りの表情になった。
「もう大丈夫です。他の方々も、じきに目を覚ましますよ!」
そうこうしている間に、メアリーの魔力にあてられたみなが目を覚ます。頭を振ったりしながら、起き上がっていた。
何が起こったかわからないようだったが、何事もなく壇上で立ち続けている僕らを見て、ひとり、またひとりと、パチパチと拍手をしていく。次第に大きくなり、広間中に広がった。
僕たちはお互いを見合い、微笑みあった。アルメリアへ視線を向ければ、ホッとしたようにもたれかかってきたのである。
ザワザワしている中、「しーずーまーれーっ!」と大広間に響く声。聞きなれた声に安堵したのは、僕だけではなかったようだ。
「陛下からお言葉ある、みなの者、心して聞くように!」
コホンとわざとらしくティーリング公爵が咳ばらいをした。どうやら、事の顛末を確認するために、王の列の後ろの方に混ざっていたらしい。
「……この度、一度にたくさんのことがあった。ことの発端は、第二王子レオナルドが独断で決めた聖女アルメリアとの婚約破棄および聖女を騙るメアリーとの婚約騒動であった」
静まり返った大広間の中、倒れていたレオナルドも目を覚ましたらしい。王の方を見ていた。
「レオナルドによる婚約破棄に対し、慰謝料等の請求については、個人資産没収、足りない分については、労働にて返済を言い渡す!」
「はっ? 父上、それは、どういうことですか? 一国の王子が働く? 下賤の者と一緒にですか?」
「国民を下賤の者だと? 一国の王子である前に、この国の一国民にすぎんよ、レオナルド」
王の言葉に項垂れるレオナルド。プライドだけで生きてきたであろうものには、少々きつかったようだ。
「次に、この国の第一王子であるジャスティスを王宮へ迎え入れ、王位継承権第一位、王太子とする。また、ジャスティスは、『魔王』であることをここに宣言する!」
「魔王だって?」、「七人目の魔王か?」と貴族たちが口々に近くの者たちと言葉を交わし合う。この国にとって、『魔王』と『聖女』は特別なのだ。
この乙女ゲームのヒロインであるメアリーが『聖女』ではなくなっていたが、僕の隣には、正真正銘の『聖女』が佇んでいた。
「最後に、『魔王』と『聖女』は、どの時代でも結婚をすることになっている。王太子ジャスティスの婚約者をティーリング公爵令嬢の『聖女』アルメリアとする。これは、決定事項であり、覆すことはない! みな、この若い二人に祝福を!」
ニコッと王がこちらを見て笑った。「おめでとう!」と一言、それが大広間に広がっていく。
……モブなんだけどな? どう考えても主役。
そう考えていたとき、アルメリアに贈ったダイヤモンドの指環が光った。光の粒が舞い降り、まるで、ハッピーエンドを迎えたと言わんばかりの祝福のようだ。
「ジャス?」
「あぁ、ハッピーエンド……っていうわけじゃ、ないよな。この先、死ぬまで長いんだろうなぁ……」
「死ぬだなんて!」
僕の言葉に反応して、こちらを睨んでくるアルメリアを抱き上げる。クルクルと二回転して、柔らかい唇にキスをした。
「ふぐ……!」
「可愛いアルメリア。僕の愛しいお姫様……。死ぬまで愛しているよ!」
「それなら、死んでからも、愛していますわ!」
「さっきか、死ぬ死ぬって、縁起でもないですよ?」
グレンが呆れ顔でこちらを見ている。他の者たちもだ。大勢の前にいることを忘れ、イチャイチャとしていたらしく、完全に二人の世界に浸っていたようだ。
そんな様子を見て、レオナルドがプツンと意識を失ったようだった。
「二人とも、そんなところでいちゃついてないで、あそこへ行っておいで!」
養父が指さしたところを見ると、貴族たちが僕らのために開けてくれたようだ。
「アリアは僕の婚約者なのだから、もう、エスコートをしてもいいだろ?」
「えぇ、ジャス」
「いこうか? アリア」
手を差し出すと、そっと重ねられた。壇上から優雅に階段を下り、ホールの真ん中で見つめ合えば、少し頬を赤くしたアルメリアが照れたように、「踊りましょう」と囁く。
その夜、赤い薔薇は見事に花咲き鳴りやまない夜会の音楽は、朝まで続いた。
◇
その後、レオナルドはアルメリアやティーリング公爵家からの慰謝料や迷惑料を個人資産で支払い、支払いきれなかった分については、ティーリング公爵家直轄の領地で働くことになった。
メアリーは、魔術具によって、魔力を封じられ、王家の秘密の庭にある塔へ幽閉される。二度と表舞台に立つことはなかった。
レオナルドやメアリーを囲っていた貴族令息令嬢は、メアリーから魔法をかけられていたようで、あの夜会で聖女の光を浴び、正常に戻った。一部のものからは、正当な額の迷惑料を親が肩代わりして、今は、通常どおりの生活をしている。
◇
「教えてほしいのですけど?」
「なんだい?」
執務室に集まった五人の従者が、疑問に思っていることを代表でサティアが問うてきた。
「『魔王』とは、なんだったのですか?」
「……僕にもわからないな。ただ、言えるのは、僕もその前の『魔王』もこの世界の人間じゃないってことくらいかな?」
「へっ?」
「「はっ?」」
「えぇ――――――っ!」
それぞれの驚きに満足しながら、笑いかける。「これからも頼むなっ!」とお願いすれば、それぞれに渡した花を撫でながら、心強い返事をしてくれた。
◇
「ジャス……どうしましょう。緊張します!」
珍しく震えるアルメリア。真っ白なドレスに身を包み、ソワソワと落ち着かない様子で、とても可愛らしかった。
「大丈夫。僕がついてるから!」
そっと差し出す手に安心したのか、白い手袋をした手が優しく重なる。こちらを見たアルメリアには、先程の緊張は見て取れず、初めて会ったあの日のように満面の笑みを浮かべた。
『……よかったな、おにぃ』
後ろから、聞きなれた声が聞こえてくる。振り返ったが、そこには誰もいなかった。ただ、記憶をたどれば、思い出す。
黒髪ショートカットで生意気な妹の姿が。ずっと、顔は思い出せなかった。
……ありがとう、祝ってくれるんだな。
心の中で呟けば、『あたりまえだろ? おにぃなんだから』と、妹が笑ってくれた。
「ジャス?」
「結婚式が終わったら、アリアに聞いてほしい話があるんだ」
「怖い話?」
「違うよ。僕の妹の話だ。さぁ、行こうか。僕らの結婚式に」
世界で1番美しいアルメリアをエスコートし、ゆっくりと歩く。バージンロードの後ろから、最大の祝福を妹がしてくれ、白いアルメリアの花のような光の粒が降り注いだのであった。
- The End -
心の中で拝み倒し、優しく微笑むアルメリアに「ありがとう」とお礼を言う。現状、会場にいる貴族たちはメアリーの黒い霧のような魔法にあてられ、みな、その場に倒れていた。
僕の眼前には、薄い水色のカーテンのようなものが広がっている。アルメリアが僕を守るために、咄嗟に出した防衛盾のようなものだそうで、その向こう側は、半透明で見えた。メアリーの魔力にあてられ倒れた親衛隊の剣で僕の心臓の当たりを一突き、狙っているメアリーがいた。
……これってさ? ヒロインが悪者になってるんですけど、運営さんはちゃんと仕事してるのか? まぁ、僕みたいなイレギュラーが混ざっている時点で、運営がいるとも、きっちりメンテされているとも思えないし、ここが現実世界なのだろうこともわかってはいるけどさ?
刺されたら確実に死ぬね。うん。死ぬ。
「ジャス?」
「どうしたんだい?」
「笑っているわ?」
アルメリアに指摘され、笑っているらしい自分に気が付いた。何かが振りきれたのか、死というものがあまりにも突然降って湧いてきたからか、実感がなさすぎて笑っているのだろう。
……どう考えてもピンチなんだけど? アリアがいなければ、完全に死んでたしね。でも、まだ、現実を受け止めきれていない自分がいるってことか。冗談じゃないとか、魔法を見て思ったもんな。
周りをチラリと見れば、どういうわけか、僕があげた花を持つものたちは、メアリーの魔法に対抗しているようで平然と立っている。号令をかければ、ジークハルトは動くと視線を送ってきているし、アーロンも少しかぶさるように、僕の前にでてくれていた。
「アリア、メアリーとの魔法の根比べ、勝てるかい?」
「……ジャスが、私にキスをしてくれたら、勝てる気がするわ!」
悪い顔をしながら、おねだりをするので、アルメリアの細い腰を引き寄せキスをする。それを間近で見ていたメアリーは、声に奇声をあげた。ただ、こちらには何も聞こえず、瞼をあけたとき、ほんのり上気した頬と『悪役令嬢よろしく!』の表情をしたアルメリアが、暴走するメアリーに向き直る。
「ジークは、アリアの補佐を。アーロンは、いつでもメアリーを取り押さえられるように。マリアンヌとグレンは、陛下に危害が及ばないように魔法防壁を。サティアは……僕の後ろに隠れていて!」
それぞれに指示を出すと、動き出す。圧倒的な魔力量の前にアルメリアが辛そうにしていたが、「僕が支えるよ」と囁けば、メアリーの魔力量を上回ったようだ。暴走した魔力が球体の中におさまり、ぎゅうぎゅうと押さえつけられていく。それでも、抵抗はあるようで、一定以上は進まなかった。
「もう少しだ、頑張ってくれ。アリア」
「もちろんです!」
手を前に出し、難しい魔力コントロールをしていくアルメリア。額には汗がにじみ始めた。
無力な僕は、この戦いにおいて、アルメリアを応援する以外、何もできない。アルメリアの左側にいて、手を握りしめることしかできないのだ。ポケットから、先日贈った指環を取り出す。握っていた手を開き、アルメリアの左薬指に嵌める。どうやら、扱いづらそうにしていた魔力が安定したようで、一気にメアリーの魔力を霧散させる。
「……すごいな」
「はぁ、はぁ……、これで、だいじょう……ぶです、か?」
息切れしているアルメリアをみれば、大変だったことだろう。メアリーは、暴走した魔法を失い、その場に崩れ落ちる。アーロンが取り押さえ、大広間に充満していた黒い霧のような濁った魔力が光の粒になって消えた。
「ふぅ……これで、大丈夫」
あまりにも大きな力を急激に使うことになったアルメリアは、倒れていくので支れば、はにかむように笑う。後ろで見ていた王やダグラスは言葉を失い、功労者であるアルメリアを褒めたたえた。
「大丈夫か? アリア」
肩で息をしていたアルメリアも少し経てば整ってきたのか、一つ大きく息を吐けば、いつも通りの表情になった。
「もう大丈夫です。他の方々も、じきに目を覚ましますよ!」
そうこうしている間に、メアリーの魔力にあてられたみなが目を覚ます。頭を振ったりしながら、起き上がっていた。
何が起こったかわからないようだったが、何事もなく壇上で立ち続けている僕らを見て、ひとり、またひとりと、パチパチと拍手をしていく。次第に大きくなり、広間中に広がった。
僕たちはお互いを見合い、微笑みあった。アルメリアへ視線を向ければ、ホッとしたようにもたれかかってきたのである。
ザワザワしている中、「しーずーまーれーっ!」と大広間に響く声。聞きなれた声に安堵したのは、僕だけではなかったようだ。
「陛下からお言葉ある、みなの者、心して聞くように!」
コホンとわざとらしくティーリング公爵が咳ばらいをした。どうやら、事の顛末を確認するために、王の列の後ろの方に混ざっていたらしい。
「……この度、一度にたくさんのことがあった。ことの発端は、第二王子レオナルドが独断で決めた聖女アルメリアとの婚約破棄および聖女を騙るメアリーとの婚約騒動であった」
静まり返った大広間の中、倒れていたレオナルドも目を覚ましたらしい。王の方を見ていた。
「レオナルドによる婚約破棄に対し、慰謝料等の請求については、個人資産没収、足りない分については、労働にて返済を言い渡す!」
「はっ? 父上、それは、どういうことですか? 一国の王子が働く? 下賤の者と一緒にですか?」
「国民を下賤の者だと? 一国の王子である前に、この国の一国民にすぎんよ、レオナルド」
王の言葉に項垂れるレオナルド。プライドだけで生きてきたであろうものには、少々きつかったようだ。
「次に、この国の第一王子であるジャスティスを王宮へ迎え入れ、王位継承権第一位、王太子とする。また、ジャスティスは、『魔王』であることをここに宣言する!」
「魔王だって?」、「七人目の魔王か?」と貴族たちが口々に近くの者たちと言葉を交わし合う。この国にとって、『魔王』と『聖女』は特別なのだ。
この乙女ゲームのヒロインであるメアリーが『聖女』ではなくなっていたが、僕の隣には、正真正銘の『聖女』が佇んでいた。
「最後に、『魔王』と『聖女』は、どの時代でも結婚をすることになっている。王太子ジャスティスの婚約者をティーリング公爵令嬢の『聖女』アルメリアとする。これは、決定事項であり、覆すことはない! みな、この若い二人に祝福を!」
ニコッと王がこちらを見て笑った。「おめでとう!」と一言、それが大広間に広がっていく。
……モブなんだけどな? どう考えても主役。
そう考えていたとき、アルメリアに贈ったダイヤモンドの指環が光った。光の粒が舞い降り、まるで、ハッピーエンドを迎えたと言わんばかりの祝福のようだ。
「ジャス?」
「あぁ、ハッピーエンド……っていうわけじゃ、ないよな。この先、死ぬまで長いんだろうなぁ……」
「死ぬだなんて!」
僕の言葉に反応して、こちらを睨んでくるアルメリアを抱き上げる。クルクルと二回転して、柔らかい唇にキスをした。
「ふぐ……!」
「可愛いアルメリア。僕の愛しいお姫様……。死ぬまで愛しているよ!」
「それなら、死んでからも、愛していますわ!」
「さっきか、死ぬ死ぬって、縁起でもないですよ?」
グレンが呆れ顔でこちらを見ている。他の者たちもだ。大勢の前にいることを忘れ、イチャイチャとしていたらしく、完全に二人の世界に浸っていたようだ。
そんな様子を見て、レオナルドがプツンと意識を失ったようだった。
「二人とも、そんなところでいちゃついてないで、あそこへ行っておいで!」
養父が指さしたところを見ると、貴族たちが僕らのために開けてくれたようだ。
「アリアは僕の婚約者なのだから、もう、エスコートをしてもいいだろ?」
「えぇ、ジャス」
「いこうか? アリア」
手を差し出すと、そっと重ねられた。壇上から優雅に階段を下り、ホールの真ん中で見つめ合えば、少し頬を赤くしたアルメリアが照れたように、「踊りましょう」と囁く。
その夜、赤い薔薇は見事に花咲き鳴りやまない夜会の音楽は、朝まで続いた。
◇
その後、レオナルドはアルメリアやティーリング公爵家からの慰謝料や迷惑料を個人資産で支払い、支払いきれなかった分については、ティーリング公爵家直轄の領地で働くことになった。
メアリーは、魔術具によって、魔力を封じられ、王家の秘密の庭にある塔へ幽閉される。二度と表舞台に立つことはなかった。
レオナルドやメアリーを囲っていた貴族令息令嬢は、メアリーから魔法をかけられていたようで、あの夜会で聖女の光を浴び、正常に戻った。一部のものからは、正当な額の迷惑料を親が肩代わりして、今は、通常どおりの生活をしている。
◇
「教えてほしいのですけど?」
「なんだい?」
執務室に集まった五人の従者が、疑問に思っていることを代表でサティアが問うてきた。
「『魔王』とは、なんだったのですか?」
「……僕にもわからないな。ただ、言えるのは、僕もその前の『魔王』もこの世界の人間じゃないってことくらいかな?」
「へっ?」
「「はっ?」」
「えぇ――――――っ!」
それぞれの驚きに満足しながら、笑いかける。「これからも頼むなっ!」とお願いすれば、それぞれに渡した花を撫でながら、心強い返事をしてくれた。
◇
「ジャス……どうしましょう。緊張します!」
珍しく震えるアルメリア。真っ白なドレスに身を包み、ソワソワと落ち着かない様子で、とても可愛らしかった。
「大丈夫。僕がついてるから!」
そっと差し出す手に安心したのか、白い手袋をした手が優しく重なる。こちらを見たアルメリアには、先程の緊張は見て取れず、初めて会ったあの日のように満面の笑みを浮かべた。
『……よかったな、おにぃ』
後ろから、聞きなれた声が聞こえてくる。振り返ったが、そこには誰もいなかった。ただ、記憶をたどれば、思い出す。
黒髪ショートカットで生意気な妹の姿が。ずっと、顔は思い出せなかった。
……ありがとう、祝ってくれるんだな。
心の中で呟けば、『あたりまえだろ? おにぃなんだから』と、妹が笑ってくれた。
「ジャス?」
「結婚式が終わったら、アリアに聞いてほしい話があるんだ」
「怖い話?」
「違うよ。僕の妹の話だ。さぁ、行こうか。僕らの結婚式に」
世界で1番美しいアルメリアをエスコートし、ゆっくりと歩く。バージンロードの後ろから、最大の祝福を妹がしてくれ、白いアルメリアの花のような光の粒が降り注いだのであった。
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