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子ども用のおもちゃではなく
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「なんだか、少し寂しいところね」
「大通りから離れると、華やかさはなくなるようですね」
別の馬車に乗っていたセバスとヒーナが合流した。近衛が先に扉を開けて店の中へ入っていく。私たちは後ろについて店に入る。少し埃っぽいその店の中は、とても静かだ。
「いらっしゃい」
落ち着いた声で迎えてくれる店員がいた。私たちは、男性がいるカウンターまで近寄っていく。ウィルの部下たちは、ちゃんと警戒を解かず、周りを見ていた。私は、店員の元に近づくと、にっこりと笑いかける。
「こんにちは。こちらで、小型の銃が購入できると聞いて……」
「貴族の方かい?」
「どうして?」
「銃は、それなりの金額になるからねぇ……市民だとしても、成金くらいか、よほど恨みを買っている者しかかわないからな」
「なるほど」と皆で頷いていると、そんな私たちが珍しかったのだろう。この国にいれば、銃は当たり前の代物なのだ。私が男性の説明で納得していることが、この国のものではないということのようだ。
「小型の銃というけど……どのお嬢さんが使うのかな?」
「あっ、僕が」
「お兄さんが使うのか?それなら、少し、大きくても……いや、小さいほうがいいのか」
セバスを上から下に見て、男性は呟いている。どうやら、セバスに大きな銃は無理そうだと考えたらしい。セバス自身も、それは考えていたようなので、その無遠慮な視線を苦笑いで受け流した。
「あと、ナタリーにも扱えるようなものはあるかしら?」
「お二人にですね。少し待っていてください」
男性は、奥へ向かい、その間、私たちは店に取り残される。周りを見れば、銃を売っている店というより、昔ながらの雑貨屋のように感じる。古びたおもちゃが並んでおり、私はそちらへ歩いていった。
「アンナリーゼ様?」
「なんだか、少し懐かしく感じて」
「それは?」
私が、おもちゃの中から、一つを手に取る。金髪の女の子の人形で、目が青い。少し不気味なようなその人形は、可愛らしいドレスを身にまとっていた。
「昔、お母様にお願いして、買ってもらったことがあるの。このお人形のドレスが、とても素敵でね」
「それは、インゼロ帝国のものですか?」
「違ったと思うわ。もっと、東の国のものだったはずよ。この人形は、1体1体が違うのよ。まるで、本当の人のように、髪も目も、顔も違うの」
ナタリーに見せると、私から人形を受け取り、しばしば見ていた。人形も気に入ったようで、その着ているドレスもかなり気に入ったようだ。
「アンナリーゼ様、このお人形。流行らすことはできますか?」
「人形を?」
「えぇ、子ども用のおもちゃではなく、大人の女性が収集したくなるような……そんな一品に。子どもの頃、私も着せ替え人形を持っていました。なんだか、とても懐かしく感じますわ」
「なるほど。ナタリーの考えは、おもしろいかもしれないわね。この人形の作り方さえわかれば、領地の次の産業としても成り立つし、ハニーアンバー店で取り扱うドレスを人形サイズにして着せてみるのもいいわ。自分によく似た人形を買うもよし、自分の理想の人形を買うもよしってね。この人形、買っていきましょうか」
「そうしましょう。貴族女性は、何かと暇を持て余していますもの。こういったものが、慰みものになることもありますし、一生ものの代物となることもありますわ」
「……嫁入り道具の一つとして、持っていくっていうこと?」
セバスも興味を持ったのか近寄ってきており、話に入る。セバスには、私たちの話が理解できないようであるが、屋敷に長時間いる女性にとって、本を読んだり、刺繍をしたりと、できることは限られる。私やナタリーのように、領地内外を飛び回っている方が珍しいくらいなのだ。
返事をしてくれないので話し相手にはならないまでも、こちらから、語り掛けることはできるので、時間を持て余した貴族女性には、受け入れらるかもしれない。
ナタリーのいうとおり、人形は、どこの貴族女性でも買いあてられてはいただろうが、ここまで、精巧なものはないだろう。人形といえば、布でできたぬいぐるみなのだから。
「なんだか、目がしっかりしているから、少し怖いような気がするけど……」
「そこもまた、いいと思うわ」
「……屋敷にあったら、思わず叫んでしまいそうになりそうだけど」
「もし、お人形をアンバー領でも、生産することになれば」
「……もちろん、ダリアにも協力をするようにお願いはするよ。数少ないアンバー領の貴族だからね」
「よくわかってくれて、嬉しいわ」
「これでも、商売についても、かなり勉強しているんだ。領地運営には、お金がいるからね」
セバスは、領地運営にお金がたくさんいることを目の当たりにしているので、収益になるものなら、個人的に文句をいうことはない。ナタリーの持っている人形を見ながら、「今後のことは、早々に話し合いたいものだね」と、小さくため息をつく。見ているうちに、愛着がわくのか、少しだけ口元が上がった。
「大通りから離れると、華やかさはなくなるようですね」
別の馬車に乗っていたセバスとヒーナが合流した。近衛が先に扉を開けて店の中へ入っていく。私たちは後ろについて店に入る。少し埃っぽいその店の中は、とても静かだ。
「いらっしゃい」
落ち着いた声で迎えてくれる店員がいた。私たちは、男性がいるカウンターまで近寄っていく。ウィルの部下たちは、ちゃんと警戒を解かず、周りを見ていた。私は、店員の元に近づくと、にっこりと笑いかける。
「こんにちは。こちらで、小型の銃が購入できると聞いて……」
「貴族の方かい?」
「どうして?」
「銃は、それなりの金額になるからねぇ……市民だとしても、成金くらいか、よほど恨みを買っている者しかかわないからな」
「なるほど」と皆で頷いていると、そんな私たちが珍しかったのだろう。この国にいれば、銃は当たり前の代物なのだ。私が男性の説明で納得していることが、この国のものではないということのようだ。
「小型の銃というけど……どのお嬢さんが使うのかな?」
「あっ、僕が」
「お兄さんが使うのか?それなら、少し、大きくても……いや、小さいほうがいいのか」
セバスを上から下に見て、男性は呟いている。どうやら、セバスに大きな銃は無理そうだと考えたらしい。セバス自身も、それは考えていたようなので、その無遠慮な視線を苦笑いで受け流した。
「あと、ナタリーにも扱えるようなものはあるかしら?」
「お二人にですね。少し待っていてください」
男性は、奥へ向かい、その間、私たちは店に取り残される。周りを見れば、銃を売っている店というより、昔ながらの雑貨屋のように感じる。古びたおもちゃが並んでおり、私はそちらへ歩いていった。
「アンナリーゼ様?」
「なんだか、少し懐かしく感じて」
「それは?」
私が、おもちゃの中から、一つを手に取る。金髪の女の子の人形で、目が青い。少し不気味なようなその人形は、可愛らしいドレスを身にまとっていた。
「昔、お母様にお願いして、買ってもらったことがあるの。このお人形のドレスが、とても素敵でね」
「それは、インゼロ帝国のものですか?」
「違ったと思うわ。もっと、東の国のものだったはずよ。この人形は、1体1体が違うのよ。まるで、本当の人のように、髪も目も、顔も違うの」
ナタリーに見せると、私から人形を受け取り、しばしば見ていた。人形も気に入ったようで、その着ているドレスもかなり気に入ったようだ。
「アンナリーゼ様、このお人形。流行らすことはできますか?」
「人形を?」
「えぇ、子ども用のおもちゃではなく、大人の女性が収集したくなるような……そんな一品に。子どもの頃、私も着せ替え人形を持っていました。なんだか、とても懐かしく感じますわ」
「なるほど。ナタリーの考えは、おもしろいかもしれないわね。この人形の作り方さえわかれば、領地の次の産業としても成り立つし、ハニーアンバー店で取り扱うドレスを人形サイズにして着せてみるのもいいわ。自分によく似た人形を買うもよし、自分の理想の人形を買うもよしってね。この人形、買っていきましょうか」
「そうしましょう。貴族女性は、何かと暇を持て余していますもの。こういったものが、慰みものになることもありますし、一生ものの代物となることもありますわ」
「……嫁入り道具の一つとして、持っていくっていうこと?」
セバスも興味を持ったのか近寄ってきており、話に入る。セバスには、私たちの話が理解できないようであるが、屋敷に長時間いる女性にとって、本を読んだり、刺繍をしたりと、できることは限られる。私やナタリーのように、領地内外を飛び回っている方が珍しいくらいなのだ。
返事をしてくれないので話し相手にはならないまでも、こちらから、語り掛けることはできるので、時間を持て余した貴族女性には、受け入れらるかもしれない。
ナタリーのいうとおり、人形は、どこの貴族女性でも買いあてられてはいただろうが、ここまで、精巧なものはないだろう。人形といえば、布でできたぬいぐるみなのだから。
「なんだか、目がしっかりしているから、少し怖いような気がするけど……」
「そこもまた、いいと思うわ」
「……屋敷にあったら、思わず叫んでしまいそうになりそうだけど」
「もし、お人形をアンバー領でも、生産することになれば」
「……もちろん、ダリアにも協力をするようにお願いはするよ。数少ないアンバー領の貴族だからね」
「よくわかってくれて、嬉しいわ」
「これでも、商売についても、かなり勉強しているんだ。領地運営には、お金がいるからね」
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