ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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『アンナリーゼ・トロン・フレイゼン』の人形なら

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「その人形も気に入られたのですか?」

 店の奥から出てきた男性は、手に小箱を2つ持っていた。私たちが、人形を見ていることに気が付いたようで、こちらに向かって歩いてくる。

「えぇ、この人形、私が昔持っていたものに似ていたので」
「そうですか。この人形は、一人一人が違うものです。職人の手で、ひとつひとつ丁寧に作られているものですから、同じよう緒に見えて、表情や髪質なんかも、微妙に変わるんですよ」
「そうみたいね。私が持っていたものと、同じように見えて、少し違う気がしたもの」
「そうでしょ。これは、私が昔、仕入れたものですが、古いものなら、かなり高価な値で売り買いされていますよ」

 私たちは、ナタリーの手にある人形を思わず見てしまう。人形自体の値段は、貴族令嬢が持つものであることから、値が張るものではあるが、貴族であれば、普通に返る代物だ。ドレスにしても、それほど、高価な印象はなかったが……、男性は何度か頷いた。

「……この人形を買うとしたら、いくらで譲っていただけますか?」
「うちは、しがない店ですからね。定価で十分ですよ。高値で売り買いされているのは、昔、貴族令嬢たちが持っていたもので、人形というより、その衣装に値がついています。金銀だけでなく、宝石を付けた人形ということですね」

 私は、自分の幼いころのことを思い浮かべた。確かに、私は、この人形に、自分と同じドレスを着せていたこともあったし、同じ髪飾りを付けていたこともある。
 私の人形は、父が私の誕生を記念して、私そっくりの人形を作っていたので、小さなアンナリーゼであった。

「……それって、たぶん、世界に1品しかない代物のことかもしれないわね」
「どういうことですか?」
「子の誕生を記念して、作られた人形ってことよ。たとえば……『アンナリーゼ・トロン・フレイゼン』の人形なら、いくらかしら?」
「アンナリーゼって!」

 ナタリーが声を上げる中、私は男性の様子を窺う。目を一瞬見開いたあと、小さく呟いた。

「小さな国の国家予算でも買えない金額だろう。隣国ローズディア公国の筆頭貴族であるアンナリーゼ様の人形は、根が付けられないほど、みなが欲しがるに違いない」
「……店主、それはどういう意味だい?」

 商談用の応接セットへ座るよう促された私たちは、そちらに向かって歩いていく。セバスとナタリーが手前に、私は奥へ座ると、男性は丸椅子を持って同じ席についた。
 私を見て、気が付いたのか、少し微笑んだあと、少し前のこの国の話をしてくれる。

「この国は、今の皇帝陛下のおかげで、依然に比べれば、住みやすくなった。戦争も多く、理解できぬ理不尽さも同時にある中でも、この国は、だいぶよくなったんだ。私たちは、皇帝陛下に感謝をしている。他の属国となった者たちからすれば、恨みも多いだろうが」
「……戦争が起これば、食料や物資など戦争に必要なものが増え、生活に直結するくらいの物価高があるはず」
「よくご存じだ。さすがと言うべきか……、この国は、いまの皇帝陛下が即位する前は、本当に食うや食わずの物価高だったんだ。外から見れば、帝国は大きく、憂いがないように見えても、戦争に伴う物資調達のために、武器商人を始め、一部の者たちだけが富む国だった」
「……そんなことが。この国へは、今回が初めての訪問だったから、皇都の景観を見て、とても驚いた」
「と、同時に、裏路地のこともあなた方はみたのでしょう?」

 こちらに視線を向ける男性は、私たちの正体はわかっているようで、こちらも誤魔化しても仕方がないことがわかる。セバスは私に視線を送ってくるので頷く。

「えぇ、見ました。光と影というふうに思えましたわ。私のことをご存じのようなので、隠しても仕方がありませんわ」
「私は、一度、あなたに会ったことがあります。会ったというより……」

 次の瞬間には、ウィルの大隊の近衛は、その男性に剣を向けている。私は、その意味がわかったし、今は、何も感じないので、剣を下すようにいうと、戸惑ったようであった。

「大丈夫よ。私を見ている暗殺者って、よほどの大馬鹿でなければ、私に手を出さないわ。たとえ、銃という武器を手にしていたとしても」

 ウィルの大隊からの近衛は、私の周りにいる暗殺者について、知ることもないので、実情を知らない。戸惑っているのは、確かにわかるし、いち早く、戦闘態勢に入ったことを褒める。

「そうですね。前皇帝陛下より、暗殺命令が出ていましたが、今は、誰もそれを実行しようとはしませんからね。幸せ家族を目の当たりにして、暗殺者としての勘が鈍ると責めるものももいますが、強者に挑むほど、私たちは自分の力量を間違えません。その後ろにいる人物は、インゼロ帝国の人間でしょ?」
「よくわかったわね?」
「暗部特有のものを感じました。でも、私たちのような、個人を狙うものではなく、皇帝直轄の戦争屋でしょうかね?こちらには、会ったことがないので、架空のような都市伝説のような存在に思っていましたが……実在しているのですね」

 ヒーナを見ながら、何度か頷いた。実際、ヒーナも、隠していたナイフを握っていたのだ。それを見抜くこの男性は、かなり腕のいい暗殺者だったのでだろう。
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