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義母の付き添いⅡ
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家まで案内されているあいだ、周りを見渡す義母。その様子から、驚いていることがわかる。
「お義母様、あの……」
どうかされましたか?と話を続けようとしたとき、その声に気が付いたサラおばさんがこちらに振り向く。
「アンナちゃんは、そうやってドレスを着ると、お貴族様って感じがするね。いつもは私らより、ちょっといい服を着ているように思っていたんだけど……あの服もきっといいものなんだろうね?」
「……領地に出るときは、わりと古着が多かったりするかな?綺麗な場所ばかりではないでしょ?」
「確かに!畑だろうとどこだろうと率先して入って行くから……もしかしなくても?」
「ナタリーが選んでくれているんだけど……できるだけ、汚れても気にならないものにしてもらっているわ!」
「そうかいそうかい。今日は、本当に素敵だね。黒に近いほどの濃紺か……普段はもっと色鮮やかなものを着ているけど……今日はあの子に会いに来てくれたからかい?」
「えぇ、そうよ。お義母様と一緒に」
「大奥様が来てくれたら、あの子も喜ぶよ!」
嬉しそうに笑い、さぁ家に着いたと中に入れてくれる。
「お邪魔します」
「……お邪魔します」
私はいつものように、義母は少々遠慮がちに家に入った。サラおばさんの家は、大きくはない。大人三人で暮らすには少々手狭な印象を受けるが、これが一般的な家であることは知っているので、何も思うことはない。
義母は、初めてはいるのか、物珍しそうに見渡していた。
「何もないところだけど、座ってください。大奥さま、あの子に会いに来てくださってありがとうございます」
サラおばさんと旦那とカルアの弟が頭を下げた。その後、カルアの骨壺を台所にある机へと持ってきてくれた。
「汚いところですけど、ごゆっくり……」
そういって、二人は出て行った。残されたのは、義母、サラおばさんと私だけ。
座ってくださいと言われ、私たちは腰掛けた。
「こちらは、前公爵夫人で、私の義母です」
「えぇ、存じ上げていますよ!カルアが、とてもよくしてくれていると手紙に書いてよこしていましたから。お会いできたこと、嬉しく思います!大奥様」
「……私もです。サラ。今回のこと、カルアを貴族のくだらない謀に巻き込ませてしまい、申し訳なかったわ。私の力が及ばないばかりに……カルア自身にも、あなたたち家族にも……」
「大奥様、それは違います。あの子は、自ら選んで主であるアンナちゃんを……アンナリーゼ様やアンジェラ様の命を狙ったのです。大奥様が謝られることではありませんよ。むしろ、あの子がしでかしたことを思えば、アンナリーゼ様たちへ私どもが謝っても謝りきれません」
「でも、子を失うということがどういうことか……」
「ここにいるのは、子を持つ母親ばかり。その辛さはわかってもらえると思いますが、私はあの子が進みたい道を進んだのなら……と思っています。それよりも、アンナリーゼ様のおかげで、私たち家族の命か守られ、罪人であるあの子が、この家に帰ってくることが出来たことに感謝したいです。罪人は、家に帰ってくる……家族の元に帰れることはありませんから。アンナリーゼ様が、公に願い出てくれたと聞いています」
「……それでも、何か助かる方法があったはず」
首を横に振るサラおばさん。私のことを考えてくれていることがわかった。カルアを失うことになることは、カルアからの手紙で知っていた。そのうえで、何があってもアンナリーゼ様を信じてついて行って欲しいと書かれていたことを語ってくれる。
「大奥様によくしてくださったことも書いてありましたが、アンナリーゼ様にもとてもよくしていただいたことが書かれていました。他の道がと大奥様は言われますが、私にはないと思っています。アンナリーゼ様が導いてくださった道こそが最善。ダドリー男爵の娘ソフィアのために死んだのではなく、アンナリーゼ様の次の一手に役立つ死だと思っています」
「サラ……あなたは、強いのね」
「決して強くはありませんよ?私も人間です。母親です。娘を失って失意にあけた夜もありますが、そのたびにアンナリーゼ様の太陽のような眩しさに上を向かされました。ここにカルアを連れてきてくれたときのこと……未だ覚えています」
骨壺をそっと撫でたサラおばさん。
「私も触らせてもらっても?」
「もちろんです!大奥様が来てくださったこともきっと、喜んでいると思います」
どうぞと目の前に置かれた骨壺を大事そうに義母は抱きしめる。生前、優しくカルアにしていたように、大事に大事にする。
「ごめんなさいね……カルア。あなたが、私の側にいてくれたこと、感謝していたわ。最後に居合わせることができず、申し訳なかったわね」
小さく小さく呟く。私への遠慮とサラおばさんへの申し訳なさも含まれ、小さくなったのだろう。
「大奥様。カルアは幸せ者です。肉体はもうありませんが、亡くなったあともこうして大奥様とアンナリーゼ様が訪ねて来てくれるのですから……」
ありがとうございますと頭を深く下げた。その姿にこちらこそと呟いた。
「お義母様、あの……」
どうかされましたか?と話を続けようとしたとき、その声に気が付いたサラおばさんがこちらに振り向く。
「アンナちゃんは、そうやってドレスを着ると、お貴族様って感じがするね。いつもは私らより、ちょっといい服を着ているように思っていたんだけど……あの服もきっといいものなんだろうね?」
「……領地に出るときは、わりと古着が多かったりするかな?綺麗な場所ばかりではないでしょ?」
「確かに!畑だろうとどこだろうと率先して入って行くから……もしかしなくても?」
「ナタリーが選んでくれているんだけど……できるだけ、汚れても気にならないものにしてもらっているわ!」
「そうかいそうかい。今日は、本当に素敵だね。黒に近いほどの濃紺か……普段はもっと色鮮やかなものを着ているけど……今日はあの子に会いに来てくれたからかい?」
「えぇ、そうよ。お義母様と一緒に」
「大奥様が来てくれたら、あの子も喜ぶよ!」
嬉しそうに笑い、さぁ家に着いたと中に入れてくれる。
「お邪魔します」
「……お邪魔します」
私はいつものように、義母は少々遠慮がちに家に入った。サラおばさんの家は、大きくはない。大人三人で暮らすには少々手狭な印象を受けるが、これが一般的な家であることは知っているので、何も思うことはない。
義母は、初めてはいるのか、物珍しそうに見渡していた。
「何もないところだけど、座ってください。大奥さま、あの子に会いに来てくださってありがとうございます」
サラおばさんと旦那とカルアの弟が頭を下げた。その後、カルアの骨壺を台所にある机へと持ってきてくれた。
「汚いところですけど、ごゆっくり……」
そういって、二人は出て行った。残されたのは、義母、サラおばさんと私だけ。
座ってくださいと言われ、私たちは腰掛けた。
「こちらは、前公爵夫人で、私の義母です」
「えぇ、存じ上げていますよ!カルアが、とてもよくしてくれていると手紙に書いてよこしていましたから。お会いできたこと、嬉しく思います!大奥様」
「……私もです。サラ。今回のこと、カルアを貴族のくだらない謀に巻き込ませてしまい、申し訳なかったわ。私の力が及ばないばかりに……カルア自身にも、あなたたち家族にも……」
「大奥様、それは違います。あの子は、自ら選んで主であるアンナちゃんを……アンナリーゼ様やアンジェラ様の命を狙ったのです。大奥様が謝られることではありませんよ。むしろ、あの子がしでかしたことを思えば、アンナリーゼ様たちへ私どもが謝っても謝りきれません」
「でも、子を失うということがどういうことか……」
「ここにいるのは、子を持つ母親ばかり。その辛さはわかってもらえると思いますが、私はあの子が進みたい道を進んだのなら……と思っています。それよりも、アンナリーゼ様のおかげで、私たち家族の命か守られ、罪人であるあの子が、この家に帰ってくることが出来たことに感謝したいです。罪人は、家に帰ってくる……家族の元に帰れることはありませんから。アンナリーゼ様が、公に願い出てくれたと聞いています」
「……それでも、何か助かる方法があったはず」
首を横に振るサラおばさん。私のことを考えてくれていることがわかった。カルアを失うことになることは、カルアからの手紙で知っていた。そのうえで、何があってもアンナリーゼ様を信じてついて行って欲しいと書かれていたことを語ってくれる。
「大奥様によくしてくださったことも書いてありましたが、アンナリーゼ様にもとてもよくしていただいたことが書かれていました。他の道がと大奥様は言われますが、私にはないと思っています。アンナリーゼ様が導いてくださった道こそが最善。ダドリー男爵の娘ソフィアのために死んだのではなく、アンナリーゼ様の次の一手に役立つ死だと思っています」
「サラ……あなたは、強いのね」
「決して強くはありませんよ?私も人間です。母親です。娘を失って失意にあけた夜もありますが、そのたびにアンナリーゼ様の太陽のような眩しさに上を向かされました。ここにカルアを連れてきてくれたときのこと……未だ覚えています」
骨壺をそっと撫でたサラおばさん。
「私も触らせてもらっても?」
「もちろんです!大奥様が来てくださったこともきっと、喜んでいると思います」
どうぞと目の前に置かれた骨壺を大事そうに義母は抱きしめる。生前、優しくカルアにしていたように、大事に大事にする。
「ごめんなさいね……カルア。あなたが、私の側にいてくれたこと、感謝していたわ。最後に居合わせることができず、申し訳なかったわね」
小さく小さく呟く。私への遠慮とサラおばさんへの申し訳なさも含まれ、小さくなったのだろう。
「大奥様。カルアは幸せ者です。肉体はもうありませんが、亡くなったあともこうして大奥様とアンナリーゼ様が訪ねて来てくれるのですから……」
ありがとうございますと頭を深く下げた。その姿にこちらこそと呟いた。
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