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公都に戻って来たのだから

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「その金で何をするんだ?」
「なんだか、人聞きの悪い言い方をするのですね?もちろん、領地につぎ込みますよ?」
「領地って……」
「ちょうど入りようだったので、助かります」
「いつも金策している印象だが、大丈夫なのか?金の方は」


 私はうーんと考えるふりをした。お金についてなら、私はあまり考えていない。湯水のごとく湧いてくるわけではないが、私の資産を持ってすれば、余裕はある。ただ、私費ばかりを使うと、逆に今度は領地運営が上手に出来ていないことにもなる。お金のなかったアンバー領に初期投資は国家予算の何倍もの額をすでに私費から賄っているが、それも徐々に返せるようになってきていた。新しい事業を起こすことも多いので、循環しながら外部からのお金を入れることに心血を注いでいるので、支出よりも収益が少しずつではあるが、回復傾向だ。


「どこから、金が降ってくるのだ?領地内の循環だけでは、うまくいかないだろう?」
「もちろんです。1年目は、領地の整備に私費を費やして生活基盤を立て直すことに力を注いでいましたが、ハニーアンバー店の売れ行きが好調なので、他領からのお金が少しずつ領地にも流れてきています」
「あぁ、店か。そんなもので、収入を得ようだなんて、考えもしなかったが……」
「他にも税を調整したり、制度を整えたりと結構な勢いで形を作っていっていますよ。あとは、学びですね。そこから、おもしろい着想がうまれることもシバシバ。一人では限界があっても、知恵ある人がよれば、なんとかなりますよ」
「アンバー領は、砂糖という高級品も葡萄酒という珍しいものもあるからなぁ」
「元々あったもの、新しく取り入れたものが、うまく領地の特産品として出回ってくれていますから、従来からしている商売も廃ることなく、なお一層励んでくれていますしね」


 公は憎々し気にこちらを見ては、ため息をつく。私のしてきたことは、たいてい知っている公にとって、さぞ、おもしろくないだろう。
 一国の主として、手腕を振るえていない今は、私を使って、何かをするしかないのだ。私も、ただでは動かない。今回の大金もそのうちのひとつで、今、まことしやかに公宮で囁かれている噂があるそうだ。


「文官を少し整理しようと思う」
「文官をですか?」
「あぁ、優秀なものだけをと思って……文官たちに同じだけ金を払うなら、アンナリーゼに払った方が、幾分かマシな気がしてな」
「マシって……酷くないですか?」


 睨んだが、公には公の考えがあるのだろう。宰相も今回の件で推薦したものが、インゼロ帝国との内通者だと知り、謹慎中だそうだ。
 こういうときに出てくるのがゴールド公爵なのだが、今は、大人しいらしい。


「文官の整理はいいですけど、もう少し考えたほうがいいと思います」
「何故だ?」
「今は、復興に向けて、一人でも多くの手がいるときなのです。その仕事ぶりをみて、評価した上でっていうなら、いいと思いますが。闇雲にというのであれば、待ったを言わざるえません。私が国を支えているものでもないので、結局のところ、公がどうしたいかと道筋を作るしかないのですけど」


 ニコニコとしながら席を立つ。公の悩みは、いつも絶えない。だからといって、それに手を貸すのは私の役目ではない。求められた助言だけをして、おいとますることにした。


「どこかに行くのか?」
「えぇ、お店に寄ろうかと。ウェディングドレスの注文でもしようかと思いまして……」
「そなた、また、結婚式をするのか?」
「私じゃありませんよ。セバスとダリアへの結婚祝いにと思いまして。まずは、デザインからですけどね?」


 楽しみですといいながら、私は扉を締めて部屋からでる。何か言いたげであった公から逃げることが出来て幸いだった。
 ニコライは別便に公都に帰ってくることになっていたので、今日あたり、店に顔をだすのではないかと踏んでいた。

 馬車に揺られ、店に入ると、待ち構えているニコライ。
 小麦の売買の話だけでなく、アレキサンドライトのことも聞きたそうにしているので、別室へと案内された。


「アンナリーゼ様、エルドアでは、また、大層な活躍をされたとか」
「たいしたことは、していないわ。それより、お金をそこそこの金額で手に入れられたの」
「何をされますか?」
「まずは、セバスの居所をどこにするのがいいか考えてほしいの。新婚を屋敷に閉じ込めるのは、ちょっとねぇ?」
「あぁ……はい、早速取り掛かります。屋敷を建てたりしますかね?」
「うん、それは、考えてくれているらしいから、領地の屋敷近くにいい土地があれば、案内してあげて。あと、腕のいい大工と」
「それは、任せてください。棟梁に聞いておきます!あとは、何か?」
「小麦の売買をすることになったわ。結構な大口で、備蓄を解放します」
「はい、それは、イチアさんから連絡済みで、動いています。エルドアでも販売されるということで、エレーナ様にも馬車の手配を聞いています。あと、どうしても気になるものが……」


 ニコライが私のつけているアレキサンドライトを見つめる。大きな宝石をつけているので、気になっているのだろう。


「宝飾店から何点か買ってあるの。あと、クズ宝石も。ティアに加工してもらってちょうだい。おもしろい石で、太陽の下にいくと、色が変わるのよ!」


 自慢気にニコライに言えば、珍しいものだったので、驚きましたと帰ってくる。商売上、知ってはいたが、取り扱ったことがなかったらしく、早速、何かを考えているようだった。
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