錠前破りの私の事が大好きな大泥棒の孫はイケメンだが私の相手にはまだ早い【リレー小説】

緑井 藻猫R

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それはある日突然振り込まれた

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2020/11/28投稿分

(I)

 ある日起きたら、自分の通帳に一億円が振り込まれていた。

(M)

そして事件が起こる。
次々と届く封書。
そこには人を追い詰める為の指示が記されていた…。

(I)

 犯罪者として晒されたくなくば、私の指示に従ってもらおう。

 紙面に書かれた文字は新聞紙を切って貼ったものだった。ドラマなんかでよく見かけるそれに、私は恐怖を覚える。

「け、警察に通報しなきゃ!」

 私は震える手で受話器を握った。

(M)
 
 通報で家を訪れた警官。

 何か様子がおかしい。

「なんの悪戯ですか?最近多いんですよこの手の通報」

 まだ若そうな男が欠伸をしながら家に上がってきた。

 男は私を見てニヤリとした。

(I)

 私はズカズカと家に入ってくる男に恐怖を覚えた。

「どうしたんですか?通報したのは貴方でしょ?」

 一歩、二歩と後ずさるとその様子をニヤニヤとした顔で見てくる。ねっとりとした視線に寒気がした。

「警察手帳を見せてください!」

 私は距離を取りつつ、そう叫ぶ。

 男はまたニヤリと笑った。

(M)

「君案外察しがいいね」

 男はそう言うと帽子を取った。思ったよりも若い。ニヤニヤしながら男が近付いてくる。

 私は更に一歩下がったが、背中が壁に当たった。しまった!

 焦燥感に襲われる。軽薄そうな警官のなりをした男が壁に手をつき私の逃げ場をなくした。

「傍受って知ってる?」

(I)

 「ぼ、ぼうじゅ? 傍受ですって!?」

 私は盗聴の可能性を考えずに電話をした事を後悔したがもう遅い。

 顔を青くして逃げ場を探すが、背中には壁があるばかり。正面には危ない男。

 絶対的なピンチに膝が震える。

「ど、どうしてこんな事をするの?」

 勇気を絞り出して男に問う。

(M)

 男は更に顔を近付けてきた。もうお互いの息の温かさが感じられる程の、僅かな距離。

 ミントのいい香りがした。意外だった。

 男が囁く。

「お前、いい腕持ってるんだよな? 一部では有名なんだよな」

 私はつい声を張り上げた。

「なっ何でそれを知ってるのよ!」

(I)

 「そりゃぁ、同じ界隈の人間だからさ」

 男が耳元で囁く。その言葉の意味は痛い程分かった。男の目当ては私の技術だ。

「もう足を洗ったの。あのお金が前金のつもりなら返します。出て行って!」

 男と壁に挟まれている状態だと言うのに、気がつけば感情の昂りからか強い口調で叫んでいた。

(M)

 男が真顔になる。

「駄目だ。俺はお前の技術に惚れてるんだ。前に一度目にする機会があってな、そこからずっとお前を探してたんだ」

 私は目を瞑った。ああ、一度足を踏み入れた世界からは抜け出す事が出来ないのか。

「だからあれは前金じゃない。俺との契約金だ」

 男の唇が、触れた。

(I)

 ミントの香りが鼻をくすぐるまで、私は一瞬何をされたのか分からなくて目を見開いて固まった。

 数秒のキスを終え、男の柔らかい唇はそっと離れる。見ると男は笑っていた。

「な、何するの!?」

 こんな形で口づけされた事がない私は瞬時に顔を赤くする。

「逃がさないって事さ」

(M)

 男はまたニヤリとすると、変わらず近距離で言葉を紡ぐ。

「あちこち逃げ回るからさ、探すのが大変かもだったんだ。俺の苦労も分かってくれよ」

 私はようやく今のこの状況が決して不利なものではない事に気が付いた。交渉の余地はある。

 何故なら相手は私の腕を求めているからだ。

(I)

「随分勝手な言い草ね。勝手に契約金を送りつけて、盗聴して、唇まで奪って、その上苦労を分かれ、だなんて」

 私は呆れた声で男にそう言った。男はそれでもニヤリとした笑みを崩さない。

「手を離して。私に協力して欲しいのならね」

 男はその一言を聞いても尚手を離してはくれなかった。

(M)

 仕方がない。
 
 男の手首をそっと掴んだ。男の表情が変わる。何かを期待した様なその表情に苛ついた。馬鹿じゃないのか。

 男の手首を一気に外側に向けて捻った。男が屈む。

「いたっいたたたっっ何するんだ!」

 涙目になって見上げてくるその姿は情けないのひと言だった。

(I)

「犯罪者の手首を捻るのに理由なんて要らないでしょ?」

 私は男を見下しながら徐々に握った手の力を強めていく。手首は曲がってはいけない方向へとミシミシと音を立てた。

「分かった! 悪かったから、この手を離してくれ!」

 泣いて懇願する情け無い男に、大きなため息がふぅと出ていった。

(M)

 男の手首は離さぬまま、私は交渉を開始する事にした。

「で、本当の目的は?」
「だから、お前を」

 膝をついた男の足の甲を踏む。

「お前? 誰の事?」
「す、すみませんっ」

 男が手を引っ込めようとしたので手首にまた力を込める。

 男の目尻には涙が浮かんでいた。情けない。

(I)

「俺は、姫神 愛(ひめがみ あい)。あんたの力を……なんとしても手に入れたい」

 男の目に力が入るのを私は見た。どうやら本当にいろいろと調べてからここへ来たらしい。

「お断り。私、さっきも言ったけど足を洗ったの。ところで、あんたの名前は?」

(M)

「俺は鬼嶋キシマだ。鬼嶋リュウ。頼む、金でも俺でも何でもやる。やるから、あんたが欲しいんだ。それに」

 男が息を吐いた。

「名前を言った以上、もうあんたは断れない」

 鬼嶋と名乗った男はそう言った瞬間、緩んでいた手首の拘束をスッと回転させると今度は愛の手首を掴んで捻った。

(I)

 しまった!と思った時には既に遅かった。捻られた細い手首は愛の力ではどうすることも出来ない。

「痛い! 離して!」

 今度は愛が情けない声を出す番だった。

「『犯罪者が手首を捻られるのに理由は無い』って言ったのはあんただよな?」

 先程の笑顔は消え、男性の真顔が私を睨んでいた。

(M)

 一度でも踏み入れた世界からは簡単に抜け出す事は出来ないのか。愛は一旦は従う決心をした。とにかくこの男に何とか信用してもらうしかこの状況を打開する策はなさそうに思えた。

「分かった。分かったわよ。一度だけ協力するわ。私は何をすればいい?」

 男がにこりと笑い、注射器を取り出した。

(I)

 明らかに事前に用意されていた注射器に私は息を飲む。

「やめてっ!!」

 そう叫ぶも、男に押し付けられたまま、私は乱暴に注射を打たれた。チクリと二の腕が痛んだかと思うと、視界がぐにゃりと曲がる。

「さっきの言葉、忘れるな」

男の言葉だけが、遠ざかる意識の中ではっきりと耳に届いた。




 

(M)

 視界が、暗い。

 始めに気付いた事だった。少し息苦しい。どうも袋か何かを被されている様だった。

 手を動かしてみる。体の前で縛られている様だった。

(畜生……!)

 愛は唇を噛み締めた。足を洗ってから油断をしていた。

 寝かされている場所は布団の上だろうか。柔らかかった。

(I)

 私は体をよじって袋を取ろうとすると、袋ががさがさと音を立てる。その音に一瞬マズイと身をこわばらせたが、逆に視界は急に開けた。

「よぉ、目が覚めたか? さっき到着した所だ」

どうやら、リュウが袋を取ってくれたらしい。

「到着?」

 私は首を傾げて聞き返しあたりを見渡した。

(M)

 「ん、俺のアジト。どうだ? いいだろ」

 どうも山の中の一軒家なのか、大きな硝子窓から見える暗い空には山の黒い影が映っている。パチパチ、と爆ぜる音は暖炉から発せられていた。

 どう見ても高級別荘だった。そしてそこに置かれた大きなソファの上に寝かされていた。

(I)

 ふかふかのソファは心地よく、暖炉の火が揺れ動く影はどこか、安心感を覚える。立派な佇まいを見れば見る程、私の頭の中には当然の疑問がわいてくる。

「こんな立派な場所に住んでいるのに……どうして私をさらったの?」

 私が犯罪に手を染めたのは他でもない、生きる為だ。

(M)

 男はいつの間にか警官の制服を脱ぎ、黒いタートルネックの長袖にジーンズを履いていた。こう見るとスタイルがいい。そういえば背が高めの愛よりも背が高かった気がする。

 先程見た時よりも大人っぽい雰囲気で私は混乱してしまった。あの情けなかった男と今目の前にいる男。どちらが本当だろう?

(I)

 まじまじと見ていたのがバレたのか、リュウはゆっくりとこっちへ歩いてくるとニヤリと笑う。

 先ほどは違和感しかなかったその笑い方も、今の服装では様になっていて私は少し頬を赤らめた。

「奪われたものがある。奪い返したい」

 リュウは笑顔で私の隣に腰を掛けてくる。

(M)

 「俺の一族は代々裏稼業なんだがな、初代の爺さんの大事な物を奪われた。あんたのその解錠の腕を俺に貸して欲しいんだ」
「……それはやりごたえのある物なの?」

 私の引退の理由。師匠の死もあったが、それ以上に面白味のある金庫や扉がなくなってきたのがその一番の理由だった。

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