錠前破りの私の事が大好きな大泥棒の孫はイケメンだが私の相手にはまだ早い【リレー小説】

緑井 藻猫R

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11/29 ファイル『愛❤』

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(I)

「ああ。間違いないな」

 男は歯を見せて笑うと、私も久々の大物の出現に思わず口角が上がる。

 ありきたりな鍵なら物の数分。扉、金庫、パスワード、電子ロック。どんな鍵でも私の手にかかれば解除できないものは無い。

「話を、聞きましょう」
「そうこなくちゃな!」

(M)

「そうと決まればまずはこれ。外して頂戴」

 私は手に巻きついた紐をリュウに見せた。リュウはそうだった、という顔をして次いで笑ってみせた。

 随分と子供みたいな笑顔じゃないか。ついどきっとしてしまった。

「貸して」

 リュウが背後から手を回しつつ紐をほどき出した。

「ちょっと」

(I)

 リュウの体が私に密着すると、いよいよ鼓動が早くなる。

「なんでそっちから手を回すの」

 私がそう言うとリュウはその子供みたいな笑顔を惜しげもなく向けてくる。

「紐を解くって言う口実にスキンシップをね」
「なによそれ」

 そんな一言二言の間に私の手を巻いていた紐は解かれていた。

(M)

 私は手首をパタパタと振る。すっかり固まってしまっていた。

「解錠にはこの手は大事なの。もうこういうのはやめて」
「それは悪かった」

 リュウは素直に謝ると、私の手を取りマッサージをし始めた。手のひらを上にし、両手の小指で端を押さえ親指で押す。気持ちいいじゃないか。

(I)

「上手いのね。本職をマッサージ屋にしてしまえば?」
「それは褒めてくれているのか?」

 私がそんな風に意地悪く言って見せてもリュウは怒ったりしなかった。

「まぁ、愛以外の手なんて揉まないけどな。この手は解除に必要な大事な手だ。俺の宝だ」

 リュウの目は真剣そのものだった。

(M)

 「これが終わったらちゃんと解放してよね」

 協力すると決めたとはいえ一度洗った足だ。3度目はない。そう思っていた。

 リュウの目は真剣なもののままだった。

「終わる頃には愛が解放されたくないって思える様にする」
「は?」
「愛は甘めが好み?それとも俺についてこい系がいい?」
「はあ」

(I)

 呆れてものが言えないとはこのことだ。

 リュウはよっぽど自分に自信があるのか、私がリュウを好きになると本気で思っているらしい。

 私からしてみるとつい数時間前まで脅迫状を送ってきた相手。顔がかっこいいとは言え、すぐに心まで奪われるとは思えなかった。

「私を尊重してくれる人」

(M)

 リュウの顔が強張った。

「愛は難しい事を言うんだな」

 手を引っ張り、代わりに反対の手を出した。ここから先は立場を入れ替えねばならない。

「はい、反対も宜しく」
「はは、承知しました」

リュウが手を同じ様に持ち指の腹で押していく。これは毎日やってもらおう。そう思った。

(I)

 手がじんわりとほぐれる。リュウの手は温かくてとても心地が良い。リュウはしばらく私の手を揉んだ後、優しく私の手を膝に下ろすと、静かな声で切り出した。

「そろそろ、話を聞いてくれるか?」

 リュウの真面目な顔とは逆に私は笑顔で頷いた。どんな鍵が待っているのだろうか。

(M)

「いいわよ、聞きましょ」
「よかった」

 リュウはあからさまにホッとすると、ポケットからスマホを取り出した。顔認証で開くタイプだった。ホーム画面が映し出される。

 リュウがひとつのファイルをタップする。

「ちょっと待って、今横に『愛❤』て名前のファイルがあったでしょ」
「え、あは」

(I)

 悪戯がバレちゃった子供のような顔をしながらリュウが笑う。流石に引く。それは引く!

「開いて」
「え!?」

 私がドスの聞いた声と共にリュウを睨みつけると、リュウは目を見開いた。

「チェックします」
「ちょっと待ってくれ。流石に……見ないほうが良いだろう?それに、仕事の話……」

(M)

「見せろ」

 低い声でひと言。リュウの口の端が笑顔のままヒクヒクいっている。

「貸して」

 手を出す。リュウが恐る恐るスマホを愛の手に置いた。

「お、怒るなよ」

 怒る様な何かが入っているという事だ。確認したら削除しよう。

 『愛❤』のフォルダをタップする。写真が多いようだが、これは。

(I)

 凄まじい量の自分がそこにいた。

 最近の物ほど、ただただ自分の盗撮写真が乱立していたが、昔のものになるにしたがって『仕事中』の自分が映っていた。

 初期の頃、開錠した金庫。

 誰もが開けられなかった開かずの扉。

 危ない薬のサンプルが入った電子錠。



 そして、所々に亡き師匠が映りこんでいた。

(M)

 懐かしい無精髭。気難しい職人の様な顔をして、少し白髪が増えた頭には手拭いを巻き。厳しくも時折見せる表情が優しくて、大好きだった。

 涙が溢れてきた。こんなもの、消せない。

 リュウが隣で渋面を作っていた。

「……結局相手にされなかったんだろ? まあ親子程年齢離れてるしなあ」

(I)

 相手にされてなかった。

 そう言われて私の胸は締め付けられる。二回りも年上の師匠だ、当然と言えば当然だった。

「それでも。私は……」

 そう言いかけた時、リュウは私の唇を唇で塞いだ。本日二回目のキス。

 今度は間髪入れずにリュウから離れる。

「俺なら愛を残して逝かない」

(M)

 こいつは自分の立場を分かっているのか。

 私は拳を握り締め、リュウの頬に向けて振り上げる。

 がしかし、その手は当たる前に止められてしまい、

 本日3度目。ふざけるなと思う。

 泣きそうな、リュウの目。

「この写真、全部俺が自分で撮ったもんなんだ。ようやく邪魔がいなくなったのに」

(I)

 そう言われて写真を見るとどれもコレも少しだけ離れたアングルだった。

「この金庫、確か3年くらい前よね?」

 つまり3年程前より盗撮されていたようだ。

「俺が愛を知ったのはこの仕事の一つ前。覚えてるか?」

 そんな事を言われた所で3年前の仕事の一つ前なんて記憶に残っている訳がない。

(M)

 私が首を横に振ると、リュウは少し寂しそうに笑った。

「印象ゼロかあ。俺、もうあの時からずっとあんたに会いたくて腕も磨いてさ。なのにあんたのあの師匠が絶対近寄らせなくて」
「え」

 師匠、私を守っててくれたのか。私を受け入れてはくれなくても、それでも私を。

(I)

「師匠……」

 その言葉に私が笑顔になると、リュウは反対に泣き出しそうな目をする。

 心の中で生き続ける師匠の影が再びリュウと言う存在から私を守ってくれる気がした。

「私は、仕事の契約をしただけ。もう、軽々とキスしないで」
「そんな!」

 何がそんな! だと、溜息が一つ溢れでた。

(M)

「いいか愛」

 リュウがずい、と顔を近づけてきた。私はリュウの首を手で押して距離をあける。

「近い」
「俺は諦めないぞ。ずっとずっと見てきたんだ、この機会を逃して他の男に捕まったらやだもんな」

 愛は眉を顰めた。

「ただのストーカーじゃないのよ」

(I)

「ストーカーなんかと一緒にするなよ」

 リュウは口を尖らせて私に抗議する。

「じゃぁ、何よ」
「将来の旦那だ」

 ゴツンと言う音が鳴り響く。つい、ムカついてリュウの頬をグーで殴っていた。

「何すんだよ!」

 涙目のリュウは赤くなる頬を両手で覆った。

「話が逸れたわ。仕事の話をして」

(M)

「あ、ちなみに婚姻届は日付と捺印をすればいい状態になってるから」

 リュウが冗談とも本気とも取れない話を笑顔でしてきた。頭が痛くなってきた。

「仕事……するの? しないの?」

 これまでで一番低い声が出た。

「し、しますします。スマホ返して。見せるから」

(I)

 リュウは漸く仕事の話をする気になったようだ。愛❤の隣のフォルダを開くと、見たこともない建物の写真が出てきた。

「これは?」

 銀一色の近未来的な建物に見覚えは無い。見た所、入り口さえ何処にあるか分からなかった。

「墓場さ」

 言葉と建物の風貌が一致せず私は首を傾げた。

(M)

「誰のお墓なの?」

 乗り出してきた私を見て、リュウも途端仕事の顔になった。どんなにふざけている様に見えてもお互いその道のプロなのだ。そして失敗は許されない。

「爺さんの元相棒の墓だ」
「貴方のお爺さんて有名なの?」
「そこそこね。愛は聞いたことないかなあ」

(I)

「 |鬼嶋  勘次かんじって名前を聞いた事は?」

 流石の私も名前を聞いてピンときた。裏家業をやっている物ならその名を聞が無い者はいない。

 師匠からも口を酸っぱくして言われていた。

 鬼嶋勘次には近づくな、と。

「どんな手を使ってでも、欲しい物を手に入れるで有名な、あの?」

(M)

 リュウが頷く。

「そう、その勘次。ちょっと前に死んじゃったんだけどさ、盗んだ物の一部が行方不明になっててね。色々調べたところ、なんと最近これまた死んだ元相棒の墓の中にあるらしいって事が判明した」

 それがあの箱な訳だ。

「それ程大事な物って何なの?」

(I)

「指輪だ」
「指輪?」

 私はそれを聞いて内心がっかりした。どんな凄い宝が眠っているかと期待していたのに、指輪だとは。

「そうがっかりするなよ。勿論、ただの指輪じゃない。いくら値打ち品でもわざわざ盗んでまで墓に持って行く訳無いだろ?」

 私は身を乗り出した。

「秘密があるの?」

(M)

 リュウが頷く。私が話に乗っているのが嬉しいのか、チラチラと見ては嬉しそうにする表情が苛つく。こいつもプロならば表情のひとつ位コントロール出来ないと拙いのではないか。

「これは鍵なんだ。爺さんが残した莫大な遺産の鍵」
「あんた孫なのに遺産残されなかったの?」

(I)

「されなかったし、頼みもしなかった」
「どうして?」

 そう聞かれたリュウの嬉しそうな顔。

「俺の孫なら欲しけりゃ奪ってみろ、だとさ。爺さんらしくて笑っちゃったよ」

 懐かしそうに、誇らしそうにリュウは笑う。私は一瞬だけその笑顔が眩しく感じた。

「好きだったのね」

(M)

「好きっていうか、爺さんは俺の目標だったからな。少しは認めてもらえたのかなって思ったら嬉しくはあったけど」

 それに、とリュウが私の顔を覗き込んできた。

「好きって言うなら、愛の方が大好きだ」
「馬鹿じゃない、会った事もなかったでしょうに」
「さっき言っただろ、3年前に会ったって」

(I)

 先程もそう言われたが全く思い出せない。

「金庫の前の仕事?3年前?」

 首を捻り続ける私に剛を煮やしたのか、リュウはまた泣きそうな顔をした。

「あの時、ちゃんと言ったはずだ。必ずあんたを物にするって!!」

 そのセリフは確かに脳裏の何処かに残っていたようで、ふと記憶が蘇った。

(M)

 「ああ、あの時のなよなよ!」

 愛が手を叩くと、リュウがガックリと頭を下げた。

「なよなよ……そんなイメージだったの? 俺……」
「生意気な事ほざいてる癖に師匠に軽くあしらわれてたひょろひょろ」

 師匠ととあるカジノオーナーの金庫を開けようとした時にバッティングした泥棒だ。

(I)

「ひょろひょろ……」

 かなりのショックを受けている様子に私は呆れる。

 確かにあの時、カジノで金庫を開けていたのは私だった。職業柄、時たま泥棒に出くわす事はあったが、同年代の泥棒が現れたのは珍しい。

「笑いかけてくれたように見えたんだけどな」

 子供のように唇を尖らせた。

(M)

そうだっただろうか。いや、確かあまりにも場に不釣り合いな子供っぽい雰囲気が可笑しかったので。

「ごめん、あれは笑いかけたんじゃなくて笑った。子供が何遊びに来てるんだと思って」

 リュウの顔が蒼白になる。

「え、じゃあ馬鹿にしてたって事?」

 私は力強く頷いた。

(I)

「そんなぁ! 俺、その時の笑顔に心奪われたのに!?」

 リュウは私の服の袖を掴んで涙目で顔を覗き込んでくる。まるで子供だ。3年前とたいして変わりない。

「そんな事知らないし」

 その涙目をピシャリと突き放した。

「愛、俺を本気にさせるとどうなるか、分かってないね?」

(M)

「だってあんたの事知らないでしょ。何知ってる前提で話進めてんのよ」

 冷静に言うと、リュウの目が一瞬だが傷ついた様に見えたが知った事ではない。私の中で一番なのはいつも師匠だ。師匠だけだった。

「……俺はお前の事を知ってる」
「だから何よ」
「俺をもっと知ればいい」

(I)

 そう言うとリュウは突然立ち上がる。

「見せたい物がある」

 リュウは暖炉の前に立った。

「何?」
「いいから。愛にだけ特別だよ?」

 近くへ行くとリュウは火かき棒を手に持ち、徐に私の腰に手を回す。

「ちょっと!」
「動くよ? 捕まって」
 
 火かき棒を溝に挿すと、暖炉ごと回転した。

(M)

 流石伝説の大泥棒の孫。金はあるらしい。こんな物を作らせるなんて。

 回転した暖炉の先には、大きなスクリーンとモニターが数台。サーバーも複数台設置してあり、横の壁には一面の武器。

 反対の壁を見ると、大きな電子地図が浮かんでいた。

「何これ……」

 その美しさに私は言葉を失った。

(I)

「気に入ってくれたかな?」
「ええ。正直驚いたわ」

 初めて見る最新機器に私は興奮する。

「俺と一緒にいたら、退屈はさせない。ここ数週間の愛はまるで死んだ魚のような目をしていたからね」

 意外にも、この男は私の心に燻る退屈を察していたようだ。

「ふぅん? 悪くないわね」

(M)

「愛、あんたがまた見た事がない難解な錠が世界には山の様にある。あんたは師匠っていう情報源をなくしてその存在に気付けずにいただけだ」

 リュウの目に反射する電子の光。温かみのないそれは、今まで見た事がない程の温かみを感じさせた。

「あんたが開ける。俺が盗む。楽しそうじゃないか?」

(I)

「楽しい……? そう、楽しい、ね」

 忘れかけていた思いが心の底からふつふつと湧きあがる。

 難解な錠に立ち向かう時の高揚感。鍵の作者との錠を介しての一騎打ち。
そして、解錠したときの達成感。

 そう、それは言葉に表すなら「楽しい」に他ならない。

「久々だわ。こんな気分!」

(M)

「だから、さ」

 リュウが一歩近づいてきた。

「なに」

 私は楽しい事が先に待っている事に夢中になり、また油断していた。どうも私の集中力は一点に集中し過ぎなようだ。錠破りには必要な能力なのだろうが、こういう時今まで如何に師匠が守ってくれていたのかを実感する。

 本日4度目。

(I)

 4度目となると多少の慣れを感じるのか、慌てずにリュウの肩を押し返した。

「やめて」
「隙だらけの愛が悪い」

 確信犯がニヤリと笑う。私もこれ以上怒る気になれずにじっとりとした抗議の目を向けるに留めた。

「明日朝一で終わらせる」
「えー!」

 情けないリュウの声が部屋にこだました。

(M)

 「ありゃ電子錠だぞ。あんた今機材持ってんのか?」

 なるべく先延ばしにしたいのか、リュウがぶつぶつ言う。

「今からプログラムを組む。貸して。勿論持ってるんでしょう?」

 リュウは今度こそ本当に膨れた。

「あるけどさ! だけど今夜は折角ふたりで過ごそうと思ってあれこれ用意を」

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