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警視庁零課
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警視庁・零課。
ここは近年日本で起こる、怪事件の捜査を主に担当している。とはいえ、設立から年が浅く、扱う事件の方向性により、警視庁内での風当たりは強く、志願してはいるものもほぼおらず、警視庁内に「零課送り」などと言う言葉も存在する程だ。この日もまた、零課の係長である、志木織機は既に本日何度目かになるため息を吐いた。
「おはようございまーす。」
「おはよう、白滝。」
始業時間きっちりに現れた部下に挨拶を返し、事件の資料にもう一度目を向ける。事件、そう、ここ連日巷を賑わせているあの事件だ。誘拐された少女は皆無事に帰ってきたのだが、マスコミに親が大々的に発表してしまったが故に、彼らも調査に参加することになってしまった、連続少女誘拐事件の資料だ。
「織機さん、何かあったんですか?」
「昨日、お前が休んでいる間にもう一度例の場所に行ったんだ。鑑識に無理言って引き連れてな。」
「で、何か見つかったんですか?」
資料を覗き込んでくる部下。何を隠そう、今回の事件においてこの部下は「この一ヶ月で二度あったんだからもう一回ありますって!この辺り、お金持ち校まだありますし!あれ?月またぎました?まぁ絶対もう一度ありますよ!」と言いだし、五校ある(今までの事件で襲われた被害者の通う学校も含む)学校の中から勘で襲撃された学校を当てた男なのだ。
「これを見てみろ。お前と犯人を取り逃がした公園の植木なんだが」
「焦げ、ですかね?」
一枚の写真、そこには不思議な形状に焼けた跡のついた植木が写っている。
「横に向かってギザギザした線として焦げ目がついていたんだ。まあ、あんなことのあった後すぐだったから、子どもも居なかったしな。あと見つけたのは透明なプラスチック片くらいだ。」
資料はお前のデスクの上にもコピーがあるからそっちを見ろ。と言うと自分のデスクに戻っていく。志木は本日の予定を組み立てながら、プラスチック片の写真をしげしげと見つめる。大方、子どものおもちゃの破片だろうと思われるそれは透き通っており、綺麗な黄色をしている。あと三十分後には事件の調査本部で会議がある。上から言われそうな嫌味の数々を考えるだけで胃が痛くなる。だがそれも仕事なのだ。逃げられるなら逃げたいな、と思いつつ、彼はそっと資料を閉じた。
捜査本部での会議は彼の予想した通りの結果となった。なぜそのまま取り押さえることができなかったのか、と非難囂々。更には前日の鑑識を駆り出しての捜査にまで難癖をつけられる始末。取り逃がしたのは確かに我々だが、張り込みに人数を出してくれなかったのはあちらである。言えないのは歯痒いが、逆らえるだけの実績がまだこの場にはないのである。
「今回もめちゃめちゃ言われましたね。」
あ、コーヒーどうぞ。とコーヒーを差し出しながら言う呑気な部下からコーヒーを受け取ると一口、口を付ける。
「取り逃がしたのは我々の落ち度だからな。仕方がないさ。」
「でも、張り込みたいならお前たちだけでしろーって貸してくれなかったのあっちですよ?うち、四人しかいないのに。」
「ここはそういう課なんだ。一年もいればわかっているだろう?」
そう言えば黙り込む。白滝もまた、一年間の零課での活動を通して行っているからこその反応だった。
「それはそうとお前はどうだったんだ?」
「何がです?」
「昨日、妹さんと出かけたんだろ?どこに行ったんだ?」
「あー、それですか。二人で遊園地に行ったんですよ。」
「遊園地か。ん?妹さん、こう高校生だろう?よくオーケーが出たな。」
「行き先は内緒にしてたんですよ。僕もなんですけど、妹、おじいちゃん子で。前に祖父と一緒に出かけた思い出の場所なんですけどね?その時と同じヒーローのショーをやるって知り合いに教えてもらったんで、行ってみたんですよ。」
「そうか。楽しんでくれたのか?」
「はい。」
「それなら良かったな。」
そう言うと、部下はにこやかな笑顔で「はい」ともう一度返事をした。
ここは近年日本で起こる、怪事件の捜査を主に担当している。とはいえ、設立から年が浅く、扱う事件の方向性により、警視庁内での風当たりは強く、志願してはいるものもほぼおらず、警視庁内に「零課送り」などと言う言葉も存在する程だ。この日もまた、零課の係長である、志木織機は既に本日何度目かになるため息を吐いた。
「おはようございまーす。」
「おはよう、白滝。」
始業時間きっちりに現れた部下に挨拶を返し、事件の資料にもう一度目を向ける。事件、そう、ここ連日巷を賑わせているあの事件だ。誘拐された少女は皆無事に帰ってきたのだが、マスコミに親が大々的に発表してしまったが故に、彼らも調査に参加することになってしまった、連続少女誘拐事件の資料だ。
「織機さん、何かあったんですか?」
「昨日、お前が休んでいる間にもう一度例の場所に行ったんだ。鑑識に無理言って引き連れてな。」
「で、何か見つかったんですか?」
資料を覗き込んでくる部下。何を隠そう、今回の事件においてこの部下は「この一ヶ月で二度あったんだからもう一回ありますって!この辺り、お金持ち校まだありますし!あれ?月またぎました?まぁ絶対もう一度ありますよ!」と言いだし、五校ある(今までの事件で襲われた被害者の通う学校も含む)学校の中から勘で襲撃された学校を当てた男なのだ。
「これを見てみろ。お前と犯人を取り逃がした公園の植木なんだが」
「焦げ、ですかね?」
一枚の写真、そこには不思議な形状に焼けた跡のついた植木が写っている。
「横に向かってギザギザした線として焦げ目がついていたんだ。まあ、あんなことのあった後すぐだったから、子どもも居なかったしな。あと見つけたのは透明なプラスチック片くらいだ。」
資料はお前のデスクの上にもコピーがあるからそっちを見ろ。と言うと自分のデスクに戻っていく。志木は本日の予定を組み立てながら、プラスチック片の写真をしげしげと見つめる。大方、子どものおもちゃの破片だろうと思われるそれは透き通っており、綺麗な黄色をしている。あと三十分後には事件の調査本部で会議がある。上から言われそうな嫌味の数々を考えるだけで胃が痛くなる。だがそれも仕事なのだ。逃げられるなら逃げたいな、と思いつつ、彼はそっと資料を閉じた。
捜査本部での会議は彼の予想した通りの結果となった。なぜそのまま取り押さえることができなかったのか、と非難囂々。更には前日の鑑識を駆り出しての捜査にまで難癖をつけられる始末。取り逃がしたのは確かに我々だが、張り込みに人数を出してくれなかったのはあちらである。言えないのは歯痒いが、逆らえるだけの実績がまだこの場にはないのである。
「今回もめちゃめちゃ言われましたね。」
あ、コーヒーどうぞ。とコーヒーを差し出しながら言う呑気な部下からコーヒーを受け取ると一口、口を付ける。
「取り逃がしたのは我々の落ち度だからな。仕方がないさ。」
「でも、張り込みたいならお前たちだけでしろーって貸してくれなかったのあっちですよ?うち、四人しかいないのに。」
「ここはそういう課なんだ。一年もいればわかっているだろう?」
そう言えば黙り込む。白滝もまた、一年間の零課での活動を通して行っているからこその反応だった。
「それはそうとお前はどうだったんだ?」
「何がです?」
「昨日、妹さんと出かけたんだろ?どこに行ったんだ?」
「あー、それですか。二人で遊園地に行ったんですよ。」
「遊園地か。ん?妹さん、こう高校生だろう?よくオーケーが出たな。」
「行き先は内緒にしてたんですよ。僕もなんですけど、妹、おじいちゃん子で。前に祖父と一緒に出かけた思い出の場所なんですけどね?その時と同じヒーローのショーをやるって知り合いに教えてもらったんで、行ってみたんですよ。」
「そうか。楽しんでくれたのか?」
「はい。」
「それなら良かったな。」
そう言うと、部下はにこやかな笑顔で「はい」ともう一度返事をした。
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