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ヒーロー対悪役怪人
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夢を見ていた。まだ、私が小さい頃の夢。おじいちゃんと、お兄ちゃんと、三人で遊園地に行った時のこと。ヒーローショーの後、初めての遊園地で迷子になった。誰かに手を引かれて、二人を探した。あれは誰だったか。
「か、藤華、藤華!」
「お兄、ちゃん……?」
目を開けると、そこには心配そうな顔の兄とスーツ姿のおじさんが居た。
「私、確か……。」
「とりあえず外に出よう。ここにはあまり長居しないほうがいい」
「白滝、こっちに非常階段がある!」
早く、と急かすその人に「今行きます」と短く返事をすると兄は私の方へ向き直す。
「立てるか?」
「うん。」
老朽化の進んだ階段を下り切ると、私が今まで居た建物の全貌がはっきりとする。それと同時に私の意識もはっきりと覚醒してきた。入口にあたる場所には数台のパトカーが停まっており、姿を認識するより早く駆け寄ってきたであろうリリィさんに抱擁と言う名の突進を食らわされた。
私にしがみついて「怪我、ない。よかった」と離れる様子のないリリィさんに「困りましたねぇ」と言いながら、説明をしてくれたのはテレビさんだった。ボスはまだあの建物の中に居るらしい。時折、何かものの倒れるような音などはするものの、ボスの声は聞こえては来ない。当然と言えば当然なのかもしれないが。
「まぁ、ボスのことなんで、心配なんてしませんがねぇ」
するだけ無駄なんです。テレビさんがそう言うほうが早かったか、ほぼ同時にすぐ近くのガラクタの山に何かが突っ込んでくる。いろんなものを盛大に巻き込み、凄まじい音が響き、土埃のような埃と土のにおいの混ざった煙に皆がむせる。
「……今回くらいは心配してあげても良さそうですねぇ」
特にむせる様子も無く(顔がないからだろう)どこか気まずげに言うテレビさん。こころなしか、彼の画面も声もノイズ混じりだ。
「これはこれは、悪の秘密結社の皆さんお揃いのようで。」
土埃のその奥、建物の方から誰かが歩いてくる。カメレオン、それが第一印象だった。
「こ、れ、は、フツーによろしくない展開ですねぇ。レオンハート、迷彩ヒーロー!体の色を自由自在に変えることの出来るヒーロー!ヒーローショーだと結構若い奥様ウケが良いタイプ。実に羨ましい!」
「テレビ、煩い。フジカ、警察と一緒に、離れる。」
振り返ることなく、レオンハートを睨んだままのリリィさんに頷くと入口に停められたパトカーのところまで下がる。一般人を巻き込まないのは両者の暗黙の了解なのか、彼らは睨み合ったままだ。
「……ほんと、ついてないですよねぇ。アタシ、戦闘向きじゃないって再三言ってるんですけどね。」
「嘘ばっかり。」
「いえいえ、本当ですよ?だって、電波がないと何も呼び出せませんから。」
画面いっぱいのノイズの真ん中にでかでかと結社のエンブレムを表示させたテレビさんの手にはいつの間にか魔改造されたとしか思えない、肩掛け式のメガホンが握られていた。そして、すう、と息を吸い込むと一気にマイク部分に向かって息を吐き出す。
「ァ、者共ォ!残業ォ~!」
ビリビリと周りを震わせるような大きな声。その声に呼応するかのようにとても細身な彼の影からメカニカルな忍者が召喚される。
「自宅待機してくれてたのにすみませんねぇ。そんじゃあ早速やっちゃって!」
忍者達はこくりと頷くとレオンハートに攻撃すべく、苦無を構え、飛び込んでゆく。
「お前達、仕事。」
リリィさんの合図で可愛らしいお化け達が私達の周りを漂い始める。見つめるとグ、と親指を立てるように手を動かす。どうやら守ってくれているらしい。
「それにしても、レオンハートさん、今回ばかりはあなた、マズイんじゃありません?なんだ言ってヒーローが人攫いって。」
忍者達を的確に仕留めていくヒーロー、レオンハートに問いかけるテレビさん、見様によっては時間稼ぎにも見えるその問いかけに彼は律儀に返事をする。
「確かに、警察にも姿を見られた。この戦闘も時間稼ぎでしかない。だがそれでも、やらないといけないこともある。」
それ以上は語らなかった。そんなレオンハートの様子に困ったように肩を竦める。
「それもですけどぉ……ん、まあいいでしょう!ちょっとボス、それはそうといつまで休憩してるつもりなんですか。ニンジャー達も帰宅しちゃいましたし、私、戦えないっていつも言ってるじゃないですかぁ。」
放送だったら次週持ち越しですよ!と言うテレビさん。
「無駄だ、お前達のボスならついさっきまともに正面から俺の必殺技を食らったからな。そう簡単には起き上がれないだろうさ。」
ヒーローの必殺技を受けて立ち上がる悪はいない。それがヒーローと悪役の決まり事。
しかし、それは正義と悪が正しい立ち位置にあった場合だ。
「か、藤華、藤華!」
「お兄、ちゃん……?」
目を開けると、そこには心配そうな顔の兄とスーツ姿のおじさんが居た。
「私、確か……。」
「とりあえず外に出よう。ここにはあまり長居しないほうがいい」
「白滝、こっちに非常階段がある!」
早く、と急かすその人に「今行きます」と短く返事をすると兄は私の方へ向き直す。
「立てるか?」
「うん。」
老朽化の進んだ階段を下り切ると、私が今まで居た建物の全貌がはっきりとする。それと同時に私の意識もはっきりと覚醒してきた。入口にあたる場所には数台のパトカーが停まっており、姿を認識するより早く駆け寄ってきたであろうリリィさんに抱擁と言う名の突進を食らわされた。
私にしがみついて「怪我、ない。よかった」と離れる様子のないリリィさんに「困りましたねぇ」と言いながら、説明をしてくれたのはテレビさんだった。ボスはまだあの建物の中に居るらしい。時折、何かものの倒れるような音などはするものの、ボスの声は聞こえては来ない。当然と言えば当然なのかもしれないが。
「まぁ、ボスのことなんで、心配なんてしませんがねぇ」
するだけ無駄なんです。テレビさんがそう言うほうが早かったか、ほぼ同時にすぐ近くのガラクタの山に何かが突っ込んでくる。いろんなものを盛大に巻き込み、凄まじい音が響き、土埃のような埃と土のにおいの混ざった煙に皆がむせる。
「……今回くらいは心配してあげても良さそうですねぇ」
特にむせる様子も無く(顔がないからだろう)どこか気まずげに言うテレビさん。こころなしか、彼の画面も声もノイズ混じりだ。
「これはこれは、悪の秘密結社の皆さんお揃いのようで。」
土埃のその奥、建物の方から誰かが歩いてくる。カメレオン、それが第一印象だった。
「こ、れ、は、フツーによろしくない展開ですねぇ。レオンハート、迷彩ヒーロー!体の色を自由自在に変えることの出来るヒーロー!ヒーローショーだと結構若い奥様ウケが良いタイプ。実に羨ましい!」
「テレビ、煩い。フジカ、警察と一緒に、離れる。」
振り返ることなく、レオンハートを睨んだままのリリィさんに頷くと入口に停められたパトカーのところまで下がる。一般人を巻き込まないのは両者の暗黙の了解なのか、彼らは睨み合ったままだ。
「……ほんと、ついてないですよねぇ。アタシ、戦闘向きじゃないって再三言ってるんですけどね。」
「嘘ばっかり。」
「いえいえ、本当ですよ?だって、電波がないと何も呼び出せませんから。」
画面いっぱいのノイズの真ん中にでかでかと結社のエンブレムを表示させたテレビさんの手にはいつの間にか魔改造されたとしか思えない、肩掛け式のメガホンが握られていた。そして、すう、と息を吸い込むと一気にマイク部分に向かって息を吐き出す。
「ァ、者共ォ!残業ォ~!」
ビリビリと周りを震わせるような大きな声。その声に呼応するかのようにとても細身な彼の影からメカニカルな忍者が召喚される。
「自宅待機してくれてたのにすみませんねぇ。そんじゃあ早速やっちゃって!」
忍者達はこくりと頷くとレオンハートに攻撃すべく、苦無を構え、飛び込んでゆく。
「お前達、仕事。」
リリィさんの合図で可愛らしいお化け達が私達の周りを漂い始める。見つめるとグ、と親指を立てるように手を動かす。どうやら守ってくれているらしい。
「それにしても、レオンハートさん、今回ばかりはあなた、マズイんじゃありません?なんだ言ってヒーローが人攫いって。」
忍者達を的確に仕留めていくヒーロー、レオンハートに問いかけるテレビさん、見様によっては時間稼ぎにも見えるその問いかけに彼は律儀に返事をする。
「確かに、警察にも姿を見られた。この戦闘も時間稼ぎでしかない。だがそれでも、やらないといけないこともある。」
それ以上は語らなかった。そんなレオンハートの様子に困ったように肩を竦める。
「それもですけどぉ……ん、まあいいでしょう!ちょっとボス、それはそうといつまで休憩してるつもりなんですか。ニンジャー達も帰宅しちゃいましたし、私、戦えないっていつも言ってるじゃないですかぁ。」
放送だったら次週持ち越しですよ!と言うテレビさん。
「無駄だ、お前達のボスならついさっきまともに正面から俺の必殺技を食らったからな。そう簡単には起き上がれないだろうさ。」
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しかし、それは正義と悪が正しい立ち位置にあった場合だ。
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