木積さんと奇怪な日常

浅木宗太

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第三怪

合宿譚と僕らの長い一日3

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合宿といえば皆さん何を思い浮かべるだろうか。夕食のカレー?それともキャンプファイヤー?はたまた、全体行動練習か。中には合宿先まで来て勉強漬けにされた記憶しかない人も居るかもしれない。しかしうちの学校はと言うと、ロッジに泊まるのでテントを張ったりしないためについてすぐにとある恒例行事が行われる。
「題して、チキチキスコアビンゴレースです」
大真面目な顔で並ぶ一年生たちの前に立った先生がそう告げる。
「君たち一年生諸君にはこの山の中に設置された平仮名をひとつでも多く見つけてもらいます。と、その前にこの施設の方から注意事項が何点かありますので話をしてもらいます。それではどうぞ」
そういうと隣に立っていた施設の人にスピーカーを手渡す。手渡された方はと言うと一度音の出方を確認してから話し始める。
「はい、弥生高校の一年生の皆さん、こんにちはー。私はこの施設で働いている村岡と申します。今から毎年恒例のスコアビンゴを行う上での注意事項を何点か説明させていただきます。まず一つ目、各チームに地図とスコアボードを一枚ずつ用意しています。皆さんで協力してスコアボードを埋めてください。二つ目、迷子になった時は無闇に動かずにその場から先生に連絡を入れてください。チームのリーダーにはGPSを貸し出しているので絶対に単独行動はしないでくださいね。三つ目、この山わりと熊蜂とかスズメバチとか出るんで気をつけてくださいね。対処法はスコアボードと一緒に渡した冊子に書いてありますので読んでください。また、ここは昔から山のどこかにある泉に龍神様が住んでいるという伝説があります。が、絶対に探そうとしないでください。何年か前に探そうとして遭難しそうになった先輩方がいらっしゃいます。私からは以上です」
先生からの「夕方の四時までにこの広場に戻るように」という言葉の後みんなチームごとに散っていった。
「あの人サラッとハチ出るって言ってたよね」
「てか遭難しかけたやつ居るのにまだ続いてるこの行事もすげぇわ」
「同感」
「いや、まず何故探そうとした」
「思い出作り、じゃないかな?」
そんな話をしながら山道を登っていく。毎日のパトロールでそれなりに足腰には自信がついてきた私だが、やはりいつもと勝手の違う山道。それなりにきつい。周りを見渡せば茂る木々と木漏れ日に澄んだ水の流れる川もある。
「そう言えば、この山には龍神様が住んでるって話があるんだっけ」
そう呟くと不意に隣を歩いていた中嶋くんが口を開いた。
「異婚譚だ。が、色々と残念な神だ」
「お、おぉ……?」
コメントに困ったのは言わずもがななので許して欲しい。
「中嶋くん調べたの?」
「合宿先の事は一通りな」
なんだ、中嶋くんも合宿楽しみだったんだ。と言おうとした私に彼は
「何かあった時に完璧に倍返しを御見舞するためにな」
と返してきたのだった。彼は合宿に何をしに来たのだろうか。そもそも誰に対して倍返しをしようとしているのか。彼は何と戦っているんだ。神よ、いるなら教えてくれ。
「と、とりあえずその龍神様の話ってどんなのか詳しく聞きたいな」
神にすら「いや知らんがな」と言われてしまいそうだなと心の中で密やかに自分自身にツッコミを入れつつも彼にそう告げることが出来た。よしよし、偉いぞ私。
「……この合宿場のある山の名前はさすがに分かるな?」
「えっと……?」
「オイラ知ってるー。五十剣山だよね」
ひょっこりと出てきた河原くんがそう言う。
「そうだ。古い書き方だと刃の方の剱で五十剱山、なんて書き方もするな。五十剱山の龍神伝説なんて呼ばれ方をしている。というか、合宿場の入り口にも書いてあったろ」
「ごめんまっっったく見てなかった」
「少しは周りを見ろ。馬鹿め」
「河原ですら知ってたじゃねーか」と言いたげな顔でこちらを睨んでくるのでとりあえず「ごめんごめん。で、続きは?」と一応謝っておいた。中嶋くんはというとため息をつきつつも話を続ける。
ざっと纏めるとこの山の龍神様とやらは数年から数十年に一度嫁を欲しがっていたそうで、その度に麓の、今は合宿場になっている場所にあった村から若い女の子を一人差し出していたらしい。しかしながらこの龍神とやら、かなり面食いだったのか美しくない娘を捧げると地震を起こして腹を立ててたらしい。村人達がほとほとに困り果てているとそこに若い男性が一人通りかかる。あとはよくある展開かと思いきやとつとつと龍神を説き伏せた上に何も貰わずに去っていってしまったのだという。
「いや、龍神害悪でしかないじゃんそれ」
「そうだな。俺も知った時はそう思った」
むしろ通りすがりの男の人の方が仏じゃなかろうか。なんとも言えない顔の私とだから言ったろみたいな顔の中嶋くん。ちなみに先程から全く話に参加していない彼方とまっちゃんはというと地図を見ながら最も効率良く全てをまわるルートを模索している。しかしながら、歩きながらよく地図を見れるな。と感心するばかりである。私なら絶対無理だ。
そこからは割と順調でスコアボードを一枚ずつ確実に収集していく我々。ちょっとしたトラブルはあったもののまっちゃんという名の最強が存在する布陣に不可能などないのだ。道を塞いでた折れた木は河原くんが道の端にさも当たり前みたいな顔で退かした。それ以外は彼の頭の上には街中では見かけないような小鳥が乗っかっていたけれど。
効率良くスコアボードを収集していき、一時には大半が集まったため、少し遅めのランチタイム。やはりまっちゃんお手製のお弁当はとても美味しい。甘めの味付けの玉子焼きと、冷めても美味しい唐揚げ。そしてマカロニサラダにお花型の人参とツヤツヤしたプチトマト。ブロッコリーは硬過ぎず、茹で過ぎずの丁度いい茹で具合だ。
美味しいお弁当に舌づつみを打ちつつのんびりと話をする。
「なんかのどかだねぇ……本当にそんなアホみたいな龍神様が住んでるのかなぁここ」
「んー、まぁ何かの気配だけは感じるから居ないことは無いだろうよ。居るかと言われると何とも言えんがな」
「木積が言うならそうなんだろうな」
「俺よりも舜の方がそっち系の気配には強いけどな」
「まぁねー。オイラとしてはあまりこの手のは好きじゃないから会わないにこしたことはないけどね」
「へぇー、そうなんだ」と言いかけて止まる。
「いや、中嶋くん、いや、んんん?」
「馬鹿め、この学校に人間以外が混ざってる事に気がついている人間がお前しか居ないとでも思ってたのか北山」
そんな彼の一言にますますこんがらがってきた頭を整理する。
「つまり、中嶋くんは人間で、彼方達が人間じゃないって知ってた……?」
「そう言ってるだろ」
残念なやつだなお前はと言いたげな顔でこちらを見ている中嶋くんとさも当たり前みたいな顔で「おかずもーらい」みたいな事をしている彼方と河原くん。そしてお弁当を食べ終えて片付けを始めているまっちゃん。
どうやら知らなかったのは私だけのようだ。
「ちなみに、いつから……?」
「三週間前。ゴールデンウィークに入る前くらいだな」
「えぇ……結構前じゃん……教えてくれても良かったのでは……」
「何で俺から教える必要があるんだ」
「すぐそういうことを言う」
「中嶋だからな」
「中嶋君だからね」
「中嶋だもんねー」
「俺だからな」
「認識それでいいのか」
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