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女子高生、異世界へ行く。

本からとび出てなんとやら。2

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「分かってたことだけど……こうもはっきりと言われるとは……」
「あのねあのね、ゴシュジンサマは、魔力の保有量自体は普通の人と変わらないくらいあるの!ちょーっとまだ使い方がわかってないだけというか、ファイトだよ!」
彼女からすれば励ましてくれているつもりなのだろう。その優しさは心に刺さる。
「あのぉ、心をコテンパンにされてるところ申し訳ないんですけどォ?達、って事はあなたの他にもまだ魔法生物マナニアがいらっしゃると考えてもよろしいので?」
錬金術師の質問に「そうだよー」と本を抱えたままの彼女は頷く。
「あたしの他にもまだまだ居るよ。リューと、カトリーと、ランにユー、あとラッシュとエルとジャックと……15体くらいは居るのかな?」
「なるほどなるほど!ではその方々を呼び出すことは?」
「ゴシュジンサマ、まだマスターを一行しか読めないからひとりが限界かな」
「勉強不足の問題でしたか」
「私の心をじわじわと刺すのやめて貰えます?終いにゃ泣くぞ」
睨みつけても錬金術師はにこにこと笑うだけで反省もクソもなさそうだ。騒ぐ私たちを他所に、この様子を何も言わず、眺めていたダレンさんは少し、何かを考える素振りを見せたあと、おもむろに携帯電話を取りだし、電話をかけ始めた。
「儂だ、儂。予定より早いが明日来い。お前さんの読み通り面倒事が増えたぞ」

「で?マグナス・オプスと魔術書がオマケに引っ付いてきたと」
溜息をつきながらそう言うのは予定より少しだけ早めに迎えに来てくれた彼方さんだった。彼女はコーヒーを啜ると錬金術師を見ながら盛大にため息をついた。
「ワタクシを見ながらのそれは嫌がらせです?」
「嫌がらせだが?」
またこんなめんどくさいものを、と言う彼女の影がゆらゆらと揺れている。きっと彼もついてきているのだろう。
「まぁいいや。何が起ころうと予想の範疇の間はこっちでも対応できる。この位なら私でも何とでもなるさ」
やれやれ、と言うような声音で言っているが、要は魔術書もこの錬金術師も彼女からすれば何とかなる範囲内だと言っているのだ。錬金術師はともかく魔術書もとなるとこの人は一体どこまで出来るのだろうかと思わざるを得ない。
「……あの」
「なんだ?」
「彼方さんって、その……何者なんですか?」
何となく挙手しながらそう言うと、彼女はほんの少し私を見つめた後、ため息をついた。
「逆に聞こうかな。私が何者に見える?」
別に嫌な感じの聞き方ではない。ただただ私に聞いているだけなのだろう。
「えっと……お店で店長してて、料理出来て、コーヒーが好きで……あと知り合いが多くて強い」
ここである言葉がパッと私の頭の中で閃いた。
「主人公みたいな人!」
我ながらいい例えだと思う。自信満々にそう言うと、彼女は少し考えた後に吹き出した。
「……はは、面白い例えだ。まぁいいや。今はそれで。でもね、私もなんでも出来るわけじゃない。それだけは理解しておきなよ?それこそ、主人公みたいに、ね」
この、主人公という言葉の意味を私が本当に理解するのはもっと先の話である。
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