ドスグロ団地

charmee

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はじめに

祭りの前

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綺麗に石が敷き詰められている。歩く度にジャリジャリ言うので、賽銭泥棒するには不向きな神社だ。カバンの中身はカメラやボイスレコーダー、簡易照明など。重いものは入ってないが俺ももうすぐ30歳。体力の無さは自覚している。捻挫しないように慎重に歩こう。

そもそも動画撮影は無しと言う条件だが、当日対象者の気が変わることがもある。手元だけなら撮影🆗。モザイクかけるなら🆗。と、話をするうちに気を許して来る事がある。そのチャンスをつかむには手間だが撮影セットを常に持ち歩くしかない。まぁ実際には『やはり撮影したくない』『やはりインタビューを受けたくない』と心変わりする事の方が圧倒的に多いのだが。

団地までの近道であるこの神社は明日からお祭りのようだ。提灯が吊るされ、出店も数件準備されている。いわゆるテキ屋ではなく、町内会で焼き鳥やジュースを売る程度だろう。派手な夜店の準備はなく、白いビニールテントが立てられている。テントの脚には収納していた袋が風で飛ばされないようにビニールテープで縛り付けられている。猛暑に一瞬吹く風が気持ち良い。日中の暑さは都心と大差ないが、朝晩の温度差が違う。今からグッと温度が下がるのだろう。マジックで『四班』と書かれた収納袋が揺れている。

目の前を女の子が2人笑いながら走っていく。低学年くらいか。不安定な砂利石の上を器用に駆け回る。この程度の出店では子供には物足りないだろう。胡散臭いくじ引きや型抜きあってこその夏祭りだとタケルは思った。ふとテントを見ると真っ白だと思っていたテントに『鳥須黒自治会一班』とマジックで大きく書いていた。テントと袋がアベコベだ。今から行く団地は何班なんだろうか。この無邪気な子供達も、あの団地から遊びに来たのだろうか。

それにしても気が進まない。完全に外れ仕事を任されてしまった。誰の記憶にも残らないありがちな事件の取材。書き手の脚色次第でどうにでもなりそうな事件。イヤ、実際事件だったのかどうかも疑わしい。とっとと終わらせて早目に宿に戻ろう。その時に前夜祭で焼き鳥が焼けていればちょうど良い。
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