ドスグロ団地

charmee

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一周目 所感

概要

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実際に訪れてみると、団地とは名ばかりで一棟のアパートだった。2階建てで共同の入口がひとつ。必ず管理人室の前を通る作りになっている。奥に非常口があるが扉の前に自転車やスタッドレスタイヤが置かれており、意味をなしていない。消防法上問題ありだろう。
共同入口を入るとすぐに右に管理人室、左は部屋に面した廊下。廊下の突き当たりが開かずの非常口。目の前は階段になっている。鉄筋コンクリート造りでエレベーターは無い。耐火建築物。
左側の廊下に沿って、それぞれの自宅の入口が4つ。手前から101号室。一番奥は104号室。先程言った非常口は104号室の目の前にある。
階段を登ると踊り場があり180℃反転して登り切る形だ。
踊り場には入居者のものとおぼしき傘があった。それとも共用なのだろうか。
ここが団地と呼ばれるのは、敷地内に同様の建物があと3つあった頃の名残りだ。老朽化と入居者不足により、3つの建物は既に取り壊されている。そのせいだろう、駐車場が異常に広い。まるで田舎のドライブインだ。建物に見合っていない。
中心地の方に新しく公営団地が建てられた事と人口流出が原因だと管理人が話していた。
ここは町外れ…と言うか山の入口。立地的にはそこまで不便では無い。幹線道路までは車で5分。道路沿いには大型スーパーもコンビニもある。
そこに行くまで急な砂利道の坂道を下り、カーブで見通しの悪い道路を頑張って右折しなければならない。
逆に中心地からコチラに向かうと、この団地以降はモーテルが一件しかない。後はその名の通り山奥が待っている。
つまり中心地から坂道をのぼって来る車は、団地の住人以外はモーテル目当てと言う事だ。
後は坂の途中に小さな神社がある。団地に向かう時に立ち寄った神社だ。
確かにあそこくらいしか子供が遊べるような所はない。近所の子は公園がわりにしているのだろう。

この辺で事件の概要を話そう。
10ヶ月ほど前、団地の204号室に住むI氏男性が首を吊っている状態で発見される。第一発見者は管理人のA氏。部屋にあった衣装箪笥にのぼり天井の梁に掛けたロープで首を括っていた。
これだけではただの自殺で何の問題もない。しかしIは現役の暴力団構成員だった。遺書はなく自殺の動機も不明。
公営住宅に暴力団構成員が身分を偽って住んでいた。そして入居後間もなく自殺。直後は『身を隠していたのがバレて仲間に殺された』『敵対する組織に殺された』など根拠のない大喜利が全国ニュースになるほど盛り上がったが、続報は無く経過。大規模な大喜利大会も幕を閉じる事となる。

そんな一度火の消えた焚き火の中から、もう一度火種を探して来いと言う取材なのだ。
事と次第によっては自ら強引に火をつけなければならない。この街に着いた時はそんなマッチポンプさえも想定していたが、もしかしたらこの案件は当たりなのかもしれない。ニイサカは記者になってはじめて高揚感を体で感じていた。
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