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異世界への転生
【幸福なお菓子の国】異世界に来て数時間でお菓子の国に連れられ大手術を受けるなんて、どう考えてもおかしい
しおりを挟む──3時間後──
午後9時【幸福なお菓子の国】にて
有栖川が意識を取り戻すと、視界が真っ暗だった。
全身は金縛りにあっているかのように体は一切動かず、声も出ない。
異世界に最弱のステータスで産み落とされた直後、猫に罵られた挙句、死んだら終わりのゲーム世界に転生させられたらしいという事実を知った後、大きな黒い穴に吸い込まれた。
その後、麻酔魔法を受け、現在縛り付けられているのは手術台の上だ。
巨大な色とりどりのマカロンが壁に埋め込まれた円形のお菓子の部屋で、手術台だけが明るく照らされていた。
「はぁ!? 何この気持ち悪い生物!?ちゃんと手順通りやれっつったよねぇ?言ったよねぇ、私!スペード、今晩おやつ抜き」
スペードと呼ばれた大きなトランプは数センチの太さの細長く黒い手足をばたつかせて、不服の意を表現する。
スペードを甘い声で叱咤した少女の名前はキャンディ・キャラメロン。
腰まで届くピンク色のツインテールで前髪はパッツンカット、ピンクを基調にしたドレスのいたるところに飴玉やマカロン、チョコレートなどの装飾が施されている。
背はかなり低く、容姿は10代前半と言った感じであどけなさはあるが、同時に何をするかわからない怖さを持っていた。
普段はきらきらと好奇心旺盛な光を映す金色の目も不快なものを見せられ、じとっとした暗い色になり、有栖川を睨みつける。
彼女が納める国は、夢の国と呼ばれていた。
クッキーでできたレンガ調の洋風な家にはケーキや棒付きキャンディが装飾され、グミの木山から流れる美しく透明な川は天然のサイダーでシュワシュワとはじけ、青空に浮かぶもこもことした雲は綿あめで出来ている。
そこに住む者は皆、お菓子と王女キャンディをこよなく愛し、手と手を取り合いながら生きていた。
まさに子どもが夢に見る、お菓子とメルヘンな街並みが調和した国【幸福なお菓子の国】の4代目王女が彼女キャンディ・キャラメロンだ。
この国に入国する際、外部の魔族や人族などはお菓子の姿にされている。
もちろん、キャラメロン家の趣味と言うのもあるが何より罪を犯した者をその場で食べられることが、お菓子好きなこの国民にとっても喜ばしい事でもあった。
キャンディが有栖川を呼び寄せたのも、人間を減らしお菓子に変えて食べるためだ。
しかし、美味しさは対象のステータスや儀式の手順などに依存する。
有栖川を呼び出したスペード・トランプは、儀式を行う手順は完璧だったが人間を呼び寄せる呪文を唱えなかった(彼には口がない)ので本来の対象から大きく外れ有栖川が標的になったのだ。
キャンディはふぅと1拍息を吐き出して、有栖川に話しかけた。
「はぁい、人間。私はキャンディ、これからあんたを美味しいお菓子に変える、優しい王女よ」
有栖川は今にも暴れ出したい気持ちだった。
(異世界でまだ何もしてない……メイドさんにも会ってない!なのにお菓子にされるのか!?魔人ブーでも慈悲を与えてくれそうな境遇だ!)
体は動かないので、心で最大級の抗議をするもキャンディにはちっとも届いていない。
「でもあんた、ひっでぇステータスしてんのね。絶対美味しくなんないや。じゃあ廃棄するしかないよね?しちゃうよねぇ」
(俺は菓子にすらされないのか!?やめろ!メイドさんと添い寝する夢がぁあああ!)
有栖川は声にしているつもりだが、声帯のかすれる音も出ない。
キャンディはにこにこと笑い、有栖川何十人分の大きさのプリンを出した。
キャンディの魔法【プリン荒モード】10㌧の重さを誇るプリンで可愛らしい顔がついている。
腕を振り下げプリンを落とす寸前、キャンディの顔が強ばった。
キャンディの通信端末、【板チョコ】に、通信が入ったのだ。
「えっ、ええええ!?ちょっとスペード、聞いて聞いて!クリムから連絡来たんだけど!!何かな?絶対おもしろ案件だよね!?そうだよねぇ!」
キャンディは、ポケットから板チョコを取り出し半分に折った。
するとチョコレートが霧散し、茶色いビー玉程の球体になる。
『キャンディ、聞こえるか!?』
爆発音と怒号をBGMに凛とした女性の声が黒い球体から聞こえた。
「はぁい、クリム。何の用?」
キャンディはとても得意気だ。
『白龍に襲われている!当然かも知れないが勝ち目はほぼゼロだ!だからその……!癪にさわるが力を貸してくれ!』
「領土半分、お菓子50年分のマニー、後はレベル10000渡して。そしたら私の国のお菓子を遣わせるわ」
『お前、キャンディ!正気か!?それは流石に無理だ!国民に合わせる顔がない!!』
「えーじゃあ通信切るけどぉ?あれ無理だよね?白龍に勝てる可能性があるとしたらうちの菓子ぐらいだもんねぇ?そうだよね」
『…………あー!もうやけだ!わかった!それでいい!だが、今度貸しを作ったらこの条件丸々返すからな!!』
「はぁ?あんたに菓子なんて作れるわけないじゃない。じゃあね。」
『どうでもいいが、ちゃんと使えるやつを頼むぞ!いつもいつもお前は……』
キャンディは黒い球体を握りつぶし、通信を切断した。
「ふふ……ふふふ!やってやったわ!あの女から一本とってやったわ!」
スペードは数センチの太さの細長い黒い手で、拍手した。
(なんか知らんが助かったのか?
急ぎの用事だったようだし、俺のことなんてどうでもいいんじゃ……?これはもしや……生き長らえた!?よし、今のうちにメイドさんに今日は私と寝ましょう的な事を言われる妄想をして……)
「はぁー……じゃ、こいつ使うか」
(ですよねぇえええ!運ステータスマイナスですもんねぇええええ!)
キャンディは有栖川を指差し、上空に浮くプリンを消した。プリンは悲しそうな表情を浮かべながら霧散する。
スペードは、ドタバタと動き回って抗議した。
あんまりじゃないか。こんな奴を送り出すなんて。
「はぁ?あいつにはこれくらいでいいのよ。まぁ、確かにちゃんと機能するか怪しいわね。しゃあない、レベル5000くらい使うしかないか。後はオプションだけど……あっ……いいこと思い付いちゃったぁ♡」
(なんだよ、いい事って!絶対ヤバイやつだろ!?
やめろ、やめてくれぇえええ!)
有栖川の心の叫びが聞こえているのかはわからないが、キャンディは光悦な笑みを浮かべながら、有栖川の体にチョコレートで出来たメスを入れた。
「私はキャンディ、お菓子に愛されお菓子のために生きる。どんな無様な素材でも……美味しく調理してあげる♡」
【絶頂甘美手術】
(痛ってぇえええ!くない……?ん、いやむしろ、これは……?あっ♡そこはぁあああ♡ぁあああん♡♡)
キャンディの手術は中毒性を伴う。
何故そうなるのかは手術を受けた者にしかわからないが、手術を受けたものは必ずこういう。
『人生で最も至福の時間だった』
お菓子になる悦びを覚えた者はまた、お菓子になるためにこの国に足繁く通う。
それが【幸福なお菓子の国】に沢山の観光客が訪れる理由の一つだ。
そして、もう一つの理由は……
「ふぅ、終わった終わった♪ 手術時間3分半……まぁ、ギリ及第点でしょ。そう思うよね、そうだよねぇ」
【キャンディ・キャラメロン】
全異世界魔族ランキング⋮8/19085312323
全異世界医学者ランキング⋮1/8456321
彼女が最も実力と権威を持つ医者だからである。
「ふふ……これであの女ももう終わり……あはははは!!」
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