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現世到達と早速の魔物(2)
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襲い掛かる攻撃意思を示す赤色に変化したスライムに対して剣を抜き、慣れた手つきで四等分に切り分ける。
だが、まだ気を抜くわけにはいかない。これぐらいで魔物が倒れてくれるのなら楽なのだが。
ゲンシはまだ注意深く辺りを見渡す。飛び散ったスライムの残骸は動かない。
「……今回は運がよかったのか?」
本当ならスライムは何度も再生するはずなのだ。高い再生能力を持っていて、下手に刺激すると逆に大惨事となる。だが、今回は一向に動かない。たまたま当たり所でもよかったのかとゲンシは考え、剣を鞘に戻す。
その時だった。
「うおっ……!」
スライムの残骸が一斉にゲンシに向かって飛び掛かる。いつの間にか自分を取り囲むようにしていたスライムは空中で合わさり、一枚の布のようにしてゲンシの体を上から覆う。死んだふりをして、自分が武器をしまうまで機会を窺っていたというわけか。
拘束された……!?
ゲンシは息すらできないくらいの密閉された空間でそんなことを思っていた。
呑気にそんなことを考えている時間ではないが、そう思わざるを得なかったのだ。
せいぜい昔のスライムの知能では後ろから攻撃をする程度だったのだが、今回のスライムは違う。
昔よりも狡猾になっている――
別に種類が違うスライムじゃない。どこにでもいるスライムだ。性質も特に変わったところはない。粘り気があるひやりとした感触も変わらないだけだ。ただ知能が、戦略性が、ゲンシが現世にいた頃よりも大幅に強化されている。
これが、魔王の影響力か……!
グリムにどこからともなく現れた魔物の王。
名をディークレア。ゲンシが地上にいたころは、まだ集団性などを一部の魔物しか持ち合わせていなかったため、一個体ずつ倒すのは比較的容易だったのだが、この魔王が来てからその考え方は大きく変わるものとなった。
魔物一体一体の性質を理解し、それに合わせて軍を作る。
ゲンシも神の世界から覗いてみたが、それはそれは素晴らしい統率力だった。
前々からゲンシの頭を悩ませていた厄介者である。
この魔王はまるで人の知能を持っているかのごとき指示をして、魔物内カーストの圧倒的頂点に成り上がったのだ。
今ではグリムのある都市を占領して、領土としている。
まさか、スライム一匹がここまで危険な生物になりあがっていたとは。
しかも、辺りを見回してみると案の定たくさんのスライムがゲンシを中心にして円を作っていた。
かなり危険な状態である。
くそっ。一体どうすれば。
息も苦しくなってきた。このままでは確実に死ぬ。
アイシャから風を起こして、スライムたちを飛ばしてその間に逃げるか?
いや、それではまずい。アイシャの風は少しばかり威力が高すぎる。先ほどこそ着地目的で発生させたからまだ何とかなったものの、今度ばかりは使ったらきっと自分にまで影響が及ぶ。
威力が高い範囲攻撃の技は扱うことが出来ないというわけだ。
もう仕方がない。自爆覚悟で暴風でも巻き起こすか、などと考えていた時、突然スライムの拘束が緩まる。
驚くゲンシだったが、これを好機とみてここぞとばかりにアイシャに命令を下す。
「アイシャ!光で焼き焦がせ!」
スライムもまさか鏡が攻撃をするとは思ってもみなかったのだろう。アイシャから放たれた摂氏数千度の紅い光はスライムの体を細胞から焼き尽くし、ボロボロにする。
スライムの体が炭化され、そこから穴を広げるようにしてどうにか脱出した。体にはまだいくらか粘着感が残っていた。
スライムはどうやら細胞を焼かれると案外すぐに死ぬ。それは今でも変わらないらしく、余った一部の生きているスライムも残さず焼く。
これで、一匹目だ。
『ふっふっふ……。私自慢のアーティファクト。しかとご覧あれ!』
横のほうから声が聞こえた。スピーカーから声を出しているような、鼻が詰まっている感じだ。
「?」
ゲンシは声のする方へ顔を向ける。目に入る光景に驚く。
思わず絶句してしまった。
大きな人のような形状をしたアーティファクトだった。上半身の、それも腕だけが異様に大きく、下半身は足の裏に当たるところだけ大きさのバランスがおかしい。そしてなぜか手に熱がたまり始めている。
何やら危険な気がした。
『ちょっと離れてねー』
やっぱりだ。ゲンシは慌てて人型アーティファクトの後ろに回る。もしかしてもしかするのではないだろうか。
『そーれ!』
スピーカー内の人は楽しげにアーティファクトを操作し、スライムの群れに標準を合わせる。スライムたちも嫌な予感がしたのだろう。慌てて逃げ出そうとする。
だが、もう遅かった。
『発射!』
スピーカーの声と同時に人型アーティファクトの手のひらから超弩級の熱線が放たれる。草木は一瞬で火の海と化す。
「ひええ……」
まるでロボット漫画でも読んでいる気分だった。一体どこからそんな規格外のエネルギーを放射しているのか見当もつかない。
ゲンシは思わず腰が抜け、尻餅をつく。
それにしてもまさか魔物が進化していたとは思いもよらなかった。スライム数匹にここまで手こずるとは。
昔のような時間さえかければ簡単に狩ることの出来る生物ではなくなっていた。今やちゃんと人の武器などを把握しそれに応じて攻撃をするという立派なハンターと化していた。
人間も狩られる可能性があるのだ。捕食され、餌となる。
「この先が思いやられるな……」
思わず嘆息してしまった。こんな感じでは送り出した人間が今まで抱いていたイメージとそぐわなくて、スローライフを送ろうとするのもよくわかる。
マーカーは一体どうやってこんな世界を何個も管理し、しかもバランスを保てているのだ。全く想像もつかない。
この先はもっと戦いが激化するだろう。もしかしたら神に再就職する前に命を落とすことになるかもしれない。
「はあ……で?俺を助けてくれたあんたは誰なんだ?」
ゲンシは上を見上げる。熱線の炎に照らされている、大きな歯車や鉄板で作られた人型の機械。全体が赤色の塗料でべた塗されていて、人型にしているところ以外全く無駄なところはない。大きなネジ一つにも小さなネジ一つにすらも等しく重要な役割が担われていた。
これが、人工遺物アーティファクトなのだろう。人の限度を超え、神に近づくことができる唯一の力。
ゲンシは熱線によって無残に燃えていっている草原を眺める。そして、考える。
なぜ、この世界の住人は、これほどの力を持っておきながら魔物からの襲撃に立ち向かえないのだ。
『ふっふっふ……!私は発明家なんだー』
と、上から声が降ってくる。スピーカーのようなものでも使っているのか、ノイズがうるさく喚いていた。正直、音質が悪くてあまり聞き取れていない。
そんなことにやりづらさを覚えたゲンシは少し考え、冗談めかして言ってみることにした。
「んーこれだと話しずらいな。生で話さないか?首をずっと上向きにするのも疲れるんだしさ」
そういうのも中の人間にゲンシは興味があったのだ。スピーカーのせいで機械質ではあったが、それでも女性のような声をしていた。
神様として、転移の仕事で精いっぱいだったゲンシは下界の人間をあまり観察できていない。この際だし人間の容姿なども確認しておこうと思ったのが、ゲンシの魂胆だった。
だったのだが……。
『え?生で!?そ、それはちょっとごめんなさいというか、私顔を合わせるのは苦手というか……』
あーそういうやつね。
心の中でそんなことを思い、察したゲンシは質問を変えることにする。
「んーとじゃあ、この近くに村とかないか?ここら辺の生態系を把握するまで少しばかり寝床がほしいんだ」
ゲンシは急に人型から流れてくる声のトーンが低くなったような気がした。落ち着いたとかそういうものじゃない。恐る恐る手探りで聞いているようなもの凄く用心深い声。
『もしかして……あなたこのあたりのこと知らないの?』
「何のことだ?」
『……』
間が開いた。中の人はどこか悩んでいるようだった。見かねてゲンシは質問を重ねる。
「なにか、あるのか?」
『い、いやいやいや、何もないよ!あなたには全く関係ないから!え、えっとそう村だったよね!村はないけど都市だったら一つ山を越えたあたりにあるんだ!そこがいいよ!いい宿だってあるし!おいしいごはん屋さんもあるよ!』
「お、おう……」
いきなりまくし立てられてゲンシは頷くしかなかった。なぜだかこの人型ロボットを操縦している人間はその都市に自分を誘っているかのようにゲンシには見えた。
だが、まだ気を抜くわけにはいかない。これぐらいで魔物が倒れてくれるのなら楽なのだが。
ゲンシはまだ注意深く辺りを見渡す。飛び散ったスライムの残骸は動かない。
「……今回は運がよかったのか?」
本当ならスライムは何度も再生するはずなのだ。高い再生能力を持っていて、下手に刺激すると逆に大惨事となる。だが、今回は一向に動かない。たまたま当たり所でもよかったのかとゲンシは考え、剣を鞘に戻す。
その時だった。
「うおっ……!」
スライムの残骸が一斉にゲンシに向かって飛び掛かる。いつの間にか自分を取り囲むようにしていたスライムは空中で合わさり、一枚の布のようにしてゲンシの体を上から覆う。死んだふりをして、自分が武器をしまうまで機会を窺っていたというわけか。
拘束された……!?
ゲンシは息すらできないくらいの密閉された空間でそんなことを思っていた。
呑気にそんなことを考えている時間ではないが、そう思わざるを得なかったのだ。
せいぜい昔のスライムの知能では後ろから攻撃をする程度だったのだが、今回のスライムは違う。
昔よりも狡猾になっている――
別に種類が違うスライムじゃない。どこにでもいるスライムだ。性質も特に変わったところはない。粘り気があるひやりとした感触も変わらないだけだ。ただ知能が、戦略性が、ゲンシが現世にいた頃よりも大幅に強化されている。
これが、魔王の影響力か……!
グリムにどこからともなく現れた魔物の王。
名をディークレア。ゲンシが地上にいたころは、まだ集団性などを一部の魔物しか持ち合わせていなかったため、一個体ずつ倒すのは比較的容易だったのだが、この魔王が来てからその考え方は大きく変わるものとなった。
魔物一体一体の性質を理解し、それに合わせて軍を作る。
ゲンシも神の世界から覗いてみたが、それはそれは素晴らしい統率力だった。
前々からゲンシの頭を悩ませていた厄介者である。
この魔王はまるで人の知能を持っているかのごとき指示をして、魔物内カーストの圧倒的頂点に成り上がったのだ。
今ではグリムのある都市を占領して、領土としている。
まさか、スライム一匹がここまで危険な生物になりあがっていたとは。
しかも、辺りを見回してみると案の定たくさんのスライムがゲンシを中心にして円を作っていた。
かなり危険な状態である。
くそっ。一体どうすれば。
息も苦しくなってきた。このままでは確実に死ぬ。
アイシャから風を起こして、スライムたちを飛ばしてその間に逃げるか?
いや、それではまずい。アイシャの風は少しばかり威力が高すぎる。先ほどこそ着地目的で発生させたからまだ何とかなったものの、今度ばかりは使ったらきっと自分にまで影響が及ぶ。
威力が高い範囲攻撃の技は扱うことが出来ないというわけだ。
もう仕方がない。自爆覚悟で暴風でも巻き起こすか、などと考えていた時、突然スライムの拘束が緩まる。
驚くゲンシだったが、これを好機とみてここぞとばかりにアイシャに命令を下す。
「アイシャ!光で焼き焦がせ!」
スライムもまさか鏡が攻撃をするとは思ってもみなかったのだろう。アイシャから放たれた摂氏数千度の紅い光はスライムの体を細胞から焼き尽くし、ボロボロにする。
スライムの体が炭化され、そこから穴を広げるようにしてどうにか脱出した。体にはまだいくらか粘着感が残っていた。
スライムはどうやら細胞を焼かれると案外すぐに死ぬ。それは今でも変わらないらしく、余った一部の生きているスライムも残さず焼く。
これで、一匹目だ。
『ふっふっふ……。私自慢のアーティファクト。しかとご覧あれ!』
横のほうから声が聞こえた。スピーカーから声を出しているような、鼻が詰まっている感じだ。
「?」
ゲンシは声のする方へ顔を向ける。目に入る光景に驚く。
思わず絶句してしまった。
大きな人のような形状をしたアーティファクトだった。上半身の、それも腕だけが異様に大きく、下半身は足の裏に当たるところだけ大きさのバランスがおかしい。そしてなぜか手に熱がたまり始めている。
何やら危険な気がした。
『ちょっと離れてねー』
やっぱりだ。ゲンシは慌てて人型アーティファクトの後ろに回る。もしかしてもしかするのではないだろうか。
『そーれ!』
スピーカー内の人は楽しげにアーティファクトを操作し、スライムの群れに標準を合わせる。スライムたちも嫌な予感がしたのだろう。慌てて逃げ出そうとする。
だが、もう遅かった。
『発射!』
スピーカーの声と同時に人型アーティファクトの手のひらから超弩級の熱線が放たれる。草木は一瞬で火の海と化す。
「ひええ……」
まるでロボット漫画でも読んでいる気分だった。一体どこからそんな規格外のエネルギーを放射しているのか見当もつかない。
ゲンシは思わず腰が抜け、尻餅をつく。
それにしてもまさか魔物が進化していたとは思いもよらなかった。スライム数匹にここまで手こずるとは。
昔のような時間さえかければ簡単に狩ることの出来る生物ではなくなっていた。今やちゃんと人の武器などを把握しそれに応じて攻撃をするという立派なハンターと化していた。
人間も狩られる可能性があるのだ。捕食され、餌となる。
「この先が思いやられるな……」
思わず嘆息してしまった。こんな感じでは送り出した人間が今まで抱いていたイメージとそぐわなくて、スローライフを送ろうとするのもよくわかる。
マーカーは一体どうやってこんな世界を何個も管理し、しかもバランスを保てているのだ。全く想像もつかない。
この先はもっと戦いが激化するだろう。もしかしたら神に再就職する前に命を落とすことになるかもしれない。
「はあ……で?俺を助けてくれたあんたは誰なんだ?」
ゲンシは上を見上げる。熱線の炎に照らされている、大きな歯車や鉄板で作られた人型の機械。全体が赤色の塗料でべた塗されていて、人型にしているところ以外全く無駄なところはない。大きなネジ一つにも小さなネジ一つにすらも等しく重要な役割が担われていた。
これが、人工遺物アーティファクトなのだろう。人の限度を超え、神に近づくことができる唯一の力。
ゲンシは熱線によって無残に燃えていっている草原を眺める。そして、考える。
なぜ、この世界の住人は、これほどの力を持っておきながら魔物からの襲撃に立ち向かえないのだ。
『ふっふっふ……!私は発明家なんだー』
と、上から声が降ってくる。スピーカーのようなものでも使っているのか、ノイズがうるさく喚いていた。正直、音質が悪くてあまり聞き取れていない。
そんなことにやりづらさを覚えたゲンシは少し考え、冗談めかして言ってみることにした。
「んーこれだと話しずらいな。生で話さないか?首をずっと上向きにするのも疲れるんだしさ」
そういうのも中の人間にゲンシは興味があったのだ。スピーカーのせいで機械質ではあったが、それでも女性のような声をしていた。
神様として、転移の仕事で精いっぱいだったゲンシは下界の人間をあまり観察できていない。この際だし人間の容姿なども確認しておこうと思ったのが、ゲンシの魂胆だった。
だったのだが……。
『え?生で!?そ、それはちょっとごめんなさいというか、私顔を合わせるのは苦手というか……』
あーそういうやつね。
心の中でそんなことを思い、察したゲンシは質問を変えることにする。
「んーとじゃあ、この近くに村とかないか?ここら辺の生態系を把握するまで少しばかり寝床がほしいんだ」
ゲンシは急に人型から流れてくる声のトーンが低くなったような気がした。落ち着いたとかそういうものじゃない。恐る恐る手探りで聞いているようなもの凄く用心深い声。
『もしかして……あなたこのあたりのこと知らないの?』
「何のことだ?」
『……』
間が開いた。中の人はどこか悩んでいるようだった。見かねてゲンシは質問を重ねる。
「なにか、あるのか?」
『い、いやいやいや、何もないよ!あなたには全く関係ないから!え、えっとそう村だったよね!村はないけど都市だったら一つ山を越えたあたりにあるんだ!そこがいいよ!いい宿だってあるし!おいしいごはん屋さんもあるよ!』
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