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イーサンが側妃になるという話は聞いたことがない。ましてや、ジークベルトがイーサンを愛していると疑ったことすらなかった。
けど、彼の自信満々な態度を見ると、単なる嘘だとも思えない。
「それは…………本当なんですか?」
「あぁ、王太子妃なのに、まだ何も聞いてなかったんだ。僕の言うことを疑うなら、国王陛下に直接聞いてみたらいいんじゃない?」
「……………………」
頭が真っ白になった僕は、もう何も言い返すことが出来ない。そんな僕を見て、イーサンは馬鹿したように笑いながら去っていく。
ふらふらとした足取りで会場に戻ると、のん気にワイン片手に花を眺めている国王陛下の背中が見えた。そっと背後に近寄ると、振り返った陛下の身体がびくっと大きく跳ねる。
「わぁっ! な、なんだ。無言で背後に立つな」
「…………陛下、この後お時間を頂けないでしょうか」
「構わないが…………その怖い顔やめてくれ………」
僕がどんな顔をしているかわからないが、陛下は怯えたように言った。
夕方過ぎにガーデンパーティを終えて、応接間に場所を移し、陛下から直接話を聞くことにした。
「エリオット公爵家の令息から、側妃の話を聞いたのですが………本当ですか?」
わずかに声が震えてしまい、平然を装うのもやっとだった。本当は聞きたくはない。嘘だと言って欲しい。
けど、僕の期待を裏切るように、陛下は小さく頷いた。
「ああ、本当だ」
突きつけられた事実に、心臓がいやな音を立てはじめる。
「……っ、どうして………どうして言ってくださらなかったのですか。世間話をしてる暇があったら一言だけでも…………」
最初はオメガだからと冷遇してきた陛下と打ち解けてからは、庭園でよく世間話をしていた。だから、伝える機会はいつでもあったはずだ。
「私は聞いただろう」
「何をですか………?」
「お前達はいつ子供を作るつもりなんだ、と」
確かに聞かれた。聞かれたけど、答えることは出来なかった。今もそうだ。あの時と状況は何も変わっていない。
ただ僕が彼のそばから離れがたくなってしまっただけだ。
「側妃の話は決定ではない。だが、一年後までに見通しが立たないようなら、エリオット家の令息を側妃にすると話が進んでいる」
「一年後って…………」
「むしろ、一年も、だ。お前達はただの平民じゃない。恋愛ごっこをする時間はないんだぞ」
それはそうだ。
陛下の言っていることは間違っていない。
王家である以上、血は絶やせない。王太子妃が責務を果たせないなら、側妃を用意するのはごく普通だ。
「その話は…………ジークベルト様は知っているんですか?」
「もちろん伝えてある。伝えてから目も合わせてくれなくなったがな」
陛下とジークベルトが不仲なのは前からだ。そんなことよりも、ジークベルトが側妃の話を知っていただなんて。
それでも僕を抱こうとしないのは、イーサンが好きだから?
僕のことを可愛いって思ってくれてたのは、何だったの?
どうして、僕には何も言ってくれないの。
「…………まあ、色仕掛けでもしてみたらいいんじゃないか。オメガのフェロモンを浴びたら、流石にあいつも折れるだろう」
無責任な陛下の言葉に、憤りを感じる。色仕掛けなんて騙し討ちみたいなことしたくない。
けど…………僕はどうしたらいいんだろう。
もっと前に側妃の話をされていたとしても、僕に何が出来ていたのだろう。疑惑が確信になるのが怖くて、結局何も言い出せずに思い悩んでいただけじゃないのか。
愛されようと外見を磨いたり、勉強や仕事に打ち込むのはすでにやった。デートだってした。それでも状況はいつまでも変わらなかった。僕に残された手段がオメガのフェロモンを使うことだなんて。そんなの僕じゃなくていいじゃないか。
そう思いつつも、色仕掛けでもなんでもいいから、彼の心を手に入れたいと欲深く考えてしまう自分も居る。
(二人が愛し合ってるなら…………僕は邪魔者でしかないのに)
僕がジークベルトさえ好きじゃなかったら。ただの政略結婚の相手と思っていたら。
それで、良かったんだろうな………。
けど、彼の自信満々な態度を見ると、単なる嘘だとも思えない。
「それは…………本当なんですか?」
「あぁ、王太子妃なのに、まだ何も聞いてなかったんだ。僕の言うことを疑うなら、国王陛下に直接聞いてみたらいいんじゃない?」
「……………………」
頭が真っ白になった僕は、もう何も言い返すことが出来ない。そんな僕を見て、イーサンは馬鹿したように笑いながら去っていく。
ふらふらとした足取りで会場に戻ると、のん気にワイン片手に花を眺めている国王陛下の背中が見えた。そっと背後に近寄ると、振り返った陛下の身体がびくっと大きく跳ねる。
「わぁっ! な、なんだ。無言で背後に立つな」
「…………陛下、この後お時間を頂けないでしょうか」
「構わないが…………その怖い顔やめてくれ………」
僕がどんな顔をしているかわからないが、陛下は怯えたように言った。
夕方過ぎにガーデンパーティを終えて、応接間に場所を移し、陛下から直接話を聞くことにした。
「エリオット公爵家の令息から、側妃の話を聞いたのですが………本当ですか?」
わずかに声が震えてしまい、平然を装うのもやっとだった。本当は聞きたくはない。嘘だと言って欲しい。
けど、僕の期待を裏切るように、陛下は小さく頷いた。
「ああ、本当だ」
突きつけられた事実に、心臓がいやな音を立てはじめる。
「……っ、どうして………どうして言ってくださらなかったのですか。世間話をしてる暇があったら一言だけでも…………」
最初はオメガだからと冷遇してきた陛下と打ち解けてからは、庭園でよく世間話をしていた。だから、伝える機会はいつでもあったはずだ。
「私は聞いただろう」
「何をですか………?」
「お前達はいつ子供を作るつもりなんだ、と」
確かに聞かれた。聞かれたけど、答えることは出来なかった。今もそうだ。あの時と状況は何も変わっていない。
ただ僕が彼のそばから離れがたくなってしまっただけだ。
「側妃の話は決定ではない。だが、一年後までに見通しが立たないようなら、エリオット家の令息を側妃にすると話が進んでいる」
「一年後って…………」
「むしろ、一年も、だ。お前達はただの平民じゃない。恋愛ごっこをする時間はないんだぞ」
それはそうだ。
陛下の言っていることは間違っていない。
王家である以上、血は絶やせない。王太子妃が責務を果たせないなら、側妃を用意するのはごく普通だ。
「その話は…………ジークベルト様は知っているんですか?」
「もちろん伝えてある。伝えてから目も合わせてくれなくなったがな」
陛下とジークベルトが不仲なのは前からだ。そんなことよりも、ジークベルトが側妃の話を知っていただなんて。
それでも僕を抱こうとしないのは、イーサンが好きだから?
僕のことを可愛いって思ってくれてたのは、何だったの?
どうして、僕には何も言ってくれないの。
「…………まあ、色仕掛けでもしてみたらいいんじゃないか。オメガのフェロモンを浴びたら、流石にあいつも折れるだろう」
無責任な陛下の言葉に、憤りを感じる。色仕掛けなんて騙し討ちみたいなことしたくない。
けど…………僕はどうしたらいいんだろう。
もっと前に側妃の話をされていたとしても、僕に何が出来ていたのだろう。疑惑が確信になるのが怖くて、結局何も言い出せずに思い悩んでいただけじゃないのか。
愛されようと外見を磨いたり、勉強や仕事に打ち込むのはすでにやった。デートだってした。それでも状況はいつまでも変わらなかった。僕に残された手段がオメガのフェロモンを使うことだなんて。そんなの僕じゃなくていいじゃないか。
そう思いつつも、色仕掛けでもなんでもいいから、彼の心を手に入れたいと欲深く考えてしまう自分も居る。
(二人が愛し合ってるなら…………僕は邪魔者でしかないのに)
僕がジークベルトさえ好きじゃなかったら。ただの政略結婚の相手と思っていたら。
それで、良かったんだろうな………。
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