無口な夫の心を読めるようになったら、溺愛されていたことに気付きました

ななな

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 ジークベルトが僕のことを好きと言ってくれた。それが夢じゃなかったと、目が覚めてすぐに気付いた。

「…………おはよう」
「……おはよう、ございます……」

 見慣れない光景とやりとりに、微睡んだ視界が一気に広がる。ジークベルトは先に起きてたようで、枕を背もたれにして優雅に本を読んでいた。

(僕が起きるの、待っててくれたのかな……?)

 本を閉じて、頭を軽く撫でられる。なんて贅沢な朝だろうか。くすぐったい気持ちになりながら、僕は身体を起こした。

「………体調はどうだ?」
「…………頭が少し痛いぐらいで…………」

 そこでふと、僕はとんでもない事をしたのではないかと気付く。イーサンの言葉を鵜呑みにし、酔った勢いで部屋に押しかけて、キスしたり、泣いたり、抱きついたり。普段ならやらない奇行の数々だ。

「あのっ、本当に申し訳ありませんでした……お見苦しい姿を見せた上に、ご迷惑まで掛けてしまって……」
「………いや、そんなことはない。君を不安にさせた俺にも責任があるだろう」
「でも…………」
「それに………ああやって甘えられるのも、悪くはなかった」

 悪くはなかった? どういう意味だろう?
 また一緒に寝たりしてもいいってことかな……。

 好きと言ってくれたのは確かに覚えてるが、考えが読み取りづらいのは変わっていない。けど、それがわかっただけでも十分だ。今まで抱えていた不安が払拭されて、心がふっと軽くなった気がする。

「………朝食の前に、一度湯にでも浸かったら気分が良くなるんじゃないか」

 考え込んでいるうちに、ジークベルトからそう促された。

「あっ、はい……そうさせて頂きますね」
「そこの浴室を使っていい。俺は少し用事があるから先に部屋を出ておく」
「………ありがとうございます」

 自室に戻ろうと思ったが、お言葉に甘えてジークベルトの部屋の浴室を借りることにした。



「アルル様、今日はご機嫌ですね」

 湯あみを終えた後、温風が出る魔道具で侍女のペネロペが髪を乾かしてくれている。無意識のうちに両思いだったという嬉しさが顔に出ていたらしく、ニコニコと笑われてしまった。

「…………ジークベルト様が、僕のことを………好きと言ってくれたんだ」
「まあっ! あの殿下がついに!」

 気恥ずかしくて遠慮がちに言ったら、ペネロペも喜んでくれた。けど、『あの』って何だろう?

「今夜はお祝いですねっ! 料理長にお願いして豪華にしてもらいましょう! あと、アルル様の好きなイチゴタルトも!」
「や、やめて………恥ずかしいから………」

 自分事のように喜んでくれるのはありたがいけど、何かあったのがバレバレじゃないか。

「何をおっしゃるんですか! はあ、この一年間どれだけもどかしい思いをさせられてきたか………蹴りを入れたくなったのは一度や二度じゃありませんよ」
「……蹴り?」
「い、いえ、何でもないです」

 こほん、と息を整えたペネロペは乾かした髪に櫛を通してくれた。

「………あ、そうだ、ジークベルト様に何か作ってあげたいんだけど………何が良いと思う?」

 体調が悪いようだけど、仕事量も膨大だから中々休むことも出来ないんだろう。僕も仕事を手伝いつつ、お詫びも兼ねて気分転換になるような物を作ってあげたかった。

「それなら、『ペコパ』はいかがですか?」

 ペコパは祖国のルータパでの伝統料理で、パイ生地にミルクとはちみつと卵を入れて焼いた、デザートだ。表面がカリッとしていて、中は柔らかく、甘さも控えめで美味しい。あまり甘い物が好きじゃないジークベルトでも食べられるだろう。

「うん、サングリフだと売ってないし、丁度いいかも。午後に作ってみるよ」
「ええ、アルル様が作ったら殿下も絶対喜びますよっ!」
「…………そうだといいけど」
「私が保証します!」
「…………ふふ、ありがとう」

 以前ならペネロペの励ましの言葉すら素直に受け入れられなかったのに、今は違う。ジークベルトの気持ちがわかっただけで、こんなに考え方が変わるんだな。醜態を晒したのは後悔してるけど………良いきっかけでもあったのかもしれない。

(今日も一緒に寝たいって言ったら…………寝てくれるかな?)

 ペコパを作って渡した時に、またお願いしてみようと思った。
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