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第三章 新たな力、修行の歌
第七話 見よ!これが我が力のすべて…!
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私の能力について大まかな仮説が立ったところで、ミゲルさんに連れられてやってきたのは、山小屋の裏手にある池のほとり。
ここへ来る前、執事のロイさんからも「綺麗な池があるらしい」とは聞いていたけれど、実際にこの目で見たその池は驚くほど透明度が高く、池の底に生えている水草が見えるほど澄んでいて驚いた。
それも私が「池」という言葉から想像していたような、日本庭園で鯉が泳いでいるようなサイズではなく、小さな湖と言えるような大きなものだった。
ミゲルさん曰く、この池は近くの川の支流の通り道となっていて、常に新鮮な水が循環しているそうで、山小屋での飲料水や生活用水は言霊使いの力で作った装置でこの池の水を汲み上げて使っているんだって。
「…修行に使うのはここじゃない。着いて来い」
ミゲルさんの案内で池の外周を少し進んでいくと、さらに驚きの光景が広がっていた。
「えっ、何ここ、すごい…!綺麗すぎる…!」
語彙が乏しくて残念だけど、言葉を失うほど美しい景色。
この森特有の背の高い灯り木に隠れて見えなかったけれど、池の向こう側は拓けた場所で、そこには棚田のような形で大小様々な池が無数に広がっていた。
この付近だけ森の地盤が特殊なのか、白っぽい色合いの地面に透き通った池の水が流れ込み、神秘的な水色の池が形成されている。一段一段はそれほど高さはないようだけど、緩やかな斜面に何十段もの層になった池が積み重なっている不思議な景色。
なんだっけこれ。確か前にテレビの旅番組で見た、中東かどこかの国の棚田型の古代温泉に似ているのかも。もちろんここは温泉じゃないし、川の支流が池に繋がっているので、上流の池から結構な水量がどんどん流れていて緩やかな滝のようにも見えるけれど。
まあとにかく、日本では見たことのない絶景だった。
「…ここはオレ自身も力の把握に使っている場所だ。視覚的に力の総量が見えやすいのでな。…ちょっと見てろ」
ひとしきり私の興奮が収まるのを待ってから、ミゲルさんが声をかけてきた。
年甲斐もなくはしゃいでしまったのを見られていたのが恥ずかしいんだけど、落ち着くのを黙って待ってくれているあたり、ミゲルさんはやっぱり優しい人だと思う。
「我が力 八割用いて 染め上げよ」
ミゲルさんの詠唱で、いちばん上に位置する池の水が赤く色付く。元々が水色に見えていたので、その色と相まって徐々に薄紫色の池へと変わっていく。
「…うわあ、すごい!」
上の段の池の色がすべて薄紫色へと変わると、その水は今度は下の段の池へと流れ込んでいく。水はどんどん染まり、最終的には棚田型の池の上から四段ほどまで色が変わった。
なるほど、力の総量が見えやすいという言葉の意味が分かった。全力で力を使ったときにどの段の池まで色が変わるか見れば、自分の今の力が一目瞭然だ。
「…まあ、見てのとおりだ。オレは今八割程度の力を使うよう調節したが、お前はまだ自分の力の総量が分かっていないだろう。この池の水をどこまで変化させられるか試してみるが良い。…それと、知ってのとおり夜灯りの森には魔物も動物も生息していない。オレの力も残っているし、お前の力の残量は気にしないで全部使って構わん」
「はい、やってみます!」
「…しかし、くれぐれも魔力切れで倒れるまではやるなよ」
「…はい、気を付けます」
この景色とミゲルさんの力を見て楽しくなってしまったので、うっかりやらかしそうな気もする。本当に気を付けよう。
それからミゲルさんと少し文言の相談をしながら、名付けて池の水の色全部変えたいソングを作った。別に全部変える必要はないんだけど気持ちの問題。
ミゲルさんの詠唱がかっこよかったのでちょっと真似して中二病っぽい歌詞にしてしまい、歌うときになって恥ずかしくなってしまったのは内緒にしておく。
普段は一日四回のスキル回数制限があるけれど、ミゲルさんの見立てだと、私の力なら歌詞で調整すれば四回分の力を一度で使うことも可能になるだろうと言われた。
そうして試してみたところ…
「…ふう。たぶんこれが私の限界かと思います」
「むう。確かに力の残量はほぼゼロになっているな。継続利用中の四分の一があるから、実質的にはお前の力の総量の四分の三がこのレベルということか…。オレ自身、言霊使いの力というのは相当規格外だと思っていたのだが…お前はなんというか、次元が違うな…」
目の前には薄緑色に染まったたくさんの池。先ほどのミゲルさんが染めた色と違う方が分かりやすいかと思って緑色にしてみたんだけど、なんだか日本の銭湯とかにある薬湯のようで、池なのは分かっているんだけど入浴したくなる色合いになった。
染まった範囲は大体上から二十段目くらいまで。ミゲルさんの力で四段目までだったから、お互いに百パーセントの力ではないとは言え、単純計算で私の力の総量はミゲルさんの五倍ということだ。
…自分でもチートだとは思っていたけど、まさかそれほどまでとは…。この世界で百万人にひとりと言われる言霊使い、さらにその五倍量の力って…なんかもういろいろと怖すぎるわ。
ミゲルさんの言霊使いの力は、日々全力で力を使いきることで、徐々に総量を上げられたそうで、私も最初はそうしようと思っていたんだけど…
「お前の力はすでに十分すぎるくらいだろう。国でも落としたいならまた別だが…落とすか?」
ミゲルさんの思いがけないブラックジョークに全力で首を横に振って否定した。
私がしたいのはのんびりまったり異世界ライフであって、そんな血生臭い争いも権力も望んでない。どちらかというと強さじゃなくて生活を便利にしたり、老後まで困らない程度のお金が稼げたりすればそれで良いのだ。
「…ふ、まあそうだよな。オレとしても。お前の力はこれ以上量を増やす必要はないと思う。どちらかというと力の制御や、配分の仕方を身に着けるべきだろう」
ミゲルさんの言葉に、私はコクコクと頷いたのだった。
ここへ来る前、執事のロイさんからも「綺麗な池があるらしい」とは聞いていたけれど、実際にこの目で見たその池は驚くほど透明度が高く、池の底に生えている水草が見えるほど澄んでいて驚いた。
それも私が「池」という言葉から想像していたような、日本庭園で鯉が泳いでいるようなサイズではなく、小さな湖と言えるような大きなものだった。
ミゲルさん曰く、この池は近くの川の支流の通り道となっていて、常に新鮮な水が循環しているそうで、山小屋での飲料水や生活用水は言霊使いの力で作った装置でこの池の水を汲み上げて使っているんだって。
「…修行に使うのはここじゃない。着いて来い」
ミゲルさんの案内で池の外周を少し進んでいくと、さらに驚きの光景が広がっていた。
「えっ、何ここ、すごい…!綺麗すぎる…!」
語彙が乏しくて残念だけど、言葉を失うほど美しい景色。
この森特有の背の高い灯り木に隠れて見えなかったけれど、池の向こう側は拓けた場所で、そこには棚田のような形で大小様々な池が無数に広がっていた。
この付近だけ森の地盤が特殊なのか、白っぽい色合いの地面に透き通った池の水が流れ込み、神秘的な水色の池が形成されている。一段一段はそれほど高さはないようだけど、緩やかな斜面に何十段もの層になった池が積み重なっている不思議な景色。
なんだっけこれ。確か前にテレビの旅番組で見た、中東かどこかの国の棚田型の古代温泉に似ているのかも。もちろんここは温泉じゃないし、川の支流が池に繋がっているので、上流の池から結構な水量がどんどん流れていて緩やかな滝のようにも見えるけれど。
まあとにかく、日本では見たことのない絶景だった。
「…ここはオレ自身も力の把握に使っている場所だ。視覚的に力の総量が見えやすいのでな。…ちょっと見てろ」
ひとしきり私の興奮が収まるのを待ってから、ミゲルさんが声をかけてきた。
年甲斐もなくはしゃいでしまったのを見られていたのが恥ずかしいんだけど、落ち着くのを黙って待ってくれているあたり、ミゲルさんはやっぱり優しい人だと思う。
「我が力 八割用いて 染め上げよ」
ミゲルさんの詠唱で、いちばん上に位置する池の水が赤く色付く。元々が水色に見えていたので、その色と相まって徐々に薄紫色の池へと変わっていく。
「…うわあ、すごい!」
上の段の池の色がすべて薄紫色へと変わると、その水は今度は下の段の池へと流れ込んでいく。水はどんどん染まり、最終的には棚田型の池の上から四段ほどまで色が変わった。
なるほど、力の総量が見えやすいという言葉の意味が分かった。全力で力を使ったときにどの段の池まで色が変わるか見れば、自分の今の力が一目瞭然だ。
「…まあ、見てのとおりだ。オレは今八割程度の力を使うよう調節したが、お前はまだ自分の力の総量が分かっていないだろう。この池の水をどこまで変化させられるか試してみるが良い。…それと、知ってのとおり夜灯りの森には魔物も動物も生息していない。オレの力も残っているし、お前の力の残量は気にしないで全部使って構わん」
「はい、やってみます!」
「…しかし、くれぐれも魔力切れで倒れるまではやるなよ」
「…はい、気を付けます」
この景色とミゲルさんの力を見て楽しくなってしまったので、うっかりやらかしそうな気もする。本当に気を付けよう。
それからミゲルさんと少し文言の相談をしながら、名付けて池の水の色全部変えたいソングを作った。別に全部変える必要はないんだけど気持ちの問題。
ミゲルさんの詠唱がかっこよかったのでちょっと真似して中二病っぽい歌詞にしてしまい、歌うときになって恥ずかしくなってしまったのは内緒にしておく。
普段は一日四回のスキル回数制限があるけれど、ミゲルさんの見立てだと、私の力なら歌詞で調整すれば四回分の力を一度で使うことも可能になるだろうと言われた。
そうして試してみたところ…
「…ふう。たぶんこれが私の限界かと思います」
「むう。確かに力の残量はほぼゼロになっているな。継続利用中の四分の一があるから、実質的にはお前の力の総量の四分の三がこのレベルということか…。オレ自身、言霊使いの力というのは相当規格外だと思っていたのだが…お前はなんというか、次元が違うな…」
目の前には薄緑色に染まったたくさんの池。先ほどのミゲルさんが染めた色と違う方が分かりやすいかと思って緑色にしてみたんだけど、なんだか日本の銭湯とかにある薬湯のようで、池なのは分かっているんだけど入浴したくなる色合いになった。
染まった範囲は大体上から二十段目くらいまで。ミゲルさんの力で四段目までだったから、お互いに百パーセントの力ではないとは言え、単純計算で私の力の総量はミゲルさんの五倍ということだ。
…自分でもチートだとは思っていたけど、まさかそれほどまでとは…。この世界で百万人にひとりと言われる言霊使い、さらにその五倍量の力って…なんかもういろいろと怖すぎるわ。
ミゲルさんの言霊使いの力は、日々全力で力を使いきることで、徐々に総量を上げられたそうで、私も最初はそうしようと思っていたんだけど…
「お前の力はすでに十分すぎるくらいだろう。国でも落としたいならまた別だが…落とすか?」
ミゲルさんの思いがけないブラックジョークに全力で首を横に振って否定した。
私がしたいのはのんびりまったり異世界ライフであって、そんな血生臭い争いも権力も望んでない。どちらかというと強さじゃなくて生活を便利にしたり、老後まで困らない程度のお金が稼げたりすればそれで良いのだ。
「…ふ、まあそうだよな。オレとしても。お前の力はこれ以上量を増やす必要はないと思う。どちらかというと力の制御や、配分の仕方を身に着けるべきだろう」
ミゲルさんの言葉に、私はコクコクと頷いたのだった。
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